表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/66

[2-3]存在理由とは在るだけですでにあるものだ

前回までのあらすじ:冒険者の集まる宿酒場を水魔法で掃除したら大銀貨1枚貰った。

 大銀貨の価格は金貨一枚とほぼ同等だ。これで再来月の分の半分を返したことになる。

 ちなみに今月分はなしで、来月分は支払い済みだ。なので若干余裕はある。

 酒場のマスターが大銀貨なんて持っていることが不思議だが、きっとひょんなことから手に入れて両替するのが面倒で放置していたのだろう。

 両替するとしたらそれだけでものすごい手数量が引かれて損することだろうし。



 その後は綺麗になった酒場に入ってくる冒険者の反応を楽しんだ。

 あいつらはまず店内に一歩入り、あまりの眩しさに目をくらませ、何かにばかされたかと思い外に出て看板を確認して、店内にいるメイド服を着た天使を拝み、最後に私のメイド服姿を見て「うわー」という顔とともに冷静になって、席に付きエールを頼んだ。

 それが客がくるたびに繰り返し行われた。

 一体どういうことなの。


 予想外の大金を貰った私達はそのまま酒場の給仕をした。

 いつものこいつらなら確実に私の姿をからかってくるはずなのに、喉に何か支えたように一様に口を閉ざしていた。

 もしかしてついに私の魅力に気づいて惚れてしまったのだろうか。

 残念ながら今の私には黄金の天使のエルシュがいる。

 残念ながら付き合えないな寂しい男性諸君。あと一日早かったら私の膜を破けてたかもしれぬのになぁ! あげないけど!

 それはそれとしてみんなどこか余所余所しい。店の様子とメイド服パワーを抜きにしても静かだ。悪くいうと活気がない。


「なぁ、もしかして何かあったのか?」


 私は近くに座っていた客の一人に聞いた。顔は知っているが名は知らないやつだ。

 このくらいの顔見知りだと変にからかってきたりもしない、情報共有にはちょうどいい間柄だ。


「知らんのか? 王国と帝国との戦争が始まりそうとの噂だ」


 おおう……戦争……。なぜ魔物がはびこる世界でも人間同士で争ってしまうのか。

 それとも魔物で減った生活圏を巡って激化してしまうのか。


「戦争良いことじゃないか。景気が上がるぞ。冒険者の依頼も増える」


「そんな簡単なことじゃないんだわ……」


 ふぅとため息を一つ付いて勘定をして男は出ていった。それに釣られるように男たちは次々と店を出ていく。

 まだ日も落ちきっていないのにすでに閉店ムードだ。


「戦争か、また厄介なことだな」


 なぜみんな暗くなっているのかわからない。せっかく店内はこんなに明るくなったのに

 戦争は金が必要な状況の私には素晴らしいタイミングだ。できれば2年くらいやってほしい。よろしくお願いします。


「ペリータ様は戦争がお好きなんですか?」


「そんなことないよ平和が一番だよ」


 不安そうな顔をしているエルシュににこっと笑いかける。

 エルシュみたいな戦いとは無縁そうな少女には、きっと戦争は聞くだけで恐ろしいものなのだろう。

 戦争は基本的に決められた場所で決められた人たちが戦うものだ。冒険者はそこには近づかなければいい。

 恐ろしさで言えば、むしろいつ襲われるかわからない魔物が一番恐ろしい。

 地方の村人からしてみれば、戦争も魔物も冒険者も全部恐ろしいものだとは思うが。


「ペリータ様はお強いのですね……」


「そうだ。強ければ恐れるものは無くなる。次に恐れることは、何にも恐れなくなることだ」


「さすがですペリータ様……!」


 エルシュの尊敬の眼差しが気持ちいい。

 ありがとう師匠のありがたくないどうでもいい名言っぽい独り言集!

 モノマネのために覚えておいてよかった!


 しかし結局なんでみんなが暗くなってるのかわからなかったな。




 宿の部屋に戻り、たっぷりエルシュを楽しもうかなと思っていたら、エルシュは何か書き物をしていた。ずいぶんと楽しそうに書いていた。

 すぐ終わるだろうと思い邪魔しないようにベッドから眺めていたが、一向に手が止まる気配はない。

 この部屋のベッドは、激しくいやらしいことにも耐えられるように、ニ年前にこっそり改修済みだ。

 弾力はありつつもふかふかな最高級な眠り心地を実現している。

 そこに倒れていたら、一日の疲れもあり、私の意識は離れていく……。


「エルシュ、もう寝よう」


 邪魔しないようにするつもりだったが、寝落ちする前につい口に出してしまった。


「はいペリータ様。しばしお待ちください」


 その声を聞き私の意識は途切れた。




 私はハッと目を覚ます。陽が昇り始めてすでに朝だ。

 まさか大事な初夜を寝落ちしていまうとは……! ペリータ一生の不覚……!

 私は悔しさにギリギリと歯を鳴らす。

 それならば、それならば私の隣で寝る愛しい天使にいたずらしよう!

 まずおっぱいだ。いきなりおっぱいともいう。

 おっぱいは大きければ大きいほど良いと、男の誰かが言っていた。それは男の価値観だろう。

 エルシュにはおっぱいがなかった。私くらいにしかなかった。つまり存在していなかった。


「存在せぬものに大小はない」


 これにておっぱい戦争はなくなった。おっぱいに大も小もない。おっぱいがなければ戦争もないのだ。そう天使が証明している。


「次は唇……触っちゃおうかな……」


 軽く触ったらぷるっぷるしていた。これは高弾力スライムと同じ感触だ。

 思わず口を近づけるが自制する。危ない危ない。私は寝込みを襲うような変態ではない。今はちょっと天使の生体を確認しているだけだ。


「なのでこれは必要な行為なのだ……と」


 次にお腹を触ってみる。結構筋肉ががっちりしている。

 そういえば奴隷になる前は騎士を目指していたのだったな。天使の腹筋は軽く6つに割れている、と。

 私の脳内天使チェックに記入していく。


 太ももは思ったより細かった。おそらく黄の魔力で補ってしまえるためにかえって筋肉は育たないのだろうか。

 ならば腹筋はなぜ付いたのか……。ううむ今度直接聞いてみよう。


 さて最後にお楽しみに移ろう。

 そういえば誰かが言っていた。天使には性別がない、と。

 だとするとつるつるなのかもしれない。

 つるつるならばいやらしいことは何もないはずだ。

 何も存在せぬものを触ろうとして、いやらしいことなど何もない。

 つまり私がそこを触るのは何も問題ない行為なのである。いざっ!


 問題があった。というかあってしまった。性別がないとはつるつるではなく持っているということなのかい?

 そうとしか考えられないよねこの存在感!

 勘違いかも知れない……。恐る恐るもう一度触ってみる。


「ぷるんっ」


 やっぱりあったな……。あったとしか思えない。

 落ち着いてある場合とない場合のメリットとデメリットを考えよう。

 ないならば、私は天使をイチャイチャできる。毎夜楽しむこともできるし、ちょくちょくセクハラしても許される。デメリットなんて存在しない。

 あるならば、それはやはり問題だろう。まず私の膜の問題だ。ついているのならば後生大事にしていた貞操がいとも簡単に破られてしまう。

 いや待てよ落ち着け、そもそも大事にしていた覚えはない。

 そして私は天使とイチャイチャしたいだけなんだから、処女とか関係ないのではないか。

 天使に付いててもいいんじゃないだろうか。

 むしろ美少女にさらにちんちんも付いてるなんてお得じゃないか。つまりメリットしか存在しない。


 なんということだ……これが世界の真理か……。もしかしてこれで戦争も止まるのではないだろうか……。

 パンはそのまま食べても美味しいが、パンにソーセージを挟むともっと美味しいのだ。となると一つ最大に悔しいことがある。


「なぜ私には付いていないのだ……」


 私は女だ。女ゆえに付いてることが得でしかないものが存在しない。

 そうだ私にはこれが付いていない。ゆえにダメなのだ。

 ああ……男に生まれたかった。


「ちょっとお待ちになって。私は混乱をしすぎていますわ」


 冷静になりますわ。

 私は男に生まれたかったわけではありませんわ。

 問題点は唯一つ、寝ている美少女天使の身体をいたずら……もとい厳正なる検査を行っていたら何かが付いていたという一点ですわ。

 そうなのです。私はあろうことか寝ている天使のグングニルを触ってしまったのです。

 これが起きていたならば……エルシュが起きていたならば何も問題がなかったでしょうに……!





「ところでペリータ様。早朝にわたくしの身体を触っておりませんでした?」


 朝食を取っているときにエルシュは尋ねた。


 あらやだバレていましたわ。全部バレていましたわ。天使に私が痴女ということがバレましたわ。このままでは私は天界にはいけません。


「そんなことありませんわ。オホホホホホ」


 あらやだどうしましょう。心が乙女になったまま戻らなくなってしまいましたわ。そろそろ冷静になって切り替えないと。


「いえ、わたくしは一向に構いませんが。わたくしの身体のチェックをなさっていたのですね? ありがとうございます」


 ただ触ってた事だけじゃなくてチェックしていたこともバレてた。もしかして天使って思考を読み取る力を持ってる?

 ちょっとあとで聖典借りてくる!

 ところでそれでなぜ「ありがとうございます」なんだろう。チェックされて嬉しい……触られて嬉しい? もっと触っていいってこと!? やったー!

 いやいやそうじゃないだろう。冷静に考えろ。私が触ったところはどこだ? 胸、口、腹、太もも。


「そうだ。寝ている間にエルシュの身体に異常がないか確かめていた。奴隷の管理も主人の役割だからな」


「やはり! 気を使っていただき感謝いたします」


 正解! よし! 誤魔化せた!


「今度私の身体を触って確かめてみるか? 健康な状態とそうでない状態を診るためにな。普段から私の身体を触っておいて、違いが現れたら教えて欲しい」


「なるほど! そのように日々の違いをお互いに確かめるわけですね! さすがですペリータ様!」


 たった一日だがエルシュについて少し気づいた事がある。

 この子ちょっとちょろすぎない? 大丈夫?

 いやだからこそ天使なんだけども。

 もうさ、色々言い訳しなくてもいいんじゃないかなって思ってきた。「私の身体も触って欲しいんだよ! いやらしい手つきでな!」と正直に言っても引かれないような気がしてきた。

 いや流石に引くかな? どうだろう。


「では早速触らせていただきます!」


「えっ」


 今ここで? 問答無用で? 朝から? みんなに見られそうな場所で? なんでそんな急に強気に?


「いやそれはダメだろう」


「……そうですね! 早まりました。申し訳ございません」


 あっ素直すぎてちょっと残念! 本当は少し触られたかった。ちょっとドキドキしちゃった。ふふっ思考がまた乙女になってきてしまいましたわ。


「後先考えずに走りすぎと父上にも良く言われました。まず考えてから行動しなさいと」


 天使の父上の言葉が私にも刺さる! 遠距離攻撃はやめて!


「そして考えて間違えたならそれを正す者を見つけなさいと」


 父上教育をあきらめてない? 諦めて他人に任せようとしてない?


「ペリータ様のように素晴らしい方に出会わせてくれて、没落した父上と奴隷商に感謝します……!」


 その二つに感謝するのはきっとこの世でエルシュだけだぞ。大丈夫か? 考えて発言してるか?


「本当にみんなには世話になってばかりで……うっ……」


 エルシュが目に大粒の涙を浮かべている。


「おっ……おい大丈夫か? 故郷思い出して辛くなったか……?」


 私としては天使を手放すつもりはないが、故郷に帰りたいと言うならば一緒に帰ってやらなくもない。

 ついでに父上に結婚の許可を貰いたい。はじめまして父上。私、天使と結婚します!


「いえ、玉ねぎを切ったら目が……」


「玉ねぎかよ」


 なんだかこっちも泣けてきた。ただ目にしみるだけだ。




 エルシュの料理はとても美味しかった。料理をどこで覚えたのか聞いてみたら、小さい頃から厨房に混ざって手伝いをしたりしていたようだ。


「エルシュは良いお嫁さんになれるね」


「えっ……それは……」


 エルシュは顔を赤くして戸惑った。

 はぁかわいい。しかしデレっとした気持ちを殺す。キリッ。

 ふと思い出した言葉がある。


「生物は自身を殺し続けて生きているか」


「な……? ……ん? ……え?」


 エルシュは混乱を起こしている。


「意味がわかるか?」


「わたくしにはわかりかねます……お教えください」


「私にもわからん」


 はっはっは! とペリータは猛々しく笑った。

 エルシュはぽかーんとしている。


「だよな。そうなるよな。私の頭が悪いわけではないよな」


「そんなことはありません! ペリータ様は賢いお方です!」


「ありがとう。根拠のない自信が湧いてくるよ。で、どう思う? さっきの言葉」


「意味がわかりません」


「考えてみてくれないか」


「……! かしこまりました! 今後の課題といたします!」


 妙にやる気を出しすぎてしまった。ちょっと聞きたかっただけなのだが。


 先の発言は私の師匠が言ったものだ。師匠か。最近会ってないな。元気だろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ