[3-20]予知の魔法
前回までのあらすじ:王都へ帰る途中の街で再びゴンズと出会った。すでに注目されているペリータ達は交渉のための一団に扮するべくまたよくわからない感じになってきた。
また会話だらけですみません。
王都へ入る手段を悩んでいたところ、奴隷商館の副店長からちょうど街に入れる手はずをすると手紙が届いた。
なので「今から金貨持って帰るよー」と一緒に手紙を入れておいた。
そのおかげか、すんなり入る事ができ、豪華な宿で落ち合うこととなった。
「まずは長旅お疲れ様です、と言うべきでしょうか」
「ちゃんと帰ってきたぞ」
私はえっへんとえばった。
ちなみに私とエルシュの髪の色は幻術で変えてある。
副店長は私達の顔を知っているから意味はないが。
「ようこそいらっしゃいました。私はサドレーと申します」
「テイサ・フランシシュカよ!」
フランシシュカも隣でえばった。
「フランシシュカ様、歓迎いたします」
「それにこっちがニコラエよ! ……あれ!? 違う!? 誰!?」
「ゴンズだ。約束通り連れて帰ってきたぞ」
ゴンズが変装を解いて立っていた。
いつの間に。
フランシシュカが「ニコラエはどこへいったの!?」と騒いでいる。
「随分時間はかかったようですが?」
「期限の指定はなかっただろう?」
そういえばゴンズは私達を王都へ連れて帰ると金貨が貰えるとか言っていたっけ?
あれ? すると今エルシュが持ってる金貨はゴンズの物になるのか?
なんか納得いかないぞ!
「ここには兄様の代金を支払って、解放奴隷とする税も含まれておりますわ! これで兄様は自由ということでよろしいですわね!」
フランシシュカはパチンと指を鳴らした。
エルシュは金貨の箱を机にドンと置いた。
サドレーの役目はエルシュを奴隷とし、王都へ置いておくことだ。
断るべきだが、断ることはできない。
「打つ手はなしということですか」
サドレーはうなだれた。
「何のことですの?」
「え?」
エルシュが解放奴隷になるということは、フニャシー家に戻るということだ。
従妹のフランシシュカがこの場にいるのも、そのためだと思ったに違いない。
「私は別に副店長のあなたをどうこうするつもりはないぞ。誘拐事件はイラッとしたけど」
「さ、左様で……」
ペリータがどうこうしようと、サドレーの王国からの処遇は厳しくなるはずだ。
「何か問題ごとでもありますの? でしたら公国に来なさるかしら?」
「それはつまり……ラディウス様はご存命ということですか」
王国から逃げて公国へ行く。
つまりそれは公国には何も問題がないということ。
すると……すると情報は全て正しかったというべきか、とサドレーは今気づいた。
「もちろんよ! 大兄様が死ぬわけないじゃない!」
「噂で聞きました。あなたが黄金の天使で治癒魔法を使って救ったということですね」
「え? まあうん、そんなところよ!」
フランシシュカはしどろもどろに答えた。
「なるほど……王国は負けますね」
「元より食糧危機だしなぁ」
王国が戦争を準備していたのは、干ばつで今年の収穫が厳しいから帝国から奪い取るためだ。
だが、戦争自体にも食料は必要だ。
王国は攻め込んで略奪ができなかったら詰んでるのだ。
しかし、まだ一つ手はある。
「ペリータ様、あなたは王国出身で、王都でも長く暮らしていました。王国の干ばつを救うつもりはありませんか」
干ばつが問題なら、雨を降らせて解決してしませばいいのだ。
「もっと早く依頼を出してくれれば協力できたが、今から王国各地を回るのは間に合わないぞ」
村ひとつ分の田畑に雨を降らせるくらいならできる。
これでも、王国のトップクラスではないかと自負している。
国中の水魔法使いを今から集めてあちこちに派遣しても、すでに水不足で枯れて弱っている所は立ち直れないだろう。
「ペリータ様のお力で、王国全土に雨雲を作ることは……」
「私を殺す気か!」
強大な魔力を一気に使うと、卒倒し昏睡状態に陥る。
私が村ひとつ分の雨雲を作るのも、時間をかけて魔力を使っているからだ。
王国全土に雨を降らせるなど、そんなの人間には不可能だろう。
人間には……、あっ。
「師匠ならできるかも……」
「できるのですか!?」
王国に雨が降れば全て解決する、というわけではないが、少なくとも餓死者は減るだろう。
私だって救える命を救わないわけではない。
なんたって私は優しいのだから。
「師匠……アレですか……」
エルシュにして、アレと呼ばれてしまう師匠。
黒い塊のぬとぬと。
実際の姿はグールをぐちゃぐちゃにしたみたいなんだっけ。
「ペリータの師匠!? わたし気になりますわ!」
いや会わない方がいいだろう。ゲロ吐くぞ。
「人前に出せない方なのでシュカは見ない方がいいと思いますよ」
「そうですの?」
そもそも森の中で暮らしてるシャイな師匠なことだ。
会おうとしても会えないんじゃないかなと思う。
「して、その師匠なる方はどのくらいで連絡が付くのでしょうか」
「エルシュを使って三日くらい?」
師匠のいる森へは、正規のルートだと街道を通って山をぐるりと回り込む必要があった。
以前行った時はエルシュだからこその直線に突っ切るルートが可能だった。
「三日……ですか」
「そもそもできるかわからないけど」
まず会えるかわからないし、できるかわからないし、するかもわからない。
人の営みは無関係というスタンスだから、関わらない可能性が高いだろう。
「そもそも王国が各地に水魔法使いを派遣すれば良かったのでは? 結局干ばつなんてきっかけの一つにしか過ぎないだろう」
「そう……ですね……」
「王城には占術魔法使いの予知能力が沢山いるだろう。王が自分のためにしか予知を使わないのだとしても、飢饉を回避することくらいするだろう」
国に食料が無くなったら、困るのはその統治者だ。
そんな未来が見えたら、それは当然回避するだろう。
予知能力は万能ではない。回避できないことは回避できない。
しかし、雨が降らない事で麦が枯れるなら、水をやればいい。
水は水魔法使いに金を渡して各地に渡らせれば、最低限は育て上げることはできるだろう。
実際に、私の故郷では二代目水姫の泡姫が、水魔法で田畑を育てていたのだ。
「だとすると、王は干ばつに対してあえて何も対策をしなかったということですか?」
私も疑問に思った事を、エルシュが口にした。
「王が民を犠牲にする意味なんてありませんわ」
民が居てこその王だ。
あえて犠牲にする意味なんてないはずだ。
「確かに言われて見ればという感じはします。まだ危機になっていないから、というのもあるかもしれませんが、対策をしないのはおかしいですね」
サドレーも同意した。
「んなら、干ばつは危機にならないってことじゃねえのか?」
ゴンズが口を出した。
「予知で干ばつは影響が少なくすぐに解消されると知っているから対策をしなくていい……。とすると、ぐるりと一周回っちゃうぞ。干ばつが危機じゃないなら、戦争を準備した理由が無くなっちゃうじゃないか」
「そりゃおめえ逆だよ。戦争がしたいから、干ばつの危機を理由にしたんじゃねえか」
「うん?」
私の頭はこんがらがってきた。
エルシュはにこにこしている。同じくわかってないようだ。
賢そうなサドレーは焦ったような顔をしている。
「王は全て知っているということですか……」
ゴンズは首を横に振った。
「いいや、予知は万能ではない。俺が知っている情報では、王城が慌ただしく動き始めたのは二ヶ月ほど前からだ」
「ん? 私は知らないぞ?」
「ペリータは抜け殻みたいになってた時期だ」
ああ……、そういえば奴隷ロスになっていたんだったな……。
エルシュのおかげですっかり忘れていた。
「それってわたくしが奴隷として王都へ来た頃ですね」
「そうだ、それがフニャシー・エルシュを王都に留めて起きたかった理由だ」
「ゴンズ、あなたは私よりも情報を知っていたのですね……」
サドレーは奴隷商館の副店長だが、一連のことについては末端に過ぎない。
何も知らされず、ただ指示されていただけなのだろう。
「というより、人より予知の魔法に少し詳しいだけだな。予知の改変の条件を知っているか」
「予知は予知を見なかった時の未来というやつか?」
私は、昔にゴンズから教わった事をうろ覚えで答えた。
「そうだ。予知を改変する時は、予知を見えた時の状況に置く」
「うん? 改変をするのに同じにするのか?」
「わたしわかりますわ! 砂糖を入れた紅茶と、入れてない紅茶の温度を同じにするのですわ!」
アホそうだと思っていたフランシシュカが、なんかそれっぽい事を言って悔しくなる。
「なるほど、比べる時に同じにするのですね」
エルシュもわかった顔をしている。
「ほう……そういうことですか」
サドレーも頷いている。
「エルシュが王都に居ると未来が変わるってことだな!」
「いや違うぞ」
外れた。
「エルシュが王都へ来た時に見えた予知だから、エルシュを王都に置いたままの条件で、予知を改変しようとしてるんだ」
私は頷いた。
「なるほどわからん」
「これは推測だが、エルシュに王都が来たことで見えた未来と、戦争の準備は繋がっていた、と思う」
「ふむふむ……。あれ? それって……」
「その時点でフニャシア公国の動きはバレていたのだろう」
「あらら」
「予知って怖いですね」
一同は驚きの顔を見せた。
「しかし本題はそこではない。王の占術魔法使いが見た予知は、王の範囲であるから、それによる結果だ」
「結果……。フニャシア公国が帝国に付いたことで見えた、王に関する予知ということですね」
「そうだ」
ふむふむ……。
「で、結果は?」
「ああ? 俺は王ではないし占術魔法使いでもないのでわからん」
なんだよそれ!
「結局、実際に予知を見ないと何が起こるかは推測しかないというわけですか」
ふぅ、と一同はため息をつく。
予知か……。
王都に起こる予知……。
うん?
「すっかり忘れてたけど、私も予知夢っぽいのを見たぞ。内容はほとんど外れてたけど」
「え?」
「え?」
「気のせいだろう……が、ちょっと話してみろ」
「私も気のせいだと思う」
まず私の魔力の色は緑に近い青だ。
同じ青でも占術系は青紫の色なので、もし私が予知したとしても参考にはならないだろう。
まあ実際観た内容がほとんど合ってないから、デタラメという点では正しいのかもしれないけど。
夢の中で思い出していた内容は、エルシュの両親に会っていたし、ゴンズを殺していたし、帝国へ行っていたはずだ。
実際にはエルシュの両親に会う時間はなかったし、ゴンズは殺しかけたけど生きてるし、帝国へは帝国属州となったフニャシア公国に行っただけだ。
そもそも予知の魔法なんてレアだ。
そんな人物なんてその辺にはいないし、私は会って……いない……?
「なあゴンズ、予知の魔法って、他人に夢として観せることってできるのか?」
「そういうのもあるんじゃないか? 何しろ口からの伝聞より正確だしな」
「だとすると……、私が観たのが本当に予知だとすると……、帝国に攻められて王都が燃えていたぞ……」
章の最終話です。多分もうすぐ完結します。その前に横に(縦に?)逸れます。
ブックマークもPVも増えました。ありがとうございます。




