[1-3]穴があったら出られない
セリーナは私が買った二人目の奴隷だ。
ブロンドヘアでスタイルが良くて少し頭の緩い娘だった。
だから私の冒険者仕事にも付いてきたのだろう。そうでなければ考えつかない。
普通の女性は冒険者に付いてきたりはしない。
一年連れ添った奴隷の少年を売った時に、セリーナを紹介された。
金貨1枚で買ったサポーターの小さい少年は一年でぐっとたくましく成長し金貨10枚の値段となった。
私は金貨を受け取る代わりにセリーナを受け取ったのだ。
どうにせよ代わりは必要だった。しかしセリーナは少年のように優秀ではなかった。
魔力の色は少年と同じオレンジ色だったが、薄い。
「セリーナとペリータって似てるね! あはは!」
第一声がこれである。確かに似てるので私も笑った。
セリーナは特に何かできたわけではないが、少年よりも抱き心地がよかった。
少年を抱くと言っても性的な意味ではない。冬に野宿した時はお互いに暖を取らなくては死ぬ、ただそれだけの理由だ。
私のような美少女が抱きつくのは思春期の少年には少し酷だったかもしれない。
セリーナは性的な意味も兼ねて抱いた。春も秋も冬も一緒に寝て、豊満な胸を堪能した。
夏は暑くて離れて寝ていたはずだが、セリーナの方から抱きつかれた。
女同士でいやらしいこともした。されたというべきか、教え込まれたというべきか。
とにかく私は男を知らないまま、セリーナとそういう行為をしていた。
ベッドでイチャイチャしていたのだ。
男と何もなかったのはただ相手と機会がなかっただけで、レズビアンではないと私は思っている。
私が一緒に寝ていたのはセリーナだけだし、他の女性に目移りしたことはない。
行為自体が気持ちいいと思っていただけだったと思う。
これはあれだ。
犬を抱いて寝て、舐められるのと同じようなものだ。同じ愛情だけど違うものだとわかってくれるだろうか。
実際に私はセリーナをペットのように思っていたし、セリーナもペットだと思っていたと思う。
それでも動物とは違い、食事を作ってくれて、一緒に語らいあって、ペットでは代わりはできない存在であった。
それゆえに失った時に、私の心にぽかんと穴を空けたのだ。
セリーナが死んだクエストは難易度が高いものではなかった。ただの簡単な洞窟調査だ。
モンスターが居たら面倒だが、それならば「モンスターがいました」と逃げ帰って報告すればいいので戦闘もする必要はない。
ただ問題はそれが自然洞窟だったのだ。
自然な洞窟は生物が通るようにはできていない。垂直な斜面や地底湖などおおよそ通れないような場所が当然のように出てくる。
私は小柄ゆえにそういう場所を通るのが得意だった。
しかしセリーナは違った。狭い斜面で尻が突っかかってしまったのだ。
押しても引いても尻が動かない。なぜこんなに脂肪が付いてしまったのか。
贅沢な暮らしはしていなかったと思うが、セリーナは購入から二年が経ってもグラマラスな体型なままだった。
さらに問題が起こった。尻を抜くためにあれこれしていたら洞窟が崩壊を始めたのだ。
「私はいいからペリータは生きて」
セリーナの尻がそう喋った。それが彼女の最後の言葉だった。
直後洞窟の細道は轟音を立てて崩壊した。
その後、私はボロボロの姿見のままで奴隷商館の入り口で立ちすくんでいたらしい。帰ってくるまでの記憶はない。
私は義務的にセリーナが死んだことを伝え、自然洞窟の調査は人が通るには厳しく崩壊の危険ありと報告して報酬を受け取った。
私は宿酒場に帰って二階の自分の部屋に入り、ローブを脱いで寝た。
セリーナが死んでから一ヶ月ほどは私は何かをしていたつもりだが、何もしていなかったらしい。
ただ生活のために冒険者の依頼を受け、金を受け取っていた。失敗も多かったが依頼はこなせた。
失敗の部分は依頼とは関係はなく主に料理の部分が多かった。3年で私はソロ冒険者としての能力の大部分を失っていたらしい。
一番の問題は孤独感だった。悲しみは薄まり私は以前のように戻った。
少なくとも私自身はそう思っていた。
きっかけは些細なことだった。依頼先での会話が耳に入ってきただけだ。
ワイン醸造所で「愛猫を失った悲しみは次の猫を飼うことでしか埋まらない」と聞いたことだ。
ならば奴隷を失った悲しみは次の奴隷で埋まるのだろうか。
しかしセリーナは猫というよりは犬だった。
とにかく孤独感が埋まればいい。
そうだ奴隷を買おう。
5日後、私は王都に帰り、次の日に奴隷商館を訪ねたのだ。