[2-1]黄金と天使は創り出すものではない
胸くそはない安心安全なクリーンな奴隷販売店です。
「いらっしゃいませペリータ様。どうぞソファにおかけになって……。はい。本日はどのようなご用件で。はい。奴隷商館で奴隷以外売るものがあるのかって? あははおっしゃる通りです、はい。はい。ええ……はい存じております。ご愁傷様です……。痛ましい事故と聞き及んでおります。はい。それで新しく奴隷を見にいらしたのですね。はい、はい、おっしゃる通りです。はい。もちろん! 見るだけでも! ええ、ええ。少々お待ち下さい」
応対していた副店長と入れ替わり、金髪ロングウェーブでロング丈のメイド服を来た女性が飲み物をお盆に載せ入ってきた。
メイドは右側からスッと机に木製のコースターを置き、綺麗な透明のガラスコップをそこへ載せた。
中身は透明のシュワシュワである。天然の炭酸水、高級品だ。
このメイドも当然売り物の奴隷だ。まず店としてはその店の最高級品をサンプルとして見せるのである。
この店は最高等級とまではいかないが、非常にレベルの高い。その中のトップ奴隷なので王宮貴族メイド並の気品と品格の女性である。
メイドは正面ドアの付近で立ち、炭酸水を飲む私をニコニコと眺めている。
メイドの周囲には私だけが見える赤いモヤが、ゆらりゆらりと揺れた。
「(なんだ……? そんなに女性客が珍しいのか……?)」
と、思いつつも、まあそりゃあ珍しいだろうなとも思う。
私の見た目はちんちくりん。
私の背は、目の前の金髪メイドの豊満な胸が頭にちょうど乗っかるくらいの高さしかない。
碧眼でピンク髪をふわふわさせてる私は、黒いドレスを着ているがまるでお茶会デビューのような姿に見えるだろう。
メイドがガチャリとドアを開け、副店長が羊皮紙とインクと羽ペンを持参してきた。
「ではこちらに希望要項とサインの記入をお願いします。上から説明させていただきます。まず……」
「いやわかってるから必要ない」
「いつもご利用いただきありがとうございます」
私は長く説明が始まるのを制して、項目をさっさと記入していく。三回目なのでさくっと書き上げる。
一回目の購入は荷物持ちの少年だった。農村の生まれで見た目の割に力が強く、ラバの扱いも上手だった。
気立てが良く真面目で素直で良い子だったが、今は私の元にはいない。
一年ほど利用した後に、商館を通してとある騎士に売った。
成長した少年は、買った時の10倍ほどの値段が付いた。
彼は立派に従者を努めていることだろう。
その資金で次に女性の奴隷を買った。
胸とお尻がボインだった。私はそれを毎夜楽しんだ。
だが、そのグラマラス体型が冒険では仇となってしまった。お尻が穴につっかえて死んでしまったのだ。
私は彼女と二年間過ごしており、悲しみと喪失感が凄かった。
そして何より彼女に生活を依存していた。私は一人では何もできなくなっていたのだ。
少年を雇った期間も含めて三年間も雑用や食事などを奴隷にやらせていたのだ。
奴隷ロスの悲しみからもう買わないと決めていたが、決心をし私は今日ここにやって来たのだ。
「ほう……今回は男性も条件に入れてよろしいのですね?」
「一応見ておこうと思ってね」
条件だけのためにわざわざ客に記入させたのは「俺が希望したのと違うじゃねえか!」と言い出すクレーマー客対策らしい。
それと物書きできない者はこの店の客としての水準を満たしていないとのことだ。
副店長は私が書いた希望要項を読み上げていく。
「性別は問わず、年齢は少年から成人。種族問わず。冒険者家業の死や危険を受け入れる者。性行為を受け入れるもの。必要能力は簡単な家事と雑用……これだけでよろしいのですか?」
「うむ」
これだけというのは能力の事だろう。
冒険者を求めるなら普通は「剣術が優れている者」「狩りができる程度の弓が扱える者」など、戦闘を重視されることが多いのだろう。
私の場合は、私の能力で見える「魔力の色」で判断するので、実際に会って決める事にする。
「この条件ですと人数が多くなってしまいますが……」
当てはまる条件が多ければそれだけ面談が多くなり、時間が多くかかってしまう。
選択肢が多すぎるのは、店側も客側も良いことではない。
「では、美貌の良い者で頼む」
「かしこまりました」
「あと女性は豊満過ぎない身体の者にしてくれ。男は荷運びできる力のある者を。条件外でもおすすめの者がいたら、そちらの判断で候補に入れてくれ」
「了解しました。それではしばらくお待ちください。その間にお楽しみなさいますか? 彼女のテクニックは素晴らしいと私どもは自負しております。もちろんこのようなことはペリータ様だけの特別です。他の方には内緒にしてください」
金髪メイドがすっとスカートを持ち上げて礼をする。
いいのか? 最高級奴隷メイドを試食してもいいのか!?
「ペリータ様、ドレスを脱がせますね。楽になさってください……」
色っぽい声と仕草で彼女の指が私の肩に触れる。
そして私はソファに寝転がり、彼女は私の上に乗った。
「あっ! ああっ! うっくっこれは凄いっ……! 気持ちいいっ……!」
私は思わず声が漏れた。うつ伏せになった私の上で彼女はリズムカルに上下に弾む。気持ちいいところを的確に触っていく。
噂では聞いていたがこんなに気持ちが良いものなのか、スライムぬるぬるマッサージ……!
私の背中が彼女の細指でなぞられていく。
先程見た時、彼女の魔力の色は赤だった。赤の魔力は熱魔法を得意とする。温感マッサージで私は心からほぐされていく……。
もうこのまま寝ちゃおうかな……と思ったところで部屋に別のメイド奴隷が入ってきた。
どうやらお楽しみの時間はこれで終わりらしい……。名残惜しい……。
思わず彼女を買ってしまおうかなとか考え出してしまう。でも冒険には連れていけないな。そもそも資金が足りないけど。
身体をタオルで綺麗に拭かれ、着せ替え人形のようにドレスを着付けられた。それを見て二人目のメイドがドアを開けた。
「大変おまたせいたしました。まずは10人ほど、こちらで選ばせていただきました」
副店長が部屋に入り、メイドに合図をした。男奴隷から順にぞろぞろと入ってきた。
最初に男が7人。冒険者という指定のためか男が多いようだ。
屈強な傭兵のような男がずらりと並ぶ。彼らのような者たちがいるのはコロシアムや用心棒などの需要のためだろう。
ペリータの子供のような姿を見て、男達の数人の魔力がぐらりと揺らいだ。
顔には出していないが失望、不安、期待ハズレなどと思っているようだ。「女性主人で性行為可」の条件だったため期待していた者が多かったのだろう。すけべどもめ。
1人の魔力はバクンと動いてそれを抑えるようにドッドッドッと脈を打っている。彼はロリコンか。
1人は静かに落ち着いたままであった。その男がスッと手を上げた。
「発言を許す」
手を上げた奴隷に対し副店長が許可を出した。
「彼女が主人となる方であろうか?」
それはつまり、「この少女は使いの者か?」という質問でもある。
数人が期待を示す魔力の動きをした。主人はボインかもしれないという期待だ。
「そうだ」
と、私は端的に答えた。
何名かが再びがっかりした表情を見せた。
「どうでしょうペリータ様。みんなオーク程度なら軽く屠れるような者たちです」
本当の実力はわからないが、私は頷いておく。
「まずは残りの者たちを見てから考えたい」
そう答えると副店長は頷き、男たちを左のドアの先の部屋へメイドに送らせた。その後、女性の奴隷が部屋に入ってきた。
一人目は堂々とした足幅で入ってきた。赤毛のチリチリヘアで色肌が濃い、頬に傷のある女性だ。
魔力の色は緑。ドレスを着ているが、そこから男のような筋肉が見え隠れしている。
男達のように戦闘奴隷だろうか、女性としての魅力は低い。
それでも冒険者としてはきっと非常に優秀であろう。
二人目はスッと足音小さく入ってきた。黒髪のボブカットで切れ長の目の女性だ。
すらっとしている体型で暗殺系の技能を持っていそうだ。
素性を化けて潜入するような技能も持っているならば、その際に必要な料理なども一通り人並み以上にできそうだ。
私としても好みであるが、残念ながら彼女の魔力の色は青紫だ。
私自身の魔力が青なので相性が良い。良いのでダメだ。
近しい者では欠点が補えない。私と彼女が組んだとして、誰が重い荷物を持つというのだろう。
私達が組んでできあがるのは冒険者ではない、暗殺者チームだ。
「(10人と聞いていたから最後の1人だな)」
今の所は質問を投げかけた男か、赤毛の女が候補かな。
あるいは最後の一人がいまいちだったら、選考し直して貰おう。そう思っていたが、それは杞憂であった。
最後の一人を見た時、私の心臓と魔力がドクンと跳ねた。
「(天使だ! 天使がいる!)」
黄金に輝いた魔力を持った美少女が私の前に現れた。
ロングのプラチナブロンドを揺らしながら目を伏せておずおずと部屋に入ってきた。
背は普通の女性より少し高いだろう。スレンダーな身体に青いAラインドレスを着ている。
筋力はなさそうだが、金……黄の魔力なのが素晴らしい。
幻影や水の魔力を得意とする青とは反対に、黄の魔力は単純な身体強化を得意とする。
あんな華奢な身体だが、雑用もばっちりこなしてくれるだろう。
さらに魔力は静かに落ち着いている。精神的にも何も動揺がないようだ。しかしあんな美少女を冒険に連れていいのか。
いいんだな?
決めた。買う。
「その黄金の美少女を買う」
部屋に入った瞬間そうに言われ、少女は身体と魔力をビクンと揺らした。
「さすがペリータ様お目が高い! 即決ありがとうございます! ではさっそく彼女から面談を始めてよろしいですか」
ここでは低俗な店とは違い、「買ったからはいあなたが所有者です。好き勝手して構いません」というものではない。これから私は商談をしなくてはいけない。
つまり奴隷が私を主人と認めなければ売買とならないのだ。
また、購入後も雇用条件と扱いが大きく違ったら奴隷は返還、客は業界内でブラックリスト入りである。
高級奴隷はクリーンな雇用、信用あれば分割払い有りである。
「今から話すことを許す」
「ごっ、ご指名ありがとうございます!」
震えた声で少女は礼を言った。そして、他の女性奴隷二人は右の部屋に移され、黄金の少女は私の正面に立った。
「ペリータです。よろしく」
黄金の少女が「えっあっ」とうろたえる
しまったつい先に自己紹介をしてしまった。当たり前だが挨拶は目下からだ。
奴隷主人として3年のキャリアを持つのに私は初心者みたいになっている。
これではまるで一目惚れでドキドキしている処女の乙女だ。いや一語一句間違いなく合っているんだけども。
「自己PRをしてもらっていいかな?」
「はい。申し遅れて失礼しました。エルシュと申します。生まれは地方貴族です。冒険の経験はありませんが、騎士に憧れて剣を中心に武術は一通り習ってきました。身体は細いですがこれでも力は結構あります」
「採用」
もう十二分合格。貴族の出なら文字書きも行えるだろう。
「私の気持ちはすでに決まっているから後は君次第だ。だが決める前に一つだけ言っておく事がある。冒険者は吟遊詩人が歌うような英雄譚の一節ではない。汚い場所で汚い相手を戦うようなこともある。こんな可憐な美少女の姿の私が、こんな男みたいな口調になってしまったりする」
「はい! 買ってくださったならば、私はペリータ様へどこまでも付いて行く所存です!」
笑顔が眩しい! そして黄金の魔力も眩しい! 二重に眩しい! 直視ができない!
「私について何か質問はないか? 待遇とか希望とかでもいい」
「希望……特には……あっ。初めてなのでできれば優しくして欲しいです……」
初めて、の単語に思わずドキドキしてしまう。
初めて……どれについての初めてかはわからないが、私は大きく頷く。優しくするのは間違いないから大丈夫だろう。
「副店長、いくらだね?」
「この子は当店でも特別でして。ええ。本来はまだ表に出す子ではないのですが、この子の方から希望されまして……」
副店長が歯切れ悪くくどくどと話す。つまり、本当は価格帯に合わないけど本人の希望で連れてきました、ということだろう。
「くどい。いくらだ」
「金貨50枚です」
「買う」
と、言ってから安いなと思った。いや、私の財布事情からしたら十分高いのだが。
分割払いの予定でも来店前に想定していた予算の10倍オーバーだ。
「でも……」
「副店長」
あなたに支払能力ないでしょ? と表立って言えない副店長を遮って私はじっと見つめた。
「十分安値を提示したのは私にもわかる。それでも私の手では出せない金額なのもわかっている。しかしあなたは私に見せて面談までさせた。本当に買わせるつもりがないのなら、私達の仲であってもここまでしないだろう? むしろ親しいからこそそんなことはしないはずだ。それとも親しいと思っていたのは私だけだったのか?」
「いえいえそんなことは……」
「ならば客の買うに答える答えは一つだろう」
「わかりました」
副店長はハンカチーフを取り出し額の汗を拭った。客の前では演技でしかこんなことはしないはずの性格の彼が、本気で焦っている。
前回では手にしたばかりの10枚の金貨で言われるがままに女性を購入したペリータとは違い、押しまくってきたのだ。
もしペリータが一言「高い」や「値下げ」を切り出してきたらのらりくらりとかわし「ご縁がなかったようで」としまわれたであろう。
しかし売るとしても実際問題どうするか。方法はあるが、それを伝える方法を副店長は考えていた。が、先にペリータが口に出した。
「私自身を担保にしたらどうだろう」
「それは……それは」
金を払えなかったら奴隷になって支払うということである。しかしそれには問題がいくつかあった。
「どうだ? いくらになる?」
「しかしその、ペリータ様は冒険者であって、命の危険がありますので……」
「危険な仕事はしないようにすると約束しよう。それで?」
副店長が客を見る目から商品を見る目に変わる。
「先程紹介した奴隷と同程度……ペリータ様のような体型を好む方ならあるいはその二倍です」
ロリコン相手の特殊客を相手にしても金貨10枚。「私×5=黄金の少女」だ。
「足りないな……いや待て。そのような相手なら冒険者としての力はあまり必要ないのでは」
「性奴隷兼用心棒に使う方もいますがおそらくは」
「ならばその際には私の魔道具も売って構わない。金貨10枚は下らんだろう」
「それでも20枚ですな」
ここで黄金の少女がびっと手を上げた。
「発言を許す」
「あの……それでは私も担保にするのはどうでしょうか……」
「あなたは何を……うん?」
私が担保として成り得るのは自由民が奴隷となるからで、買われていく奴隷自身が担保となるわけがない。
私は首をひねったままだが、副店長は一つ思い立ったらしい。
「あなたはいいのですかそれで」
「はい。わたくしからの提案ですからもちろんです」
「あの……私にはどういうことか……」
「ペリータ様が何らかの事情で支払いができなくなった場合、エルシュが代わりに支払うということです」
「なっ……」
奴隷自身が主人の代わりに自分の代金を払う……なんだよそれ天使かよ。
「確かに当店としての危惧は高額商品の料金の未払いが第一ですので、それを代わりにおこなってくださるならばその方の奴隷でも構わないわけです。まあ買われる前からこんなことを言い出す奴隷は初めて見ましたが……買われていった奴隷からの提案は何度か事例はありますので問題はありません。二人が死んでしまったならば困りますが、先程危険な仕事はしないと言う言葉を信用いたします」
「ありがとうエルシュ!」
エルシュは小さく頷いた。
これってつまりあれかな。私達はすでに相思相愛?
触れてもいないのにもう愛し合ってる?
ラブヤいこ? 【※ラブ宿の事。男女などが愛を育むためにある施設】
副店長が誓約書に追加事項を書き加えてる間、エルシュをじーと見つめる。赤くなってもじもじしてる。かわいい。
「では成約書の内容を確認いただきます――――」
長々と奴隷の取扱の説明が始まる。
奴隷を成約の条件以外の目的で使わないこと。その場合、事前事後に通告すること。奴隷をいじめないこと。衣食住を提供すること。
うだうだあーだこーだ長々と続く。
暇なのでエルシュを眺めて暇をつぶす。エルシュは一所懸命に話を聞いていた。真面目な顔も美しい。先程の件からしてものすごく聡い子のようだ
私はほとんど聞き流していたが、半分くらいは冒険者をしていては守れない事が多い。それは条件で冒険者として買う事になっているからいいのだろう。
最後に支払いについての追加事項で「金貨50枚の支払い能力を失った場合、主人ペリータの私物の売却、奴隷としての売却、エルシュによる支払いによって完遂することとする」だけはちゃんと聞いておく。
払えなかったら私はロリコンの性奴隷となり、エルシュは自分の価格を自分で払うことになる。
「すべて同意なされたならば、こちらにサインをお願いします。」
金貨50枚の支払いは2年かけての24回払いだ。
最初の支払いは金貨3枚で、月々金貨2枚払い。高級宿で止まり続けるような金額だ。
最初金貨5枚を分割払いにしようと思ってた私だぜ。それがこの先は金貨2枚と二人分の宿代と生活費を危険な仕事なしで稼がねばならぬのだ。
やばい羽ペンを持つ手が震える。
冒険者なんて運良く毎日依頼をこなしても日当てで青銅貨数枚がいいところだ。考えれば考えるほど無理だ。銅貨2枚じゃどうかな?
手が止まっている私を見てにっこりと副店長は語りかける。
「毎月金貨2枚はペリータ様をしても厳しいと思いますので、ある程度は融通いたします。仕事がない場合は当店の手伝いで日当てをお出しします。借りる宿が無くなったらならば部屋を貸しますので無理だけはなさらないでください」
さすがクリーンな奴隷店! そういえば衣食住は守ってねと言ってたしな。
借金のせいで大事にできませんとなったら店の信用にも響いちゃうもんな。
「ロリコン性奴隷は嫌だな……」
私だって乙女だしどうせ買われるなら素敵なオジサマが良い。表で教会に少女に寄付をしながら、裏では少女を毎夜抱く、脂ぎった成金デブハゲ貴族は嫌だ。
「……もし私が賢者の石を持っていて、いくらでも金を創り出せるならどうする?」
「それならば私がペリータ様を買いますよ」
よしそれならば安心だ。私は成約書にサインをする。その下に副店長がサインをし、エルシュもサインをする。
これでついに私も夢の借金生活だ。
ちなみに賢者の石のくだりは王都ジョークだ。そんなものあるわけない。
「大事な事を聞き忘れていた。君は処女か?」
「あ……え……? はい……」
黄金の少女は顔を赤らめてもじもじしながら答えた。
うん? なんか妙な間が……? 副店長と顔を見合わせている。
まあいいか。こんな事を急に聞かれたら誰だって戸惑っちゃうよね! 心の中でガッツポーズ!
「あまり特殊なプレイは止めてくださいね?」
副店長が最後に釘を刺してくる。わかってるってふくてんちょお!
「よろしくお願いいたします。ペリータ様」
「うむ。よろしくエルシュ」
「では君、出る準備をしてきなさい」
はい、とメイドに連れられ奥の部屋へ戻っていった。
はー……かわゆ……。
名前呼びもいいけど、メイド服を着て「ご主人様」呼びもしてもらいたいな。メイドさんはやはり男のロマンだ。私は女だけど。
と、考えていて、そこで一つ問題に気づいた。
「副店長。高額商品の購入にはオプションを付けてくれると聞いたことがあるのだが」
「な、なんでしょう?」
成約後に何を話すんだという顔で私を見た。
「このエルシュの着てるドレスは貰っていいのだろう?」
「ええもちろんです」
「しかし他に服を買う金がない。わかるな?」
「なるほど……確かにそれは困りますね」
ドレスで野山を歩くわけにはいくまい。
「お古でいいのでメイド服を融通してくれないか」
「はいそれくらいなら全然構いませんよ。他に入り用がございましたら用意いたします」
「それならば私の分も」
「え?」
なぜそんな目で私を見る。
「メイド服は女の憧れ、男のロマン。私のメイド服姿をサービスで副店長に見せてあげよう」
「あっありがとうございます?」
なぜ疑問系なんだ。
「しかしペリータ様に合うサイズがあるかどうか……」
ついに副店長も私の事をちんちくりんと言ったな? 今言ったな?
メイド服は私の分も含め3着用意してくれた。私の分は背の小さい亜人種用の新品のものを1着頂いた。
亜人も取り扱っているのか……? と一瞬考えたが、新品だから使われないままだったのであろう。
エルシュはメイド服を着て部屋に戻ってきた。部屋を片付ける際にすでに着替えたのだろう。腰にはショートソードが鞘にささっている。
私も約束通りメイド服姿を見せるために、隣の部屋を借りて着替えてきた。私の着替えがエルシュの初めての仕事だ。
「どうだ? 汚い身体だろう?」
私のドレスを脱がせたエルシュに聞いてみた。私の身体は消えなかった切り傷、刺し傷、やけど、虫刺され痕のオンパレードだ。
「そんなことないです! 冒険者の身体でかっこいいです!」
「そうかな?」
「そうです!」
私は少し照れた。かっこいいどころか本当は情けない傷が多いのだが。
「エルシュはこんなにはさせないよ。危険な仕事は受けない成約だし」
「そっそうですか」
「まあ元々最近できた傷はないけどね。ほとんどが昔に無茶やったものばかりさ」
かっこつけて嘘を付いた。
本当は野外で火起こしに失敗したり料理に失敗したりした最近の傷もある。
薬草を取りに行ってヤブに入って付いた傷もたくさんある。
よくよく考えると最近できた傷ばかりだった。なぜか尊敬な目で見つめてくるエルシュからそっと目をそらした。本当はダメな子なんです。助けてエルシュ。
エルシュは私を着替えさせるのにもじもじと照れていた。ふふふもっと見ていいんだぞ。
そして私は副店長にメイド服姿を披露した。ロリっ子メイドの誕生である。奴隷落ちしたらこれで売ろう。
「どうかしら副店長。私に惚れたのではなくて?」
「これはこれはどうして」
ほぅと漏らした副店長からぼそっと金貨15枚いけるかもと聞こえてきた。「嗜虐趣味のクソ貴族に送り込み……」と算段し始めたところは聞かなかったことにした。クリーンな店のイメージが崩れてるぞ。
別れ際に副店長が私に話しかけてきた。
「そうそうペリータ様が始めに買われた少年は、騎士の従者から従士になられたそうです。本人から伝えてくださいと訪ねていらっしゃいました」
「そうか……それは良かった」
少年は奴隷の自分を買い、騎士の卵となったのだ。
「ペリータ様のおかげで私も昇格しましたし、感謝しています」
副店長は数年前はただの事務員だったのだ。
冒険者として色々依頼を受けたりしていたら、それが役に立っていたようだ。
「ですので、料金は滞納ならさぬよう……」
「わかってるわかってる」
「またのお越しをお待ちしております」
ペリータは手を振り、エルシュは頭を下げた。副店長はペリータの姿が見えなくなるまで頭を下げていた。
ここは王都のとある奴隷商館。休日なしで営業中。