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吸血鬼は覇王へと至る  作者: あかねこ
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第一話

とある小さな村があった。


村の人全員が家族の様に互いに支え合い励まし合い生き抜いて来たこの村は、大陸西部で栄えた大国、カトレア王国三百年の歴史の中、建国当初から大陸中央部にある獣人や竜人等の亜人が暮らすと言われる『天山』と呼ばれる地域に隣接した王国最西端の村だ。


そんな村は現在、遥か彼方に朧げに映る緑の旗を掲げた白銀の鎧に包まれた騎士達を見て騒然としている。

かの騎士はカトレア王国と仲が非常に悪い王国の十分の一程度の小国、フリーデン共和国の騎士達だった。

フリーデン共和国は領土は小さいながらも、非常に質の良い騎士団と魔法師を備えた国だ。その国の騎士達が突如攻めて来たのだ。村の住人の中には、恐慌を来し逃げ惑う者や武器を取り出すもの等様々だった。


「逃げろ、アディ!」


一人の男が叫んだ。その男の視線は迫り来る異国の騎士を睨みながら、背後にいる一人の少女に向けて。


「でも、お父さんは…」


少女は迫り来る恐怖に怯えながら言った。


「早く行け!ガット、娘を頼む。」


彼は、村の少女...アディの元に駆け寄って来た一人の若者に言った。

若者は、アディとは親しい様子でサッと手を取った。


「逃げるよ!」


「でもガット…」


「いいから行くぞ!」


ガットは、此処に留まろうとするアディの手を引きながら言った。


その刹那、もう鎧の継ぎ目が奏でる一糸乱れぬ、いっそ音楽であるかの様に感じさせる金属音が聞こえる程に近づいていた。そして一人の騎士がおもむろに右手を上げフルヘルムの奥から言葉を発した。


「マギア・オブ・エミッション。<岩壁創造>(クリエイト・ウォール)。」


その言葉とともに途轍もない魔力が放たれた。数瞬後には、村の周囲には数メートルにもなる岩壁があった。


「う、嘘…」


アディは、僅かながらに魔法が使える。


「こ、こんなに広範囲の魔法を、たった一人でするなんて…」


それ故に異国の騎士が行った大魔法に唖然としていた。

異国の騎士は、その一カ所を更なる魔法でこじ開け村へと侵攻して来た。





村の少し先には、決して近づく事も遠くから石を投げる事すらも決してしてはならないと言い伝えられている森がある、森の一歩手前までは木が一本も生えていないのに其処からは数多の針葉樹林が乱立している奇妙な森だ。


異国の騎士の放った魔法は、ほんの僅かながらに其処に侵入していた。


村の人はそれに気が付き異国の騎士の接近と合わさって更なる恐慌状態へと陥った。


騎士は、そんな事に気づいた訳も無く村に接近していた。


「隊長、攻撃魔法を使っても宜しいでしょうか?」


先ほどの魔法を使った騎士が、一人の周囲より更に高品質な鎧に身を包んだ男に尋ねた。


「そうであるな…ん?」


隊長と呼ばれた男は、首を傾げた。


「どうかなさりましたか?」


「いや、一瞬途轍もない気配を感じたのでな、気のせいのよ…」


隊長と呼ばれた男はその言葉を最後まで口にする事無く首が突如として舞い上がった。

数瞬遅れて一迅の風が魔法使いの騎士の頬を鉄臭い匂いを連れて過ぎていった。


「な、なんだ?」


騎士の男は、慌てて周囲を見渡した。

そして、大空に浮かぶ黒い羽の天使を見た。


「あなた方は天山の領域に対し敵対行為を行いました、よって、この四天将が一人、堕天使のアグネスの名において、自衛権に基づき『掃除』を開始したいと思います。」


そう言って、右手を構えた。


「マギア・オブ・エミッション。<重力(エンハンスメント)強化(・グラビティ)>。」


彼女の流れるような詠唱が終わると同時に、騎士達は地面に膝をついた。


「くっ。この魔力は三等級魔術かっ!人間の限界である五等級を軽く超えおって!」


魔法使いの騎士はそう叫んだ。


「あらあら。まだ鳴く元気があるんですね。<第一強化(レベル・ワン)>。」


ころころと笑いながら先の魔法を完成させた。


「この悪魔がーーーっ!」


各々が怨嗟の声を叫びながら鉄の香りを放つ深紅の花を咲かせた。





村から一部始終を見ていたアディは、堕天使の放つ濃密な死の香りを感じ、こちらへと向かってくる死を具現化した存在をただ呆然と眺めている他無かった。


「あなた達まで殺しては氷音(ひお)様に叱られてしまいますか…」


「どうした?アグネス。」


呟く様に言ったアグネスの言葉が終わると同時に、彼女の横には漆黒の髪と瑠璃色の鋭い目の十七、八程度と思われる少年が浮かんでいた。彼の体には蝙蝠を思わせる羽が生えていた。そして現在は日が昇っている事を加味すれば、彼が吸血鬼族でありその中でも真祖であると容易に考えつくだろう。

アグネスは、直ぐに少年をみて慌て始めた。


「こ、これは氷音様!」


「『掃除』は完了したか?」


氷音はそう尋ねた。


「はい。全てつつがなく終了致しました。」


「そうか。分かった。」


そう言って氷音は、羽を畳み地面に降りた。


「マギア・オブ・エミッション。<破壊(ディストラクション)>。」


彼が、そう告げると同時に村を囲んでいた岩壁が光の粒子と変化し消えていった。

そして、大きく開け放たれた村の門へと歩いて行った。

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