俺が思っていた将来
俺らの父親は俺らがまた物心つく前に死んでしまったらしい。
母親ーーーーもとい、クソババァは1ヶ月に一度ふらっと帰ってきては俺が掃除した部屋を荒らしまくり、最後には弟に暴力を振るおうとするもんだから、クソババァが帰ってきたら弟を連れて公園で過ごしたりしていた。
あんな奴でも、俺たちがギリギリ生活できるぐらいの金をくれたから俺たちも我慢していた。
だが、高校ではそうもいかない。なにせ、義務教育の中学校と違って授業料や教科書にでもお金をとられるのだ。
中学校でも給食費と日々の生活をするだけで精一杯だったのに、高校にいくなんて到底無理だとわかっていた。
けど、せめて弟には高校に行って、できれば大学まで行ってほしいと思っていた。
「俺、中学卒業したら働くわ」
「まじ?」
「おう、まじまじ」
弟である市が食べようとしていた卵焼きをぽろっと箸から落とした。
「それで、この家出ようぜ」
「そりゃあ、この家からは出たいけどさぁ」
市がそう言って部屋を見渡す。窓はヒビが入ってガムテープでなんとか保てているが、すきま風で冬場は極寒だしクソババァが暴れるせいで、壁は穴だらけだ。
「俺も働いたほうがいい?」
馬鹿、それじゃあ俺が働く意味ないだろ。
「お前はちゃんと中学卒業して高校までいけ」
「でも、それじゃあ兄貴に悪いよ」
「俺のことは気にすんな」
別にやりたいことなんてないし、それなら働いているほうがきっと良い。
しゅんと眉を下げる市の頭を笑いながらぐしゃぐしゃと撫でると市もへにゃりと笑った。
それで、俺は中学を卒業したら働くーーーーはずだった。