これは始まる前の物語
早朝。ジリリという甲高い音にうなされ目を覚ます。今日から高校生だというのに気分が晴れない。昨晩はあんなにも浮き足立っていたというのに。はぁ、準備をするか。クローゼットから二週間前に届いた制服を取り出す。ワイシャツにネクタイ、そしてブレザーとズボン。全て揃っている。ワイシャツに袖を通してボタンを閉めてズボンを履く。ブレザーの内側を見ると相川陸斗と刺繍が施されている。ブレザーを羽織ると、コンコンととドアをノックされる。
「兄貴起きた?」
ドアからひょこっと妹の凛花が顔を出す。
「おう。起きてるよ。」
凛花は俺のことを見ると不思議そうに尋ねた。
「まだ六時半だけど、そんなに今日出るの早いの?」
「いや、そういうわけではないんだが。」
「楽しみだったとか?」
「そうかもしれないな。」
「意外だね、兄貴あんなに中学の頃は学校行くのだるそうにしてたのに。」
「まぁ、いろいろあったんだ。」
「そう。あ、ご飯できたから早く来てね。」
「はいよ。」
そう言うと凛花は部屋から出て行く。俺は学校に行くしたくを終えるとリビングに向かう。そこに着くと白のダイニングテーブルとテレビが置いてある。テーブルの上にはすでに朝食の準備がされていた。凛花は既に朝食を食べ始めていて、凛花の前に向かい合う形で座り朝食を食べ始める。我ながらイイ妹を持ったなと思う。凛花の顔立ちは悪くない。それに髪の毛も綺麗な黒のロング。異性からはモテるのだと思う。それに料理もうまい。普段ならば料理は母親が作るのだが、昨日は残業だったらしく今は疲れて寝ているのだろう。そんなことを考えていてぼーっとしていると凛花にに声をかけられる。
「兄貴どうしたのそんなにぼーっとして、何か考え事?」
「まぁ、うん。そんなところ。」
その後は会話はなく食事をとり終える。
「ごちそうさま。今日も美味かった。」
「今日もって、兄貴前に私がいつ作ったか覚えてんの?」
「ちょっと待て思い出す。」
その発言に凛花は頬を膨らまして言う。
「五日前だよ!今日も美味かった。って言うなら覚えとけし。」
「悪かったって、美味かったのは本当だから。」
「はぁ、もういいよ。」
凛花は怒ったからか顔が赤かった。その後は歯を磨いて、時間が余ったのでテレビを見ていた。
「今日の占いコーナー!」
テレビ番組の占いが始まる。普段占いなどはあまり見ないのだが、早く起きたので見ることにした。
しかし、なかなか天秤座の文字が出てこない。やっと出てきた。と思ったが順位を見ると十二位つまり最下位だった。まぁ、占いは信じていないのであまり気にしないが。ふと時計を見ると時刻は七時半を回っていた。そろそろいい時間なので、カバンを持ち家を出ようとすると凛花に呼ばれる。
「兄貴、今日帰り早いでしょ?」
「入学式だけだしな。早いと思うぞ。」
「じゃあ、これよろしく。」
そう言って凛花は食材の書いたメモを渡してきた。このメモを見る限り今日の夕食は親子丼か。それをしまって家を出る。俺の住んでいるのは東京都だが、この町はそれほど栄えているわけでもない。周りにコンビニはいくつか見当たるがビルなどは見当たらない。自転車をこいで隣の市に行けばパロコや西京などがあるのだが。自転車を漕いで十分ほどで高校に着く。自転車置き場に自転車を置いて体育館に向かっていると後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「陸ちゃん!おはよ~。」
「だから、陸ちゃんって呼ぶのはやめろ。」
不満げな顔をしているこいつは幼馴染の大島春子だ。春子と家の両親が仲が良く俺たちは小学校の時からよく顔を合わせていた。中学校も同じ学校に進学した。その中学校では春子の自毛が茶色いため新任の先生がよく染めているのではないかと話していたらしい。
「お前また髪の毛茶色くした?」
「自毛だよ~もう!私の髪の毛はそんなに変ですか?」
「いや、普通だな。」
そう言うと春子はフヘヘと表情を崩した。
「今日美智子さんは?」
「お母さんは後から来るってー。南さんも?」
「そうだと思う。」
「じゃあ、体育館まで一緒に行こうか陸ちゃん!」
「だから、陸ちゃんはやめろって。」
「いいじゃん別に~。」
「いや、よくない。すごく恥ずかしいから。」
「私は恥ずかしくないよ?」
「誰もお前と言ってないだろ。俺が恥ずかしいんだわ。」
「じゃあなんて呼べばいいの・」
「相川でも陸斗でもいいだろ。」
「はいはい。じゃあ陸斗君体育館へ出発進行ー!」
「そんなに引っ張るなって一緒に行くから。」
俺と春子はようやく歩き始める。春子は鼻歌を歌いながら俺の前を歩いている。何がそんなに楽しいのだろうか?そう疑問に思っていると、体育館に着く。
「確か並び順って名前順だったよね。」
「ああ。そうらしいな。」
「じゃあ、私も陸ちゃんも前の方だね。」
「そうだな。」
こいつは何回言ったらわかるのだろうか?もう注意するのはやめるか。座る場所を確認するために壁に貼られている紙を見ると、前に相川陸斗の文字を見つける。
「私はここだね。」
春子が指した場所は俺の斜め後ろの所だ。
「近いね~。」
「そうだな。場所もわかったし、行くか。」
体育館に入り指定された場所に座る。周りにはぞろぞろと生徒が集まってきており、後ろに保護者の姿も見えてきた。体育館を生徒が埋め、保護者もだいぶ揃ったようだ。すると舞台に司会の先生が登る。「これより都立多摩川高等学校入学式を始めます。新入生起立。礼、着席。」
そうして入学式が終わり、春子と一緒に親を探していると、顔なじみが声をかけてきた。
「よ!久しぶりだな陸斗。」
「亮太!久しぶり。元気にしてたか?」
こいつは根田亮太、中学からの友達だ。
「おうよ!俺これから遊びに行くんだけどお前らも来るか?」
「いや、いい。俺たち親を探してるから。」
「そうか、クラス一緒だといいな。じゃあまた。」
「ああ。またな。」
「またね~。」
「陸ちゃん行かなくてよかったの?」
「いいよ。お前との予定がさ先だ。」
「へへ、ありがと。」
そう言うとまた親を探し始める。すると携帯がブルブルと震えた。電話の名前を見ると探している相手だった。
「もしもし。」
「もしもし、陸斗?今校舎の前にいるんだけどどこにいるの?」
「いや、俺たちがそっちに行くよ。校舎の前にいてよ。」
「はーい。」
電話を切り春子と一緒に校舎に向かう。校舎の近くまで来たが母親の姿は見当たらなかった。もしやと思いもう一度電話をかけた。
「もしもし陸斗?今どこ。」
「校舎の前だけど。」
「あれ?ねえみっちゃんここ校舎だよね?」
「いや、ここは体育館じゃないか?」
「あはは。体育館だっ。」
ブツッと電話を切る。
「春子、悪い母さん体育館にいるみたいだわ。」
「はは。よくあることだよ~。」
こんなことがよくあってたまるか。体育館に着くとおーいと手を振っている女性がいた。
「母さん。恥ずかしい。」
「またまたー嬉しいくせに!」
「いや、それはないかな。」
「うわーん。みっちゃん陸斗がいじめるよー。」
「はいはい。陸斗くんごめんね。南が迷惑をかけたみたいで。」
「いえ、お世話になっているのはいつもこちらですよ。」
ペコリと俺は頭を下げて言う。
「今日は入学祝いに一緒にご飯食べましょ!」
「ああ。でも凛花がこれ買って来いって言ってたぞ。」
「どれどれ?親子丼か~。悩むな~。でも今日はバーベキューにします!」
「はいはい。分かりました。」
そう言って俺は凛花にメールを打っておく。返信はない。そりゃあそうか、授業中だもんな。母さんたちと買い物をして家に帰宅する。相川家は一軒家に住んでいるので外に庭がある。そこにバーベキューセットを並べて準備を進める。すると凛花が帰ってきたようで春子と話しをしているようだった。準備が終わり全員を呼ぶ。そうしてそれを楽しんだ俺は、今日のいろんなことを振り返りながら明日からの学校生活がちょっぴり楽しみになった。