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 りっくすを拒否するようになってから、りっくすはさらに僕の中で育っていくようでした。

 僕が何かを否定するたび、その否定した部分がりっくすになったんです。最後には僕らは完全に異なる2つの人格になってしまいました。

 僕は必死に体の主導権を握っていました。だから、りっくすはほとんど表には出てこれませんでした。


 そんな均衡状態が続いたある朝、異変は次の段階に進んだんです。


 狂ったように笑うりっくすの声で目を覚ましました。またなにかいたずらでもしたのか、とうんざりしていたら、なんか首が動かしづらいことに気が付いたんです。

 首に手をやると……大きなこぶができていたんです。りっくすがさらにうるさく笑い始めました。背筋が凍りました……。


 病院で検査をしてもらいました。お医者さんから予想した通りの恐ろしい事実が知らされました。

 このこぶは、ミッシングツイン……吸収した双子がでてきているんです、と。

 体になりそこないのただの肉の塊だから、大丈夫、ミッシングツインにはよくあることなんですよ、と言われました。

 僕は恐怖しました。勝ち誇ったように笑うりっくすがいたからです。なにか恐ろしいことが起こっていると思いました。僕はすぐにでも取ってもらいたかった。

 でも、場所が場所だし、僕はまだ幼かった。難しい手術になるから、少し考えたほうがいいと言われて、帰されました。


 こぶはどんどん大きくなっていきました。変な形に変形して……手が生えてきた頃に、両親はようやく異常を察しました。

 数日後、ついに口ができました。狂った笑い声は、僕だけでなくみんなに聞こえるようになったんです。


 僕を苦しめてきたものの存在に、家族はようやく気が付きました。そしてそれは、りっくすの念願でした。彼は嬉しそうでした。とても嬉しそうでした……。


 家族はお医者さんに相談しました。お医者さんは腕のいいお医者さんを紹介してくれました。僕はサードシティの大病院で、手術を受けることになりました。


 やっとこの苦しみから解放される。僕は嬉しかった。だけど、病院が近づくにつれ、不安になっていきました。りっくすが自分の最後を感じて泣き叫んでいたからです。悲しみ、後悔、恐怖、絶望、すべての感情が伝わってきた。


 僕は目を瞑って耐えました。りっくすを助けてほしい、そう思いましたが、彼を助けることは僕が犠牲になることと同義だった。だから歯を食いしばって耐えたんです。


 病院についたころには、りっくすの感情は憎悪に変わっていました。一片の混じりもない、純粋な憎悪でした。彼はこの世のすべてを呪っていました。


 僕は手術のために麻酔で眠らされました。眠りに落ちる直前に、りっくすの声が聞こえた気がしました。


「呪ってやる……幸せに生きれると思うなよ」と……。


 目が覚めたときには、すべてが終わっていました。頭の中で響く声も、重たい首のこぶもなくなっていました。


 僕はほっとしたと同時に、悲しみに襲われボロボロ泣きました。

 なぜか、りっくすといたころの楽しい思い出ばかり浮かんできたんです。ふたりで分け合って生きてきた頃、とても幸せだった。


 孤独感に襲われ始めた頃、僕はりっくすの最後の言葉を思い出しました。彼は僕を恨みながら死んでいった。

 僕はかけがえのない兄弟を切り捨てて汚く生き残ったんです。その事を実感しました。

 どうしてこんな最後になってしまったんだろう。他に僕たちには辿れる道があったんじゃないかと思いました。


 後できいた話なんですけど、僕の手術は壮絶を極めたそうです。お医者さんが何名か死傷なさったそうです。

 僕は怖くなりました。呪ってやる……りっくすはいつか僕を呪い殺しにくる、そう思いました。


 でも、呪い殺されても仕方ないと思います。僕は彼を見殺しにしたんだから。彼を踏み台にしてのうのうと生き残ったんだから。


 家族は、りっくすの分まで幸せになりなさい、と言いました。りっくすもそれを望んでいる、と。

 僕はそうは思えませんでした。りっくすは僕が幸せになることを望んでいません。踏み台にした僕を許すはずがない、絶対に。



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