承
しばらくして、おばあちゃんは体調を崩して……亡くなりました。とても悲しかったけど、りっくすは僕よりずっとずっと悲しみました。
おばあちゃんがいなくなってから、りっくすを呼ぶ人は僕しかいなくなりました。
りっくすは塞ぎ込みました。話しかけても応えてくれなくなりました。でも、確実に、彼は僕の中にいました。悲しい感情で満たされていました。だから、僕もずっと悲しかった。日々の生活が楽しめなくなりました。
異変が始まったのは、それからでした。
なにも心当たりがないのに、両親や先生に叱られました。
僕が怒られる度にりっくすは笑いました。彼がやったんだなと思いました。でもなにを問いかけても話してくれませんでした。
たぶん、僕が無意識のときに、僕を操れるようになったんです。僕は怖くなりました。僕はりっくすに乗っ取られるかもしれない。僕が僕でなくなる。りっくすのような存在に僕がなってしまう。
だから、僕は主張しました。いたずらしたのは僕じゃない、りっくすがやったんだ、僕じゃないって。
僕はおとなしくて、ききわけのいい子供でした。怒られることなんてほとんどなかった。でも、この時から僕は問題児になりました。悪さをして、怒られたらパニックを引き起こす、どうしようもない子供……。
先生には嫌われました。友達もいなくなりました。
でも、そんな自分も自分じゃないと思いました。全部りっくすが悪いって思いました。
僕はほとんど眠らなくなりました。そうすればりっくすは出てこれない。
僕の頭の一部が怒りに満たされるのがわかりました。でも僕も必死でした。僕は僕でいたかったんです。
……
陸さんはそこで話を止めました。ひとつ息を付くと、こちらに声をかけてきました。
「あの、大丈夫ですか?」
「はい?」
「その、このまま続けても……」
言われている意味にようやく気が付きました。
わたしは泣いていました。涙だけでなく鼻の方もずるずるになってしまっていて、とても人様にお見せできる姿ではありません。
「ちょっとおまちください」
急いでハンカチを取り出して、思い切り鼻をかみました。ハンカチ一枚では足りないかもしれません。
「もうちょっとおまちください」
そう言って、ハンカチをとりにいきました。これで大丈夫、ハンカチを山積みにして、もう一度座布団に着席しました。
「すみませんでした。続けてください」
「はい……その、ありがとうございます」
陸さんは恥ずかしそうに頭を掻いて言いました。
「僕の話で、こんなに泣いていただけるなんて、嬉しいです。でも、」
陸さんは言いにくそうに言葉を溜めます。
「ちょっとこれから先は……少し、その、ひどいお話になってくるので……女の人にお聞かせするのはちょっと……」
「聞かせてください!」
わたしは、机を叩いていました。
「最後まで……お聞きしたいです」
「は、はい!」
わたしの剣幕に驚かれたのか、陸さんはビクッとされると、か細い声で仰られました。
「わかりました……」
「最後まで、きいてください」
わたしは、新しいハンカチを構えて、お話を待ちしました。