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 僕はファーストシティのごく普通のりんご農家の家に産まれました。長男ですが姉が四人いて、待望の男の子だということで家族にはとても喜ばれたそうです。両親も姉も優しく、とても恵まれた出生でした。


 ですが、僕にはただひとつ、おかしな点が備わっていたんです。


 気づいたのは三歳くらいでしょうか。物心ついたころです。僕はいつも誰かに「了解」をとっていたんです。

 わかりにくいかもしれないんですけど……なんていうか、その、これ食べてもいいと思う?とか、もう寝ようか?とか。相談してる、てほどじゃないんですけど、いつも頭の中の誰かに確認しながら生活してました。

 声に出したことはないんです、だから誰も僕のおかしさには気が付かず、僕自身も普通なことだと思ってました。


 そんな生活を続けていたある日、僕が五歳くらいの頃です。おばあちゃんの家に行ったんです。おばあちゃんは男の孫が欲しかったみたいで……僕のことをすごく可愛がってくれました。

 その日も、よく来た、と言って僕を迎え入れてくれたんですけど、僕を違う名前で呼んだんです。

「元気にしてたかい、りっくす」と。

 僕はりっくすじゃないよ、と言うと、おばあちゃんはしまった、と言う顔をしたんです。

「まちがえてしもうた」ととても悲しげな表情で呟くので、僕、気になって……。

「りっくすってだあれ?」って聞いたんです。

 そうしたら、おばあちゃん、しばらく悩んでいたんですけど、「もう、お前も大きくなったし、話してもいいじゃろう」と頷くと、ゆっくりと話してくれました。


「お前には、双子の兄弟がいたんじゃよ。

 ばあちゃん男の子の孫がふたりもできるなんて嬉しくてな……お腹にいるうちから2人の名前を考えておったんじゃ。

 ……だけどな、いつの間にかひとりはおらんなってしもうた」

 いなくなった?と僕が問うと、おばあちゃんはこくりと頷きました。

「ミッシングツイン、ちゅうんやて。お医者さんが言っとった。双子が、お腹んなかで片方に吸収されてしまうんじゃ。双子にはたまにあることなんじゃって」

 僕にはわかりました、この頭にいるもうひとりの僕が、りっくすなんだと。

「だから、お前はりっくすの分まで幸せに生きなきゃあかんよ」

 寂しそうに言うおばあちゃんに、大丈夫、りっくすは僕の中にいるよ、と言った。おばあちゃんは多分違う解釈をしたんでしょう、嬉しそうに笑いました。


 りっくすという名前をもらってから、頭の中の存在はよりはっきりとしたものになっていきました。

 僕は、お菓子をもらったら、彼と半分こ……まあ口は一つしかないから、実質僕が食べてたような感じですけど……しましたし、彼が嫌いなものは僕が我慢して食べました。

 茶番ですけどね、僕たちはそれなりに楽しかったんです。

 でも、そんな生活はながくは続かなかった……。


 六歳になり、僕は市内の小学校に進みました。ピカピカのカバンとか、ノートとか、たくさん買ってもらいました。そのひとつひとつに、僕の名前が書かれていました。

 頭の中のりっくすは悲しみました。僕のはないの、と僕に尋ねました。僕にはどうしようもなかったので、ふたりでつかおうね、と彼をなだめました。


 学校へ行くと、やっぱり僕の机しかありませんでした。先生が出席をとるときも、僕の名前しか呼びませんでした。たくさん友達もできましたが、みんな僕の友達でした。

 学校は僕の居場所ばかりが増えました。誰一人、りっくすの名前を呼ぶ人はいませんでした。


 家でも、やっぱり僕の居場所しかありませんでした。今まで特に違和感もなく生活してきたけど、りっくすはおかしいと思い始めてしまったんです。


 唯一、おばあちゃんだけは、りっくすを受け入れてくれた。いや、きっとおばあちゃんは僕の妄想に付き合ってくれてただけなんでしょう。

 りっくすもいるよ、と言ったら、りっくすもよく来たね、と話しかけてくれましたし、お菓子をもらうときは、りっくすの分もちょうだい、と言ったら喜んでくれました。

 りっくすはおばあちゃんが大好きでした。同時に、存在を認めてくれない他の人に不満を感じていました。


 小学校で、文字を習ったので、ある日、僕の持ち物すべてにりっくすの名前を書いてあげたんです。りっくすはとても喜んだので、僕も嬉しかった。

 でも、そんな行動、おかしいですよね。まず先生に怒られました。落書きしちゃダメでしょ、と。そして両親に怒られました。両親はおばあちゃんが僕にりっくすの事を漏らしてしまったと知って、おばあちゃんを怒りました。

 おばあちゃんは泣きながら謝っていました。おばあちゃんを泣かせたくなくて、僕はりっくすを心の中に仕舞うことにしたんです。


 大好きなおばあちゃんを悲しませたくないのはりっくすも同じだったから、りっくすはわがままを言わなくなりました。

 おばあちゃんはそれからもたまに、りっくすの名を呼んでくれました。りっくすはそれで満足していたんです。




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