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7 女魔法使い(仮)さんと女僧侶(仮)さん

『そろそろエレンから貰った地図でも魔族の国にはいったころじゃぞ』

「そうですか。数時間は歩きましたもんね」


 たまに現れる敵は雑魚だが、歩くのが辛い。数時間も歩いてやっと村から国境についた。

 いよいよ魔族のテリトリーだ。辺りは森になっていて、暗く視界も悪い。気を引き締めねば。

 うん? 数時間。地図上では開拓村と魔族の国境は眼と鼻の先だ。

 地図を見ると開拓村と国境線は近いが、魔王城は国境からかなり離れている。


「ねえ。おキツネ様」

『なんじゃ?』

「このまま歩いていて三が日に魔王城に着く? ギリギリ無理だと思うんだけど」

『無理じゃな。その地図は人間が描いたものだし、実際には魔王城はそれより奥にある』


 な、なんだって?


「しょ、正月の三が日の詠唱魔法でしか倒せないんじゃないの? ダメじゃん!」

『なあに575の韻律を踏めば転移魔法ぐらい……』


 て、転移魔法?


「キャー!」


 その時、遠くから悲鳴が聞こえた。人間の悲鳴だ。


「なんだ? 誰かが襲われているのか?」

『そのようじゃな』


 急いで声がする方向に走る。いたっ!

 少し離れた場所で男女数人のパーティーが巨大なカマキリの魔物と相対していた。

 一人の女性が横たわっていた。


『デスマンティスじゃ。かなり強いぞ』


 早く助けなければと思っているとパーティーの中の一人の赤髪のおかっぱ女性がなにか唱えはじめた。


「コウリカミ ヒョウチュウノケン テキノトキ イマトメタマエ


 黒いとんがり帽子に黒いマント、その下に緑の服と朱色の手袋。魔法使いとしか思えない。


『うむ。おそらく、魔法使いじゃろう』

「言ってる場合か!」


「エタナルブリザード!」


 俺もカマキリの魔物に対して攻撃しようとしたが、その前に魔法使い(仮)さんが詠唱魔法を終わらせたらしい。

 氷の魔法だったようでカマキリを瞬時に氷塊に閉じ込めた。


「おお! 凄い! 57577の詠唱だ!」

『ふんっリョウタのほうが凄いわ! 5文字で灰も残さんではないか! しかも字余りじゃったぞ!』

「なんでそんなところで争う?」

 

 俺はおキツネ様を無視して男女のところに走った。倒れている人は重傷に違いない。

 パーティーは四人だった。男が二人。女が二人。みんな20歳ぐらいだろうか?

 倒れている女性は肩口から袈裟斬りに斬られていた。おそらく、カマキリの魔物のカマでやられたんだろう

 勝手に命名した魔法使い(仮)さんも魔法で疲れきったのか座り込んでいる。

 三人は何事か揉めていた。俺に気がつくと動きやすそうな革の鎧を着た戦士と金属製の鎧を着た重装甲の戦士がなにか捲し立てていた。

 攻撃役の肉弾系戦士と壁役の肉弾系戦士だと思うがなにを言ってるかはわからない。


『リョウタに回復魔法が使えないかと言っているみたいだぞ。どうやら斬られたのは回復系のようだ。その他にももうヤダとか、こんな強いモンスターがいるなんて信じられないとか、俺は勇者と呼ばれていたのにとか』


 なるほど。勝手に命名した勇者(仮)さんと戦士(仮)さんの後半の話はどうでもいいけど回復役の女性が斬られたのは大変だ。早速、斬られた人の患部に手をかざす。

 

「傷治れ」


 斬られた傷は見る見る治っていった。


 三人がまた何事か驚いたような声をあげていた。なにを言っているのだろう?


『こんな凄い回復魔法は見たことがないじゃと』


 なぜかおキツネ様がイライラした声で言う。

 そういえば急いでいたので意識しなかったが倒れた人は全身タイツでその上からかぶる形の服を着ていた。

 僧侶(仮)さんと勝手に命名しよう……。

 タイツも袈裟斬りで切り裂かれている。チチがこぼれそうだった。


「う、うぅぅん……」


 僧侶(仮)さんが艶めかしい声をあげる。意識を取り戻すようだ。


『もう回復はいいんじゃないか!』


 おキツネ様のさらにイライラした声が聞こえるが、念のためもう少し治療しようと思う。


『なにが念のためじゃ! チチが見たいだけじゃろ!』


 いや、まあそれもあるけど、回復は念入りにしたほうが……。


『リョウタのエッチ! スケベ! 巨乳好き!』


 確かに僧侶(仮)さんはおキツネ様よりも大きかった。おキツネ様も適度な大きさだけど。


『リョウタ、浮気! 浮気! 浮気!』


 なにそれ……浮気って言われても……。僧侶(仮)さんは艶めかしい声を出しながら上半身を起こした。どうやら治ったらしい。


 その時だったバッキーンとカマキリがカマを使って氷塊から這い出てきた。

 同時にガサゴソという音とともに俺たちを挟むようにもう一匹のカマキリが対角線上に現れた。

 僧侶(仮)さんは意識を戻したようだが、トラウマになった敵に囲まれたことを知って座ったまま目を見開いて固まってしまった。

 

 魔法使い(仮)さんはなんとか立ち上がって僧侶(仮)さんを庇って戦闘する態勢をとる。しかしもう魔法を唱えることも動くこともできないんじゃないかと思うほど息があがっていた。


 俺が一匹ずつ倒そう。その間、勇者(仮)さんと戦士(仮)さんに時間を稼いでもらおうと思う。

 ところが勇者の奴と戦士の奴は


「●□△×※■」

「×※■○□△」


 と、言い残して二人と俺を置いて一目散に逃げてしまった。

 日本人の俺でもなんとなく言葉はわかった。「俺は逃げるぞ」とか「もう魔王退治なんてやめた」とかそんな台詞だろう。


『ご明察。大体そんなところじゃ』


 当たっても女の子を置いていく不甲斐なさにムカつくだけだった。カマキリは徐々に俺たちに距離を詰めてくる。


「おキツネ様ごめんね」

『え?』


 俺は情報を教えてもらうために常に左手に握っていた。鈴をポケットに入れて両手をそれぞれカマキリにかざした。


「焼きつくせ」


 カマキリは同時に火柱に飲み込まれ灰も残さずに消えた。想像通りの結果だった。

 魔法使い(仮)さんも僧侶(仮)さんもそれをポカンと見ていた。


「想像通りの結果だ。真名とイメージさえできてれば同時攻撃もできるんだな」


 俺は日本語を口にしながら一人納得した。おっとそんなことより。


「君たち、大丈夫?」


 ヤバイさっきから日本語だった。でもニュアンスで伝わったのだろうか。僧侶(仮)さんはハッとして慌てたように胸とはだけた下半身を隠してコクコクとうなずいている。

 なにか座っていた場所に水たまりができている気がしたが、真っ赤な顔で必死にうなずいているので気が付かないふりをして、魔法使い(仮)さんに怪我がないか聞くことにする。


 ところが魔法使い(仮)さんは驚くべきことを言い出した。


「アナタ イツモ ニポンゴ ハナス ノ?」

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