6 魔王を倒すコツは575!?
朝になった。朝ご飯を頂いてから、することも無かったので村の広場に行った。村の広場の切り株に座ってぼうっと村や村人を眺める。
やはり女性や子供が多い。子供たちが近くではしゃぎ回っていた。
「おキツネ様、俺も気が付いたよ」
『なにがじゃ?』
「若い男は女性や子供たちを守るために死んじゃったんだな」
『……うむ』
目の前の男の子がはしゃぎ過ぎてコケる。膝を擦りむいたようで泣いてしまった。
近くの女性が傷を洗い流す。すると……。
「キズナイレ、キズナイレ」
どうやら魔法をはじめたようだ。しかし効果はあまりないようだ。日本語も微妙に間違っている。
「おキツネ様、もし俺がやったら……」
『治るじゃろうな』
切り株から立ち上がって子供に近づく。患部に手をかざして言ってみた。
「傷治れ」
膝は傷があったのが嘘のように元通りになる。
男の子はともかく女性は俺を拝まんばかりに感謝していた。
「やっぱ期待されているのかな」
『期待するのも無理はないというもの。昨日倒した熊はキンググリズリーと呼ばれていて王国の騎士が数人がかりでやっと倒す魔物じゃ』
「マジですか」
『ああ、それを一瞬で灰燼に帰せば、期待されるじゃろう』
エレンがこっち来て俺に何事か話しかけている。
ジェスチャーもされたがわからなかった。おキツネ様が翻訳してくれる。
『また神社に行って祈るようじゃぞ』
昨日、熊が出たのに?
『夫の冥福とお前の安全を祈りたいらしい』
「あっ」
エレナの家の二つのイスはそういうことか。つまり未亡人。この若さでか。
おキツネ様……。
『なんじゃ?』
魔王なんて余裕だ。お祈りはいらないって異世界の言葉でなんて言えばいいの?
『リョータ!』
◆◆◆
俺はエレンからお弁当を貰って村を出た。とりあえず人間の国から魔族の国を目指していた。
『お前は本当に良いやつじゃな』
「はいはい」
ぶっきら棒に答えた。
『なんじゃ褒めてるのに。まあリョウタの本心はわかっておる。可愛いワシから褒められて照れてるんじゃろ。クスッ』
鈴を握っていると思考が読まれるのでおキツネ様にはなにも隠すことができない。
実際に可愛いもんな。中学生ぐらいの女の子に見える。
『レディーに向かって中学生じゃと! 修正しろ!』
おキツネ様が人の思考を読んで勝手に怒りだした。実際、中学生ぐらいに見えるんだから仕方ないだろう。本当の年齢は何歳なんだろうか。
『女に年を聞くのか!』
いや聞いてないけど。ま、まさか……数百歳とかなのか。
『多分じゃが……もう一桁単位が上じゃ』
レディーどころかババア……いや、ロリババア。
『あ~リョウタ! 今言ってはならんことを言わなかったか!』
だから言ってはいないですって。
『考えるな! 失礼じゃぞ! 傷つくだろうに!』
無理だー!
俺はもう鈴をポケットにしまいたかったが、辺りはもう魔族の国に近かった。
既に人間の背丈を超えるサソリの魔物が出たり、大蛇の魔物が出ている。
しかし、俺はおキツネ様から魔法の言葉を一つ教えてもらっていた。魔法の言葉と言ってもただの日本語だけど。
「焼きつくせ」
その言葉通りに敵が焼かれることをイメージすれば、その通りになった。
「これなら魔王もアッサリいけるんじゃないかな?」
『魔王はこの程度では倒せないだろう』
だと思っていましたよ。一国を滅ぼすようなヤツを簡単に倒せるわけがない。
「でもおキツネ様言ってましたよね。魔王を倒すコツがあると」
『あるぞ。それを今から教えよう。魔法には詠唱がある。それを使うことで飛躍的に威力が増す』
魔法詠唱。そんなことできるわけがない。あっでもひょっとして日本語を言えばいいだけなのか?
『ご明察』
「どんな?」
『日本語で韻律を刻むだけだ。発音数と言ってもいいかな』
「発音数?」
『うむ。575あるいは57577の発音数だ』
575で詠唱……どこかで聞いたことがある。
「575や57577で唱うとかひょっとして俳句とか短歌?」
『うむ。日本ではそう言われるな。つまり日本語=真名を575の韻律に当てはめれば詠唱じゃ』
そんなことで……ん? でもよく考えたら異世界人も。
『そうじゃ。今までほとんどの魔法が5文字じゃったろ? 5と7は神数じゃ。それだけで効力は多少増す』
「なら異世界人も簡単に詠唱できますね」
『いや彼らはこの原理を知らないし、日本語を羅列してもそれがどんな意味を持っているか知らない。イメージも重要じゃ』
そうだったのか。じゃあ俺って結構強い?
『ああ、ワシの加護もある。正月の三が日に詠唱した魔法を放てば魔王も敵ではない!』
おキツネ様は自信満々に言うけど本当かな。しかし俺はもう魔王を倒すと決めたのだ。正月の三が日が終わる明日までに!