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5 神社にいる少年

最終話です。

「ふあぁ~」


 暖かい太陽の光が降り注ぐ午後。俺は開拓村の近くにある丘の上の芝生で寝転がっていた。


「あら、リョウタさん。こんなとこにいたんですね」


 目を開くと、そこにはエレンさんが立っていた。


「あ、どうも」


 俺は上半身を起こし、エレンさんに挨拶をする。


「よくくるんですか、ここに」

「なんかエレンさんに連れてきてもらってから気に入っちゃって」

「気に入ってもらえてなによりです……あ、でもアリシアさんが探してましたよ」


 まじか、せっかくのんびり昼寝しようと思ってたのに。


「じゃあ、いかなきゃな」


 俺は起き上がり、大きく両腕を伸ばす。


「エレンさんももう村戻るの?」

「いえ、もうちょっとここにいようかと思ってました」

「んじゃあまたあとでな」


 丘を下りて開拓村まで戻ると、村の中央にアリシアたちがいた。


「あ、リョウタくーん」


 俺の存在に気付いたメアリーが手を振る。


「まったく、どこ行ってたの」

「ごめん、ちょっとな」

「もう、今日は大事な日なんだからしっかりしなさいよ」

「わりぃわりぃ」


 そう、今日は人間と魔族の間に訪れた平和を記念する為の式典が王都で行われる日だ。


「さっ、行きましょ」

「そうだな」


 俺はアリシアとメアリーと共に、王都へと転送した。


「リョウタ様!」


 王都に現れると、リリスが俺に飛びついてきた。

 式典の為かリリスは珍しく正装をしており、どことなく大人びた容貌だ。


「ごめん、またせたな」

「いえ、そんな全然……わざわざ来てくださってありがとうございます」


 リリスは少しもじもじしながら上目遣いで俺を見つめる。


「この服、似合ってます? なんだか恥ずかしくって」

「ああ。魔王がこんなに美人だって知ったらどんな人間だって魔族と仲良くなる気になるさ」

「ありがとうございます!」


 式典は始まり、俺たち四人は王様に用意してもらった特等席でパレードを見物した。


「しかし、すごいよねー」


 パレードを眺めながらメアリーがそう言う。


「確かにずいぶんと派手だよな」

「そうじゃなくてさ。こうやって人間と魔族が仲良くできるなんて思ってもいなかったよ。これも全部リョウタのおかげだね」

「そんな大した事してないって」


 すると俺の隣に座っていたリリスが立ち上がり、大きく深呼吸をした。


「そろそろ、私も用意をしないと――」

「おう、頑張れよ」


 パレードが終わると、国王と魔王がそれぞれスピーチを行い、最後は二人の握手で締めくくられた。

 納得のいってない連中はどっちの陣営にもいるだろうが、カナンの未来は明るい。


 だからこそ、護れてよかったと思えるもんだ。


◆◆◆


 式典とその後の打ち上げが終わると、俺は鳥居を潜って日本へと向かった。

 三人には悪いけど、今日は帰る約束をしてるんだ。


 お馴染みの古びた社につくと、まだ誰もいなかったので俺は外へとでる。


 ふと、初めておキツネ様とここで会った時を思い出す。

 困ったときの神頼みだったのがまさか本当の神様が現れるとはな。


 今となっては俺とおキツネ様の立ち位置は逆だ。俺がこの社で祀られている神様で、おキツネ様はただの少女。

 だけど、俺はその選択を全く後悔していない。

 俺が二つの世界を繋ぐ媒体となった事でカナンは救われ、おキツネ様を解放する事もできた。


 これでよかったんだ。


「おーい、リョウタ!」


 賽銭箱の前の足場に座って物思いにふけていると、おキツネ様が手を振りながらこちらへと駆けてきた。


「よう」

「なにぼーっとをしとるんじゃ、もうアオイが夕食の支度をしておるぞ」

「たまにはボーっとしたくなったりもするだろ」


 するとおキツネ様は俺の膝に飛び乗り、背中を俺の胸板に預けた。


「そう言えば初めてリョウタと会った時、こうやっていなり寿司を食わせてくれたのう」

「ああ、丁度その事思い出してた」


 あ、そう言えば。


「これ、まだ返してなかったな」


 俺はポケットから小さな鈴を取り出し、おキツネ様に渡した。

 カナンにいる際におキツネ様と連絡を取る為の手段だったが、神となった今の俺にはもう必要ない。


 が、おキツネ様は鈴をとらず、俺の開いた手をそのまま閉じた。


「持っておいてくれ」

「でも……」

「例えもう鈴を通して会話できなくとも、リョウタがそれを持っている限り、いつも繋がっていられる気がするんじゃ」


 そしておキツネ様は俺の手を強く握る。


「時の理から外れると言う事は想像以上に辛い事じゃ。今はよけれど、いずれワシも、アオイも、カナンの連中もみんないなくなる。そんな時、耐え難くなったらその鈴を見てワシを思い出してくれ。たとえワシから神の力が無くなろうが、時がこの肉体を奪っていこうが、ワシは必ずリョウタと共におる」

「ああ」


 俺はおキツネ様を抱きしめた。


「立場上は俺が神様なのかもしれないけど、俺にとってはおキツネ様がいつまでも神様だよ」

「……当たり前じゃろ」


 二つの世界を繋ぐ鳥居は、月明かりを浴びて薄く輝いていた。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。

評価、ブクマ、感想等していただけると嬉しいです。

特に作品全体の感想と終わり方の感想を是非お願いしますm( )m

一旦完結になりますが、もう一話か二話ぐらい閑話をしたいと思います。


新作『僕の部屋がダンジョンの休憩所になってしまった件』もよろしくお願いします。

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