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4 おキツネ様の依頼

 助けた女性の名前はエレンと言った。エレンはおそらく20歳前後で金髪女性だ。顔立ちはヨーロピアンのように見えるが、地球だろうと異世界だろうと俺には詳しいことはわからない。

 俺があまりしゃべれないことも伝えた。おキツネ様が言った現地語をそのまま発音したのだ。

 きっと日本語を話す外国人のように片言だったことだろう。でも一回で通じたから意外と大丈夫だったのかも。

 とにかく俺が言葉をあまり話せないことは伝わっているので特に会話もなく二人で山を降りている。

 エレンとの会話はあまりない。エレンはね。おキツネ様はペラペラと話していた。


 熊が出没した場所は異世界カナンでも神社のような場所らしい。

 そこではやはりおキツネ様が奉られているらしい。


『どうじゃ。この世界ではワシは慕われているじゃろ』


 おキツネ様のドヤ声が聞こえてくるが、どれほど慕われているのかはまだわからい。

 それにしてもあの熊は魔物らしい。


『ああ、あの熊はただの野生生物ではない。魔王の気をうけた歴とした魔物だ』

 

 魔物のみならず魔王だって……。なんだよ魔王って。魔法があるからには魔王がいても驚きはしないけど。


『魔王は魔族の長だ。魔族や魔物を束ねて人間や亜人を襲う。村や街はもちろん一国が壊滅することもある。下手をすれば人間が滅ぶだろう』


 そんな危険な奴がいるところに可哀想な高校生を送らないで欲しい。


『なにを言っとるんじゃ。お前なら魔王を倒すことも容易じゃぞ。あ、容易は言い過ぎたかな?』


 な、なんだって? 俺が国を滅ぼすような化物に勝てる?


『まあコツを身に付ければな』


 コツ!? 魔王ってコツで倒せるもんなの?


『いけるだろう。正月の三が日ならばいける!』


 後、3日しか無いじゃねえか。まあでも俺には関係ないよね。


『なにを言っておるんじゃ。リョウタが魔王を倒すんじゃよ』


 は? はあ?


『この世界の人々のワシへの願いは〝平和〟が多くてな』


 平和?


『つまり魔王が倒されることじゃ。それをお前に頼みたい』


 ちょっちょっと待って下さいって無理無理無理。あ、だから俺が異世界に行くのが都合が良いとか言ってたのか。


『ご明察。リョウタよ。魔王退治を頼んだぞ!』

「だから無理だってばー」


 つい日本語でしゃべってしまった。エレンが不思議な目をしてこちらを見る。 俺が手を降ってなんでもないよという仕草をするとニッコリとほほ笑みを返された。

 おキツネ様は可愛い女の子という感じだが、エレンは優しいお姉さんという感じがする。


『ふんっ! だらしないの』


 それからおキツネ様はずっと文句ばかり言っている。


『まったくお前は人の社で勝手に寝ようとしたり』

『自分の命を軽く扱ったり』

『こんなことで魔王を倒せるのかの』


 だから魔王を倒す気なんてないって……。

 

『すぐにワシの太ももを思い浮かべたり』


 だからそう言われると。


『あーあー! また思い浮かべた! おシリも! エッチ! リョウタのすけべ!』

「言われたらどうしたって思い浮かべちゃうでしょうが!」


 また日本語で声を上げてしまった。

 エレンの笑顔がやや引きつっていた。

 そうこうしていると辺りがだいぶ開けてくる。

 山から平野にたどり着いたのだろう。


 風景は日本の田園とも似ているがどこか違う。

 その理由がハッキリわかってきた。


 なんというか乾いている。空気も大地も。

 空気は日本のように湿気を感じさせずカラッとしているし、大地は水を含んだ黒土ではなく、土埃という感じだった。

 つまり日本風ではなく欧風なのだ。

 そういえばエレンも金髪だ。人間も欧風ということになる。金髪はよく似合っていた。


『悪かったな。ワシは似合ってない金髪で』

(まあ、おキツネ様は金髪って言うよりキツネ色ですから。人間の金髪とは違いますよ)


 口ではそう言ったけどおキツネ様のキツネ色の髪はすごく可愛い。耳も尻尾も艶のあるキツネ色でモフモフしたくなる。

 ああああ、したい。おキツネ様を抱きしめてあの可愛い尻尾と耳をモフモフ、モフモフと。


『……んっ。まあ……なんだ……そこまで褒めるなら……ちょっとだけならモフモフしてもよいぞ……』

「ぎゃああああああああ! また心を見られた! チクショー!」


 またも日本語で声をあげてしまう。エレンの笑顔は完全に引きつっていた。

 くそっ! 直接、触れていなければ思考が読み取られることはないんだっけ。

 もうこんな鈴、ポケットに入れといてやる。


『ちょっ待てっ。やめろ!』


 やった。おキツネ様の声が聞こえないぞ。これで勝手に思考を読まれて恥ずかしい思いをすることも無くなった。

 ……静かになると少し寂しかった。


 先ほどから硬い笑顔になったエレンにとぼとぼとついていった。

 しばらくすると小さな畑とログハウス的なものが何軒かある村にたどり着いた。

 村っていうよりは集落だな。ひょっとしたら開拓村なのかもしれない。


 村人が俺たちというよりはエレンに集まってきた。

 なぜか若い女性が多かった。やはり金髪が多い。赤髪や茶色の髪もいるが見た目はヨーロッパ系だった。


 俺のような黒髪のモンゴロイドは少ないのだろう。

 少し遠くから俺を見てエレンにあれこれ聞いているようだった。

 どうでもいいけど早く食べ物を出して欲しい。お腹が鳴ってしまった。

 するとエレンはニッコリ笑って俺をログハウスの一つに案内した。

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