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2 枯渇

 歪を潜ると、そこは見覚えのある社だった。


「よかった……出られたのか」

「リョウタ、大丈夫か?!」


 急におキツネ様が飛びついてくる。


「ああ、おかげさまでな」


 おキツネ様を抱きしめながら頭を撫でていると、彼女は掠れた声で言う。


「……すまぬ……私のせいで……」

「いや、全然大した事じゃないって。こうして無事に出れたんだし」

「いや……そうじゃ……」


 その途端、俺を強く握るおキツネ様の手から力を抜ける。


「おキツネ様?」

「ちと、疲れて……しまってな」


 おキツネ様はそう言い、そのまま崩れ落ちるように俺に全体重を預けた。


「おキツネ様?」


 軽く体を揺すってみるものの、おキツネ様は息を荒立てるだけで反応はない。

 彼女の額に触れると、


「やばいな」


 とりあえず俺は彼女をおぶり、田中家へと急いだ。


「アオイ、いるか?」


 慌てて田中家の玄関に駆け込み、俺はアオイを呼んだ。


「あ、リョウタ!」


 エプロンをしたアオイが台所から嬉しそうに顔を出す。


「って、どうしたの?」


 俺の背中でうなだれているおキツネ様が目に入り、アオイの表情は一気に変わる。


「よくわかんないんだが、さっきからおキツネ様の調子が悪いみたいで」

「そうなの?」

「とりあえず、ベッド借りるぞ」


 玄関で靴を脱ぐと、俺は急いでおキツネ様を大きなベッドのある寝室まで連れていく。

 そしてベッドに横たわらせると、水の入った桶とおしぼりを持ったアオイが部屋に入ってくる。

 ベッドの前でおしぼりを水に浸して絞ると、それおキツネ様の頭に乗せ、アオイは言った。


「神様でも風邪をひく事ってあるんだね」

「最近体調が悪そうな気配はあったのか?」

「ううん。普通に元気だったと思う。最近ちょっとおとなしめな気もしたけど」


 すると、おキツネ様がゆっくりと目を開く。


「風邪など……ひかんわ」


 意識が戻ったようだが、相変わらず辛そうな様子だ。


「すまんな……リョウタ。ワシにはもう力が残されてないようじゃ」

「どういう事だ?」

「日本とカナンを繋ぎとめておくには……膨大な力が必要となる。それが、もうずっとまともに供給できてなくてな……この有様じゃ」

「じゃあ、俺があの変な空間に行っちゃったのも――」

「ああ……二つの世界の繋がりが切れかかっておる」

「どうすればいいんだ?」

「……ある場所に連れていって欲しいんじゃ。カナンの一番深い森の奥にある……狐の村に」

「わかった。もう日本とカナンは行き来できないんじゃないのか?」

「あと……一回は完全に繋げられると思う」

「よし、じゃあおキツネ様の体調が良くなったら――」


 すると、急におキツネ様は首を振った。


「駄目じゃ……今すぐでないと……ワシはもう……」

「わかった」


 俺はおキツネ様をお姫様抱っこし、寝室から出ようとする。


「ちょっと、リョウタ。どうなってるの?」


 アオイの問いに、俺は首を振る。


「俺もよくわからん。だけど、早くおキツネ様を狐の村ってとこに連れてかなきゃヤバそうだし。また後でな」


 すると、アオイは俺の手を力強くつかんだ。


「待って。さっきおキツネ様があと一回しか完全に世界をつなげられないって言ってたじゃない。もしかしたら日本に帰ってこれないって事でしょ」

「それは解ってるけどおキツネ様がこんな状態なのにほっておく訳にはいかないだろ」


 アオイは少しばかり驚いた顔をすると、俺を手放して俯いた。


「本当に、お人よしね」


 そして再び顔を上げる。


「でも、リョウタはそうでなくちゃ」


 俺ははアオイの肩に手を乗せて言う。


「大丈夫、なんとか戻ってくるから」

「私も行くわ」

「はっ?」

「だから私も行くって言ってるじゃない。たとえ戻ってこれなくてもリョウタと一緒なら……大丈夫だし」


 ちょっとだけ顔を赤らめながらアオイは言う。本気か、こいつ?


「いや、それはまずいだろ。それに田中さんだってきっと反対するだろうし」

「お父さんには悪いけど、リョウタとおキツネ様も同じぐらい大切だから――」


「行ってこい」


 いつのまにか部屋の外の廊下で壁にもたれかかっていた田中さんがそう言う。


「お父さん……」

「アオイだってもういい歳だ。それぐらいの決断はさせてやらないとな」


 そして俺に顔を向けた。


「それにリョウタくんならきっと何とかしてくれるさ」

「わかりました。しばしアオイをお預かりしまう」

「そのままもらってくれちまったって構わないぜ」

「もうお父さんったら!」


 恥ずかしそうに抗議するアオイ。とりあえずこれで決定か。


「それじゃあ、行くぞ」

「うん」


 俺とアオイはおキツネ様を連れて社へと向かった。

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