11 今すぐに 王の前へと 移転する リョウタとリリス いざ交渉へ 57577
俺が57577を唱えると、俺たちはたちまちエルガルド国王の玉座の前に転送した。
「なっ……」
その場にいた者達は突如現れた俺とリリスの姿に唖然としていた。
「なっ、何奴!」
王の護衛をしていたであろう衛兵たちは一斉に俺たちに槍を向ける。
いきなり王の前まで転移したのは不味かったかもな。
「いや、怪しいものじゃないんです」
すると王の隣に立っていた小太りの中年男性が言った。
「この城には転移魔法を防ぐ結界が張ってあるはずだ、一体どうやって入った?!」
「まあ、普通に真名とかでっすかね。とりあえず開拓村に関して王様とお話がしたいんですけど」
「ふむ……」
70前後と思われる老人の国王は、立派な白い髭を摩りながら頷く。
彼だけは他の連中ほど俺たちの出現に驚いてないようだった。
「このような無礼を働いておいて王と話したいなど言語道断! 衛兵、今すぐこの者を捕らえよ!」
大臣はそう怒鳴り、槍を持った衛兵が俺たちへと接近してきた。
リリスは俺の手を力強く握る。
「リョウタ様……」
「心配すんなって」
さて、どうするか。とりあえずここは575で切り抜けて、王に俺たちは怪しい者じゃないって証明するべきか……
「まて、ダッフス」
すると、先ほどまで殆ど言葉を発していなかった王が手を上げた。
「この者達の話を聞こうではないか」
「しかし、このような無礼を……」
「そもそもこの城の結界を破ってここまで現れるような強力な真名が使える者達だ。衛兵が束になったところで勝てるまい」
王にダッフスと呼ばれる小太りの男性は王に反論しようとするが、簡単に説き伏せられる。
「……王がそう仰るのであれば。武器をさげい!」
ダッフスの言葉と共に衛兵たちは武器を降ろす。
「ありがとうございます」
国王にお礼を言うと、彼は気前よく笑う。
「なに、気にする事はない。ちなみに名前をまだ聞いていないが」
「リョウタと申します。で、こちらが魔王のリリスです」
「「「魔王?!」」」
その場にいた俺たち二人以外の全員が驚愕する。
俺は口を開こうとするが、それより先にリリスがしゃべりだした。
「急な訪問のご無礼をお許しください。私は魔王リリス、本日は人間の王と和平交渉を行う為にこの場にやってまいりました」
リリスの言葉に、ダッフスは鼻で笑う。
「その小娘が魔王だと、片腹痛いわ」
「静かにせい、ダッフス」
「……はっ」
王にそう言われ、ダッフスはしぶしぶと口を噤んだ。
そして王は怪訝な表情でリリスに尋ねる。
「魔王は男性だと聞いておったが」
「それは私の父でした。実は――」
それからリリスはこれまでの出来事を全て国王に話した。
「――と言う訳で我々魔族も平和を求めているので、開拓村に砦を作る必要はございません」
「ふむ、なるほどな」
王は頷き、顎に手を当てる。
「そなたの言う事が本当ならば、我々もいらぬ争いを行うつもりはない。無論、砦の建設も中止する」
「本当ですか!」
リリスは嬉しそうな表情になるが、同時にダッフスが割って入る。
「国王、惑わされてはいけません。魔族は古来より卑劣な手段で人間を弾圧してきました。きっとこれも奴らの巧妙な罠です。我々と平和条約を結んで安心させたところで奇襲をかけるつもりでしょう」
「しかし、彼女の言葉は嘘とは思えぬがな。無論そのまま鵜呑みにも出来ぬがな」
そこで俺は一歩前へと踏み出した。
「人間である俺も証言します。リリスは確かに魔王で、これ以上の争いは望んでおりません」
「どこの馬の骨とも知れぬ貴様が証言してもなににもならんわ!」
このダッフスって言うおっさんは一々うるさいな。
警戒する気持ちもわかるんだが、いくらなんでも噛みつきすぎじゃないか。
王はしばらく考えるような素振りを見せてから、口を開く。
「しばらく考える時間を頂けないだろうか。明日の昼頃までには結論を出そう」
「……わかりました。よろしくお願いします」
「しかし王様!」
「ダッフス、さきほどからいい大人が喚き散らしてみっともないぞ」
「……っ」
ダッフスはまたもや口を噤まされる。不服なのは表情に浮かんでいた。
「そんな顔をしている暇があるのなら客人たちをもてなす準備をせい」
どうやら今夜はこのお城に泊まる事になりそうだ。




