9 小さな丘の上で
結局その日は夜まで俺はメアリーと話し、その後二人で寝た。
四人の中でメアリーが一番肉感的なボディを持っていたので、緊張のあまり殆ど眠れなかったが。
ようやく眠れたと思った矢先、寝相の悪いメアリーに何度も蹴り起こされてしまった。
そして朝。やたら息苦しくなり目を覚ました結果、顔面が二つの柔らかいものに押しつぶされていた。
「あの……」
メアリーは俺に乗っかるような形でうつ伏せになって寝ている。
「あのさ、メアリー。起きてる?」
「んんっ、無理……これ以上」
首を振りながら寝言と思わしきものを零すメアリー。一体なにを夢見ているのだろうか。
「……完全に寝てるな」
「ダメだよ~ リョウタくん、そこは」
「なんの夢を見てるんだか」
ゆっくりとメアリーをどかすと、ベッドから降りてゆっくりと腕を伸ばす。
風邪は殆ど治っているので、今日は久しぶりに家を出れそうだ。誰かさんのせいで若干寝不足だが。
とりあえず顔を洗おうと、小屋の隅にある桶へと向かう。
当然開拓村には水道など通っていない。なのでここは真名に頼るのみ。
「この桶が 水で溢れる あら不思議」
すると、たちまち桶は水でいっぱいになった。
その水で顔を洗うと、俺は小屋を後にする。
「いい天気だなー」
とりあえずしばらくまともに動いてないので散歩の一つでもしようかと考えていたところ、エレンさんが自身の家から出てくるのが見えた。
「おはようございます。風邪はもう大丈夫なんですか?」
「おかげさまでなんとか」
エレンさんはふふっと笑う。
「まあ、あんなに可愛い女の子三人に看病してもらえば風邪もあっという間に治るでしょうね」
むしろ看病されなかったほうが早く治った気もするが、三人に悪いので口にはしなかった。
「エレンさんさんは今日は何か用事があるんですか?」
俺がエレンさんにそう尋ねた理由は至って単純。今日のエレンさんはやたら綺麗なのである。
無論、普段から美人なのではあるが、今日は服も化粧もやけに気合いが入っているような気がする。
「ええ、ちょっと村の外まで」
「村の外って事は魔物も出るだろうし、俺もついていきますよ」
初めてあった時もクマみたいなのに襲われそうになってたし、いくら凶悪な魔物が減ったとはいえ戦闘力のないエレンさんを一人で村の外に行かせるのは危ないと俺は思った。
「ずっと寝たきりで体も鈍ってるし、運動のためにも丁度出かけようと思ってたんで」
「あら、頼もしいこと。じゃあお願いしちゃおっかな」
こうして俺はエレンさんさんの用事についていく事となった。
村を出て傍にある森を抜け、歩く事数十分間、二人は小さな丘の上にたどり着いた。
「ここです」
「へえー、良い眺めですね」
丘の麓にある開拓村とその先に広がる平原を見渡しながら俺は言う。
「私、この場所がとっても好きなんです」
そう言い、エレンさんは丘の上にポツンと立っている石へと向かっていく。
「これは……」
「私の夫のお墓です」
エレンさんは手に持っていたカゴから一本の花を取り出し、墓石の前に置いた。
「一緒にこの村にやってきたんですけどね……数年前に病気で。だからたまにこうして会いに来てるんです」
墓石を儚げに見つめながらエレンさんは言う。
「私も主人も、こっから見える景色が本当に好きだったんですよ」
「……」
「正直、ここに来てからは苦労しかしなかったけど、それでも私はこの村が大好きです」
そして、俺に笑顔を見せた。
「特にリョウタさんが現れてからは、魔物も現れなくなったし面白い人たちが沢山やってきて毎日が楽しくてしょうがないです」
「俺もまだ少ししかここに住んでないけど、割と気に入ってます」
「そっか、良かった」
ほっと胸を撫でおろすようにエレンさんは言う。
「よかったら、いつまでもここにいてくださいね」
「考えときます」
そう返事した時、俺は横目にあるものが見えた。
「あれ?」
数十の小さな影が開拓村へと向かって進んでいたのだ。
目を凝らしてみてみると、どうやら馬に乗っている人のようだ。
すると、同じ光景を眺めていたエレンさんが言う。
「あの旗……王国軍の騎兵みたいですね。うちの村に来ることなんて殆どないのに」
「とりあえず村に戻ったほうがいいかも」
「そうですね」




