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8 異世界人の信仰

 目が覚めた頃には、隣で寝ていたはずのアリシアはいつのまにかいなくなっていた。

 体調もだいぶ良くなっていたが、まだ少し熱っぽい。


 ベッドから転がり落ちるように起き上がり、窓から外を見ると太陽は既に空の真ん中まで登っていた。


「もう昼か……」


 すると小屋の扉がゆっくりと開き、湯気を立てる鍋を両手で持ったメアリーが入ってきた。


「リョウタくん、おはよー!」

「あ、おはよ」


 メアリーは鍋を近くのテーブルの上に置き、俺に言う。


「今日は私の番だからね、一瞬で元気にしてあげる!」


 ふと、先日アリシアが順番の話をしていた事を思い出した。

 となると、今日はメアリーと寝る事になるのだろうか……

 ピッチピチのタイツによって強調されるメアリーの豊満な胸を見つめながら物思いにふけっていると、メアリーは鍋の乗ったテーブルを俺の座るベッドの前まで運ぶ。


「元気になるにはきちんと食べなきゃって事でお粥作ってきたんだ。さあ食べて食べて」

「そうなんだ。わざわざありがとな」


 メアリーの心遣いに感謝しながら鍋の蓋を外すと、そこにはこの世のものとは思えぬ風景が広がっていた。


「って、なにこれ?」

「なにって、お粥だけど」

「……俺の知ってるお粥じゃない」


 鍋の中にあるどす黒い赤と紫が混じりあった謎の物質を見つめながらそう呟く。

 この世界のお粥はこういうものなのだろうかと一瞬考えたが多分違う。メアリーは料理が致命的に下手なだけだろう。


「さっ、冷めないうちに食べちゃいなよ」

「あ、いや、なんかあんまり食欲ないし」

「だめだよ、きちんと栄養とらなきゃ」


 メアリーはスプーンでお粥をすくい、俺の顔に近づけてくる。


「ほら、私が食べさせてあげるから。アーンして」

「いや、本当にいいって!」


 迫りくるメアリーを止めようと俺は両手を伸ばすが、その手は誤って彼女の胸にあたってしまう。


「きゃっ」


 柔らかく弾力のあるおっぱいへと俺の指は沈んでいき、メアリーは顔を赤らめる。


「食欲はなくても……そっちの欲はあるんだ」

「いや、そんなんじゃなくてたまたま手があたっちゃって!」


 俺は慌てて手を離した。


「ふーん、ほんとかな?」

「もちろん本当だ」

「なんか会った時からずっと私の胸見てた気がするんだけどなー」


 どうやら俺の下心はとっくにバレていたようだ。


「そんな服装じゃ無理もないだろ」

「こ、これは教会の正装だし、別に好きで着てる訳じゃないからね……私だって割と恥ずかしいんだから」

 

 ピッチピチのタイツによって強調される胸を隠しながら、メアリーは言う。

 しかし、聖職者が体のラインがくっきり出る全身タイツを着なければいけないのだろうか。


「ちなみに男の人もこの服装だよ」

「マジかよ」


 そこで、俺はふと気になった事を尋ねる。


「そう言えば教会って言ってたけど、その、コシンプイってのを崇めてるのか?」

「もちろん。この世界に命を与え、魔の力から護り続けてくれたのはコシンプイ様だからね。リョウタくんの世界には別の神様がいるの?」

「うん、いや、まあ同じのもいるんだけどさ」


 コシンプイことおキツネ様を思い浮かべながら俺は言う。異世界ではこんなに崇められているのに日本だとロクに名前すら知られていないのは些か悲しい事だ。


「リョウタくんはコシンプイ様にお祈りしたりしないの?」

「うーん、それはないかな」

 

 普段からよく話しているが、別に信仰している訳ではない。


「じゃあ、そっちの世界の別の神様とかにお祈りしてるの?」

「いや、とくにしてない。と言うか俺の住んでた国の人間は殆ど神様の存在なんて信じてないな」


 俺の言葉にメアリーは驚いた表情を見せる。


「えっ、でもさ、それだと困った時は誰に頼るの?」

「自分、とか」

「自分の力じゃどうにもならないことは?」

「さあな」

「確かに、俺みたいに凄い真名が使えるなら自分で全部どうにかなっちゃうかもね」


 メアリーはいつの間にか俺の隣に座っており、長い脚を交差させながら語り始める。


「私ね、昔は教会行くのとかすごい嫌でよくサボったりしてたんだ。でも、ある日お母さんが重い病気に掛かっちゃって、うちはお金もなかったからお薬も買えなくて、だからずっとコシンプイ様に祈り続けたの。どうかお母さんを助けてあげてくださいって」

「それで治ったのか」

「ううん、死んじゃった」


 反応に困る言葉に俺は何も言えなかった。


「でもね、それで気付いたんだ。お母さんが死んだのはとっても悲しかったけど、あの辛い中でずっと神様にお祈りを捧げ続けたのが心の支えになったんだって。だから立ち直る事も出来たし前に進む事もできた。自分の祈った事は叶わなくても、神様は素敵なものを与えてくれたんだなって」


 それは神様関係ないんじゃないのか、と思わず冷めたツッコミを入れそうになるが、俺は思いとどまる。


「だからそんな力をみんなに分け与えたくて僧侶になったんだ」

「なるほどな」

「でもね、神様がお祈り通りの願いを叶えてくれる時もあるんだよ」


 メアリーは俺の手を握りながら言う。


「デスマンティスにやられそうになった時、必死に助けてって祈ったんだもん。この戦いを生き延び、魔王を倒す力をくださいって。そしたら俺リョウタくんが現れてそれを現実にしてくれた」


 そして俺の手を自身の胸へと引き寄せた。


「もしかしたらリョウタくんも神様なのかもね」

「そんな大げさな」

「確かに、こんなエッチな神様なんていないか」


 俺の下半身を見つめながらメアリーは少しだけ笑う。


「……余計なお世話だ」


 しかし、考えてみれば俺もコシンプイことおキツネ様にだいぶ救われている。キャラがキャラだけにどうしても軽く扱ってしまうが、実際にけっこう偉大なのかもしれない。


 今度祈りの一つでも捧げてやるか、などと思いながら手に当たる柔らかい感触を楽しんだ。

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