7 元貴族令嬢の魔法使い
最近どこかで順番と聞いた気がする。
う~ん。どこだっけ? やはり熱っぽくて頭もよく働かない。
「ともかく今日は私がここに泊まってリリスちゃんは他のところに泊まるから! ダメなの?」
「い、いや。ダメってことはないけど」
「……けど?」
リリスがここにいないということは、もちろんこのことを知っているだろうし、まさか無理矢理ってこともないだろうから、リリスの意志にも反してないだろう。
だからダメってこともないけど。
「アリシアがここに泊まるとして俺はどこに行ったらいいのよ?」
「どこってここに決まってるじゃない」
「ここって……アリシアもここに泊まって俺もここ?」
「なにか問題ある?」
「あるだろベッド一つしかないぞ?」
「リリスちゃんとは一緒のベッドで寝たんでしょ」
マジか。それってアリシアとも一緒に寝るってことだよな。
「アリシアはいやじゃないの?」
「別に……私はいいわよ……リョウタは? ……ひょっとしていやなの?」
「い、いやじゃないけどさ」
「なら別に……いいじゃない」
いやなのかと聞かれれば、もちろんいやではない。
アリシアも十分に綺麗で可愛い、ちょっとインテリ風のおねーさんだ。
それに所々に気品を感じる時がある。冒険者になる前は令嬢だった育ちの良さから来ているのかもしれない。
そんなおねーさんと一緒に寝れるなんて……いやなわけがない。
ひょっとして異世界カナンは男女が一緒のベッドに寝るのがデフォルトなのかもしれない。
それに習慣というかデフォルトならば、きっとおキツネ様もまた納得してくれることだろう。
……しかし、前回のリリスの時は強引に(自分を)納得させたけど今回は聞いてみるか……。そんなデフォルトが本当にあるのか、さすがに気になる。
俺はポケットのなかの鈴を取り出した。
おキツネ様、おキツネ様!
『なんじゃ、騒々しい。ワシは寝とったんじゃぞ。ふぁーあ』
あの、ちょっとお聞きしたいんですが、異世界カナンは男女が同じベッドで寝るのがデフォルト的な習慣なんでしょうか?
『お前はアホか! そんなわけなかろう! またワシ以外の女にエッチなこ……』
話が長くなりそうだったので、俺はそっと鈴をポケットに戻した。
おキツネ様にも納得していただけたようだ。
「俺、今、風邪ひいてるぜ。伝染るかもかもしれないけどいい?」
「いいよ。リョウタの風邪なら伝染っても……」
なんかピンクなムードだ。
アリシアが俺の寝ているベッドに入ろうとする。
ところがアリシアはふとなにかを思い出したようだ。
「あっ。そういえば汗かいているでしょう?」
「ああ、風邪引くとかくよね」
「リリスちゃんがリョウタは綺麗好きだからってこれを用意してるんだ」
アリシアが用意したもの?
見ると着替え、それとタオル代わりだろう布、水をはった桶だった。
「私はお風呂にちゃんと入ってきたからね。リョウタは暖かい濡れタオルで体を拭いてあげるね」
「いい!?」
体を拭くってアリシアが拭いてくれるのか?
「いや。それはちょっと」
「任せて、大丈夫、大丈夫」」
アリシアは桶の水を沸かすだろう魔法を唱える。
桶からすぐに湯気が立った。
「いやいや、それはちょっと恥ずかしいって。自分でやるよ」
「大丈夫、大丈夫。リョウタを見ずに後ろを見ながらやるから。下も……」
下も? 下ってなに!?
元、令嬢は緊張しているのかなんかおかしかった。
大丈夫、大丈夫と言い続けている。
たまに練習通りとかいうつぶやきも聞こえる。
アリシアはお湯の入った桶をベッドの上に置いた。
なんか湯気もたくさん出てるんだけど。アリシアはこの段階でもう目をそらしている。
相変わらず小さな声で大丈夫、大丈夫と言っている。
「いやいやいや。これ大丈夫じゃないパターンなんじゃないの? よく見てよ」
「そんなリョウタ……まだ見れないよ……私、男の人のとかは見るのはじめてだし」
そんなことを言いながら、後ろを向いたままアリシアはタオルをお湯の桶に入れようとする。
「いやいやいやいやいや。見ながらやってー!!!」
「やだリョウタ……でも、そんなに言うなら……アチッ!」
桶が倒れる。もちろんお約束のようにこちら側に。
「アッチャチャチャ!」
こうして俺は575の詠唱で火傷を治し、ベッドを乾かした。
ついでに風邪も完治させた。そして体も自分で拭いた。
体調も治ったので俺はアリシアをベッドで寝かせて、本当に床で寝ようかと思ったが、アリシアがごめんなさいと仕切りに謝まってくる。
俺が床で寝ると許してないかのようなので一緒に寝ることにした。せっかくだがら熱かった分の元は取り戻そうと思ったが、アリシアは横になるとすぐに寝てしまうタイプだった。
明日の12:00は代わりに『異世界料理バトル』(一日二回)を投下になるかもしれません。かもです。
これからは異世界のことや村特有の問題などに触れつつ……おキツネ様のちょっとした秘密という流れになっていくと思います。
可愛いおキツネ様のポーズも描いてもらっているので許ください。




