1 今すぐに 魔王の前に 転移する 575
第二章ははじまります。
開拓村の問題を解決していきます。
鳥居から開拓村を目指す。
「異世界の開拓村か~田舎でスローライフも悪くないな」
『そう上手く行くものかのぅ?』
「ええ。なんでですか? 悪の親玉を倒したじゃないですか?」
『悪の親玉を倒せば万々歳なんていうのは物語のなかだけじゃ。悪の親玉が作ってるバランスもあるもんじゃぞ』
うーん。そんなもんなんだろうか。
魔王の権威を使って人間を攻め滅ぼそうとしていた魔将軍を倒したならとりあえず平和になると思うけど。
しかし、おキツネ様は数千歳の神様だ。
年の功もあるかもしれない。
『こら! 歳のことは言うな~!』
「す、すいません。小学生のように見える時もありますので許してください」
『お前、ワシをバカにしておるか!』
「い、いや。純粋って意味ですよ」
『やっぱり馬鹿にしているのじゃ』
褒めてるつもりなんだけどな。そんな会話がずっと続いている。
村が見えてきた。村についてもおキツネ様とはずっとそんな会話を続けることができるだろう。
――そう思っていました時期が俺にもありました。
村の入口が見えてきた。誰か立っているような……アリシアだ!
「お~い! アリシア~!」
アリシアもこちらに気がついたようだ。
黒い三角帽子から流れる赤髪、黒いマントの中には胸の谷間が見える緑ワンピース。ちょっと俺より年上のお姉さん。
「あ~リョウタ~。私、ホントに待ってたんだから~!」
実は俺が異世界から日本に行って戻ってくるまでそれほど経ってない。
その短い期間なのにアリシアは〝ホントに〟と強調するほど待っていてくれたらしい。
嬉しいじゃないか。
俺は村の入口に走る。かなり頑丈な木の杭で囲まれた村で出入りをできるのはここだけだ。
「はぁはぁっ! 走ってきたぜ」
「やっと来てくれたんだね」
「ああ!」
これは抱擁の一つや二つあるんじゃないだろうか。
ところが……。
「じゃあちょっとここで立って見張りしててね。私、疲れちゃった」
「へ?」
俺を置いてスタスタと何処かへ行くアリシア。俺も付いていこうとすると後ろからグルルルという唸り声がした。
振り向くと凶暴そうな子鬼がいた。
『ゴブリンじゃ。素手でも負けんがひっかかれるとかゆくなるから魔法を使え』
……。
それから数時間後。オレンジの全身タイツで僧侶風の前かけ、胸がはちきれんばかりのお姉さんが来た。メアリーがどうやら交代に来てくれたようだ。
その間、ずっと雑魚モンスターが引っ切り無しに襲撃してくる。
「リョウタくん。やっとこっちに帰って来てくれたのね。私、回復役なのに少ない攻撃魔法で大変だったんだから!」
やっと来てくれたという嬉しさもアリシアの声音に含まれていたが、攻撃魔法があまり得意では無いメアリーにはトゲしかなかった。
これは一体どういうことだろうか。スローライフをはじめるどころじゃない。雑魚モンスターが次から次へと村にやってくるのだ。
レオの話では命令が理解できるような強いモンスターはもう人間の国にはいかなくなるとかなんとか言っていたのに。
ん? 確かに倒した死骸を見るとゴブリンとかミミズとかコウモリの魔物とか頭もあまり賢そうじゃないモンスターばかりだ。
原因はなんとなくわかったような気もするがどうすればいいかわからない。
攻撃魔法が苦手なメアリーを一人にするのも可哀想だったので一緒に見張りに立つ。
「リョウタくんはやっぱり優しいね」
メアリーの険も少しずつ取れてきたようだ。しかしこの状況はいつからなんだろう。
「リョウタくんが異世界に行ってからしばらくしてからかな」
メアリーがコウモリの魔物にかまいたちの魔法を放ちながら言う。
やはりゴルベールを倒してからしばらくしてからということなのかもしれない。
『だから悪の親玉が作っているバランスもあると言ったじゃろ』
やはりそういうことなのかもしれない。だとするならば……あそこに行くしかない。
ちょうどアリシアがまた交代に戻って来てくれた。
三人が入り口に集まる。雑魚モンスターを片手間に倒しながらミーティングになった。
「俺、思うんだけどやっぱり魔王城に行くしかないと思うんだ」
「私とメアリーもそれは考えてたんだけど、私たち二人じゃ危険だし、村ががら空きになるし」
「うん。だからリョウタくんを待っていたんだ。転移魔法なら一瞬でしょ?」
「そうだな。なら早速行ってくるよ。村を頼んだぜ」
「なるべく早く帰ってきてよ~」
俺は指折り575の音を探す。
「今すぐに 魔王の前に 転移する」
体が転移魔法の光につつまれる。景色がフッと変わった。
リリスのビックリした顔が現れる。きっとすぐに笑顔に変わるはずだ。
ところがそうはならなかった。なぜならそこは風呂場で魔王……いやリリスは裸だったからだ。
「あっごめん……まさかお風呂中とは……」
そういえばリリスはお風呂好きだった。
俺はそそくさと回れ右をしてお風呂を出ようとした。
だが回れ右した場所の先には地面がなかった。地面ではなくお湯だった。
つまり浴槽だと気がついたのと同時にポヨンポヨンとした気持ちいい感触を二つ押し付けられる。そして胸に手を回された。
俺はバランスを崩す。抱き合っていた二人はお湯の中に落ちる。
ガブブブブブ……ブハァッ!
お湯からやっと顔を出すと鬼のような顔をしたレオが腕を組んで仁王立ちしていた。
「物音がしたから魔王様に御身に危険かと思ってきてみれば、お前で無かったら殺していたぞ」
『本当にお前はラッキースケベ体質じゃな!』
目の前にレオの顔があっても、おキツネ様からもギャーギャー言われても、未だにリリスのポヨンポヨンの感触が背中にあれば、気にならなかった。
2章もこんな感じで軽いノリでいきます。
この作品の登場人物はそれぞれ重い過去を持っていてもそれを感じさせない明るいキャラにしたいと思っています。
次回の更新は12時頃の予定です。
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