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20 575の勇者

 おキツネ様とベッドでポヨンポヨンしていたら机の上にノーパソが置いてあることに気がついた。

 大きなTVには気がついていたがノーパソまであるとは。


「そういえば、アオイが俺を主人公にしているWEB小説を書いてるとか言ってたな」

「ワシはカラクリのことはよくわからんが人気らしいぞ。昨日から一日のランキングで2位になってるとかなんとか」

「マジか。読んでみたいな」


 俺はノートパソコンを開いて電源を入れる。無線で回線も繋がっているみたいだった。

 アオイのプライバシーを勝手に覗き見るようで悪いなとは思いながらもこちらもプライバシーを勝手に小説にされているのだ。

 言い訳しつつ検索してみる。


「おキツネ様。なんて小説かわかる?」

「確か575のなんとかって」

「ふむふむ」


 575スペースWEB小説でググってみるか。

 575の勇者か。主人公がリョウタで著者がアオイってどっちも本名じゃねえかよ。

 まあリョウタなんてありふれた名前だし、異世界行って大冒険なんてフィクションにしか思われないから大丈夫だろうけどさ。

 確実にこれで決まりだな。


 俺はあらすじも読み飛ばして一話を読もうとする。後ろめたさにクリックする手が震える。


「ふう。やっぱり著者が誰がわかっている小説を勝手に見ちゃいけないよな。後で許可を貰って見てみよう」


 そんなことを考えていると。


「おキツネ様、リョウタくん、ご飯だよ~!」


 ビクッとしたが田中のオジサンが夕ご飯に呼んでくれただけのようだ。


「お~飯じゃ、飯じゃ。カラクリなど後にして早く行くぞ」

「ちょっちょっと」


 おキツネ様が俺の手を引っ張って行く。

 田中家のダイニングも知っていて案内してくれるようだ。

 

◆◆◆


 長方形のテーブルがあり、こちら側には俺とおキツネ様が、向こう側には田中のオジサンとアオイが座った。

 だから二人の顔がよく見える。

 オジサンはニコニコ顔でアオイは仏頂面だった。


「い、いただきます……」

「いただきますなのじゃ」

「どうぞどうぞ。いやあ子供が増えたみたいでいいなあ」


 子供ね。となりの神様は数千歳とか言ってましたが。まあ精神年齢は小学生かと思う時もあるけど。

 夕食は家庭的な料理だった。

 筑前煮、豚のしょうが焼きにキャベツの千切り。それとご飯と味噌汁。

 おキツネ様にはいなり寿司もついていた。


「ワシはいなり寿司が大好物での~リョウタあ~んしてくれ」

「ええ? なんでですか? 俺も腹減ってるのに」

「前はやってくれたじゃろうに」


 バシッ!


「うおっ」


 アオイが箸を置いた音だった。


「気分が悪い。ご飯いらない」

「そ、そうなのか? 大丈夫か?」


 オジサンが心配する。そりゃそうだほとんど食べてない。


「もし気分が悪くても食べられるなら少し食べたほうがいいような」


 俺がそういうとのろのろとアオイは再び箸を持った。


「神崎(=リョウタ)もおキツネ様にあーんなんてしてないで自分が食べなさいよ」

「ああ、そうするよ」


 おキツネ様が隣で不満を言っているが俺だって食いたい。筑前煮から食べる。


「美味い。この煮物、美味いですね!」


 俺はオジサンの料理の腕を褒めたつもりだった。


「そ、そう? 今日はお買い物もしてなかったからあんまり食材がなくてさ。自信は無かったんだけど」

「え? これアオイが作ったの?」

「アオイ……?」


 俺は怒られるかと思って、慌てて言い訳をする。


「あ、いや。オジサンもいるから田中って呼んだらまぎらわしいだろ? アオイじゃダメか?」

「あ、そうね。そうよね。いいわよアオイで」


 どうやら怒られなかったようだ。それどころか機嫌が良くなった?

 アオイはご飯をパクパク食べながら味噌汁の味はどうかとか聞いてくる。


「味噌汁も美味いよ。へ~これ皆お前が作ったのか~」

「このぐらい誰でも作れるわよ」

「でもお前調子悪いんじゃなかったのか?」

「え? ええ……。さっきは少しね。も、もう治っちゃったみたい」

「それならいいけど」


 オジサンが笑っていう。


「どうだい? リョウタくん。娘の料理は美味いだろ? 中学生の頃からずっと作ってくれてるんだよ」


 そういえば田中家はお母さんが早世したと聞いた。

 アオイが料理を作っているのか。


「驚きましたよ。本当に美味しいです」

「山の中の神社からここに来た時に話した例の件はどうだ?」


 お、おい。アオイの前で、それを聞くのかよ


「……いや……まあ……えへへ」

「なにお父さん例の件って?」

「あ~実はな。お父さんリョウタくんにだな」


 げっ! げっあの神社を一緒に見てくれとか結婚がどうのって話か。


「うわ~~~~ご、ごちそうさま! ちょっとまだこっちの世界に帰ってきたばかりだから疲れちゃったなあ」


 話を遮らざるを得ない。俺はおかわりもしたかったのに先ほどの部屋に逃げた。

 

◆◆◆


 お風呂に入っておじさんから寝巻きを貸してもらう。

 ふかふかの巨大ベッドに横になった。

 まだ夜の10時だが異世界から帰ってきて疲れている。

 少し早めだが寝てしまおうか?

 

 トントントン……。


 ドアを小さくノックする音が聞こえる。

 ひょっとしておキツネ様か?

 本当に来てくれるとはまたモフモフさせてもらおう。


「はーい。どうぞ~」


 そういうとドアが静かに開いた。


「あっ」


 ドアから入って来たのはおキツネ様ではなくアオイだった。

 身長170。俺は身長178で大きめだが女の子の身長が170もあると普通より大きく見える。長い黒髪を後ろに束ねていた。

 少しキツメの顔立ちだが美人と呼ばれるに相応しい美貌だ。


「ちょっと話してもいい?」

「あ、ああ……」

「あのその……」


 アオイはなぜか歯切れが悪い。ちょっと赤い顔だ。やはり体調が悪いのか?


「お父さんが言った例の件……さ」

「例の件?」


 げっ……ひょっとして食卓でもあがりかけた。


「本気にしなくていいからね……お父さん本当にお節介というか」


 杞憂だった。別に怒ってはいない。


「あ、あぁ。わかってるよ」

「……そうよね」


 なんかアオイが落胆しているような気がする。

 女の子はよくわからない。そうだ!


「さっきアオイが作ってくれた夕食だけど本当に美味かったぜ」

「ホント?」

「ああ、異世界は旅が多かったからパンとかチーズとかそんなもんが多かったからな。ご飯とお味噌汁の日本食は最高だったよ」

「仕方ないなあ。明日はリョウタがウチに来たお祝いにもっと豪華なものを作ってあげるね!」

「ホントか。嬉しいなあ」


 俺が本当に喜ぶとアオイがなにかに気がついたように俺の後ろを見る。


「575の勇者……」

「ん?」


 俺も振り返ってアオイが見た方向を見る。

 げええええ? そういえばご飯に呼ばれてノーパソを開いたままだったのを忘れていた。

感想、レビュー、評価、ブックマークはとても励みになります。アオイちゃんの575の勇者を是非お願いします!


次回は明日の12時だと思います。

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