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2 異世界行ったら熊に注意

諱を真名に変えさせてもらいました。

 少女は神社の神を自称した。とりあえず食われる心配はないのだろうか。

 騙そうとしているのかもしれないので油断はできない。


「ワシはこの神社の神でおキツネ様とも呼ばれておる。お前は?」

「お前はって?」

「ワシだけに名乗らす気か?」

「あ、えーと神崎リョウタです」

「そうか。一応、聞いとくがお前が鏡を綺麗にしてくれたんだな」

「ええ。ダメでしたか?」


 少女、いや、おキツネ様は勝手に納得していた。


「元日に支社の参拝客が増えたからか。もちろんリョウタが鏡や鳥居を掃除してくれたこともあったんだろうな」


 おキツネ様はなにかブツブツ言って勝手に納得していた。妖怪でなくても触らぬ神に祟りなしという言葉もある。


「あ、あの。ところで自分は帰っていいのでしょうか?」

「待て。お前はどうしてここに来た?」


 とりあえず善良であることを主張しようか。


「俺は善良な家出少年です」

「善良な少年がなぜ家出した?」


 境遇を必死に語る。もし神であることが嘘でやはり妖怪だとしても可哀想に思って、食うのを思いとどまってくれるかもしれない。

 しかしおキツネ様は薄っすらと笑っているだけだった。時折、大きく笑うと牙も……いや、八重歯も見える。もともとの容姿と相まってとても可愛いが、あまり同情はしてくれていないようだ。


「ほ~そうなのか。それは災難じゃったの」

「軽い……あんまり同情しないんですね」

「ワシがお前の願いを叶えてやるからな。そしたら問題も解決できるじゃろ? 同情する必要はなかろう」


 目から涙が滲んできた。それが嘘であったとしても。


「マジですか……」

「ああ、神じゃからな」


 じゃあ家族を……と言おうとしたら少女は先回りして俺の願いを決めつけた。


「フフフ……願いはこれじゃろ? 人間の願いは大抵、コレと決まっておる」


 少女は中指と親指をくっつけて円を作り、おカネのジェスチャーをした。


「あの……おカネじゃなくて……」

「ん? 死んだ人間を生き返らすとかは無理じゃぞ。たまにそういう願いをする奴もいるけど困っておるんじゃ。心根は悪くはないけれどな」

「……そうなんですか。やっぱりおカネをお願いします」


 そうすると少女は笑顔で大きくうなずいて賽銭箱を指差した。


「よろしい。あの箱のなかにある銭を全て持って行け。ここは全国の我が支社の頂点。たんまり入っていることじゃろう」


 俺はすっと立って賽銭箱をゆする。


「ん? 何をしておる? え? 銭の音が全然しない。ば、馬鹿な……」


 この女の子、俗っぽいし本当に神様なんだろうか。それに願いを叶えようとはしてくれたけど随分と物理的だったぞ。


「そうじゃ! お前は若い男だし……こういうのはどうじゃ?」


 おキツネ様は妖艶に笑いながら巫女服のはかまをわずかにまくり上げた。


「え?」

「膝枕ぐらいなら構わんぞ」


 やはり俗っぽい。しかも解決方法はまたも物理的だった。

 でもまあ俗っぽいが邪悪さはない、と思う。


「非常にありがたいのですが、今の俺は明日の食料のほうが」

「ふーむ。お前なかなか我儘だなあ。食い物を出すのは無理じゃ」


 食料は出せないらしい。おキツネ様は本当に人外なんだろうか? やはりコスプレ少女なのではないか?


「あのー本当は人間なんじゃないですか?」

「なんじゃ? 疑っているのか。ホレ」


 今度は少女が後ろを向いて、巫女服の袴をまくって半ケツを見せる。


「い、いやだから……ソッチ系の願い事は」


 俺は目をそらしてしまう。


「違うわ。ワシがそんな破廉恥なことするか。よく見ろ」


 見ろと言われたので見てしまう。


「マジで尾てい骨から尻尾が生えてるぞ……」

「信じたか?」

「まあ」


 とりあえず人間ではないということは信じた。

 しばしの沈黙が流れる。


「食い物を出してやることも昔ならできたんじゃがな」

「マジですか? お願いします!」

「昔と言っておろう。人に信心があったころの話じゃ」


 ぬか喜びだった。おキツネ様の力は、人がおキツネ様をたてまつる信心に影響するらしい。

 

「すまんの。何もできなくて」

「こうして話し相手になってくれるだけでいいですよ。不安で押しつぶされそうだったし」

「お前には世話になったから礼をしたい。中々良いやつだしな。しかし、こうも世の中から信心が減るとなあ」


 おケツを半出しにする神様からは信心も失われるんじゃないだろうか。


「あ、そうだ……良い方法がある。あ、いや、でも。けど都合が良いともいえるか」

「良い方法?」

「ワシも異世界ならば、まだまだ慕われていて力が強いんじゃ」

「異世界?」

「そこにお前を送ることなら出来る」


 異世界。本当だろうか。だけど。


「あのう。異世界とやらに行っても空腹と寝床の解決にはならないと思うのですが」

「大丈夫、異世界ではお前なら無敵だ。それぐらいなんとかなるだろう」

「どういうこと?」

「その前に……」


 おキツネ様はそう言うと立ち上がって社を出て鳥居がある方を眺めた。

 自分も後ろからその様子を見る。


「なんだあれ。鳥居が光っている」

「確かに光っておるな。しかし持って五分だ」


 おキツネ様がはじめて真面目な目を見せる。社についていた鈴をはずして俺に渡す。とりあえず鈴を握った。


「これで離れていても大丈夫だ」

「はい?」

「さあ、こっちに来い」


 おキツネ様は俺の腕を掴んで鳥居のほうに歩いて行く。

 可憐な少女に見えるのに意外と力が強い。


「ちょっとちょっと。どこに行くんですか?」

「そのまま。ここに立ってて」


 なぜか光る鳥居の前に立たせられる。


「じゃあ、気をつけろよ。鈴は絶対に失くすな」

「え?」


 俺が疑問の声を上げるのと同時に背中を強く押される。

 転倒しないように何歩か足を前に出す。鳥居もくぐってしまっただろう。


「ちょっちょっとなにするんですか? あ、あれ?」


 振り向いておキツネ様に文句を言おうとしたが、周りの景色がおかしい。鳥居もあるけど朱色ではない。石造りで灰色だ。

 山の中でやはり近くに社はあるようだがどこかが違う。それに夕方だったはずだ。太陽が真上にある。

 夕方から夜になることはあっても急に昼にはならないだろう。気温も暖かい。

 どういうこと? そうだ?


「おキツネ様!?」


 ……いない。どこを見てもいない。徐々に焦りの感情が湧いてくる。

 すると握っていた鈴から声が聞こえてきた。


『どうだ。異世界は?』

「ちょ、ちょっと!? ここが異世界? 日本に帰してください!」

『お前は異世界ではほとんど無敵だぞ?』

「いや無敵とかいいですから!」


 その時、山の下から女性が上がってきた。遠くから見ても清楚でスラっとした金髪の女性だ。向こうはまだこちらに気がついてないらしい。

 なせか焦って木陰に隠れてしまう。


よこしまなことを考えるなら服のポケットに鈴を入れてくれよ』

「え?」

『直接、触れているとな。お前の思考がワシに流れてくる』

「なななな、なんだって?」


 ついおキツネ様の袴から出ていた太ももとおシリを思い出してしまう。


『だから止めろと言うのに。まあこれぐらいならリョウタなら許してやるが……』

「ギャーーー!」

『そんな大声を出さなくても良いぞ。お前の恥ずかしさは伝わっておる。というかさっきの女を見ろ』

「え?」


 さっきの女性の方向を見ると目を見を開いて立ちすくんでいた。

 木陰に怪しい男がいて急に大声をあげたら当然の反応だろう。


「ひーーー!」

『だから大声を出すなというのに』


 女性はふり向いた。真っ直ぐに走って俺から距離を取るはずだ。

 だが……実際にはジリジリと後退して俺の方に戻ってきた。

 それもそのはずだ。灰色の熊がよだれを垂らしながらこちらに迫っていた。

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