17 モフモフパラダイス
おキツネ様は金髪ともまた違う黄金色の髪を持っている。
そこからキツネのような耳が出ている。
強く抱きしめると耳がピクンとなるのが可愛らしい。
俺はおキツネ様の小さな体をもう一回強く抱きしめてから離した。
なぜなら他におキツネ様にやってあげたいことがあったからだ。
「あれ? もうやめてしまうのか……もう少しやっても良いのに」
「ちょっと手水舎(神社の水場)に」
「喉が乾いておったのか。いってこい」
別にのどが渇いていたわけではない。手水舎であるものに水をかける。
「ん? どこに行くんじゃ?」
「おキツネ様、こっちこっち!」
「なんじゃ、なんじゃ?」
俺は社のほうに行っておキツネ様を呼び寄せる。
社の中に入る。あったあった。これこれ。
「どうしたんじゃ~リョウタはせわしないの~」
おキツネ様も社の中に入ってくる。
俺は今や遅しと準備を整えて待ち構えていた。
入って来たおキツネ様が様子を見て「あっ」と声をあげた。
「おキツネ様、前は雑巾なんかで拭いちゃってごめんね。これおキツネ様自身なんでしょ」
「ちょっちょっと。リョウタやめい」
「遠慮なんかしなくていいって。この布は開拓村で貰ってきた新品だよ。あの村では布ですら貴重品だったんだけどね」
俺は意気揚々とご神体を拭き直した。
おキツネ様に楽しい経験をさせてもらった感謝の気持ちを込めて。
ごしごしごし、と。
「……あぁ」
……え。
なにやら後ろから艶めかしい声が聞こえた気がする。気のせいだろうか。
ふり向いても後ろには美少女が一人いるだけだ。
間違いなくおキツネ様である。
「気のせいか?」
再び、ごしごしとご神体を拭いた。
「だ、だめっ!」
え? 今度はハッキリ聞こえたぞ。しかも真後ろから。
俺は後ろを見ながらご神体を軽く。拭いてみる。ごしごしごし……。
おキツネ様が身悶えながら声をあげていた。本人的には小さな声のつもりなのかもしれない。
けれどもハッキリ聞こえてしまっている。
ごしごしごし。
段々、声が大きくなってくる。
おキツネ様は下を向いて長い髪で顔を隠しながら、巫女服の上から胸と股を押さえていた。
まさか、違う違う。ご神体を拭いたからじゃないよね。
だからごしごししても全然平気だよね。
俺が間をあけて再びごしごししようとした時だった。
「リョウター!」
「え?」
気が付くとおキツネ様が顔をあげていた。
顔は紅潮し、目はうるみ、口の端は唾液で濡れて長い髪の毛をつけていたが明らかに怒っている。
「神体はワシの感覚とリンクしてるんじゃぞ! 動物的に気持ちいいんじゃ!」
「……やっぱりそうですか」
おキツネ様は動物なのか? 神様じゃないのか。
「わかっててやったな」
「初めは知りませんでしたよ……」
でもそんなようなことも言われてた気がする。
「途中から気がついてたんじゃな」
おキツネ様は真っ赤な顔をプルプルさせた。殴られると思ったが。
「リョウタひどい」
そう言うとおキツネ様が髪で顔を隠して両手を目元にあげる。
「わわわ、ご、ごめんなさい。決してわざとじゃ」
俺は慌てておキツネ様のほうによる。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
慌ててあやまるがおキツネ様は顔をずっと顔を下げたままだ。
おキツネ様の頭は俺が身長高めなこともあって首より下ぐらいだ。
下をむかれると顔は見えない。
俺はおキツネ様の前でしゃがんで下から顔を覗くことにした。
目は手で隠されているから見えない。見えるのは口元だけだった。
俺は中学生みたいにも見えるおキツネ様を泣かせてしまったのかと激しく後悔しはじめた時だった。
手で隠されていないおキツネ様の広角が上にニヤッと上がり、可愛い八重歯が見える。
あっ嘘泣きだと思った時には飛びかかられた上に乗られた。
おキツネ様は俺の下腹部に乗っていかにも楽しいという声をあげた。
「やーい。引っかかったー」
「もう本当に泣かしたかと思ったじゃないですか」
その時だった。
ガラガラガラ……。
「え?」
「え?」
「え?」
社のボロ扉をガラッと開けて人が入って来た。50ぐらいのオジサンだ。
オジサンと俺たちは呆けたように口を開けていたが、やがてオジサンが言った。
「おキツネ様、何をなさっているんですか?」
おキツネ様とこのオジサンは知り合いのか?
「あ、いや。その。神体の掃除と毛づくろいじゃ」
「そ、そうですか」
おキツネ様は俺から離れて恥ずかしそうに横を向いて口笛を吹いた。
ごまかしているつもりだろうか。
「オ、オジサン誰?」
「あ~あ。なるほど。君がリョウタくんか。おキツネ様から聞いておるよ」
へ? と俺が思っているとおキツネ様が言った。
「こやつはこの社の宮司じゃ」
「はじめまして~田中と申します」
えええええ? 宮司さん? このボロ神社にそんな人がいたの?




