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15 一時の別れの儀式

 俺はみんなから異世界人とはなんだとかおキツネ様とはなんだとか問い詰められていた。

 教えていいのか悪いか。ポケットの中にある鈴を握る。

 説明する前に返事が返ってきた。思考を読まれるというのも便利なこともある。


『コイツらには教えてもいいんじゃないか』


 え? そうなの?


『いいじゃろ別に。ただし異世界カナンの人間はワシのことをコシンプイなどと言って敬っておる。開拓村のエレンがこちらの神社でワシを祈ってたじゃろ』


 あ~祈ってましたね。それにしても変な名前ですね。


『あ? なんじゃって?』


 あ、いえ、別に……。


『話の続きじゃ。コシンプイとおキツネ様は別物と思わせといてくれ』


 なんでですか?


『コシンプイ様は魔王の問題を解決した勇者を遣わした神様、ありがたや、よーしもっと願い事をしよう。もっと敬うぞーとかなると面倒じゃからな』


 自分も救国の勇者にはなるつもりはないですけど、なるほどおキツネ様も大変なんですね。


『そうじゃろう。もっと敬っていいぞ』


 敬うなと言ったり敬まえと言ったり忙しい神様だ。

 お前はもっと敬えというおキツネ様の声を無視した。


「えっとなにから話したらいいやら。ともかく俺は日本ってところから来たんだ」


 アリシアが驚く。


「日本って魔法言語の?」

「ああ、そこでは魔法言語が普通の言葉として使われている」

「それでリョウタの魔法詠唱は美しいのね」


 日本人なのに日本語の発音が美しいと言われているようなものだ。

 あまり褒められている感じはしないがアリシアは仕切りに褒めてくる。

 日本語の研究者でもあるからだろう。失われた難解な古代言語を流暢に話す、そんな感覚なのだろう。


「けど転移魔法とかゴルベールを倒した魔法は詠唱が完全でも膨大な魔力が必要のはずよ」


 うーん……実はそれについては自分もよくわかっていないのだ。


『お前はワシとリンクしてるから魔力が注がれているんじゃ』


 そうなの?


『ああ、だから正月の三が日はほとんど無敵だったんじゃ。まあ三が日を過ぎても最強じゃ。ちゃんと戦い方を覚えればな』


 無敵じゃなくなっても最強なのか。ところでいつリンクしたのよ。


『お前が神体を拭いた時じゃ。神体はワシみたいなもんなんじゃぞ。急にあんなところやこんなところ触りおって……おかげで日本に顕現できたわけじゃが……』


 綺麗にしたとはいえ雑巾で拭いたんだが……。


『お、お前……雑巾で……アレをやったのか……?』


 怒るおキツネ様を無視して俺はみんなに説明した。


「さっき話したおキツネ様っていう日本の神様から魔力を貰っているみたいだよ」

「ほえ~」


 みんな話が大きすぎてよくわからないという顔をしている。

 魔王が女の子らしい発想で聞いてきた。


「日本ってどんなところなんですか?」

「良いところだよ。食べ物もいろんなものがある。便利で平和だしね」

「行ってみたいなあ」

「ああ、みんなも連れてってあげるよ。あ、でも、行けないかも?」


 魔王の顔が曇る。


『うーん。いけるんじゃないか? ちょっと難しいがお前以外も鳥居から来れるかも』


「あ、やっぱり行けるかも」

「ホントですか? 嬉しいです」


 魔王の喜ぶ顔をみているとこっちまで幸せな気分になってくる。


「ところでリョウタ様は異世界ではどんな暮らしをしてたんですか?」

「あ……」


 そうだ。忘れていた。自分の境遇を……。


「……俺、異世界ではただの孤児だったんだ。しかも引き取られた施設では職員にいびられてた。で、逃げ出してこっちに来たんだ」


 みんなが黙る。スライムのメアリーがぴょんぴょんはねた。


「最悪じゃん日本。リョウタみたいな良い人をいじめるなんて。こっちの世界に住みなよ!」

「え?」


 ゾンビのアリシアも同意した。


「そうよそうよ。私たちと一緒にこっちにいればいいよ」


 そもそもこの世界ならリョウタは無敵だから飯の心配などないってキツネ様に言われて来たんだった。半ば無理矢理だったけど。


 魔王も言ってくれた。


「魔王国にずっと居てくださって構わないのですよ?」


 凄くありがたくて涙がでる。だけど俺は知っている。今、おキツネ様は日本でしか顕現できないのだ。


「皆、ありがとう。ともかく一度は日本に帰ることにするよ。絶対にまた来るから」


 俺は開拓村の神社を目指さなくてはならない。

 こうして明日、俺は日本に帰るため、アリシアとメアリーは故郷に帰るため、人間の国に帰る旅に出ることにした。

 まあ旅と言っても楽して転移するつもりだけど。


◆◆◆


 次の日の昼、俺とアリシアとメアリーは魔王城の外に旅装で立っていた。

 魔王とレオは送ってくれる。

 転移魔法があるのだから外に出る必要なんかないが、別れの儀式は必要だった。それほど俺たちは仲良くなっていた。


 ちなみに本当は朝に出ようと思ったのだがゾンビアリシアとスライムメアリーを人間に戻した際に一悶着あった。


 アリシアはゾンビ感をだすために服の胸部を破いていた。当然ポロリした。いや、そもそもポロリしてたけど。

 スライムのメアリーはさらに深刻だった。スライムは服など着ない。当然スッポンポンだった。

 慌てて全身タイツと前かけを返したがこれもカマキリのカマにやられていた。

 ポロリに次ぐポロリだった。


 裁縫の時間になる。これも魔法詠唱で直せただろうがアリシアとメアリーが縫って直すというのだ。

 そんな無粋はできない。おキツネ様は魔法詠唱でとっとと直せと騒いでいたが。

 ところが二人の裁縫は壊滅的で、直したのは魔王だった。


「じゃあ皆さんすぐにまた来てくださいね」

「ああ」


 魔王の見送りに俺たちは手を振って離れようとする。

 ところが魔王が俺の側にやってきた。


「リョウタ様。私の名前はリリスと申します」

「え? そうなのかリリスって名前があったんだ」


 それを見たレオが頭を抱えて首を振る。


「魔王様。それは」


 俺は意味がわからない。


「どういうこと?」


 レオが答えた。


「上級魔族が自分の名前を直接相手に教えるのは私を好きにしていいという意味だ」

「す、好きにしていいって。そういう気持ちってこと? それなら嬉しいよ。助けた甲斐があったっていうかさ」


 俺はドギマギしながら答える。


「違う……名前を呼べば実際に使役できる」

「へ? 使役できるって?」

「魔族の大きな魔力の代償のようなものか。文字通りなんでも言うことを聞かせられる。悪用しないことを願うぞ。悪用すれば殺す」

「な、なんでもだって……?」


 見た目、超かわいい。しかも服装がエロい。裁縫で女子力の高さもわかった。国を一つ持っている。

 そんな女の子になんでも言うことを聞かせられるって?

 妄想がピンクな方向に行かないほうが無理と言うものだった。

 ……おキツネ様のカミナリが落ちたのは言うまでもない。

 こうして俺たちは一時の別れをする前の儀式を整えたのだった。



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