14 骸骨騎士リョウタス。魔王国に受け入れられる
魔王城の広間では集会がおこなわれた。
昼間は巨大だがところ狭しと魔物で埋め尽くされていた。
壇上に座るのは魔王とその隣に立つのはゴルベール……の甲冑だ。なかには俺とゾンビのアリシアが肩車して入っている。
俺だけの身長ではゴルベールにならないからだ。もちろん俺が下だからアリシアのゾンビの太ももの感触を役得で味わえるのだが、甲冑は暗く狭い。
重さは肉体強化の魔法でなんとかなっているがバランスが悪い。
しかも俺がアリシアの太ももを持ち直す度に「ぁんっ」「んっ」とか艶めかしい声が聞こえる。
甲冑の中からは「あんまり持ち直さないで」とか聞こえるがバランスが悪いのでそうもいかないのだ。
甲冑の外からは魔王の声が聞こえる。
「というわけでも魔王国では当分の間、人間の国への侵攻を中止する。個別に人間を襲うのもなりません」
広間にはざわめきが起きている。
「あのーたまには人間が食いたくなった場合はどうすればいいでしょうか?」
この質問は想定済みだ。
「基本的には我慢して欲しいが、私や魔物を倒して名を上げたいというような輩は食べていいでしょう。魔王国に自ら入って来た人間ですね」
逃げた勇者(仮)や戦士(仮)は食われてもいいだろう。
「そうですか」
他の魔物も質問する。
「それは……ゴルベール様も同意なんでしょうか?」
これも想定済みだ。魔王が答えた。
「私が決定しました。ゴルベールの意志を聞く必要がありますか?」
「い、いや……ゴルベール様は人間を虐殺するのが大好きでしたから」
ついに俺の出番だ。この時のためにゴルベールの声が出るように、あらかじめ575の詠唱をしている。
「魔王様のお言葉は全てに優先する」
「あ、はい。そうですよね」
どうやら集会は無事終わりそうだ。
閉会となって魔王が退室しようとする。俺も後を追おうとしたが、俺の目線はちょうど鎧の継ぎ目がなにもないのでアリシアの指示だけで歩かなければならない。
小さな段差にけつまずいでぶっ倒れてしまった。
「え?」
会場の魔物たちが一斉に驚く。
それはそうだろう。ゴルベールの甲冑が胴体で真っ二つに割れたのだ。
しかも甲冑の上半身からは女ゾンビのおシリと太ももがパンツ丸出しであらわれ、下半身からは人間の顔、つまり俺の顔が現れた。
「……人間? 人間じゃねえかああああああああ!」
広間は大騒ぎになる。
ど、どうしよう。目の前のケツとポケットのスライムを掴んで転移魔法で逃げようかと思った時だった。
「鎮まりなさい!」
魔王が一喝した。魔王のこんな大きな声は聞いたことがないかもしれない。会場も落ち着いた。
「彼は骸骨戦士リョウタス。私の騎士です」
「が、骸骨戦士? リョウタス?」
先ほどのように大騒ぎにはならなかったが会場がどよめく。
「魔王様に二つお聞きしたい!」
広間から一際大きな声が響く。ライオンのような魔物だった。俺はこの声に聞き覚えがある。会議室での戦いの後に真っ先に駆けつけた魔物だろう。
「なんですか? レオ」
レオという名前なのか。
「人間の国を侵略しないというのはそこにいる人間のためですか?」
「違います! 私の意志です!」
確かに魔王は俺を人間だと知る前から人間の戦うのをやめたがっていた。先代魔王もそうしようとしていたとゴルベールは言ってた。
「そうですか」
レオも納得したようだ。しかし質問はもう一つあった。
「ゴルベール殿はどこに?」
「……ゴルベールは私に反逆を起こしたので成敗しました。成敗したのはそのリョウタスです」
会場が再びどよめく。
「ゴルベール殿が反逆?」
「あのゴルベール殿をあの弱そうな人間が?」
「そもそも人間がなぜ魔王様を守るんだ? おかしいぞ!」
どよめきのなかでやっと甲冑から這い出た俺にレオが近づいて話しかけてきた。
「お前、本当にゴルベールを倒したのか?」
「魔王を守りたかったんだ」
そういうとレオは俺の目を見る。
「フフフ」
と笑った後にレオは野生ライオンのように吠えた。ただし音量が違う。
その轟音の振動は広間中に響き渡った。会場が水を打ったようにシンとなる。
「お前たちの中に反逆者のゴルベールを討てたものがいるか?」
やはり会場はシンとなった。
レオは広間の魔物には聞こえないぐらいの小さな声で俺に言った。
「俺もゴルベールには勝てなかった。礼を言うぞ」
集会は今度こそ閉会になった。
◆◆◆
アリシアとエミリーは人間の国に帰ったり、俺はおキツネ様の神社に帰ったりしなくてはならない。また四人で会おうとは言っているが、やはり一旦は帰らなくてはならないだろう。
そうすると魔王はどうしても一人になってしまう。
魔王が俺達についてきて幹部が消えた魔王国を放っていくわけにはいかないだろう。
魔王国に留まらなくてはならないが、まだゴルベールの息がかかっていた魔物もいるはずだ。
その際に魔王を守ってもらう魔物がどうしても必要だった。それはレオ以外考えられない。
魔王の寝室でそんなことを四人で話し合ってるとちょうどよくレオが入って来た。魔物の中の魔物という風格だ。
レオに今までの経緯と俺たちが人間の国に一旦帰ることを話した。
「なるほど……そんなことがあったのか。魔王様の護衛は引き受ける。あらためて礼を言うぞ。リョウタス」
「でも本当に会議を盗み聞きしてよかったよ」
「ところでわからんのはお前の強さだ」
レオは誰の強さのことを言ってるのだろうか?
アリシアとメアリーも「そうよそうよ」とか言っている。
この二人の魔法も相当だと思うけどな。
魔王がなぜかこちらを見ていた。
「お前、なぜ無視する? 俺ですら恐れていたゴルベールを倒したのに」
「え? あっ、俺? 俺のことか? 俺はなんていうか自分でもよくわからないんだけど……異世界人だからね。おキツネ様の力も貰っているみたいだし」
「「「「「い、異世界人!?」」」」
皆が綺麗にハモる。
あれ? ひょっとしてコレ言っちゃいけないヤツ?
鈴はポケットに入っていた。
次回からは皆が一緒に暮らそうとしたり、リョウタとアリシアとメアリーの道中記がはじまる予定です。
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