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12 人間リョウタ

 なにやら廊下のほうから誰かが走ってくる音が聞こえた。

 魔物が音を心配してこの会議室に来たんだろう。


「扉よ閉まれ!」


 神数7文字。これで扉は開かないはずだ。

 魔王城の大会議室は広い。出入り口も三つある。

 念のため全ての扉にロックをかけた。

 ってか今更ながらこの能力は便利だ。


 ドンドンドン! ドンドンドン!


 予想通り扉を叩かれる。


「大丈夫ですか? なにかあったのですか?」


 野太い魔物の声が聞こえる。獣っぽい魔物の声だと思う。

 そりゃそうだ。この会議室は魔王城の奥深いところにあったとはいえ、破壊音や爆音が響いたはずだ。


 そしてなにかあったのか? と言われればありまくりだ。

 黒幕だった魔族の国のナンバー2がクーデターをおこし、魔王を討ちに来た俺達がそれを救ったのだ。

 魔王がどう答えるか。とりあえずどう答えられても俺たちは魔物に変身しているし、戦闘にも慣れてきたし、すぐに苦境にはならないと思う。

 魔王の様子を見る。

 

「リョ、リョウタス……」


 魔王は震えながら俺のシャツの端を握っていた。

 当然だ。今、この子は幹部たちから裏切りを受けたばかりなのだ。扉を叩く、この魔物もゴルベール側についている可能性は充分ある。

 ここは声真似をしよう。


「ゴルベール 似ている声に なってよね」


 575の詠唱、相変わらず便利だ。

 俺は魔王を安心させるためにまずはニッコリと笑いかける。

 骸骨が上手く笑えたかはわからないけれど。

 その後、扉に話しかけた。


「ん。別に大事ないぞ」


 魔王はゴルベール声を聞いて、一瞬ビクッとして俺の顔を見上げる。

 でもシャツを離すことはなかった。

 念のため、もう一度笑いかけた。


「そうは言われましても大きな音がしましたが」

「うむ。ちょっと力試しの余興をしたのだ」


 扉の向こうの魔族は一瞬沈黙したが、その後ハッキリと言った。


「ゴルベール様の言葉だけでは信じられませんな。魔王様の声を聞かせていただかなければこの扉をぶち破る!」


 どうやら魔物にも硬骨漢はいるらしい。この部屋は会議室ということもあって防音性が高そうだ。魔物はかなり大きな声でゴルベールに嫌疑をかける声をださなければ、こちらまでは聞こえてないはずだ。

 魔王も少し安心したようで、僅かに震えた声で返事ができた。

 

「だ、大丈夫よ」

「魔王様! 本当に大事ないのですか?」

「うん。うるさくしちゃってごめんね」

「左様で。失礼をしました」

「そんなことないわ。あなたのような魔物がいて、とっても嬉しい。ありがとう」

「そ、そんな……もったいないお言葉。では」


 廊下の魔物は去っていったようだ。

 他の魔物も後から来てこういったやり取りが何度か続いた。幹部はぞくで固められていたようだが魔王に強く忠誠を誓っている魔物も多かったようだ。

 そりゃ部下にすら優しいし、性格もいいもんな。なにより可愛いし。

 魔王にも少し笑顔が戻ったようだ。


◆◆◆


 俺たち四人は575の詠唱で黒い甲冑ごと魔王の寝室へ転移した。魔王の寝室は豪華なベッドは置いてあるが、ほかは基本的に簡素な家具しか置いていなかった。

 転移魔法を見た魔王は目を白黒させている。


「リョウタス……本当に凄いのね。魔王の私より……いや助けてもらったんだから当然だけど」

「いや俺は……」


 魔王様の騎士ナイトだから、と言おうとしたが、そろそろ真実を話さないといけない時が近づいていることに気がつく。

 まずは人間であることを言って、その上で魔族の人間の国への侵攻を止めさせなくてはならない。

 アリシアもメアリーもそれを感じたのか黙っている。


「魔王様、俺、実はさ」

「聞きたくないな~」

「え?」

「でも聞かないといけないですよね……」


 魔王は気がついているのだろうか。


「わかってます。リョウタスがただの骸骨じゃないことぐらい」

「あ、そうですよね」

「多分……私を討ちに来た人間の勇者なんでしょ? 私が聞いている中であんなに強い者は勇者しかいないわ」


 うっ勇者ではないが、魔王を討ちに来たのは当たっている。


「ねえ。本当の名前はリョウタなんでしょ? さっきはそう呼ばれてたし。本当のリョウタスの姿を見せてもらっていい?」


 魔王は人間の姿に戻って欲しいと言う。俺は自分一人だけが戻るイメージをした。


「変身解除……ついでに……皆翻訳」


 神数7で唱えられた真名まなによって俺は元の人間の姿に戻る。ついでに翻訳魔法(?)も唱えた。

 魔王はなぜか俺の人間の姿を見て驚いている。自分の騎士ナイトがこんなに格好悪いとガッカリさせてしまったかもしれない。

 

「あははは……あんまりカッコよくなくてすいません」


 俺の笑いは乾いていた。


「ううん。人間って見たこと初めてだったんだけど上級魔族にこんなに似てるんだ。凄くカッコいいよ……」

「え? でも行けなくなっちゃった学校とかでもモテたことないし」


 事実だった。アリシアとメアリーが言う。


「それって気がついてないだけじゃなんじゃないの?」

「うんうん。現に私たちだって……」


 アリシアとメアリーに俺がいかにモテなかったかを反論しようとすると魔王がさえぎる。


「アリシアさんとメアリーさんはリョウタのお友達なのね? 三分だけでいいからリョウタと二人で話させて」


 魔王はどうやら俺と二人で話したいらしい。アリシアが返した。


「リョウタとは友達じゃなくてパートナーです。でもわかったわ……廊下で五分だけ待ってるから」

「五分……ありがとう。アリシアさん」

「ふんっ」

「え? えええ~」


 セクシーなゾンビのアリシアはスライムを掴んで廊下に出ていった。

 俺と魔王は広い部屋に二人だけになった。

次回の更新は13時頃を予定しています。

応援よろしくお願いしますm( )m

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