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1 神社にいた少女

タイトルを『異世界の村を日本化してスローライフ ~魔法詠唱は日本語で575~』から『575の詠唱使い ~最強の汎用魔法でスローライフ~』に変更しました。

 1月1日、元旦。世界中におめでとうという言葉が飛び交っているだろう。

 けれど俺こと神崎リョウタは少しもおめでたくなかった。

 冬の寒空の下、小さな山の中の寂れた神社に向かっている。新年の初詣ではない。


 両親が死んで施設に預けられたのだが最悪の施設だったので小遣いを持って飛び出した。

 身分証不要で高校生の俺でも泊まることができるネットカフェを見つけたので、それからはネカフェ難民をしていた。けれども、すぐにカネが無くなった。

 バイトも探したけれどネカフェに住んでいる高校生には簡単に見つからず、ついに残り数百円になってしまったのだ。数百円ではネカフェに泊まることも出来ない。

 コンビニでお茶といなり寿司セットを買ったら残りは五円だった。


 その俺がなぜ山の中の寂れた神社に向かっているのかというと、やはりもう居ないおばあちゃんから聞かされた昔話のためだ。


「あの山の中にある(やしろ)は本当に神様がいるんじゃよ。困ったら相談するとよいぞ」


 お年寄りの神仏を尊ぶ気持ちを否定するつもりはないが、自分にはそれをする余裕すらなかった。もちろん家出をしてからは神社仏閣に行ったことなどない。

 だが今は余裕がないを振りきって切羽詰まっていた。もう他に頼るところも無い。困ったときの神頼みという言葉が脳裏に浮かぶ。


 それにひょっとしたらたまっている賽銭があるかも、という現実的な打算もあった。そこまで落ちれるかどうかはわからないが……。

 管理している人もまったく見たことも無いからやしろで寝ることは出来るかもしれない。


 神社に到着する。ひょっとしたら参拝客の一人でもいるかと思ったが、本当に誰もいなかった。

 神社は子供の頃の遊び場だった。その頃から既に寂れていたけど元旦なのに参拝客の一人もいないとは。

 あの頃よりもさらに寂れてしまったらしい。


 もう神社なのか山小屋なのかすら区別がつかない。

 入り口でもない変なところに謎の鳥居があって、小さな賽銭箱が設置された建物もあるから、かろうじてここが神社なのかなと思える。


「まあ誰もいないなら……それはそれで都合がよいかもしれない」


 賽銭箱を覗いてみた。小さな賽銭箱だが返しがついていて中は見ることが出来ない構造になっていた。


「ちょっと叩いてみるか」


 木を叩く音はするが金属音はしない。

 財布から全財産の五円を取り出して入れてみる。コトコトという木とぶつかった音はするが金属音はしない。


「どうやら犯罪をしないですんだみたいだ」

 

 五円でお願いをしようかと思ったけれども賽銭のつもりで入れたわけではない。恥ずかしいので願い事はやめておいた。


「さて、休める場所を見てみるか」


 賽銭箱が設置してある小さな建物の後ろに少しだけ大きな建物がある。

 紙が全て無くなった障子戸を開けて中に入ってみると板張りで奥には鏡があった。ご神体というものだろう。


「布団とかあるわけねーよな」


 ガランとしたやしろの中を見回す。当たり前だが布団はない。

 長い年月の土埃が溜まっていた。鏡も大分曇っている。そういえば、鳥居もヤンキーが来たのか落書きがされていた。

 それでもなにかないのかと一生懸命に探す。


「バケツに雑巾、そしてほうきか」


 やっと見つけたのはご神体が祭ってある台座の後ろに隠してあった清掃用具だった。


「よし……」


 一泊させてもらうのだ。掃除でもしようかなと思い立つ。他にやることがあるわけでもない。

 寂れているのはともかく、楽しかった思い出の場所が落書きされているもの悲しかった。


「この神社は小さいのに手水場ちょうずばがあったはずだ」


 神社の水場でバケツに水を入れた。それを持って鳥居の場所に行く。

 鳥居には仏恥義理ぶっちぎりと落書きされていた。


「何十年前のヤンキーだよ……」


 水の入ったバケツに雑巾を入れて固く絞る。

 鳥居に書かれた仏恥義理を強く拭いた。一回では落とせなかったが強くこすると段々薄くなる。

 格闘すること30分。落書きは消えた。

 同時に鳥居の朱色の艶と美しさを取り戻したようだ。


「よっしゃ!」


 落書きが書かれていなかった部分も背の届くところまでは掃除した。

 なんだか楽しくなってきた。


「なんだか鳥居が光っているみたいだ。綺麗になっただけなんだろうけど」


 今度は社の中も掃き掃除をした。最後はやはりこれだ。


「なんというか失礼します……」


 雑巾を何度も綺麗に洗いなおしてご神体を拭いた。土埃だらけだった鏡はついに俺を写すまでになった。


「よし。掃除も終わり」


 動いたからか、穴だらけの社の中でも、不思議と寒くなくなった。

 でも、もう夕方だ。日が暮れたら真っ暗になってしまうだろう。

 社の床の上にあぐらをかいて足の上にいなり寿司セットを置いた。

 早く食ってダウンジャケットを寝袋代わりにして寝るしかない。


「正月なのに夕食はいなり寿司が五個か。寂しいなあ。いただきます」

「美味そうじゃな。ワシにもくれ」


 ……なにか聞こえなかっただろうか? 女の子のような声が聞こえたような気がする。

 いやいやいや。小さな山の中とはいえ、こんな寂れた神社の夕方に女の子が来るわけがない。いるとしたらモノノケのたぐいではないだろうか。

 俺は無視していなり寿司を食べることにする。なるべく周りを見ないようにしていなり寿司に集中した。


「なんじゃ。くれんのか?」


 下を向いてあぐらで組んだ足の上にあるいなり寿司だけを見ようとしても、ついに白くスラっとした美しい足首が目に入るようになってしまった。

 もちろん自分のものではない。顔を上げればこの足の人物の全景が見えるだろう。

 上げたくないがどうしても気になってしまう。


 見上げるとスカートの短い巫女服のような服を着た美少女がいた。足首は細くて綺麗だが太ももは程よい肉付きで艶めかしい。

 けれどもちょっとおかしいところもある。百歩譲って巫女服はいいだろう。ここは神社なのだから。

 しかし少女には獣のような耳と尻尾が生えていた。髪の色はキツネのような黄色だった。金髪ともまた違う。

 中学生ぐらいに見えるがとても可愛い。


 コスプレだよな。夕方……寂れた神社でか……? きっとコスプレ少女は親と喧嘩して飛び出してしまったんだろう。つまり俺と同じ境遇ってことだ。同志なんだよね。信じていいよね。妖怪などいないという常識を信じたい。

 俺はいなり寿司を箸でつまんで恐る恐る言った。


「これが食いたいの?」

「うむ!」


 少女はいなり寿司を一口で食べた。最近のコンビニ食は原価高騰やらなんやらで小さくなっているが一口で食べるとは。よほどお腹が減ってたんだろうか。

 これで目の前の少女がコスプレ家出少女の可能性がさらに高まった。そうあって欲しい。

 しかしケモミミはリアルにピクピク動いている。

 やはり妖怪なのか……。


 俺もいなり寿司を食う。美味い。目の前の妖怪に殺されて最後の晩餐になってしまったら流石に悲しいけどいなり寿司は美味かった。

 少女はまだいなり寿司を凝視している。


「もう一個食う?」

「うん!」


 少女はまた俺の箸からいなり寿司を一口で食べた。やはり一口だったが今度はさっきよりも少しゆっくりだった。

 食べ方が艶めかしい。よく考えたら美少女と一膳の箸であ~んをしている構図と言えなくもない。

 この後で俺を食う妖怪じゃなかったら最高なのにな……。いや彼女はコスプレ少女だ。リアルなケモミミと尻尾がついたコスプレ少女。もうすぐ夜になる寂れた神社に来た美少女。


 いなり寿司が無くなった。結局、少女は三つ食べた。俺は二つしか食えなかった。

 少女は俺のあぐらの上に座って


「もう無いのか~もっとおくれ~」


 とか言っている。もう無いと言ったら食われるのだろうか。

 涙が零れそうだが反対に自分の太ももや腰から伝わる感触は最高だった。ジーパン越しに少女の足の感触が伝わってくるからだ。


「無いみたいじゃな。じゃあ……お前は良い奴だし願いでも叶えてやるかの」


 急に口調が変わる。いなり寿司を食うためなら甘える事も辞さない妖怪なのかもしれない。


「え? 願い? 食われるんじゃないの?」

「なんでお前など食わんといかんのじゃ!わたしはこう見えてもこの社の神じゃぞ!」


 ……え? 妖怪じゃなくて神様? ばあちゃんの言ってたこと本当だったの?

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