ある王の後悔
空が、荒れ狂っている。
雪が降り、一瞬後には真夏の太陽が照り付け、かと思えば激しい雨が地面を叩き。
あまりの光景に、俺は膝を付き打ちひしがれた。
「どうしてこうなった」
こんなはずではなかったのだ。
俺の目の前に広がるのは、手にする物は、こんなものではなかったはずなのに。
(どうしてこうなった、どうしてこうなった、どうしてこうなった)
「ちょっと!どうなってるのよ?!」
呆然とする俺の隣で、ジャラジャラと装身具を纏った女が喚きたてる。
その言葉に、沸々と込み上げる怒り。
俺は感情のまま女を睨み付け、激情に震える声を投げつけた。
「……………どうなってる、だと?それは、こっちのセリフだ。お前が言ったんじゃないか。自分は神子を輩出する名家の出身だと。自分なら、もっと上手く精霊と交渉してみせると。お前がそう言ったから、俺はっ!!!」
―――ガン、ガン、ガン!!!!!
怒鳴り散らしたその瞬間、激しく打ち鳴らされた城門。
民衆の罵声が聞こえる。
「何とかしろ!」
「神子を出せ!」
「神子様を返せ!!」
民衆が神子と呼んだのは、現神子のこの女の事。
民衆が神子様と呼んだのは、前神子の今はいないあいつの事。
(俺が追い出した、あいつの事だ)
脳裏を掠める小柄な影。靡く黒髪。
俺はギリッと歯を食いしばり出かかった言葉を呑み込むと、近くに待機していた兵を呼び寄せた。
「………おい」
「はい」
「神子を、民の前まで案内してやれ」
途端、耳を劈く金切声。女が、先程の比じゃなく喧しくなった。
美しいといえる顔を化け物のような形相に変え髪を振り乱して暴れたが、それでも兵士の力には敵わず引き摺られるようにして連れ出されていく。
「……………………」
俺はそれを、ただただ無感動に眺めた。
落ちる静寂。
「………俺は、間違った、のか?」
言葉と共に蘇るのは、あいつと初めて出会った日のこと。
『いいよ』
『いいよ。助けてあげる』
その言葉通り、あいつは俺を助けてくれた。
あいつが神子の座についてから、降り続いていた雪は止み、晴れ間と雨が齎された。
国は豊かになり、俺は名君として名を馳せ。
(そしていつしか物足りなくなり、もっと上が欲しくなった)
だから、名家の子女だという女の手を取って、幼かった俺の望みを叶えてくれたあいつを切り捨てた。
勘違いをしていた。
精霊が大人しくなったのは、あいつが神子の座についてからだったのに。『あいつ』に『精霊』は従っていたのに。いつからか『神子』に『精霊』が従うものだと履き違えて。
その結果が、これだ。
「そうか、俺は、間違ったのか」
ぐらりと眩暈がして、俺は思わず顔を覆った。
視界が滲み、口からあの日と同じ言葉が漏れそうになる。
それは言う資格がないのだと、俺は必死で声を押し戻した。