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学園史上ゲスな生徒会長選挙編 雁美乃とガンビーノファミリー

 雁美乃華琉かりみの かる

 市立第二中学から学校法人、段子坂政商学園高等部OAビジネス科に入学する。


 入学初日にありがちの新しいクラスの自己紹介。

 各々の自己紹介は変化に富んでいた。当り障りのないものから、自己主張しまくる者、なにかのモノマネ、笑いをとる者もいた。

 そして、雁美乃は自己主張するタイプだった。


「二中出身の雁美乃です。親しかった友人からは苗字の読替えでガンビーノって呼ばれてたわ。二中では、生徒会長をしてました。ええと、イジメは嫌いです。イジメっ子は許さないぞっ。あは。なので、わたしをイジメないでね。友達いっぱい作りたいんで、希望者はよろしく。また、友達をうまく作れない人でも大歓迎。わたしから声かける事もあるので、そのときは逃げないでね。以上よ」


 スペックは、身長160センチ、Bカップ。体重まあまあ、スリーサイズはうん、まあ。

 髪型はセミロングのツインテール。


 元気ハツラツと言ってみたけれど、傍目からは、『わたしはイジメっ子だぞ』宣言に聞こえる。まあ、雁美乃本人はそんなつもりもないし気にもしてない。


 ◆


 5月。

 一年生たちは、同じ出身校とか、同じ部活とか、席の周辺とかの者と親しくなり、ある程度の仲良しグループが形成されてくる頃。

 教室で、ひときわ大きい声、しかも多少乱暴なしゃべり方で目立つ雁美乃という生徒は、今ではクラスで知らないものはいない。

 彼女はいつも勝ち気で、絡んでくる男子生徒には、その激しい口撃で圧倒してしまうほどだ。

 そのため、親しくない生徒からは口うるさくてめんどくさい女として認識されていた。


 しかし、彼女は彼女なりの矜持がある。

 口は出しても手は出さない。

 弱い者いじめはしない。

 というか、かつてイジメられていた経験から弱い者いじめをゆるさないし、イジメられている子を見つけると率先してグループに招き入れた。


 同じクラスの深谷さんという女生徒がイジメられていた時。

 深谷さんの席を三人の女子に囲まれている。彼女は俯いてじっとしている。


深谷あんたがわたしの席の前にいるから、キモくて黒板が見づらいのよね。んで授業に集中出来なの。あやまりなさいよ」

「深谷さん、シカト? はっきり、なんか言いなさいよ」

「何考えているんだか。キモいし、ムカつく」


 まちがいなく言いがかりである。

 気の弱い深谷さんは助けを求める友人もいない。

 いわゆるぼっちだった。

 その後姿は、泣いているようにも見えた。

 放っておけばイジメがエスカレートするだろう。


 雁美乃はそのイジメを見つけるとすかさず、割り込んできた。


「ふふん、悪いかったわね。深谷さんには、あえてキモくてウザいあんたの授業の邪魔してねってお願いしたの。だから、悪いのは雁美乃わたしで深谷さんじゃなのよ。なんなら、超キモくて超ムカつくあんたら三人の前で、わたしとわたしの仲間全員で土下座して詫びてやろうか」


 上から目線かつ、大声で恫喝した。


「い、いや。雁美乃さんは、わ、悪くないから」

「ふーん、悪くないんだ」


 雁美乃はしたり顔でニヤつく。わざと大きな声でイジメてた3人に圧力プレッシャーをかけながら、深谷さんに言った。


「じゃあ、深谷さん。邪魔しても悪くはないそうだ。これからがんがん、このゲスい、ムカつくこいつらの邪魔していいからね、安心してね。もし、また言いがかりしてきたら、この雁美乃が可愛い深谷さんのために、このバカちんどもに、全力で、詫び入れてやるから」


「あーあ、私達が悪かった。もう、やめてください。深谷さんごめんなさい。ゆるして」


 イジメのリーダーはめんどくさくなって言い放った。

 雁美乃はまだ、引かない。媚びない。顧みない。


「あんたら、この雁美乃わたしが悪かったので詫び入れてやるといったのに、なに、謝ってんの。ばかなの。死ぬの」

「だから、私達が深谷さんをいじめてたのを謝ったんじゃない」


 雁美乃は床に指さして追い込む。


「ほう、これは面白いことを言うね。ゲスなあんたらが、わたしの大事なかわいい深谷さんをイジメてたんだ。わたしらが反省して土下座で謝るつもりだったのにな。悪いのがあんたらなら、す・ぐ、こ・こ・で、土下座してわびなさい」


 いつの間にか、雁美乃の仲間が10人ほど集まり、取り囲んでにらんでいる。

 三人は逃げられないことを悟り、恐怖に震え、土下座する。


「雁美乃さん、私が悪かったです。もうイジメません」

「こらこら、最初に謝るのは私じゃなく、深谷さんよ」

「深谷さん、大変申し訳ありませんでした」


 三人はそういって床に頭を擦りつけた。


「わっわかりました、もういいです」


 深谷さんがそう言うと、三人は立ち上がりその場を去ろうとする。

 しかし、雁美乃はまだ、許さなかった。

 

「おいおい、そこの3バカさん、まだ終わってないわよ。わたし、はっきりいったわよね。キモさ爆裂のあんたらのイジメ騒ぎで仲間全員が土下座して恥をかくところだったのよ。だったら私達全員にも土下座するのが筋でしょ。さあ、はよ」


 元イジメられっ子がイジメっ子をイジメている図式である。

 というか完膚なき私刑リンチ状態というべきか。


「みなさん、申し訳ありませんでした」


 3人は既に泣いている。まだ追い込む。


「こらこら、手抜きしちゃだめ。家庭でどんな教育受けてんの? あんたらの親の顔見てみたいわ。それなら、今日、あなた達のゴキブリ屋敷でも訪問しようかしら。わたしはね、あんたら三人に、ここにいるわたしの仲間全員、一人づつ、誠意をこめて土下座してねっと言ってるの。早くしないと他のクラスにいる仲間もどんどん集ってくるわよ」


 イジメ3人組は、雁美乃を始め、雁美乃グループの面々それぞれに向きを変えながら土下座していった。全て謝罪がおわると泣きながら去っていった。


 雁美乃は怯えている深谷さんに手のひら返したように優しく声をかける。


「深谷さん、これであなたをイジメるものはいないわ。無理強いはしないけどわたしの仲間にならないかな。わたしね、前の中学ではイジメられてたのを先輩が救ってくれてね。そして立ち直ったの。仲間で支え合えばこころ強いし、ひとりひとり弱くても、仲間で肩寄せ合えば大きな力にもなるわ」


 深谷はさんはコクリとうなずき、雁美乃の仲間になった。


 最初は弱者を強引にとりこんでいるだけに見られていたが、イジメを許さず、弱い者を救済すること、また、その一貫した姿勢に賛同するものも集まり、加速的に仲間が増えていった。


 口の悪いカリスマになった雁美乃と結束の固い仲間。

 いつのまにか集団化した彼女らは、ガンビーノファミリーと呼ばれるようになる。


 ◆


 7月、放課後。

 一年生の雁美乃が視聴覚室に現れる。

 今日はガンビーノファミリーの定例会が行われる。

 すでに、一年生の男女20名ほどばかりが集まっていた。

 雁美乃が作り上げた仲間たちだ。

 雁美乃はみんなの姿を見回してから、教室の壇上のイスに座る。


 雁美乃という女生徒。

 中学時代に生徒会長の先輩からイジメのどん底から救われ、以後、その先輩と仲間たちに影響受け、性格が一転、超ポジティブ志向になった。そして、先輩の意志を継いで生徒会長を務めるまでとなった。


 仮美乃が切り出す。

「みんな、集まってくれてありがとう。どんどん仲間が増えて嬉しい限りです。今日は主要メンバーだけで集まって頂きました。本当は全メンバー約80人を集めての会をしたいのですが借りれる教室に限界がありましてね。容量的に困難な状態にうれしい悲鳴が出そうです。いっそ、体育館でも借りましょうか」


 集まったメンバーがざわめくように笑う。


「わたしの大事な仲間である、みなさんに感謝を。さて、定期会を始めるわ。会の進行は阿仁江あにえさんお願い」


 阿仁江さんは、雁美乃と同じ第2中学出身、同校の生徒会に属していた。

 仮美乃が生徒会長として少々強引で雑な運営を潤滑に取り仕切り出来たのはこの阿仁江さんの尽力によるところも大きい。

 当時、学年でトップクラスの成績で、周囲からも県内トップクラスの進学校を進められていたが、親友の雁美乃をほっとけない、いっしょにいたいという願望を押し通し、雁美乃と同じくして段子坂政商学園高等部に入学したのだった。


「それでは、わたくし阿仁江が議長を務めさせていただきます。まずは、連絡事項はありませんか」


 男子生徒が手をあげる。


「後藤です。部活でな、先輩のシゴキというかイジメに近い状態でひでえ目にあっているのが2人いたんで声かけといた。他にも噂聞いてか、グループに入りたいという者が3人いるんで、明日にでもリーダーに会っていただきたい」


 後藤という男子生徒。

 野球部に所属している。規律のきびしい野球部でとても放課後にある定期会には出られないはずだが、何かと理由をつけて雁美乃の定期会に顔出している。

 野球部の部活に行くのを遅れてでも会に参加するところは、雁美乃に心酔しているようだ。もしかしたら、惚れているのかもしれないが。

 当然、今日もこの定期会が済み次第、野球部に参加する予定だ。

 後藤は、ガタイがよく、身長も高くよく目立つ男だ。

 見た目のごつさの割には、誰とでも話ししやすく、また物分かりの良さで同級生には人気がある。

 運動系の部活に所属している一年生では割と目立つ存在だ。


 先輩のシゴキ。

 この学園でも戦後の昭和時代からの歴史を引きずっているのか、運動系の部活は先輩による後輩への指導という名の体罰というかイジメが根付いている。

 後藤は野球部ではわりと要領よく、また、厳しい練習にもついていっているため、そこまでひどい目にあってはいない。


「後藤さん、ありがとう。明日、そのコたちと会ってみます。それと、運動部にありがちな先輩によるシゴキという暴力を無くしたいですね。後ほど、そういった問題も解決するための案件を話します」


 雁美乃は後藤に礼をいう。


 ほか、後藤以外からも、数人、グループに入りたいという希望者がいるという報告を受ける。


 ひと通り、メンバーの報告が終わると雁美乃が発言する。


「そろそろ頃合いなので、皆さんに申し上げることがあります。しばらくはグループ内でとどめてほしいのですが、わたし、雁美乃は生徒会長の選挙に立候補します。そして勝ちにいきます。そこでみんなに初めてお願いがあります。皆さんの力を貸してください」


 そう言うと雁美乃は壇上から頭をさげる。

 何があっても頭をさげることのないと思われてた雁美乃が頭をさげ続けた。

 みんな唖然とする。

 いろいろな打算や思いが沈黙もくとしてこの部屋を支配したが、やがて拍手と声援が沸き起こる。


「いいね、応援するよ」

「わたしに出来ることなら手伝うよ」

「ガンビーノはやっぱり僕らのボスだ」

「一年生で生徒会長だなんて素敵です」


「みんな、ありがとう。わたしは、本気で勝ちに行くからね。そしたら、学園という大きな枠で仲間が増えるからね。みんながいい学園生活を送れるよう、頑張るから」


 さすがに、雁美乃は涙が滲んだ。


「雁美乃、泣くなよ、らしくねえぞ」

「あはは、あの雁美乃さんが泣いてるよ」

「あんたも泣いてるじゃない」

「なんか感動しちゃったな」


「ばかー、泣いてないし、泣くのはまだ早いわよ」


 雁美乃は涙を拭って言った。


「それじゃあ、定例会はこれまでにして、いまから極秘の選挙対策会議するわよ。アイデアとか提案のある人、挙手してね」


 壇上の雁美乃は目と鼻を赤くして、みんなを見渡したのだった。


こんな拙文を最後まで読んでいただきありがとうございます。

小ネタに笑って貰えたら、悶絶するほど嬉しいです。


あと、誤字脱字の指摘があれば、ご飯3杯いけます。


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