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学園史上ゲスな生徒会長選挙編 雁美乃の中学時代をさらっと。

ここから、新ヒロインの一年生の雁美乃かりみのの下克上物語がになります。


一年生の彼女は、生徒会長に立候補する。

絶対不利の中、結束の固い仲間グループをひきいて泥沼化した学園史上最悪の選挙戦を勝ち取ることができるのだろうか。

 4月某日。


 先輩あのひとがいる学園にようやく辿り着いた。


 とうとう来たわよ、わたしの人生ゲーム、学園編はここからスタートよ。


 緩やかな段子坂の両脇に桜が満開する頃、この坂の上の学園に、また、個性きまわりない少女が入学する。まあ、この学園に変わり者の入学は普通に毎年の事だが。


 坂の上の学園、段子坂政商学園だんすざかせいしょうがくえん

 戦後、空襲で焼け野原になった街を復興するため、商売と市政を若者の手に委ねるため、街の有志たちが勉強会兼塾を始めた歴史がある。以後、この学園から数多くの若者が卒業し街の経済を支える。


 その少女、雁美乃華琉かりみの かる

 迷仔市立第二中学校卒業。その中学では生徒会長を務めた。

 かつては、複雑な家庭環境、貧乏暮らしが原因で心がすさみ、屁理屈と負け惜しみ、薄ら笑いをし、人の目をまともに見れず、俯き地面ばかり見つめていた。当然いじめられ、孤独と絶望に追い込まれていた。


 雁美乃が受けていたイジメとは。

 あたらしい教科書はボロボロにされてゴミ箱に。机に落書き、イスに悪臭を放つ雑巾が置かれ、机の中には紙くずなどのゴミがびっしり入れられていた。体操服はマジックインクで酷い落書きされ、腐った牛乳が掛けられびしょびしょに濡らされた。

 休憩時間。自分の教室の近くのトイレに行こうものなら、個室の扉の下の隙間からホースで放水されたり上からバケツなどで水を掛けられた。抗議しようものならいじめグループがその場で自分を吊るし上げる。

 2年生になってクラス替えがあったが、あいも変わらずイジメが続き、さらにエスカレートしていった。


 ところが彼女は、ある出会いをきっかけに吹っ切れ、イジメを克服する。


 ある出会いとは。





 仮美乃が中学2年の春。

 イジメが辛く、昼休憩に逃げるように正門玄関脇の記念樹が植えられている花壇の陰にいく。ひとりで弁当をたべる。ここは、校舎からも校門からも死角になり、ここでつかの間の平穏な時間を過ごすことができるからだ。

 ある時、一人の上級生が雁美乃が記念樹の花壇に入っていくところを見かける。最初はなんとなく見ていた程度だったが、数日後の昼休憩にも雁美乃が入っていくのを見かける。


 次の日も。

 その上級生、そっと記念樹の陰を覗くと、雁美乃が一人いた。そして、その上級生と数秒目が合う。

 そっと、その上級生は申し訳無さそうに去っていく。


 更に次の日の昼休憩。

 事件が起こっていた。

 雁美乃は、同級生の女子に囲まれている。羽交い締めされ、イジメのリーダーらしきの子が雁美乃の顔を叩いていた。

 なにこそこそ逃げてんのよ、ナマイキだわね、と言うよな声が聞こえてきた。

 上級生はすぐに異変に気づき、堂々とした声でイジメをやめさせ、結果として雁美乃を救出する。

 その上級生は誰もが知っている生徒。イジメていたクラスメートは上級生の顔を見るやいなや逃げていく。


 その上級生。

 生徒会長、3年生の瀬野辺せのべくま。

 瀬野辺は、雁美乃に話しかける。


 「昼休憩にあなたが記念樹の陰に入っていくの何度か見ていたのよ。名前は?」

 「か、雁美乃、雁美乃華琉かりみのかるです」

 「わたしは生徒会長の瀬野辺せのべよ。たぶん知っていると思うけど。……あなた、イジメられてたわね」

 「……はい」


 雁美乃は目をそらす。瀬野辺はなにか話しかけようと思案した。


 「わたしね、苗字が『瀬野辺』、名前が『くま』というの。戦前生まれみたいな名前ですごくコンプレックスがあるのよ。嫌になるくらい馬鹿にされたわ」


 雁美乃は俯いたまま、静かに聞いている。瀬野辺は続ける。

 

 「でもね、そこで自分の変えられない部分のために俯くことはしなかったわ。わたしは自分の名前を変えることは出来ないけれども、誰にも負けないものを持つように努力したの」

 「わたしの場合、走ることに自身があった。更に高めたくて早く起きて朝食前に走っている。そのおかげでマラソンが得意になった。短距離走でも、クラスの男子程度ならまず負けない。そしたらね、体育祭や運動会の時とかは、わたしを必要としてくれる。これをきっかけに友達が増えたわ」


 瀬野辺は雁美乃の様子を見ながら続ける。


 「イジメはね、弱いところに向けられるわ。弱い子、その人の弱点、コンプレックスをついてくる。だけどね、そんなものなかなかなくすことは出来ないもの。でもね、イジメを避ける方法はあるのよ」


 雁美乃は俯いたままだ。


 「それは友達を作って肩寄せ合うの。つまり、仲間を増やすこと。草食動物とかは群れを作って肉食動物から身を守るじゃない。たくさん仲間が集まればしめたもの。仲間があなたを支えてくれるし、あなたもあなたの出来ることで誰かを支えられる。イジメはなくなるし、何よりも楽しい。いい仲間が増えると幸せになれるわ」

 「でも、わたし……だれにも声を掛けれない。他人の顔を見るのも……」

 「雁美乃さん。あなた、一人ぼっちだと辛いでしょ。友達を作りなさい、仲間を作りなさい。仲間ができればいじめている連中も近寄らなくなるわ」


 俯いている雁美乃。瀬野辺は雁美乃の目を覗きこむように屈んで見上げる。


 「雁美乃さん。わたしは今でも仲間を増やしたい。あなたはここでわたしと知り合った。あなたとわたしはまだ小さいながらも絆が出来たと思う」


 「雁美乃さん、わたしと友達になりしょう。仲間にならない? どう? 後はあなたの気持ち次第よ。きっかけは私が用意した。まず、あなたは瀬野辺という人間を知り、雁美乃という人間を教えてほしい。さらなる信頼はこれからゆっくり築けばいい」


 「瀬野辺先輩、一体どうすればいいのでしょうか。あなたは3年生で先輩で生徒会長、私は2年生でこれといった友達はいない」

 「明日から昼休憩と放課後は必ず生徒会室に来なさい。私は生徒会長として雁美乃さんを今日中に生徒会執行部に任命するわ。庶務担当という、雑用係みたいな仕事をお願いすることになるけれども、あなた一人に押し付けることは絶対しないから。生徒会は、わたしの信頼する仲間で運営しているから心配しないで」

 「わかりました」


 次の日の昼休憩。雁美乃はおそるおそる生徒会室のドアをノックする。

 すぐにドアが開く。ドアを開けたのは瀬野辺生徒会長。彼女はにっこり笑うと雁美乃を招き入れた。

 生徒会室には生徒会長の瀬野辺をはじめ、副会長、書記2名、庶務3名、会計2名、風紀委員長、風紀委員5名、の15人いた。

 今季の迷仔市立第二中学校の生徒会の構成メンバー全て揃っていた。

 ちなみに、この中学校の風紀委員については生徒会長により風紀委員長を任命し、その風紀委員長と生徒会より風紀委員を数名任命している。

 慣例的に、運動部の部長か副部長を務めている者の中から風紀委員長を任命している。


 瀬野辺が雁美乃を招き生徒会執行部に紹介する。

 「みなさん、今日からこの2年生の雁美乃さんが私達の仲間になって頂くことになりましたよろしくね。さあ、雁美乃さん、自己紹介してっ」


 雁美乃ははっと気がつく。ここにいる人たちはこの中学校では有名で優秀な人達ばかりで構成されている。成績トップクラスの者、国体選手、文化祭などで活躍するバンドやダンスチームのリーダーなど、彼ら、彼女らはいずれも一般生徒から慕われているような者が多い。

 そして、彼ら、彼女らは皆んな雁美乃をじっくり注目していた。その目、いずれも威圧感はない。暖かな視線である。 

 それでも、雁美乃にはものすごく緊張した。


 「2年E組、雁美乃華琉かりみの かるです。皆さんのような特別な能力はありませんが、一生懸命がんばりますので、よろしくお願いします」


 雁美乃は短い自己紹介を言い切り頭を下げると一斉に拍手が起こった。なんだか、感動と不安が入り混じり涙があふれる。


 ひときわガタイの大きい男が自己紹介を始める。


 「風紀委員長の五島だ、よろしく。雁美乃さん、俺達に特別な能力って言ってたけどそんな大層なものなんかじゃないよ。実際、生徒会長の瀬野辺は、皆んなに人気があって生徒会長を務めているが学業の成績は中の下くらいだ」


 「五島くん、それは秘密にしてー。もう、新しくメンバーが増えるたびに暴露するんだから」

 「まあ、そういうなって。俺だって好きで続けた柔道で国体に出るだけの実力を持ってるが、それでも成績は瀬野辺より少しマシなくらいだ」


 「そこは同じくらいだと言って」


 五島は、隣にいたイケメンの肩を掴む。

 「こいつは3年生の大篠おおしのだ。こいつなんてな、俺と同じ柔道部だが、からっきし弱い。後輩の2年生、1年生にも負けることもある。成績も下の下、まあアホだな。みっともねえよな。だけど、こいつはバンドをやっててな、ドラムを叩くとこなんかすげえかっこいい。悔しいが実際モテる。他の生徒会の連中も好きで初めた趣味が高じて派手に見えるだけ。ここに集まっている連中は一芸に秀でているけど不器用な連中ばかりだ。気のいい仲間が集って、支えあって、好きなこと、興味のあることがのびのびと出来る学校運営をしたいと言う瀬野辺に賛同した者ばかりだ」


 五島は雁美乃に微笑みかける。


 「表向きは華やか見えるメンバーだが、いずれも弱点やコンプレックスを抱えているものばかりだ。瀬野辺の元に集まり、仲間として弱点を埋め合ってそれぞれの得意なもの強みを発揮しながらやっている。雁美乃さん、今はなにもないというけれど気にしなくてもいい。俺は君より劣っている部分もある。他のメンバーもそうだ。だからのびのびとやってくれ。うまく言えない部分もあるが、俺からは以上だ」


 他の生徒会の自己紹介もして昼休憩は終わった。3年生が8人、2年生4人、1年生が3人いた。


 この日を境に、少しづつだが雁美乃は変わった。


 まず、下を向かず堂々と前を見据えるように努力した。人と向き合い、目を合わせる努力した。言いたいことは自身を持って言うようにした。


 いずれも生徒会の皆んなからダメ出しをしてもらいながら、自分が変わるよう頑張った。


 イジメもなくなった。

 しばらくは 『生徒会に所属してナマイキ』だの、『調子にのってる』だの、イヤミ妬みの声も聞こえてたが次第に聞こえなくなった。

 生徒会長の瀬野辺先輩が、強面こわもての五島先輩たちなど大物上級生が、事あるごとに雁美乃の教室に来ては雑用をお願いしたり連絡や雑談したりしてクラスの皆んなを驚かせた。大げさに親しくして見せ、感謝しては雁美乃に頼っているのをクラスの皆んなに印象づけられていた。


 雁美乃はひとりぼっちでなくなった。

 雁美乃はクラスの雰囲気が変わったいることに気がつく。いや、雁美乃が自身が変わったから、クラスの空気も変わったのだ。


 校内でも有名な先輩諸氏が入れ替わり立ち代り、雁美乃を頼りまた頼られ、雁美乃は生きがいを見つけたかのごとくいきいきとしていった。

 そのうち、自然にクラスの者が挨拶したり、話しかけるようになった。


 ここで初めて生徒会の先輩諸氏のいう、友達を作ること、仲間を増やすことの大事さを実感した。まずは楽しい。

 過去の酷いイジメには忘れることは出来ない。しかし、イジメを見て見ぬふりをしてた者を受け入れ、次に雰囲気でイジメに加担したものも受け入れた。

 さすがに雁美乃をイジメた張本人らのグループだけは離れて息を潜めているが。

 クラスの内外で堂々と振る舞うことで充分に牽制になっているようだ。今は雁美乃の姿を見るだけで居心地悪いのか立ち去っていく。


 そして。


 雁美乃は、さらなる成長を遂げる。

 人の目を見るだけでなく、その相手の目の動きを注意深く観察するようになった。そのうち、会話と目の反応で相手の考えていることが大まかであるが分るようになる。

 当然、付き合いの長い者ほど理解度が増す。何を求め、何を嫌がり、本音と建前を見極める。うまく察知し、充分に納得してもらえる回答を出したり、折り合いをつけれるようになった。


 自然と駆け引きが強くなり、また、信頼を寄せる者も多くなってきた。


 文化祭、体育祭。

 準備、設営、各部活動、学校職員との折衝まで、学校内を駆けまわる。もちろん、生徒会メンバーの助けを借りつつも、確実に、かつ、クオリティーの高い運営に貢献した。


 年度末。

 今年度の生徒会は今日で終わる。三年生の瀬野辺生徒会長、副会長、五島風紀委員長を含めた八人は今日の卒業式をもって巣立っていく。

 振り返ると変身した雁美乃が生徒会運営に著しく貢献した一年だった。

 思えば、雁美乃は何もとりえもなく、酷いいじめられっ子がここまで頭角をあらわすとは。生徒会所属の2年生、1年生のなかでも抜群に存在感を発揮していた。

 先輩方はもとより、在校生の現生徒会メンバー誰しも、来季の生徒会長は雁美乃になってほしいと願った。


 三年生に進級。そして、生徒会長選挙。

 対立候補をものともせず、選挙は雁美乃の圧勝で決した。雁美乃自身の昨年度の働きと元生徒会でカリスマ性の高い仲間の支援で絶大な支持を受け誰も寄せつけなかった。

 数々の成功、失敗のない思い通りの一年間の第二中学校の生徒会長時代が、雁美乃を大きな自信となった。悪く言えば、かなり天狗になっているが。


 雁美乃は、中学卒業後は段子坂政商学園高等部に行くことにした。

 それは成績的に適当なこと、志の持った者が集まるところだということ、そして何よりも恩人の瀬野辺先輩がいるからということ。また、一緒に過ごしたい、そして恩返しをしたいという一心である。



 そして雁美乃の物語は本編の舞台、段子坂政商学園高等部に向かうことになる。

はっちゃー ><;

前書きで「選挙戦を勝ち取ることが出来るのか」なんて書いちまったが、そんなの「勝つよ~」って宣言しているようなものだな~。


まあ、ヒロインが勝つのはテンプレで、「~出来るのか」は、勝利確定のフラグだ罠


というわけで、風邪を引きませんようお気をつけなさいまし。

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誤字脱字、言葉の間違いとか、ご指摘いただくと悶絶して喜びます。

たとえ、誤爆でも感想なんぞ頂いた日にゃ、一層悶絶して死ねます。

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