インターハイ全国高校麻雀大会 水野砂金-SAKIn-
インターハイ全国高校麻雀大会、決勝戦最終卓、南場4局1本場。
俺は初めての地元開催の競技麻雀大会に出場している。
この半荘、すべて俺の振り込みと上がりで進行してきた。
四人打ちであるのにもかかわらず、各局は全て俺の点棒が動き続けた。
俺対三人の麻雀。
これで上がりきれば俺の出番は終わる。
俺の今大会予選から通算戦績が発表された。
振込率、平均振込点、累計振込率が最高で最悪な俺が平均順位、平均打点、ツモ和了率それぞれも最高であるため今のこの席に座っている。
俺は3900を振れば満貫を、満貫やられたら、倍満をきっちり取り返す。
自動卓から山と配牌がせり出す。
段子坂政商学園、麻雀部(の代理出場)代表、個人の部、水野砂金2年生。
金を賭けない麻雀なんて、ヌルすぎだわな。
◆
俺の生い立ちは少々訳有で、半生は男として生きてきた。
とういうか、自分が女の子という自覚なしで生きてきたっていうのが正しい。
両親は土木関係の会社を経営している。
オヤジが社長兼、現場の組頭を務めており、俺は物心のついたころからオヤジの目の届く飯場に出入りしていた。
オフクロはオヤジよりも経営に長けている部分があり、オヤジと結婚後、小さな組だった会社を今はダンプ20台、ブルやらクレーンやらの重機8台以上、従業員、職人80人を越える規模の有力な地方ゼネコンまで大きくしていった。
現在は専務として会社の運営を執り仕切っている。
オヤジはオフクロに惚れて見向きもされなかったのを何度も足を運び、オフクロが目付きの悪い連中に吊るしあげられているところに出くわし、オヤジ一世一代の土木無双(俺Tueeee)で、目付きの悪い連中を制圧、無事吊るされたオフクロを救出した。
その時のオフクロはまだ高校生。
「あんたのお陰で助かった。あんたがいなければ、コンクリ詰めされて夕方のニュースのネタになるところだった。お詫びしたいがすぐに学校に帰らなくてはならない。卒業したら改めてあんたの元に来て全力全身全霊をつくしてお礼する」
といい、卒業した後、オヤジと一緒になったという。
オヤジは言う。
「あいつの口ゲンカには勝てねえ。思い出しただけでも腹立つ。いや、すげえ腹立つ。腹立つがかわええ」
惚れた男の弱さか。
どっちかていうと俺はオヤジが大好きだ。
どんな時でも俺をかわいがってくれるし、俺のつまらない話でも親身になって聞いてくれる。
オフクロは、まあ、そっけないからな。
そしていつもうるさい。
オヤジはオフクロのような経営手腕はないが、現場での信頼は厚い。
で、小さい頃から俺は忙しいオフクロでなく、飯場に詰めるオヤジの近くにいた。
汗臭く埃とアブラぎった男共がひしめく、飯場だ。
それでも俺は社長の子、頭の子供として可愛がられた。
覚えた遊びも多分、世の中からずれていると思う。
すごろくの代わりに茶碗とサイコロ3つ。
トランプの代わりに動物や花の絵が書かれた花札。
つみ木の代わりに漢字と丸や棒の絵が書かれた麻雀牌。
これが俺のおもちゃだった。
絵本はないが、女の人の裸の雑誌はあった。
漫画はあったが、喧嘩とか暴力ものが多く、そのあとすぐに女の人が裸になる展開のものばかり。
DVDもあった。
でも、当然、飯場にあるような漫画と同じ展開のものばかり。
オヤジがいなければ、飯場のみんなと仲良く和気あいあいと見られたのだが、オヤジが現れたとたんに暴れ、上映会は中止に追い込まれる。
親父の顔、俺には気まずそうにし、飯場の連中には怒鳴り散らす。
あるときから、飯場にあるモノの使い方というか遊び方を覚えるようになる。
おりを見てはみんなから教えてもらったものだ。
その一つ、麻雀。
あるときはわざと負けてもらいながら小遣いを増やし、あるときは叩きのめされて財布の中身全てを持っていかれた。
◆
リーチ。
千点棒を無作為に投げる。
身についた行動。
また審判員から小うるさくマナーが悪いと注意される。
4順目のツモ牌で索子の高目メン・チン・イーペーコー・ドラ一をテンパイした。
ダマテンでも上がれるし、トップ確定なのだが俺の知っている麻雀はリーチをかける一手。
競技麻雀、なんて知らないし、刺激がない。
麻雀の物語にある、主人公やヒロインにありがちな技は俺にはない。
嶺上開花で逆転とか、なけばなくほど高得点とか、「あんた、背中が……」「むこうぶ……」みたいなカッコいい決め台詞は持っていない。
簡単なイカサマはできるがここで使うほどのものでもない。
ここは、匂いがしない。
いや、かすかに芳香がするか。
俺の中の麻雀の匂いとは。
飯場に漂うタバコや体臭、酒ビール。
ギラギラした脂っこい匂い。
普通に判断すれば、クサい。
しかし、オヤジ達の居場所の落ち着く匂い。
人間の温もりの匂い。
気心知れた仲間が集まり、バカをいいながら勝負する独特の雰囲気。
俺の麻雀。
飯場で覚えた、ギラギラした麻雀。
なけなしの給料を倍増するか明日から無一文無しで働かなくてはならない麻雀。
手配が良化するわけでもない怒声と、欲にまみれた思いを牌にこめる強打。
ここでは幾度も審判員にマナー違反として注意された強打。
◆
飯場の麻雀の準備は俺の日課になっていた。
学校から帰ると、扉と窓を全開に開け空気を入れ替える。
吸い殻やゴミを片付け、ざっと掃き掃除する。
散らかっている花札、漫画、雑誌を片付ける。
点棒は教わったとおり「いち、にい、よん、とう」といって、高い点数から1本、2本、4本、10本というように仕分けて点箱にいれる。
ここには自動雀卓はない。
コタツにゴムマットを敷いて手積みで行う。
縦8枚、横18枚。
牌を並べ、濡れフキンで擦り上げ、乾いたタオルで乾拭きする。
拭いた一面は簡単につるつるすべすべになる。
1セット6面全て拭く。
綺麗にしておくと、その日勝った人が俺に小遣いをくれる。
「砂金ちゃんのお陰で勝ったで」
大体、500円から5000円ぐらいもらう。
オヤジが大勝ちすると気前よく5000円くれた。
オフクロから初めて買ってもらったブタの貯金箱に入れる。
俺は、牌の強打も麻雀だと思っていた。
明日の飯を決める一打、ブラフ、はったり、弱気を駆逐する、様々な強打。
運気を呼び寄せる強打。
危険牌を叩きつける強打。
汗や埃、タバコの煙とヤニ、こぼれた酒やビール、乾物の匂いが蔓延する飯場。
暇つぶしに飯場にある本とかを見てるとすぐにオヤジがあわてて取り上げられてしまう。
そのお陰で少年誌とかはすごく感動を覚えるが、長時間読むほど集中力が続かない。
俺の言葉。
オヤジとやさぐれたおっさんどもの言葉が飛び交う中で成長し、女の子としてはありえないくらい言葉遣いが悪くなっている。
中学時代からその言葉遣いが女子としてはかけはなれていることを自覚してから、極端に口数が少なくなってしまった。
学校の先生の一言。
「さきんちゃん。今の時代、男の子でもそういう恥ずかしい言葉は使わないわよ」
俺の声を封じる言葉だった。
以後、飯場意外では口数が減った。
もともと俺の友達は少ない。
正確に言うと、同年齢の友達が少ない。
俺の友達といえば飯場のおっさん達か。
ビールこそ飲まないが一緒に飯を食う。
時折、洗車前にいろんな重機に乗せてもらった。
博打を教わった。
男勝りの性格、そして体力。
飯場で鍛えた腕相撲は同級生の中では誰にも負けない。
かけっこは得意だ。
木に登り、家の屋根に上がり、近所のオバサン連中に陰口を叩かれるのは日常茶飯事。
成績はそんな良くはない。
小学校、中学校では運動会、球技大会や体育祭なんかではヒーローだった。
いや、ヒロインだな、一応。
どの競技でも負ける気がしないし、実際ほとんど負けなかった。
部活・クラブ活動は引き手数多だったが全て断った。
練習とかで縛られたくないし、先生や先輩に半ば強制でやらされるのが嫌、めんどくさいな。
俺は全力で走りたいときに走りたい。
でも、縛られたくない。
◆
競技としての麻雀。
ヤニっ気のない、さわやかな空気の中での麻雀を打っている。
自動卓のラシャは全くベトつかない。
当然、牌も最後までさらさらつるつるだ。
リーチをかけてからの一巡目。
山のツモ牌に指をかけ、すうっと引き寄せると同時に軽く絵柄を中指の腹で触れて確認する。
イメージ通りの感触、ツモる動作はそのまま手配の右側に叩きつける。
ツモ。
リーチ一発ツモ、ピンフ、イーペーコー、チンイツ、ドラ1。
裏ドラをめくり確認。
のる。
13翻、16000通し。
◆
俺の思い出の中で唯一、オフクロに買ってもらった覚えのあるもの。
陶器製のブタの貯金箱。
一度お金を入れると叩き壊さない限りお金を取り出すことが出来ないもの。
愛嬌半分、小憎らしさ半分のオスのブタだ。
なぜ、オスだとわかったかというと、俺にはないモノが股間にぴょこっとついてるからだ。
俺はこの貯金箱が大好きだった。
オフクロが買ってくれたものでもあったし、この生意気具合の感じが俺に似ているように思えてならない。
名前もつけた。
「砂鉄」という名前。
俺の名前は砂金という名前だったことと、小生意気なブタでオスだったので「鉄」っていうのをあててみた。
この頃、再放送で昔の人気アニメでホルモンを焼く少女の物語を放送していた。
その子の拾ってきた猫にオヤジの名前に「コ」をつけていい感じな名前だなと思った。
まあ、そんな影響を受けてのネーミングだったな。
小銭をもらってはどんどん「砂鉄」の背中の投入口に突っ込んだ。
俺があまりにブタの貯金箱を大事にしていたので飯場の連中がよくからかったものだ。
盗む奴はいない。
俺が大事にしていることも知られているし、万が一、なくなったりすると俺は泣くだろう。
俺は基本的にみんなから可愛がられていた。
俺をからかう奴はいても、嫌がらせをするやつはいないことを知っている。
からかうとは。
俺が見てないところでこっそり取り上げ、わざと俺が気づくようにブタの股間のアレをつついてはからかった。
弁当や菓子の値段シールを剥がしたものがアレに巻き付いてたこともよくある。
時には縁起物だということで、ご丁寧に座布団をしいて豚の貯金箱をその上に載せ、おっさん連中はあたかも貯金箱が生きているように話しかけながら麻雀や花札を興じていた。
そして返してもらう時に必ず、ポケットや財布の小銭を入れてくれたので、俺も悪い気がしなくなり、むしろ歓迎したものだった。
別れと出会いの春。
「砂鉄」を長く可愛がり、お金がどんどん溜まってき、その重さもとんでもないくらい重くなった頃事件は起きる。
俺が中学三年の春。
飯場の窓の外は満開の桜。
俺はいつもの通り掃除をしていた。
オヤジ達の現場仕事がまだ終わらない時間に、新入りの男が一人、飯場に帰って来た。
新入りの男、ぎこちない挨拶で声をかけてくる。
俺は掃除しながら間を持たせるために、仕事は慣れたかい? とか他愛のないことを口にした。
当然話題が途切れる。
俺は黙って牌を拭く。
後ろで新入りの男は黙って見ている。
嫌な空気が流れる。
突然、新入りの男が後ろから抱きつき押さえ込まれた。
同級生、同い年程度の男だったら振り払えるが、新入りの男もそれなりに鍛えられており、完全にマウントをとられてしまう。
制服の上から胸を掴まれる。
俺の顔面に拳が2発入る。
口の中が切れ、血の味がした。
腹にも重いパンチが5発もらう。
腹部の痛みにスタミナが奪われる。
自由が効かない。
俺はやつを睨みつつありったけの力を振り絞ったが、押さえられたまま、まったく抵抗できない。
ありったけの抵抗もむなしく、消耗する一方だった。
声を上げても、飯場から現場まで数百メートル離れてるし、重機なんかの音や振動でかき消される。
悔しい涙が溢れてきた。
口の中の血の味が敗北の味なんだなと、どうでもいい感覚で考えてしまう。
制服を無理やり脱がされ、ブラウスを強引に引き裂かれる。
俺の飾りっけのないスポーツブラに手がかかる。
俺は、目を閉じた。
もう、抵抗するだけの力は残っていない。
じゃき、じゃき、じゃき。
どこからかノイズのかかった金属音が聞こえた。
じゃき、じゃき、じゃき、じゃき。
音が近づいてくる。
俺を抑えてる新入りの男の手が止まる。
じゃき、じゃき、じゃき、じゃきーん。
俺の胸ぐらつかんだ新入りの男は震えてるのが分かる。
目を開ける。
飯場の入り口に可愛らしい少女が立っていた。
手には真っ黒なソロバンを持っている。
頭に大きな赤いゼムクリップの形をしたヘアピン。
じゃき、じゃき。
時折、そのソロバンを振り鳴らす。
そして、数秒男と目を合わせる。
先に口火を切ったのは男のほうだった。
「か、金は今用意するからもう少し外で待ってくれ」
ふむ、と言わんばかりに少女は振り返った。
そして何処かへ去っていく。
おい、俺を助けてくれないのかぁ?
新入りの男は俺のかわいいブタの貯金箱に手を伸ばす。
さっ、砂鉄を返せ!
「砂金ちゃん、これ借りてくぜ。あの姉ちゃんに渡さないとえれえ目に合わされるからな」
そう言うと、俺の腹に渾身の力で3発なぐった。
男は悶絶する俺から離れ、ガラスの灰皿を振りかぶる。
そして、砂鉄を、ブタの貯金箱を叩き割った。
俺は激しく泣いて新入り男に掴みかかった。
しかし、激痛でスタミナの切れた俺は簡単にいなされた。
男は、割った貯金箱からギュウギュウに詰まったお札や小銭を広げて数え始めた。
少女が帰って来た。
オフクロを連れて。
激痛で悶絶し、砂鉄を失った悲しさと悔しさで泣いている俺を見てオフクロは言う。
「砂金、あんた、いつも飯場にいるくせに根性がないわねぇ。そんなヌルい娘はヤラれても仕方ないわ。がっかりしたわ」
オフクロ、てめえなんてこと言いやがる。
オフクロは情けないフリしてソロバンの少女に向って言う。
「日ノ本」
「はい、先輩」
「この娘、来年には段政経研に入れるから鍛えてやって」
「承知」
「砂金、あんた、来年はこの日ノ本のところへ行きなさい」
おい、そこに俺の意志はないのか?
で、なに? この少女、高校生? ちっさ、150センチないだろ。
日ノ本と呼ばれた少女、じろっと俺を見る。
俺のちいさなつぶやきに敏感に反応した。
「先輩。この娘をしばき倒してもいいですか」
オフクロはにっこり微笑む。
「ええ、いいわ。存分にやってちょうだい」
ばばぁ、てめぇなんてこと言いやがる。
少女は俺の髪を掴んで起こし立たせる。
少女は可愛い顔で毒を吐く。
「おい、おまい、ロリチビでちっぱい過ぎて残念なヤツと言っただろ」
少女の視線は、俺から外れていた。
飯場常備の散らかったエロ雑誌のナイスばでぃのグラビアを凝視している。
ええっ! 俺、そこまでヒドイこと言ってな……
ずどむ。
ぶへっ。
俺の腹に少女のストンピングが入る。
見かけによらず、かなり重い蹴りだ。
その時新入りの男は、俺の「砂鉄」のお金を数え終わった。
「ひっ日ノ本さん、今月分の支払いはこれでお願いします」
シワだらけの札30万ほどソロバンの少女に渡す。
残った金(推定50万円以上)は自分のポケットにどんどん押しこむ。
日ノ本と呼ばれる少女は年季の入った手さばきで札を数える。
ぱぁぁん。
最後の一枚は指を弾くように札を鳴らす。
二度数える。
ぱぁぁん。
先ほどとまったく同じ乾いた破裂音がひびく。
少女はお金を腰にぶら下げたウエストバッグに入れる。
おおい、それ、俺のお金だ、かっ返せ。
ポケットから領収証を取り出し、切ったものを新入りの男にわたす。
「毎度あり。来月もよろしくね」
そう言うとソロバンの少女はにっこり微笑んだ。
そして、少女は微笑んだまま続ける。
「さて、ビジネスの時間は終わりました。いまから、おまいのお仕置きの時間よ」
少女は新入りの男に掴みかかる。
「日ノ本さん、お金は今日中に支払えばセーフでしょう? 勘弁してえな」
少女の口調が代わり低めになる。
「ほう、この這いつくばってる娘の無念はどう解決してくれるのかな」
うずくまる俺を見ていう。
「日ノ本さんをチビとか言って、日ノ本さん自身でヤキ入れたんじゃないですか」
日ノ本と呼ばれる少女、目が釣り上がり激おこモードになる。
そして、右の人差し指を天にかざす。
「おまい、いま、ウチをドブスチビと言ったな?」
「えっ、ええええ、言ってません」
「全国珠算連盟非公認、虎の穴ソロバン塾秘伝地獄の鉄指弾」
かざした指に身体から放たれるオーラが集中する。
「はあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ちょ、おまっ」
ばちこーん!
「はぐぁ」
気をまとった一撃が男の額に炸裂し、男は俺のお金と失禁弾幕をまき散らしながら外へ吹っ飛んだ。
白目を剥き、額から血が流れ煙が立ち込める。
口から魂がはみ出ている。
少女は吹っ飛んだ新入り男の方へ近寄りる。
男の胸ぐらを掴み、口から出かかった魂をワシづかみして口にぐいぐい押し戻している。
「ふむ、危ねえとこだった。おまいのせいで前科つくとこだった。」
少女は、気絶した新入りの男を気付けに痛烈なビンタを3発はった。
俺は、この少女との出会いに人生観が変わった気がする。
女ってのは、なんかこう、細くてやわい感じがした。
女とは、かわいくてかっこいいのがいい。
俺も女だ。
男まさりなとこもあるが、みんなからかわいがってもらえるから、きっと可愛いのだろう。
強く、かっこよく生きたい。
そう、あの日ノ本さんという少女のように。
俺は女としては強い部類だと思いあがっていたのが、まだまだこの有り様だ。
俺をはるかに凌駕する女、この日ノ本という強者の少女がいて、さらにその少女を上から目線で口を出すオフクロがいる。
この後オヤジに聞いたが、オフクロは口ばかりじゃなく、腕っぷしも強いという。
昔の吊るされたオフクロというのは、油断したところに毒を盛られ、シビレているところを大人数で取り押さえられたのが真相らしい。
オヤジは、しょげて言う。
「惚れてなくても、あいつには口でも腕でも勝てねえ」
俺はオフクロの怖さを初めて知った。
そして、俺は。
声を聞きたい。
俺を導いてもらいたい。
俺は、再び日ノ本という少女に会いたい。
◆
「全国高校麻雀個人の部、優勝は○×県代表の段子坂政商学園の水野砂金さんです」
高校麻雀連連盟の理事長を名乗るおっさんが俺を紹介し、握手をくれた。
理事長は言う。
「水野さん。あんた、堂に入った手さばきだったねえ。昭和ん時の麻雀を思い出したよ」
俺は優勝旗とトロフィー、なんだろう、記念品の入った大きな箱を貰う。
賞金とかは貰えない。
俺はギャラリー席を見る。
麻雀部予選1回目で敗退した、俺の学園の正規の麻雀部の連中と日ノ本鬼子会長が俺を見て微笑んでいた。
閉会式。
俺は適当に切り上げ会場を後にした。
会場の玄関口。
麻雀部の連中と日ノ本会長を待つ。
麻雀部の連中にうざい優勝旗とかトロフィーを渡さなくてはならない。
しばらく待つ。
この優勝旗やトロフィー持って待つのが目立ちすぎて恥ずかしい。
更に待つ。
ようやく、麻雀部の連中と日ノ本会長が紙袋を下げて出てきた。
俺は、うざいモノを連中に押し付けると、麻雀部部長は、記念品だけでも持って帰ってという。
日ノ本会長の方をチラ見すると、目で持って行けとばかりに語っているようだった。
俺にかける日ノ本会長の言葉。
「砂金、おまいのお陰でウチら23万円儲かったぞ。図書カードだがな」
会長、外ウマ賭けてたんすか。
麻雀部の部長が言う。
「なに、賭博はしてませんよ。昔、警察の偉い人達は現金でなく図書券で麻雀をしてたというし。砂金ちゃん、今回は砂金ちゃんに乗ったのは私達だけだったんよ」
日ノ本会長は俺に1枚の封筒をくれた。
「おまいの取り分だ。遠慮無く取っとけ」
封筒の中身は500円券1枚。
2度中身を確認した。
封筒の中身は500円券1枚、だけだった。
俺は涙がこぼれた。
なにもくれることのなかった日ノ本会長が俺に初めてくれた。
◆
帰宅後、驚きのサプライズがあった。
かさばって邪魔すぎた大きな記念品の箱をあけてみた。
見覚えのあるテクスチャー、手触り、陶製の貯金箱。
この小生意気なブタ顔は! まさに「砂鉄」だ。
砂鉄との再会には、退屈な麻雀大会に出たかいがあったのだ。
ただ、残念な部分もあった。
それは初代「砂鉄」と比べ、股間のアレがかなり小さめになってたことと、脇腹には「全国高校麻雀大会開催記念」のロゴが印刷されていた。
ネタ元にはオマージュからのリスペクトでする。みなさんにありがとう。