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第一話 傘のある都市

 机の上に肘を付きながら、俺は学校から出された魔法史の課題に取り組む。

魔術師マーリンと『アーサー王物語』との関係性。バチカンに存在する魔術統括監察省と各国の魔術管理組織の設立起源。皇室や陰陽寮が紡いできた日本の魔術の歴史……などなど。それらの要点をまとめ、レポートにするのが今日の宿題だ。

 

 三年前、この街に魔法界が落ちてから、今まで政府や宗教組織がひた隠しにしていた『魔術』という技術と、それによって動かされてきた暦史は一般人の知るところとなり、東京府に住む少年少女たちは社会科に厄介な科目が増えたのであった。


 黙々と課題をこなし、現代史の部分に取り掛かる。さきに教科書の方を読んでから書くか。


「『西暦2021年。日本の旧首都東京に、〈この世界〉から別の世界に移った魔術師たちや魔族による共同体、〈魔法界〉が落下し、日本の政治経済をはじめ、世界中に波紋を呼んだ。魔法という新技術が一般民衆に開示され、同じく魔法を中心に運営されており、宗教や神話の存在だと思われていた〈天界〉や〈魔界〉、〈高天原〉など、人類を超越した神々が住まう世界が存在することも同時に明らかとなった。神々は人類に対して中立不干渉の姿勢を現在もとっている。王家を始めとした〈魔法界〉の住民は即座に日本に恭順し、混乱は小規模に収まった。これら一連の事件を『東京騒乱』と呼ぶ。』。――このへんはリアルタイムの出来事だったから書くのは簡単だな」


 当時のニュースや新聞の報道、実体験をまじえてレポートを書き進めていこうと思っていると、


「む、その教科書の記述は間違っているんじゃない?」


 と、日差しの入る窓を背に、長い金色の髪の黒いゴスロリ装束を身に纏った少女が笑みを携えて言ってきた。中学生ぐらいの年齢の彼女が、偉そうな姿勢で椅子にふんぞり返ってマンガを読んでいるやつが教科書にけちを付ける光景は、見ていて中々腹ただしい。


しかし、文部科学省の厳しい検定をくぐり抜けた教科書の、一体どの部分が間違えているというのか。


「何処も間違えてないだろ」


 すかさず金髪少女は自信満々に答える。


「『神々は人類に対して中立不干渉の姿勢を現在もとっている。』の部分が不十分よ。そこは補足に『しかし、魔界から東京アンブレラ・セクターに来た悪魔美少女は、今日も世のため人のために粉骨砕身で戦っている。』って追加するべきね」


 自分で美少女と謳うのもどうかと思うし、机に足をのっけて週刊マンガ雑誌を読む姿を『粉骨砕身』と表現するのも凄まじい。

 俺が黙っていると、


「そうだ秀人しゅうとっ。課題の現代魔法史テーマは『スペルディア請負屋の社史』にしなさい!」


「創業一週間しか経ってねーだろ。しかも依頼人は未だゼロ……」


 俺の発言に彼女は、


「一人居たじゃない」

 と答えた。


「誰だよ」


「あんたが依頼人一号よ」


 そうだった。報酬の代わりとして、俺は学校帰りにここに立ち寄り、彼女の助手として動けるよう、依頼人を待ちながら学校の宿題をこなしているのだった。


「だいたい、依頼人が来ないのは助手の宣伝が足りないからよ!」


「お前の働きが足りないからだよ」


 む、と彼女は言い残し、隣の部屋へと駆け出して行った。


 やれやれ、ようやく続きに取り掛かれる。

 再び俺は当時のニュースや新聞の報道、実体験をまじえたレポートを書こうとしていると、


「秀人っ、これを外で配ってきなさい!」


 すぐに戻ってきた彼女はダンボールを俺の方に放り投げ、


「それで客を呼び寄せなさい。私は部屋の掃除を始めるわ」


 箒で俺を外へと追っ払い、床のモップ掛けを始めた。

 

「今までのはほんの実験期間よ。何も宣伝しなかった場合の集客データを取っていたのよ」


 うそつけ。


 仕方ないので俺も仕事を始めますか。





 外に出てダンボールを開け始める。春になったばかりの東京は、コートを着ていてもまだ肌寒い。


「さむっ」

 思わず声が出る。

 

 ダンボールの中身はポケットティッシュだった。広告用紙には『ご依頼はスペルディア請負屋へ!』と書かれている。いつの間にこんなものを。


 しかしこの時間帯はあまり人が通らない。俺はいくつかティッシュを手に持ち東京の中央、千代田区の方へと目を向ける。


 全長数十キロにも及ぶ巨大な魔動力供給機関、バベルの塔が逆さまに突き刺さり、塔の根元の方(我々から見た場合は上のほうだが)には巨大な大地が乗っかっている。半径も、これまた数十キロある大地は、バベルの塔と同じくこれまた逆さまになっている。


 塔を傘の柄。ひっくり返った大地は傘のよう。まるで地面に置かれた傘のようだ。


 

 こんな様相から、この東京は"アンブレラ・セクター"と呼ばれているのだった。

 









 



 




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