表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説

え! うそ!?


 私は今年で70歳。長年患っていた心臓病が悪化し、今は入院している。もう、あまり長くないらしい。


 私は家族にも仕事にも恵まれ、とても幸せな人生を送ってきた。たった一つの後悔を除いて。



『好きです。付き合ってください』


 幼い私が、一生分の勇気を振り絞って送ったメール。今思うと、私はあのとき本当に、全ての勇気を使い果たしたのだろう。その後の人生で、あれほどまでに勇気を振り絞った記憶はない。


『絶対に返事をするから、少しだけ時間をください』


 これが、彼からの最後のメール。私はずっと待っていたけれど、彼からの返事はなかった。そして、気がついたら50年近い歳月が流れていて、私はもうおばあちゃん。


「あぁ、懐かしいな……」


 死を間際にして思い出すのは、家族との楽しかった思い出とか、仕事が上手くいったときの喜びとかじゃなくて、小さく淡い、幼い恋の後悔。あのときの私には、ただ待つことしかできなかった。今ならもっと他に方法が……。


「ピロピロピロ! ピロピロピロ!」


 私が感傷に浸っていると、突如、スマートフォンが鳴り出した。


「メールだわ。誰かしら?」


 私はどうせ息子からのメールだろうと思い、シワシワの手で巧みにスマートフォンを操り、何の気なしにメールを見た。


「え! うそ!?」


 私は死ぬほど驚いた。


『やっぱり僕は君のことが好きだ。50年間ずっと考えていた。今やっと想いがまとまったよ。ずいぶん時間がかかってしまったけど、あの日の返事をさせて欲しい。僕と、付き合ってください』


 メールの主は、淡い初恋の相手。今頃になって、返事をよこしやがった。


「うぅ! ぐ、ぐるじい……」


 突如、ドキドキが胸を襲う。苦しい。このドキドキは、恋によるものなのか、それとも長年患ってきた心臓病のせいなのか、私にはわからなかった。











「おばあちゃん、死んじゃったの?」


「あぁ、急に心臓病が悪化してしまったらしい。ずっと病状は安定していたのに……。お医者様も、急に病状が悪化した原因は、わからなかったらしい」


 死んだ母の顔を見る。すごくビックリした様な、それでいて初恋に胸躍る生娘の様な、不思議な顔をしている。


「ねーねー、パパ。おばあちゃん、少し若返ったんじゃない? 前はもっとシワシワだったよ」


 まだ、”死”というものをちゃんと理解できていない娘が言う。


「そうだな。言われてみれば、少しだけ若返った様に見えなくもないな……」


 正直、悲しみで胸がいっぱいの俺には、そのわずかな変化はわからなかった。


「ん? これは母さんのスマートフォン…………このメールは?……そうか、これが原因か」


 でも、娘の言うとおり、ほんの少しだけ、母さんは若返っていたのかもしれない。俺は母さんのスマートフォンに残っていたメールを見て思った。


 

 恋の魔法は時を超え、ほんの少しだけ、時間を巻き戻したのかもしれない。



                ~終わり~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 拝読しました。コメディかと思いきやカテは恋愛でしたね。 ちょっと気になった点。 ・五十年前ってことはおばあちゃんは二十歳? 二十歳の自分を形容するなら幼いというよりは若いとか青いとかの方が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ