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7、海!

 「すごい……別荘だね」

 僕の目の前にあるその建物は、丸太を行儀よく並べて組み立ててある、俗に言う『ロッジ』と呼ばれる物に似ていた。しかし規模は比較にならないほど大きい。

 学校とまではいかないが、体育館くらいの面積はあるんじゃないだろうか?

 ……ごめんちょっと過剰表現だったかも。

 まあでも今日集まったメンバーくらいなら確かに余裕で泊まれるようだ。


 ちなみにここはレンの家の別荘である。

 レンっておぼっちゃまだったんだ……知らなかった。 

「別に親のであって俺のじゃないからすごくねーよ」

 なんてつまらなそうに言った。


「皆様ようこそおいで下さりました。わたくしは明道家の執事でピエールと申します。ささっ、どうぞ中にお入りください」


 執事は深々と礼をしてそう言うと、木製の玄関ドアを開け皆を中に招き入れた。

 さすが執事さん。物腰が柔らかく何でも卒なくこなしてしまいそうだ。

 僕は少し『執事』という職業に興味がわいた。

 

「すげー」「ひろーい」「木の香りがするー」「なんかこのテレビからでてきそう」


 なんて皆はしゃいでいる。

 んー、これなら泊まりも悪くないかな。 


最初は泊まる予定ではなかったのだが、結局2泊3日の泊まりで遊ぶことになったのだった。

 というのも宿泊施設はお金もかからないし、レンの実家の執事が保護者として引率してくれることになったからだ。


「皆様のお部屋はお好きな所で結構ですが、念のために男子が向かって左側、女子が右側の部屋にして頂きますようお願い申し上げます」

 ピエールさんが別荘の案内をしてくれていた。


「こちらがお風呂となっております。一箇所しかないので交代でお入りになるか、広さは十分にあるので一緒にお入りになっても良いかと存じます」

 お風呂は一つかぁ……女子はもちろんだけど、男子とも微妙に一緒に入りづらいんだよなぁ。

 夜中にこっそり入ろうかな。うん。


「お食事のほうは蓮太郎様がいらないと申しましたので、お出ししませんが……本当に宜しかったのですか?」

 ピエールはちらりとレンのほうを向いた。

「ん、いいって、子供じゃないんだから。それにこういう時は皆でカレー作るのが定番だろ?」

 ニヤリと笑い、皆を見渡した。

 僕達は子供だけどね、なんて無粋なツッコミはしないけど……まあその事には賛成だ。

 只でさえ寝泊まりの場所を提供してもらっているんだから、食事くらいは自分たちで何とかしたいと思っていた。

 それにきっと皆で作るカレーはきっと美味しい。これは間違いない。

 この中に紫色のカレーを作る人がいなければだけど。

 そんなアニメみたいなことはないよねさすがに!


「んじゃここを起点にして各自、海に行ったり好きなことしていいぞー。ちなみに部屋は好きな所使っていいけど複数人で一部屋使う感じでよろしく。さすがに一人一部屋ってほど無いからな」

 

 レンがそう言うとみんな興味津々にロッジの中を探検し始めた。

 


 ――――夏休みが始まって数日が過ぎている今日。

 僕達の二年生クラスで9人(うち男6女3)、薫ちゃんの一年生クラスから3人(女3)総勢12名が遊びに来ていた。

 正直かなりの大所帯である。

 僕達のクラスから人数が集まるのはまあ不思議ではない。あれだけ皆の前で騒いだんだからね。土下座してたし。


 一年生のクラスから3人というのは、妹と紀子、そして二人の話を聞いた一人の娘が、私も行きたいと言ったらしいのである。

 



 ちなみに男子達は今回かなり燃えている。

 彼女いない歴=年齢をついに脱する時がきた! なんて張り切ってる。

 確かに今回はそういう意味では絶好の機会なのである。

 海なんて只でさえテンションMAXになる場所なのだ。そんな中で五日間のアバンチュールなど、何も起こらないほうがむしろ不自然なのである。


「よっしゃー! みんなで彼女作ろうぜ!」


 なんて誰かが言ってた。

 ……彼女かぁ。

 僕にできるのかな?

 できるとしたらどんな女性ひとだろう。



 


「こ……こんにちわ、真琴さんです……よね?」

 不意に僕は声をかけられた。


 ロッジの入り口に待合室てきなロビーがある。そこはテレビやソファーなどがあり、他にも全員座れそうなテーブルや椅子などがあった。ソファーに座って一息ついていた時だった。


「え、あ……うん、えっと君は……」

 突然だったのでどもってしまった。

 かっこ悪い、僕はとっさの出来事に弱いんだとほほ。


「あ、あの! 私は水野早希みずのさきって言います。薫ちゃんとは同じクラスでゅ!」

 

 でゅ……

 噛んじゃったのかな、なんか可愛い。


 僕がきょとんとしていると、水野早希と名乗った娘は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 いけないいけない。本人も恥ずかしいだろうし、ここは気が付かないふりをして流さないと。

「あ、えっと、ご丁寧にありがとう。僕は睦月真琴です」 

 僕はにっこりと早希ちゃんに向かって笑いかけた。


「は、はい! えっとその、きょ、今日からどうぞよろしくお願いいいたしますーーー」

 早希は頭でドリブルでもするんじゃないかというほど、勢い良く何度もお辞儀をした。

「さ、早希ちゃん、そんなにかしこまらないで……ね?」

「ご、ごめんなさいごめんなしゃい」 

 なんでだかすごい緊張してるみたい。釣られてこっちまで緊張してきちゃうよ。


「早希ちゃん、とりあえず深呼吸をゆっくり三回しよっか、ね?」

「は、はい……すぅー……はぁー…………すぅーー……はあー、すうー……はぁ」

 早希はゆっくりと、本当にゆっくりと深呼吸をした。

 律儀に三回きっちりと深呼吸する姿をみて可愛い子だなと思った。

 落ち着いてきたのを見計らってから僕は話しかけた。


「落ち着いた?」

「はいっ、ありがとうございます」

 そう言って早希は、はにかむように笑った。

 うん、やっぱり笑顔が可愛い子だ。


「そういえば僕、さっき咄嗟に早希ちゃんって名前で呼んじゃったけど……苗字で呼んだほうがよかったかな?」

「い、いえ! 是非名前で呼んでください。私、名前をとても気に入ってますし」

 そういうと早希は嬉しそうにしている。


「うんそれじゃ遠慮なく早希ちゃんって呼ばせてもらうね、今日から暫くよろしくね早希ちゃん」

「はいっ、こちらこそよろしくお願いします!」


 

 

 

 夏だ!


 海だ!

 

 水着だ! いやっふぅぅぅぅ!



 って男子が叫んでる。


 

 僕も恥ずかしながらテンションが上がったのか釣られて叫んでしまった。


 遠くで女子がジト目で……薫ちゃんはやばい。あれは鬼の目だ。

 でも僕にも男子の血が流れてる。こんな馬鹿みたいにはしゃぐのも男子の特権だよね。


「真琴のロリ水着すげぇぇ最高おぉぉぉぅぅぅっぅぅぅ!」


 レン、ちょっとは自重して。

 

「おーい真琴泳ぐの競争しようぜ!」

「おっけー! 負けないよ!」

 僕とレンは一心不乱に泳ぎだした。あまりある体力を消費するために……



 ――――僕達は泳ぎ疲れて砂浜に打ち上げられたクジラのように倒れていた。

 ちらちらと皆の事を見ていたけれど、どうやら男子の皆はちょこちょこと女子と一緒に遊んでいるようだ。

 ビーチバレーをしたり、砂で城を作っていたり。

 お、むこうの岩場では二人で座ってる人もいる。

 うまくやれているね。よかったよかった。


 僕がそんな事思いながら皆を見ていたら、後ろから影が差し掛かった。

 後ろを振り返ってみると、薫ちゃんが僕を見下ろしていた。

「やほー、砂浜気持ちいいよ」

 僕はペチペチと濡れている砂浜を叩く。

 この吸い付くような砂の感覚が気持ちいい。

「お兄ちゃんはしゃぎ過ぎだよ、てか20分くらい泳いでたでしょ。元気過ぎ!」

 薫ちゃんは僕にそういうと、隣に座ってきた。


「だってあまりに気持ちいいからさ……っていうか思ったんだけど、ここ人いないね、私有地?」

 僕の隣で同じように横になっているレンに向かって質問した。

「いや、そういう訳じゃないけど、観光地ってわけでもないからな。地元の人くらいしかこないんじゃないか?」

 顔を上げずにダルそうに話している。疲労困憊みたい。そんなに疲れたのかな。


「てか真琴、小さな体のどこにそんな体力あるんだよ! まじ後半死ぬかと思ったぞ」

「あはは、そんな体力はないと思うけどね、レンが体力なさすぎなんじゃない?」

 そう、僕は部活をやってるわけでもないしね。

「いや、お兄ちゃんは謎のパワーを持ってるね。間違いないよ」

 そんな……パワースポットとかじゃないんだから。




「ところで紀子ちゃんは?」

 僕は気になっていたことを聞いてみた。

「んー、紀子はあの岩場のとこだね」

 なんだか遠い目をしてそちらを見ていた。

 あ、あれ紀子ちゃんだったんだ。さすがに遠くて顔まではわからなかった。


「なんか男子に声かけられて、二人で話したいんだとさっ」

「そっか……」

 なんだかこっちまでドキドキしてくるシチュエーションだ。

 どんなこと話してるのかな。

 ふと隣にいる薫に視線を向けた。

 少し複雑そうな表情をして紀子を見ていた。


 何を考えているんだろう。

 恋愛の事になると僕はど素人だ。

 だから妹の考えることもよくわからない。

 普段の生活のことなら結構わかるのに……。


 僕はふと遊園地での出来事を思い出しレンを見た。

 日光浴してるトドのようにいい笑顔だった。



「あ、そうだ。二人に聞きたかったことがあるんだけど」

 僕はそう言って二人の顔を交互に見た。


「なんだ?」

「なに?」


 二人は同時に返答してきた。

 なんかちょっと面白かったけど、それを指摘したら薫ちゃんにどつかれるので僕はそのまま話を続けた。

「水野早希ちゃんってどんな子なの?」

 僕は率直に聞いてみた。


 薫は岩場の方角を見つめたまま答えた。

「んーそうだね、ちょっと人見知りする嫌いがあるかな。特に男子には話しかけられるだけで怯えちゃってあの子から話しかけることはまずないかな」

「えっ、そうなの?」

 これは驚きだった。

 確かにちょっとおどおどしてたけど、そこまでとは思わなかった。


「まあでもいい子なのは保証できるよ、今回の旅行でもっと仲良くなりたいと思ってるよ私は」

 薫はそう言うと手をグーにしてグッっと小さくガッツポーズをする。

 さすがは薫ちゃん、前向きでしっかりしてる。

 それに僕も早希ちゃんとは仲良くなりたいと思っていた。


「一年C組水野早希、成績は普通。容姿は可愛いので男子に人気がある。ただ本人にはその自覚はない。しかし男子が苦手という弱点がある。理由は知らないけどな」


 レンがちょこっとこちらに顔を向け、矢継ぎ早に説明してくれた。

 さすが情報通のレンである。

 どんな情報網があるかは怖くて聞いたことないけれど。


 僕は早希の自己紹介のときの様子を思い出した。

 くすっと心で笑った。そそっかしいけど一生懸命で、見ていて微笑ましくなるようなそんな感じ。


「男子に人気があるんだ……」

 ぼそっと薫がつぶやいた。

 あ、羨ましがってる……。

 薫ちゃんだって十分に人気はあるよ! ただ……女子の視線もあって話しかけられづらいってだけで。


 そうなのだ。薫に話しかける=多くの女子を敵にするということになり得るのだ。

 僕は知ってる。家ではとても甘えん坊でそれでいて可愛い笑顔もする。

 可愛い物が大好きだし、料理も上手い。恋愛ドラマだって好きだ。

 ただこれを知ってるのは僕だけ。

 結局、薫のイメージは頼り甲斐があってカッコイイっていうイメージしかないのだ。


 僕は今回の夏のイベント中に、少しでも薫ちゃんのそういう一面を皆が知ってくれればいいなと思うのだった。

 そうすれば少しは何か変わるんじゃないかなって……。



「――――そっか、二人ともありがとう」

 男嫌いだからあんなに緊張してたのだろうか。

 でも挨拶してきてくれたって事は、僕の事はそんなに意識しないでくれたのかな?

 それならばお友達になることはできそうだ。

 

「まあ、真琴なら友達になれるだろうな」

 僕の考えはお見通しなようだ。

 そしていつの間にかレンはあぐらをかいて座っていた。


「む、お兄ちゃんに早希を盗られないようにしないと」

「と、盗ったりしないから! 僕はただ友達が欲しいだけだから!」



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