表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

4、遊園地(薫視点)

薫視点です。

一応真琴のだけ読めば大丈夫だと思います。

これは薫の心情を表すものなので不要な方は飛ばしていいかもしれません。

同じ時間軸なので4話扱いになります。

「それじゃ、いってきまーす」

 そう言いながら兄は元気よく玄関から飛び出していった。

 楽しそうだな。本当に楽しそう。女装してるのに。

「なんかホント絶対必ず確実に……」

 邪魔する。

 そう決意を胸に「よしっ」と気合を入れるのだった。

 

 薫は結局可愛い服を選んでしまった。

 だって仕方ないよ、可愛いんだもん!

 く、凶器だよ、あの可愛さは。……うらやましい。

 

 兄が出ていったあと、私はすぐ行動に移した。

「紀子、私、そろそろお兄ちゃんが駅につくと思うから、ばれない場所で合流ね」

「りょうかーい、しかしなんだか燃えるねぇ、こういうの」

 私たちは携帯で連絡をとる。

「なんかノリノリだね」

「のりこだけにねっ! あはは」

 うーん五月でこんなに天気がいいのに、寒冷前線に近づくことになるなんてね。


 紀子とは駅で待ち合わせをする手筈になっていた。

 私は兄のあとを追って、紀子は駅ですでに待っている。

 そろそろ駅の改札が見えてきた。

 どうやら兄は改札を入って右へいったみたい。

 私もカードをピッと通して改札を入る。

「紀子、今どこ?」

「改札入って左の自動販売機の横にいるよ」

「おっけー」

 素早く連絡を済ませると紀子と合流した。

「ほらほら、見てみなよ、みんな真琴さんをみてるよ」

 そういって指を指す。

 確かに周りにいる人は兄のほうをチラチラみている。

「誘拐でもするつもりか……」

 私はそんなことを呟いていた。

「いやいや、薫は過保護すぎだから」

 紀子が呆れている。

 ごめん、でも私だったら確実に……

 グッと思わず手に力が入る。


 ちなみに今日の私たちの服装は地味な格好をしている。

 変な所で目立つわけにはいかない。

 見る人によっては、薫と紀子もカップルだと思えるだろう。

 ただし自動販売機の横に二人で隠れようとしている変なカップルにしか見えないが。

 もちろん自動販売機からはみ出している。

 俗に言う頭隠して尻隠さずならぬ、薫隠して紀子隠さず状態だ。

 普段の真琴だったら気がつくかもしれないけれど、真琴自体ものすごく緊張しているので周りが見えていないのだ。


 遊園地についたのは開園10分前のようだ。

 どうやらレンはもう着ているらしく、兄の存在に気がついていない。

 そうしたら兄がレンの後ろにこっそり回り込もうとしていた。

「おー、なんか恋人っぽいねぇ、ちょっとドキドキしちゃうねぇ」

 紀子はノリノリだ。

「お兄ちゃん……くー、そんなことはさせない!」

 薫は携帯をとりだし『バカ』と記入されている電話帳にコールした。

 本当は携帯にアドレスを入れておきたくないのだが、あいつのところには兄がいる可能性が高い。だから何かあった時のためにも消すわけにはいかない。

「ふっふっふ、ネタばらししてやるわ」

 薫は一人ほくそ笑んでいる。

「ほんと兄のことになると、鬼にも悪魔にもなるね、あんたは」

 そんなときだった。

 すでに後ろに回り込んでいた兄がレンを驚かせてしまっていた。

「あ」

「あらら」

 携帯が宙を待っている。

 そして兄とレンは楽しそうにしゃべっている。

 レンはいつもの二倍……いや、三倍はテンションが高いだろうか。

「なんかむしろ手助けしちゃったね」

「うん……」

 薫は底知れぬ寂しさに包まれた。

 そんな親友を見かねた紀子は、薫をの頭を撫でた。

「ほら、そんな顔しないの、あれはいつもの二人だよ。だからあたし達も楽しんでやろうよ!」

「うん、ごめんね紀子」

「いいっていいって、もし本当にやばいときはさり気なく合流しちゃおう」

「ありがとう紀子」

 相変わらずしょぼんとしている薫をみて、紀子は思った。

 ほんと『恋愛』に関してだけは薫は弱いんだなと。


 一方、薫の方はなんでこんなに落ち込むのかよくわからないでいた。

 大好きなお兄ちゃんが取られちゃうから?

 私はそんなに独占欲が強いのだろうか。

 そんな事ばかり思っていた。


「あ、二人が中に入っていっちゃうよ」

 さっきまで何やら探していたようだった、多分携帯だろう。

「よしっ! もう私開き直ったからね! とことん監視してやるんだからね」

 薫は少し怒ったような顔をし、そう決意を新たにする。

「あはは、お手柔らかに頼むよ薫くん」

「うむ」

 そんな軽口を叩きながら兄達を追っていったのだった。


「バックスペースマウンテンか……」

「みたいだね、あたしは平気だけど、薫もいけるっしょ?」

 そう紀子は聞いてきた。さすが私の親友だ。

 そんな心配をしてくれる人なんて身近では兄だけなのだ。

 世の中は上手くできていて、その人の足りない部分を補ってくれる人が身近にいることが多い。

 私は俗に言う『ずぼら』な性格なので、そういう人が身近にいるのはとてもありがたかったし、助かるのだ。


 兄達に見つからないように並ぶ――のはかなり難しかった。

 なにせ、並ぶ列は蛇行していて少し後ろに並んだだけでは真横に兄達が来てしまうからだ。

 だからかなり後ろに並ばなければならなかった。

 乗らなければいいという最終手段もあったが。せっかく高い入園料を払ったのだ。

 これはもう遊ぶという選択肢しか残されていないのだ。


「これ……乗り終わったら見失っちゃうんじゃない?」

「あたしもそう思う」

 でも乗りたい。二人の気持ちは同じである。



「いやー楽しかったね」

 満面の笑みでそう語る薫、入園前の暗い顔はどこ吹く風だ。

「うむうむ、あのバックで駆け抜けるスピード感はやみつきになりそうだわ、しかし叫びすぎて喉乾いちゃったよ」

 そうなのだ。

 紀子は事あるごとに「ひゃっほー」だの「いやっほー」だの、最後には「ヒャッハー」だの、もう完全に荒野をバイクで走る部族と化していた。

「正直、私、隣に座っててちょっと恥ずかしかったし」

 ヒャッハーはないでしょさすがに。

「のんのん、薫さん、こういうものは楽しんだもの勝ちなのだよ」

 そんなもんかね、でもそんな姿を知り合いに見られるかと思っただけで、私は無理です。それこそヒャッハーです。


「飲み物買ってこようかな、どこか座る場所に……あれ?」

 紀子がキョロキョロとあたりを見回していたかと思うと、すぐに私の手を引いて物陰に隠れた。

「ちょっ、どうしたの紀子」

「ほら、あそこに真琴さん達がいるよ」

「あ、ホントだ、何してるんだろ」

 どうやらレンをベンチに座らせて、兄が何かしゃべっているようだ。

「どうしたんだろ、あ、真琴さんどこか行くね」

「うん、これはチャンスなのかな」

 そう、よく分からないけど、これは好機なのではないだろうか。

「行こう! 紀子!」

「え? あ、うん、え? な、何しにいくの!」

 そんなの私にも分からない、でも今はチャンスなのだ、きっと。


「ちょっと、あんた。お兄ちゃんどこにいったの」

 薫は唐突にレンに向かって言葉を投げかけた。

「へ? あれ、薫ちゃんに、紀子ちゃんじゃん。どうしたのこんな場所で」

 なんだか少し辛そうに、そう答えてきた。

「レン先輩ちっす、いやぁ偶然ですね。あたし達も今日遊園地に行く約束してたんですよ」

 いやあほんと偶然だなあ、といった感じで紀子は言った。いやあまあ、紀子がいうとすごいわざとらしい。本人はそんな気ないだろうけど。

「ふぅんそっか、まあお互い遊園地ライフを満喫しようや」

「そんなことはどうでもいいから、お兄ちゃんは?」

 私は少し苛立ちながらそう聞き返した。

「ああ、真琴なら水を買ってきてくれるってさ」

「水を?」

 私が怪訝な顔でそう聞くと。

「まあ、情けないことに俺はジェットコースターが苦手なんだよ……それでダウンしちゃったってわけさ」

 はあ、なにそれ。自分で遊園地誘っておいて乗れないって……

 私は気がついたらジト目で睨んでいた。

「すまん、そんな目で睨まないでくれ。俺もバック走行じゃなかったらそこまで、ヘタルことは無いんだ。今回は調子悪かったというか、昨晩全然寝てなくて! それでだと思う」

 なんだか言い訳がましいことをいっている。

 兄はそれで騙せても私は騙されないから。

 くぅー、こんな男と兄が一緒に遊園地なんて! ゆるせん。


「まあ、薫、とりあえずここから離れよう? 真琴さん帰ってきちゃうよ」

 二人の空気を察しのか紀子がそう言ってきた。

 確かにこのままここで話してても駄目な気がする。

 っていうか私の目的ってなんだっけ。

 どうしてこいつと話しをしてるのか分からなくなってきた。

「ちょっと来て」

「え」

 そう言うと私はレンを引っ張っていった。


「おあ、ちょ、待ってくれよ」

 薫はさっき物陰に隠れていた場所にレンを連れ出していた。

「ここならよしと」

 私はふぅと一呼吸おき、キリッとレンを見つめてこう伝えた。

「今から一緒に行動しない?」

 こいつと兄を一緒にさせておけない。もう最終手段を使う時だ。

「ちょ、薫、最終手段使うの早くない?」


 そんな私達の様子を見ていたレンは真剣な顔になり、

「いや、悪いがそれはできない」

 レンは真っ直ぐ薫を見てそう言ってきた。

 む、まさか本当にお兄ちゃんのことを? そう考えるしかなかった。

「理由を聞かせて」

 私は目を逸らさず怒ったような、いや多分怒ってる。そんな口調で言った。

「もちろん、これは俺の覚悟だからだ、今日俺は自分のすべてをさらけ出すつもりだ、それがどういう結果になろうとも」

 そう――レンは言った。

 そうなのだ、私はそれが怖かった。

 普通ならばありえないけれど。

 あの・・・なら受け止めちゃうのではないだろうか。

 そんな悪い予感が頭の中をよぎっていた。

「そういうことだから、悪いな」

 そう言ってレンはベンチに戻ろうとしていた。

 

 ダメだ、いかせたくない。

 そんな想いから薫は手を伸ばしていた。

 だがそんな想いも虚しく手は空を切った。


「薫、大丈夫?」

 そんな声が近くから聞こえてきた。

 え、あれ、私ぼーっとしてたかな。

 その時間は数秒だったろう、実際紀子はレンが去ってからすぐ声をかけていた。

「うん、大丈夫、だと思う……」

 私は頭が真っ白になっていた。

 何故だか、レンの言葉が私の心を激しく揺らしたのだ。

 ここまで動揺するとは思ってなかった。

 しばらくは何も考えられなくなっていた。


「もう尾行するのはやめよ?」

 紀子は少し真剣な顔でそう私に優しく語りかけた。

「どうして?」

「レン先輩なんだか本気っぽかったし、あとは当人たちの問題だよ」

 確かにそうだった。

 どちらにしても兄が決めることであって。私にはそれを邪魔する資格はないのだ。

 でもだからと言ってこのまま何もしないで、ただ遊んで帰るなんてことはできそうもなかった。


 ふと薫は兄のいる方向を見た。

 そこに見えた光景は兄がレンと手を繋いで歩いていったのだった。



 もうそこからは薫はダメだった。

 紀子に申し訳ないと思いながらも、遊ぶ気にもなれず、ただお店のテーブルでうつ伏して飲み物の氷をつつくだけ。まるで酔いつぶれたサラリーマンだ。

「もう帰る?」

 と紀子に言われたけれど、やはり兄のことが気になりそれもできない状態で、どっちつかずの状態が続いていた。

 携帯で電話をして、すべて壊してしまいたいとも思った。

 でもそれだけは私の矜持にかけても、してはいけない事の用に感じた。


 今頃なにしてるのかな?

 本当に付き合っちゃうのかな?

 今もまだ手を繋いでたりするのかな?


 そんなことばかり気にしている薫にも嫌な顔ひとつせずに紀子はそばに居てくれた。

 ありがとう。

 そう思いながら薫はまた兄のことを考えていた。


 さすがに、少し落ち着いてきた。

 どうやらもう正午を過ぎてしまったようだ。

「うう、ごめんね紀子、落ち着いてきたから遊ぼう」

「んー、気にしないでいいって、でも本当に大丈夫なの?」

 多分、良いか悪いかでいったら悪いだ。でもせっかくきたのだ。いつまでも落ち込んでいては紀子に悪いし、それに私らしくない!

「大丈夫、もう遊ぶ、遊びまくってやるんだ」

「よーし! それじゃあれ乗ろうあれ」

 それから二人は心ゆくまで遊びまくったのだった。



「それじゃまたね」

「うん、明日学校で」

 駅で紀子と別れた私は、とぼとぼと日が落ちかけている道を歩く。

 あと一時間もしない内に街灯がつくことになるだろう。

「はぁー。お兄ちゃんどうしてるかな」

 一人そうつぶやくと、昼間の何とも言えない感情が沸き上がってくる。

「もしかして今頃は二人で……」

 最悪だ、私は何を考えているのか。

 早く家に帰ろう。それで料理でも作って待ってよう。

 何かしてたほうが何も考えないでいい。

 そう思った薫は足早に帰路についた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ