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2、兄、真琴の親友

「よう、真琴! 今日も可愛いな」

 登校して下駄箱に向かって「願い」を込めて開こうとしてた時、背後から声がかかった。

 毎日飽きもせず、悪気のない顔で挨拶してくる親友を僕は一人しか知らない。

「おはよう、レン」


 ――明道蓮太郎(みょうどうはすたろう)

 僕の小学生からの親友です。本当は『ハス』と呼ぶところなんだけど、

「それだとカッコ悪いからレンと呼んでくれ!」

 という本人たっての希望だったので『レン』と呼ぶ事になっのだ。

 蓮という字、確かに『ハス』よりは『レン』と読める。

 僕も最初は『れんたろうだと』思っていたんだよね……


「んで、今日はどうよ、迷える子羊の手紙はあったかな?」

 ニヤニヤした笑いでそんな事を言ってくる。

「なに、迷える子羊って……」

「んなの決まってるだろ、男からの手紙(ラブレター)のことだよ」


 そうなのだ。

 勘違いしているのか、本当にそういう趣味なのか、ごく稀にそんな事があったのだった。

 今も髪が長いので、制服じゃなければ完璧に女子だそうで。とほほ。

 僕は髪を切りたいと言っていたのですけど、妹は、

「お兄ちゃんにはロングしか似合わなから切っちゃダメ」

 と言われ、レンからは、

「俺の楽しみを切らないでくれ! 奪わないでくれ! 後生だから!」

 と泣きつかれてしまったのです。


「っていつの話してんのさ、高校に入ってからは、手紙貰わなくなったでしょ」

「そうだったっけか、まあでも気をつけるに越したことはないぞ」

 そう言いながらもう上履きを履いてしまっている。

「気をつけるって……何に?」

「そんなのイロイロだよイロイロ、さ、行こうぜ遅刻しちまうぞ」

「うん?」

 悩みながらレンに問い正そうとしたけど、きっとまた適当なことを言ったんだろうと自分の中で自己完結させた。

 ちなみに今日の下駄箱の中身はカラッポでした。



 放課後になり、教室は生徒たちの喧騒で賑わった。

 所々から遊びの誘いや部活のことでの話し声が聞こえてくる。

 僕もそんな中の一人だった。


「真琴、今日どこかいかないか?」

 レンが僕の前の、誰もいなくなった席に座って話しかけてきた。

「ごめん、今日はトンキの月曜の市で薫ちゃんと買い物に行く日なんだ」

 あ、トンキとはトンキマートというスーパーマーケットの略称である。

 ごめんねと手を合わせて謝る。

「そうか、それじゃ仕方ないな」

 レンはそういうとスッと立ち上がり鞄を肩に背負った。

「んじゃトンキに行くか!」

 したり顔でそんな事をいうレン。

「いや、僕の話きいてたよね!?」

「だから行くのさ、今をトキメク薫ちゃんも来るとなっちゃあ、両手に花だろ! こんなにオイシイことはない!」

 うん、友人としてこの清々しさは絶賛できるけど……

「……もう僕が男だってツッコミは疲れたからしないよ」


「お兄ちゃんなんでコイツがいるの?」

 校門の所で待ち合わせをしていた僕達と出会った妹の第一声がそれだった。

「いいだろ、減るものじゃないし」

「ダメ、私の気力が減るから」

 心底ウンザリしたような表情でため息をついた。

「おいおい、ここに俺達の気力回復剤がいるじゃないか」

 そういって僕のことを指した。

「お兄ちゃんは、わ・た・し・の! 気力回復剤だから!」

 薬みたいな感じになってる僕は否定しないんだね薫ちゃん……


 いつもの様に二人はいがみ合っていた、どうやら犬猿の仲らしい。

 どうして仲が悪いの?

 と前、薫ちゃんに聞いたことがある。そしたら、

「やつは絶対お兄ちゃんを狙ってる、あれはハンターの目だよ」

 なんて言ってたけど……

 確かに、そういえば昔こんなことがあったなぁ。




 ――小学生のころ、レンは転校してきた。


 その頃、僕は今よりも小さく服装も女の子っぽかった、髪も長く、どこからどう見ても女の子していた。いや、させられていたと言ったほうがいいのだろうか。

 そんな僕のことを一目惚れしたらしく、当時からレンは人目を気にしないで積極的で、自分に素直な性格だった。


 普通は小学生くらいの男の子は誰かを好きとか嫌いとか、からかいの対象になってしまうものだが、レンはそんなことを気にする玉ではなかった。

 誰かが「そいつ男だぞ」なんて言っていたけど、信じていなかったようで、レンは臆面も無く、

「一目惚れしたから友達になってくれ!」

 ストレートに、本当に真っ直ぐな気持ちで、告白してくれた。

 僕は男友達がいなかったのですごい嬉しかったのを覚えてる。

 しばらくしてレンは、僕が本当に男だという事実に気がついたけれど、

「別に好きなことは変わらないからいいだろ」

 って言ってくれた。


 その言葉に感動して泣いてしまったのをよく覚えている。

 そんなレンだからこそ、からかわれても、僕は親友として大好きなのだ。

 

 何だかんだ言いつつもトンキで買い物を済ませた僕達は、レンに手伝ってもらいながら帰宅しました。なんでも、

「この構図で俺だけ荷物持ってないとイケナイ事をしてる気がする」

 ということらしい。

 薫ちゃんはここぞとばかりに重たいものを持たせていた。

 そのままレンを帰してしまうのはさすがに悪いので、家に上がってもらう事にした。

「久しぶりだけど部屋わかるよね? 僕の部屋に行っててよ」

「おう、さんきゅー」

 靴を律儀に揃えるあたり、変な所で几帳面である。

 僕はコーヒーを入れると階段を慎重に上がっていった。


「買い物袋持ってもらっちゃってありがとね、かなり重かったでしょ」

 コーヒーを差し出しながら感謝の言葉を口にした。

「いいっていいって、それより何かしようぜ」


 レンは感謝されるのが恥ずかしいのか、すぐ話題をずらそうとする。僕はそんな彼を、いつもの仕返しとばかりにお礼をいうのは欠かさないことにしてる。まあ、お礼を言いたいのは本当の気持だしね。


「何かって……自慢じゃないけどこの部屋遊ぶようなもの何もないよ」

「あれ、将棋なかったっけ? 久しぶりに将棋崩しやろうぜ」


 懐かしい、小学生の頃はよくやってたっけ。

 将棋の駒の動きは覚えるの面倒だとレンが言ったので、誰でもできる将棋崩しが当時の僕達のブームになっていた。


 将棋崩しは箱に詰めた駒を盤上にひっくり返して山を作り、それを交互に指一本のみを使って盤上の外へと駒を引きずり落としていくゲームである。

 その際、音がしたり、指が駒から離れてしまったりしたら、その人のターンは終了という仕組みになっていて、全部の駒がなくなったら終了。駒の点数はなく、多くとったほうが勝ち、という感じ。


「いいね、将棋崩しなら負けないよ」

 そう、僕は強かったのです。何故なら将棋崩しは結局堅実に駒を取っていく事が勝利への近道。

 毎回大勝負にでて一気に駒を取ろうとしているレンは、殆ど崩すの専門となっていた。


「よーし、じゃあ負けたら罰ゲームってことで」

 レンが突然そんな事を言った。

「えっ、罰ゲームって何するのさ」

「勝ったほうが適当な罰ゲームをいえばいいさ」

 レンの作戦だろうか、僕を動揺させようとしている?


 どっちにしろ僕が勝っても大したことは言わないだろうと思っているに違いなかった。

 そうなのだ、きっと何も思いつかなくてシッペ程度のことしか言えない。

 それを知っているからこその罰ゲームの提案だろう。


「よし、準備そろった! 最初はグー! じゃんけんぽん!」

 間髪入れず将棋崩しは始まった。

 きっとそれも作戦だったのだろう。

 僕はとっさのじゃんけんではグーしか出せなかった。

 レンは当然のようにパーをだし先行を取られた。


「ふっふっふ、いくぞ俺のゴットフィンガー!」

 ゴット……まさかゴッドと言いたかったんじゃと思いつつそのゴットフィンガーを見守る。

 ゴクッ

 僕だったら絶対に手を出さないであろう山に手を……――やめた。

 そしてすぐ取れる『歩』をそのまま手前に持ってきて落とした。

「まあ、昔の俺じゃないってことよ」

 なんかカッコイイ感じに言ってるけど、決まってないよ……

「ずいぶんと謙虚なゴットフィンガーだね」

「まさしく神のみぞ知るってことだな」

「上手いこと言ってるつもりだろうけど、上手くないからねっ」

「相変わらず手厳しいねぇ、まあ次は真琴の番だぜ!」

 レンはヤレヤレと手を広げてふざけてみせた。

 まったく、と思いながら僕も普通に一番手前にある駒をとった。


「無難だな……」

「うん」



 ――そのあとも無難な攻防が続いた。

「正直、レンがここまで普通なのって初めてじゃない?」

「まあな、今日はちょっと本気モードなんだよ」

 確かにいつもふざけたことをしてるレンとは思えない真剣さだった。

 その時は特に気にしないでいたのだけれど、終わってみたらその理由が分かった。


「俺の勝ちだな!」

 結局無難な戦いが続いて先行だったレンが逃げきる形で勝利した。

「うーん、まさか負けるとは思わなかったよ、でもホント珍しいよねあんな堅実な勝負するなんて」

「はっはっは、それじゃ罰ゲームをしてもらおうかな」

 う、忘れてた。どんなことを言われるのだろう。悪い予感しかしない。

 痛いことを身構えていたけれど、レンの言ったことは僕の予想してなかった意外な言葉だった。



「今度の日曜日に遊園地いこうぜ!」



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