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17、新たな兆し

「まず初めに言っておくことがあるが、俺は真琴のことが今でも愛している。これは揺るぎないものなのだと言っておこう」

 他人が聞いたらまるでギャグのように聞こえるけど、レンは至って真面目で、それは真琴にもわかっている。

 でもそれは前から言っていることで、改めて念を押すということは、それを踏まえた上で聞いて欲しい話なんだろう。

 僕は高鳴る鼓動を抑え続きを待つ。


「だけど今回の事故のことで……俺の心の隙間に入ってくるものが現れたんだ……」

「う、うん……それは……?」

 頬が高揚し、顔が熱くなってきた。

 レンも言いよどんでいるようで、しばらく沈黙が続いた。

 沈黙が辛くなってきたころ、レンはついに意を決し、


「早希のこと気になっているんだ」

 

 やっぱり!

 あのレンがついに女の子に興味を……

 本来ならば跳んで喜んであげたいのに、僕はそれをすることができなかった。

 それは自分でも気が付かないほどの、小さな小さなトゲが心に突き刺さっていたのだ。


 ――――ッ! な、なんで?


 僕には妹がいる、今朝にそう決心したばかりだ。

 それなのにこの心に刺さるような痛みはなんだろう。

 嫉妬? そんなことは……むしろレンが女の子に興味をもつことはとっても喜ばしいことなのに。

 なら早希ちゃんをとられると思って……?

 もしそうだとしたら僕はなんて我儘なんだろう。

 僕のそんな気持ちとは裏腹にレンは続きを話していく。


「なんていうのかな、まだ好きとかそんなんじゃないんだが、今回生きていられたのは早希の力が大きかったんだ」

「早希ちゃんの力……?」

「ああ、お前がロープをとりに行ってる間、早希が懸命に俺を励ましてくれてたんだ」

「そうだったんだ……」


 あの早希ちゃんが――――いや、いざとなった時の行動力は僕も実際に体験したはず。そっか、そんなことがあったんだ。


「なるほど……それで吊り橋理論で悩んでいたんだね?」

 僕がそう言うと、レンは困った顔をして頷いた。

「そうなんだよ、この気持が一時的なものなのかもしれない、だが今この瞬間は気になって仕方ないんだよ!」



 ――▲●■――



 ――――丁度同じ頃、早希も薫に相談事をしていた。


「薫ちゃん、その……私どうしたらいいのかな」

「もしかして、あいつに言ったあの事? うーん、まあ、あの時は仕方なかったし、もし嫌ならそう言えばなかったことになるんじゃない?」

「でも、約束は約束ですし、自分から言ったのに約束を反故ほごにするなんて……」

「ま、まあそうだよね」


 それじゃ悩むこともないじゃん、そんな風に考えている薫がいた。

 どうも兄にちょっかいを出されてから早希のことが苦手になっていたのであった。

 しかしあの約束というのは薫にとっては都合がよかった。なによりその方向に物事が進んでくれたらこれほど嬉しいことはない。

 

 ……私、なんだか嫌なやつになってる。

 薫は自分の考えてることに失望し始めた。

 だけど恋愛は戦争だと聞いたことがある。お兄ちゃんは私にとって唯一の存在なのだ。自分の考えなど後回しにすることにした。


「早希、これはチャンスなんだよ、だって男が苦手なのを克服したいんでしょ? ならあいつはこれほどにない人材だと思うよ」

「そ、そうかな」

「うん、私が保証する」


 これほどまで自分に仮面をかぶって、嘘をつき、物事を言ったことがあるだろうか。

 多分……ない。

 私は嘘をつくのは嫌いだった。そしてどうしてそんなことを言うんだろうとも思っていた。

 しかし私は今嘘をついている。いや、実際嘘ではないのだけど心から思っていることではなくて、無責任・・・な言葉を発している。

 ――――これは愛の力が私をそう変えさせたのだろうか。

 薫はそう思うしかなかった。


「でも……いくら必死だったとはいえ、『私の男嫌いを治してください』なんて、ある意味告白だったよね」


 そう――――あの時、徐々に元気がなくなっていくレンを励ますためか、早希はそんなことを言ったのだった。

 そしてその返事はというと、『俺が早希の男嫌いを治してやる、だからここからでたら覚悟するんだな』と実に男らしい返事だった。


 だが実際引き上げられてから、レンと早希はほぼ会話をしていない。

 4人で会話しているときは混じったりするのだけど、二人きりにはなろうとしないのであった。

 どちらからともなく、二人とも意識しているようで、とてもぎこちないのであった。

 

「ううぅ……私どうなっちゃうのかな」

「ふっふっふ、きっと凄いことになっちゃうよ」

「えぇぇ~!?」


 からかいながらも、薫はこの二人を全力で応援しようと心に誓うのであった。



 ――▲●■――



 潮が引き僕たちは別荘へと戻ってきていた。

 ピエールさんが僕を信じてくれていたおかげで大した騒ぎは起こらなかった。

 どうやら僕たちは近くにあるレンの親戚の家に泊まっているということになっていたらしい。ピエールさんが機転を利かせてくれたのだ。

 しかし勝手に別行動をとったのだから、あれやこれやとクラスメイトからは文句を言われたのだった。まあそれは仕方ないよね。甘んじて受け入れます。

 そんなこんなで慌ただしく時は過ぎていき。帰宅することになりました。


 とても大変な想いをした旅行だったけれど、僕と妹は新たな進展をした。

 僕たちの他にもいろいろと進展はあったようだ。

 帰宅途中の移動ではみんなそれぞれ、想い人と一緒に過ごしていたようだった。

 まあ、何人かは涙を呑んで、景色を眺めていたみたいだけど……

 それもまた想い出なのだということなのかもしれない。

 

 


 帰宅の電車の中で僕と妹はずっと手を繋いでいた。

 それがみんなには仲の良い兄妹に見えたのか、あるいは違う風に見えるのか。

 終日、妹の機嫌がすこぶる良かったのがなにより嬉しかった。

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