瞬速VS瞬速
『Detroit・Mode』に変身したボスの魔装器はボスが腕を下ろして鋸刃が床に着くとまるで溶け込むようにコンクリートの床の中に沈んでいく。
チェーン状に成った外歯が高速回転して、床を紙切れのように削り取っていた。
しかも、石よりも硬い床を削っても削る音が全く響いて来ない。
これはボスの魔装器の削る力が強過ぎて、出る音が極端に小さいのだ。
「(ありゃ『チェーンソー』か! 木や木材を伐採する時に使う切断機!)」
「(しかも、全然力を入れていないのにあの切れ味! あんなので斬られたら身体が両断される!)」
ロロは盗賊団のボスのあの魔装器が『チェーンソー』と言う切断機の形をした魔装器だと見抜き、アイシャはあの魔装器に斬られたら即死物だと察知する。
そしてボスは前と同じように片足を後ろに下げて、 身を低くし助走の姿勢に移った。
「ほんじゃまぁ……行くぜっ!!」
雄叫びを上げた直後、ボスがダンッ!!!と地面を蹴ってミツルギの所へ駆け走る。
電気の衣に包み込まれた巨体は雷の如くスピードで瞬時に間合いを詰め、接近した勢いで左ストレートを放った。
それに対してミツルギはまた『縮地法』を駆使して、右へ約10mぐらいまで移動し、左ストレートを回避する。
しかし、左ストレートを回避された直後、ボスは反射的に地面を力強く蹴って左へ方向転換した。
「!!」
ミツルギは眼を見開いた。
雷のような速度で移動していたのに地面を蹴っただけで即座に左へ方向転換し、再び一瞬で間合いを詰め直したことに。
再度距離を縮めたボスは金色のチェーンソーを突き出す。
対してミツルギは左手の刀でチェーンソーを受け止める。
高速回転するチェーンソーの刃が刀とぶつかり、鈍い金属音が鳴り響くと同時に火花が飛び散る。
ボスのチェーンソー型の魔装器はコンクリートの床を紙切れのように削り取る程の切れ味だが、同じ魔装器であるミツルギの刀型の魔装器はとても硬いようで 、外歯の高速回転斬りを受けても火花が飛ぶだけで傷は一つ付かない。
なんとかミツルギは脅威の鋸刃を防げたと思えたが、一つだけ〝防げていない物〟があった。
それは突き出されたチェーンソーを受け止めた時の衝撃。
ボスの持ち前の腕力と重量、そして雷に匹敵するぐらいの速度が合わさったチェーンソーの力は半端なく、全長約30mの『古代獣』を一時的に動けなくしたミツルギの腕力でも耐え切れず、後方20mまで吹き飛ばされた。
約20m後方へ吹き飛ばされたミツルギは到着点に在る屋上のフェンスに受け身を取らないまま、背中から激突する。
吹き飛ばされた勢いも凄まじかったので、バキキッ!!!という鈍い音と共にフェンスが大きく捻じ曲がった。
「「「ミツルギ!!」」」
ほんの一瞬の出来事だったが、仲間の中でも未知数の実力を持ったミツルギが簡単に吹き飛ばされ、フェンスに激突した光景に金髪の少女を除く三人が信じられないと言いたいそうな顔で彼の名を叫ぶ。
「うん?」
だが、その光景に対して吹き飛ばした張本人のボスは不満そうな顔を浮かべる。
「屋上から叩き落としてやろうと思ったんだが、意外と粘り強いじゃねぇか。細い身体付きの割には。だが! あの勢いでフェンスにぶつかったら身体はもう動け――」
ボスが『もう動けん』と言おうとした直前、フェンスに背もたれていたミツルギがむくりと起き上がる。
味方敵関係なく、全員が眼を丸くした。
どんなに身体を鍛えても身体が20mも吹っ飛ぶ程の勢いでフェンスに激突すれば、骨折や骨にヒビが入る等と言った怪我をしてもおかしくないのに。
ミツルギはまるで何事も無かったかのように平然と起き上がったのだ。
表情にも曇りや苦痛の一つも見当たらず、強がっているようにも見えない。
「つくづく驚かされるぜテメェには。どうやら並の頑丈さじゃないようだな」
吐き捨てるようにそう言ったボスの表情はミツルギの常人離れした頑丈さに驚きを隠せずにいた。
そしてもう一度間合いを詰めようと一歩踏み出す。
「旦那、後ろーーー!!!」
「!!!」
突然、部下のスキンヘッドの盗賊の叫び声が聞こえ。
ボスはその声にすぐ反応し、上半身を動かして視線を後ろに向けると。
そこにはいつの間にか背後を取り、片手で大剣を垂直に振り下ろすカレンの姿があった。
部下のお陰で存在に気付いたとはいえ、気付くのが遅かった為、振り下ろされた大剣はそのままボスに直撃する。
しかし、大剣がボスの身体に接触する前にボスの身体に包んでいる電気の衣と接触し、接触している所からバチバチと大量の火花が飛び散る。
そして大剣が電気の衣と接触した瞬間、大剣がピタリと止まった。
電気の衣が大剣の運動量を殺したのだ。
更に電気の衣は異物を追い払おうと大剣を押し返す。
「ぐっ……!」
火花や飛び散る中、カレンは大剣を前進させようと力を込めようとしたが抗う前に大剣がバネのように弾け飛ぶ。
するとタイミングを見計らったようにカレンが得物を失った瞬間、ボスが180度振り返ると共にチェーンソーを水平に振るってカレンの胴体に一文字斬りを放つ。
身動きの取れない空中に居る中、しかも得物を失った状態ではボスの攻撃を避けることも受け止めることも不可能だった。
だが、チェーンソーはカレンの数cm手前で止まる。
止まったのはボスの意思ではなく、刀のせい。
そう、カレンとボスの間にいつの間にかミツルギが割り込んでおり、刀でチェーンソーを受け止めたのだ。
恐らくお得意の『縮地法』で回り込んで来たのだろう。
「テメェ!!」
あともう少しのところで獲物を仕留められたというのに、それを邪魔したミツルギにボスは殺意が籠った眼差しを向ける。
「(ゼオラル!)」
着地して即座に心の中で魔装器の呼び、戻るように念じるカレン。
それに応じてカレンの魔装器は瞬間移動でカレンの手に舞い戻る。
「てぇい!」
魔装器が戻るとカレンはチェーンソーを防いでくれているミツルギに加勢しようと、今度は両手で大剣を水平に振るい下ろし、チェーンソーに叩き込む。
「ぬぅ!」
チェーンソーに更なる重みが加わって、〝ボスが半歩程度に後退する〟。
その光景を見て、ロロは『え?』と呟いた。
何故かと言うと予想を下回る結果だったからだ。
カレンとミツルギが力を合わせて押しているのに対して、ボスの身体が半歩引いた程度で済んでいることに。
二人の押しに耐えたボスは反撃をしようと纏っている電気の衣の膜を膨れ上がらせ、それに続いて両腕の筋肉も膨れ上がる。
そしてチェーンソーを両手で持ち直し、大きく息を吸って。
「どおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「!!!」」
雄叫びと共にボスは二人まとめて吹き飛ばすように薙ぎ払った。
薙ぎ払われた二人はそれぞれ10m後方へまで飛ばされるが、空中で体勢を立て直し、床を滑るようにブレーキを掛けながら着地する。
「(圧倒された! あの二人が!)」
「(嘘だろ! あいつ等はあのバカデカイ『古代獣』を投げ飛ばした怪力の持ち主なんだぞ! いくら体格が大きいからってたった一人であの二人の腕力を打ち負かすことなんて出来るのか?)」
アイシャとロロは二人の腕力の凄さを知っているので、二人の腕力を持ってしてでも押し崩せず、逆に二人を押し返して薙ぎ払った盗賊団のボスの腕力に驚愕する。
一方、カレンも自分達が揃って薙ぎ払われたことに驚いたがそのリアクションをする間もなく、後進が終わって顔を上げる瞬間、ボスが急速接近して来た。
「ッ!!!」
それを捉えたカレンは咄嗟に地面を蹴って飛翔すると突進して来たボスを踏み台にし、更に飛翔した後、宙返りしてボスの突進を回避する。
対してボスは顔の向きを90度近く曲げ、自分を踏み台にして頭上を通り抜けたカレンを横目で確認した。
「(コイツも俺の攻撃を!? 流石は俺と同じ魔装器使いって訳か。……だが!)」
同じ魔装器使いとして優れた反射神経だとカレンを評価したボスは一旦急停止を行った。
そしてカレンの方は宙の中で身体全体を振り返えらせ、自分の真下を通り過ぎて行ったボスの位置を確かめようとした。
しかし、屋上にボスの姿は無かった。
カレンは視界を左右に配るが、ボスの姿は何処にも見当たらなかった。
「よう、何処を見ているんだ?」
すると後ろから声が聞こえた。
その声を聞いた瞬間、カレンの背筋にゾワリと寒気が走る。
後ろから声を掛けたのは拳を振り被ったボスであった。
「俺なら此処に居るぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
大声を上げながらカレンが振り向く前にボスは拳を前に突き出す。
先程ボスに反撃された時と同じように空中では身動きが取れない為、カレンはその攻撃を回避することが出来ない。
だがその時。
カレンの身体が左へ移動した。
誰かカレンの身体を右から押したのだ。
その人物の顔が眼に映り、カレンはその人物の名前を口にする。
「……ミツ、ルギ」
自身の名を呼ばれたミツルギはやってみせたような感じの笑顔で返した。
そして次の瞬間、カレンが居た場所にミツルギが入ったことで自動的にボスの拳がミツルギの横っ腹に突き刺さった。