雷の衣
そんなカレン達のボケなど気にも止めず、金髪の少女はカレンを睨み付け。
「アンタ! まさか、私を追って此処まで来たの!?」
「う、うん。一応そうだけど」
「やっぱり! じゃあアンタもあいつ等と同じ、私を連れ戻す為に……」
「連れ戻す? 違うよ、僕が君を追ったのはそんな理由じゃ……」
「違う? だったら何だって言うのよ!?」
押し攻めるように少女は果敢に問い詰める。
どうやら金髪の少女はカレンに強い警戒心を抱いているようだ。
確かに最初の出会いは少女としては気分の良いものではないかもしれないが、それでも少女のカレンに対しての警戒心は何処か少し異様である。
少女の果敢な問い詰めにカレンは押され気味になるが、負けじと自分が追い掛けて来た訳を聞いて貰おうと例のペンダントが締まっている胸ポケットへ手を伸ばした。
「オイコラッーーーーー!!!」
するといきなり爆発でも起こったのかと錯覚するぐらいの大声が盗賊団の親方の口から発した。
その声に驚いたカレンはペンダントを取り出すのを遮られてしまう。
盗賊団のボスは続けて大声で叫ぶ。
「いきなり現れたと思ったら、こっちのことなど忘れてぺちゃくちゃと喋り腐りおって!! とにかく何者だぁテメェ等は!?」
自分達のことなど忘れて勝手に話し合っていることに腹が立ったようで、怒鳴ると共にカレン達の素性を訊ねる盗賊団のボス。
しかし、カレン達がその問いに答える前にスキンヘッドの盗賊がボスの側面に近寄り。
「だ、旦那! アイツです! アイツが例の獲物の小僧です!」
素性を訊ねられたカレン達に代わって答えるようにスキンヘッドの盗賊がカレンに指を指し、自分達が狙っていた獲物だということをボスに伝える。
「何? ……てことはあの小僧が魔装器使いか」
侵入者の一人が自分の部下を傷め付けた主犯兼獲物だと聞かされたボスはじっくりとカレン達を観察し始める。
「成る程、確かに見慣れない服装だな。そしてあのデカイ大剣が魔装器。であの銀髪が〝氷〟属性の魔法を扱う銃使いの小娘か。…………ん?」
報告で聞いた部下の情報を照らし合わせながらカレン達を観察していたボスだったが、視線がミツルギに移るとボスは顔を顰める。
直後にボスは横目で視線を近くに居るスキンヘッドの盗賊に傾けながら、鋸型の武器をミツルギに向けて突き刺し。
「おい、あの小僧は誰だ? 報告では獲物の連れはあの獣人の小僧と銀髪の小娘の二人だけと聞いたが」
「さ、さぁ。俺達もあんな奴のことは知りません。見た事も無いです」
「本当にか?」
「「「ほ、本当です!」」」
存知ないとそう答えると共に顔を横に振る三人組。
知らないのも無理も無い、ミツルギが加わったのは『レイチィム』を出た後なので、三人組が知らないのは当然だ。
どちらにしてもボスは報告に無い人物が紛れ込んでいることに溜息を零すが。
「まぁいい。仲間が一人増えようが問題ない、倒す標的が一つ増えただけだ。それよりも此処に来たってことは仲間を助けに来たということか。聞いた通り中々度胸があるみたいだな」
取るに足らないことのようにボスはミツルギについては問題ないと片付けると、カレン達が此処に乗り込んだのは仲間を助けに来たと感付く。
そして改めて視線をカレンに傾けるとボスの眉間に皺が寄った。
「しかし、俺が想像したのとは全然違うな。 あの獣人の小僧と大して変わらんじゃないか。本当に強いのか、あの小僧は?」
話では聞いていたが、カレンの外見が普通の少年と大して変わらないので本当にカレンは強いのかと疑うボス。
「本当ですよボス! 何てったってアイツは『水底の洞窟』で現れた馬鹿デカイ魔物を倒し、俺達が軍用都市『レイチィム』の『トロイカ』軍から奪った十機以上の『battle・machine』を撃破した化け物なんです!!」
「……まぁ、強いかどうかは戦ってみれば分かるか」
ボスがそう呟いた直後、ボスを中心に強烈な殺気が放たれる。
その殺気を肌で感じ取ったカレン達三人は周囲の気温が下がったような錯覚を覚える。
盗賊団のボスから放たれる殺気を感じた瞬間、カレン達は武器を構え、すぐさま戦闘態勢を整えた。
するとミツルギが殺気を放つゴツイ大男を見据えたまま、口を開く。
「かなりの手練れだな。何者だ?」
「盗賊団のボスだってよ」
まだ戦っていないのに相当な実力を持っている感知したミツルギはゴツイ大男の正体を窺うとロロがその正体を暴露する。
後からやって来たのでゴツイ大男が盗賊団のボスだと知らなかった三人はいきなりボスと対面していたことに眼を少し見開いて驚く。
そして相手が盗賊団のボスだと知ってミツルギは不敵の笑みを浮かべる。
「そうか、ならこれは絶好の好機だぞ皆。頭を潰せば、盗賊団は自然崩壊する! 此処でアイツを倒せば、他の盗賊達はもう俺達に手は出せなくなる! 倒すなら今しかない」
「……倒すのは構わないけど、気を付けた方が良いよ。話によればあの盗賊団のボスもカレンと君と同じ魔装器使いみたいなんだ」
「えっ、そうなの? っていうことはあの鋸みたいなのがそうなのかな」
目の前に居る盗賊団のボスも魔装器使いだという忠告するアイシャ。
その情報にカレンは意外そうに聞き返し、ボスが持っている鋸のような物が魔装器ではと推測する。
片やその情報を耳にしてもミツルギは不敵な笑みを崩さず。
「面白い! 魔装器同士の戦いなど、そうそう何度も味わえる物じゃない! カレン、アイシャ、心して懸かるぞ!」
「うん!」
「元々、私は相手が誰だろうと油断なんてしないよ!」
最後にアイシャがそう言った直後、三人は事前に打ち合わせ等していないのにボスを囲むようにボスの前方にミツルギが立ち、カレンとアイシャはそれぞれ左右に展開する。
「やる気だな……ラジリカ! ハン! ケビー! ジジィを連れて隅っこで隠れてろ!」
「「「は、はい!!」」」
ボスに命じられた三人組の盗賊達は中年の男性を力尽くで引っ張り、屋上の隅っこに退避する。
三人組と中年の男性を隅っこに退避させたのは恐らく戦いに巻き込ませない為の配慮と思われる。
部下達が隅っこに引っ込んだことを横目で確認したボスは視線をカレン達に戻すと。
「さぁ……派手に殺り合うかのぅガキ共!!!」
また爆発音と聞き間違えるような大声で戦いの狼煙を上げた瞬間、鎧のような電気の衣がボスの巨体を包み込む。
そして助走を付けるように片足を後ろに下げ、身を低くすると。
ダンッ!! と地面を蹴って、前方に居るミツルギに向かって駆け走った。
「「「!!!」」」
盗賊達のボスを囲んでいた三人は眼を丸くした。
2m越えのゴツイ体格を持ったボスがその巨体にはそぐわない脅威的な速度で拳がミツルギの身体に届く距離まで迫ったのだ。
二人の間の距離は大体15m前後。
近くもなければ遠くもない距離だが、走っても間合いを詰められるには2,3秒程掛かる距離である。
しかし、ボスは約15mの距離をたった0.1秒以下ぐらいで間合いを詰めたのだ。
青白い電気の衣を纏い、一筋の光にように駆け抜けるその姿、そしてその速さはまさに雷の如くだった。
瞬く間に距離を詰めたボスは電気の鎧に包まれた拳をミツルギの頭に降り下ろした。
ドガッ!!!と降り下ろされた拳はそこに在った物を容赦なく叩き割り、ボスの拳は床に深くめり込み、めり込んだ所から無数の大小のヒビが走り、床が砕けた襲撃で粉塵が巻き起こる。
「(は……)」
「(速い!!)」
一瞬でミツルギの所まで詰め寄ったボスの移動速度にロロとアイシャは思わず息を飲む。
「ビックリした~~~〝潰される〟かと思ったよ」
巻き上がる粉塵を眺めながらボソっと呟いて安堵するカレン。
やがて粉塵が薄れて景色が戻っていくとボスの拳がめり込んだ場所には居る筈の人物が居なかった。
そう、ミツルギ・神楽・ルーレイの姿が居ないのだ。
ボスは床にめり込んだ拳を引っこ抜くと共にジロッと視線を自身の右側面に向ける。
眼を傾けた先、ボスの右側面から10m離れた所にミツルギの姿が在った。
どうやら『縮地方』でボスの電光石火の攻撃を避けたらしい。
攻撃を避けられたことでボスは不機嫌や怒りを露にすると思いきや、逆にニヤリと楽しそうな笑みを浮かべる。
「まさかな。今の攻撃をかわせる程の移動法を持っているとは驚きだ。速さならそっちの方が上だろう」
「………見えていたのか? 俺の動きを」
ある程度離れた場所へ瞬時に移動できる自身の『縮地法』を捉えたような口振りをするボスにミツルギは本当に捉えたのかと問い掛ける。
「まぁ、少しだけだがな」
「そうか、それでも大したものだ」
ミツルギはそう褒めるとボスに敬意の眼差しのような視線を向ける。
無法者の長とはいえ、予想以上の実力に持ったボスの力を認めたようだ。
敵に誉められたボスは皮肉っぽく、鼻で笑う。
「こっちの台詞だ。移動時の速度もそうだがテメェの動体視力も反射神経も大したもんだ。大抵の奴なら今の一撃で何も出来ずにミンチに成っていたのによ」
「その口振りだとさっきの攻撃で俺を潰せると思っていたようだな」
「おうよ。なんせこの状態で放つ攻撃をかわせる奴なんか、そうそう居ねぇからな。……見たところ細い体格の割には大分鍛えているようだな」
雷のように速い自分の一撃をかわしたミツルギの反射神経と動体視力を評価すると共にミツルギの身体付きを観察するボス。
するとボスの視線がふとミツルギの右手に止まる。
気になる物が在ったのか、ボスは眼を凝らしてその右手を疑視すると。
「テメェ………その指輪、『貴族の指輪』だな?」
気のせいか、そう問い掛けたボスの声がさっきより低くなった気がした。
ミツルギもボスの態度の変化に気付いたのか、顔をしかめて。
「確かにこれは『貴族の指輪』だが、それがどうした?」
問いに答え、右手を掲げて指輪を見え易くするミツルギ。
その回答に対してボスは額を押さえ、小さく口を開く。
「そうか………やっぱりそうか。………運が悪かったな」
「なんのことだ?」
「なに、個人的なことだ。俺はな、貴族とか役人が大嫌いなんだ。だからテメェには悪いが………本気で潰させて貰うぜ!!」
目付きを更に鋭くさせてそう意気込んだ直後、ボスの鋸型の魔装器の刀身部分に無数の亀裂が走る。
そしてボスは魔装器を口元に近付け。
「Purge・On!」
命じるようにボスがそう唱えるとそれに応えるように取っ手の中に差し込まれている身体が鋸のようにギザギザに尖った金色の蚯蚓型の核が眩く発光し始めた。
『Purge・On!』
魔装器から言葉が走ると亀裂が出来たボスの魔装器の刀身部分が弾け飛び、弾け飛んだ部分から外歯がチェーン状に変わった金色の鋸刃が現れた。
魔装器が『Detroit・Mode』に移るとボスは早速取っ手部分に在る凸型のトリガーを押す。
そうするとチェーンが唸るように高い金属音を立てながら高速回転し始めたのだ。
屋上全体に響き渡るこの金属音が魔装器使い同士の対決が本格的に始まる狼煙に成るのであった。