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ユニヴァース  作者: クモガミ
二人の再会
87/125

脱走する二人

戦いは数分足らずで終わった。

澄ました顔をした金髪の少女の周りには水浸しの床に横たわっている盗賊達の姿が在った。

戦いは金髪の少女の勝利で終わった。

少女がオール型の魔装器(まそうぎ)を呼び起こした直後、少女は圧倒的な戦闘力を持って盗賊達を圧倒し、一人残らず(誰も死んではいないが)殲滅したのだ。

その戦いの様子を個室から眺めていたロロと人質達は数で圧倒的に勝る盗賊達を相手にたった一人で捩じ伏せた少女の実力に驚きを隠せず、口を開いたまま放心状態に為っていた。

勿論そんなことなど知らず、金髪の少女は水浸しに成った辺りを見渡して、横たわっている盗賊達全員意識が無いことを確認すると溜息と一緒にこう呟く。

「早いとこ、他の盗賊も片付けよう」

面倒臭さそうにボソッとそう呟いた少女は他の盗賊達を見付ける為、次の場所へ向かおうと足を運ぼうとした。

何処かへ向かおうとする少女にロロは誰よりも早く我に戻り、慌てて個室から出て少女に声を掛ける。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

後ろから声を掛けられた少女は足を止め、くるりと振り返り、自分を呼び止めたロロをジッと見詰め。

「…何か用?」

素っ気なく聞き返す少女。

気のせいか、彼女の眼がロロを警戒しているように見える。

「お、俺にも手伝わせてくれないか? 盗賊団の殲滅」

ロロはその対応に一瞬戸惑いながらも、盗賊団の殲滅の手伝いを申し出る。

意外な申し出に少女は眼を見開き。

「本気? あんた戦えるの?」

「た、戦えるさ! これでも一応盗賊と戦ったことがあるんだぜ!」

たった一度きりだがロロは盗賊と戦ったことがあることを話し、自分は戦力になりますよと示す。

それを聞いて少女は意外そうに眼を丸くするが、すぐに視線を逸らし。

「ふ〜ん……でも盗賊団(あいつら)の殲滅なんて私一人で十分よ。あんたも大人しく牢屋の中で軍が救出して来るのを待った方が良いじゃないの?」

「それは……駄目だ」

少女のその薦めに対して、何故かロロは一瞬の間を置いて拒否する。

歯切れの悪い回答に少女は怪訝そう顔で。

「何でよ?」

「な、何でも良いだろう! とにかく、一緒に連れて行ってくれ! 頼む!」

拒否する理由をはぐらしつつも両掌を合わせ、腰を曲げて同行を懇願するロロ。

そして人には言えない何かが有るのだと察した少女は溜息を吐き。

「……付いて来たかったら、勝手に付いてくれば」

「えっ! 良いのか!?」

「別に問題はないしね。けど、自分の身は自分でお守りなさいよ」

仕方ないと言った感じだが同行を認められ、ロロは歓喜の表情を浮かべる。

「ありがとうな! 良し、後は没収された持ち物を探すだけだが……」

「没収された荷物ならあの階段を昇ったすぐ右側の部屋に保管されているわよ」

盗賊団に没収された荷物の場所を知っているのか、金髪の少女は室内の奥に在る階段を指で指し示す。

その階段はあの無精髭の髭が下りて来た階段だった。

「へ? 何で場所を知っているんだ?」

荷物が保管されている場所を知っているのは有り難いが、何故少女はその在りかを知っているのだろうか?

少女もロロや他の人質達と同じく牢屋に閉じ込められる前に荷物を没収され、それを何処に置いたかは見てもいなければ、聞いてもいない。

だから人質であるロロ達は荷物が何処に保管されている等、知る筈も無い。

だが何故、少女は一人だけ保管場所を知っているのか、ロロはキョトンとした顔でその疑問も投げ付ける。

するとその問いに対して、少女は呆れたような顔で首を傾げ。

「忘れたの? 私の〝分身体〟が私の荷物を持って来たことを」

そう言って少女は肩に下げている白いバックに指を指す。

『あ』と呟いて、ロロは少し前に居た金髪の少女と顔も服装も瓜二つの少女ことを思い出す。

「私と〝分身体〟は意識を共通することが出来るのよ。分身体(あのこ)がこのアジトを捜索してくれたお陰で私は分身体(あのこ)の眼を通して、アジトの構造を大体理解したってこと。分かった?」

と少女は今の説明で自分がどうして荷物の保管場所を知っている訳を理解したかと尋ねる。

今の説明で大体の事情を理解したロロだったが、何か納得出来ない部分が有るのか、難しい顔をして。

「……お前が荷物の保管場所を知っている訳は分かったよ。でもよ、その分身体の創造は何とか為るとして、肝心の分身体を〝今まで何処に隠してたんだ〟?」

ロロが疑問に思った部分、それは盗賊団に見付からず分身体を隠し通した方法だった。

そしてロロは第一関門の分身体の創造は何とか為ると推測した。

何故ならあの牢屋を閉じ込められるまでの間、盗賊団の監視の眼を盗んで抜け出せる程、当然甘く無かったが、小細工が出来る程の隙は幾らか有った。

つまり金髪の少女は牢屋に閉じ込められる前、盗賊達の眼を盗んで誰にも悟られないよう、何らかの方法で分身を創ったのだ。

しかし、問題はその後だ。

盗賊達の眼を盗んで分身体を創れても、人間の一人分の大きさを持つ、分身体を隠すなど不可能に近い。

現れた瞬間、盗賊達だけでは無くロロや他の人質すらもその存在にすぐ気付くだろう。

だから不思議なのだ。

どうすれば誰にも気付かれず、分身体を隠し通せたのか。

その疑問にも答えようと、少女は白いバックから水の入った一つの瓶を取り出す。

ロロはその瓶に見覚えが有った。

その瓶は金髪の少女と瓜二つの少女もとい分身体を吸い込んだ瓶だった。

「私が分身体を創るには一定量の水が必要なの。そして水で創れた分身体、『水分身(みずぶんしん)』は〝人型から液体化の形態変化が可能〟なのよ」

「え!? じゃあ、お前の分身体が隠れていた場所って……」

「そう、この瓶の中」

今の説明で分身体の隠れ場所を悟ったロロに少女は敢えて瓶の中を指で指す。

「私の『水分身』は液体状態のまま瓶の中に留まり、白いバックと一緒に保管場所に移された後、チャンスを見計らって液体から人間型へ変化し、効率良く脱走する為にアジト内を捜索していたって訳」

「成る程、そして今に至るってことだ」

種明かしに因ってロロは、少女の分身体の存在がバレなかった事に納得する。

するとロロは感心そうな表情を浮かべて。

「しっかし、便利だな〝分身系の魔法〟は。俺も使ってみてぇな」

「私のは〝魔法〟じゃないわよ」

「……えっ?」

「荷物の保管場所はこっちよ」

ロロにとって予想外の回答を出した少女は荷物の保管場所へ導くように階段へ先導し、ロロは慌ててその後を追う。

二人が階段を昇り、昇り切ってすぐ近くの右側の壁に面した部屋に入るとそこには盗賊団が盗んだ盗品と思わしき品が部屋の中央に並んでいるテーブルの上や壁際に設置してある複数の棚の中に置かれていた。

その数多く盗品の中には『BAS(バス)』の乗客達もとい人質達の持ち物が混ざっていた。

ロロは手当たり次第盗品を漁り、自分の持ち物を探す。

そしてそう経たない内に。

「在ったーー!」

盗品の中から無事自分の鞄を見付けたロロは歓声と共に腕を垂直に伸ばして鞄を持ち上げる。

傍から見ていた少女はロロのその子供っぽい反応に若干呆れつつも。

「見付かった? ならさっさと行くわよ」

「おうよ! 武器さえ取り戻しちまえばこっちのもんだぜ!」

念願の願いが叶ったかのように持ち物を取り戻してテンションがハイに成ったロロは先に出て行った少女を追って部屋の外へ出た。

「「あ」」

部屋から出た途端、二人の声が重なる。

二人の前方に伸べている20m程の廊下の先に五人組の盗賊達とバッタリ出くわしてしまったのだ。

しかも、その五人組に二人は見覚えがあった。

そして二人の脳裏に、少し前に起きた出来事が浮かび上がる。

そう、あの五人組は少し前、人質達を閉じ込めた牢屋に現れ、自分達の親方の命令で中年の男性を連行した連中だった。

五人組は盗品を保管している部屋から牢屋に閉じ込めていた人質が出て来たことに驚愕し、ほんのちょっとの間、放心状態になるがすぐに我に戻り。

「だ、脱走者だっ! 脱走者が居たぞーーーッ!!」

一人が大声でそう叫ぶと、もう一人が首に下げていたホイッスルを思いっ切り吹き鳴らし、建物全体にホイッスルの独特の甲高い音が鳴り響く。

するとその音を聞き付けて、アジト内の至る所に居る盗賊達が次々とその場に駆け付け。

やがて一分も経たない内、大勢の盗賊が二人を包囲する。

「下の仲間をのしたはお前等か!?」

五人組のリーダー的な盗賊が怒鳴るように二人へ問い掛ける。

その問に対し、少女は呆れた表情を浮かべて。

「他に誰が居るって言うの? 一々教えてあげなきゃ駄目な訳?」

と少女が素っ気なく聞き返すと殺意を満ちていた盗賊達の顔付きが更に殺意が増した気がした。

どうやら少女の言動がまた盗賊達の怒りを買ってしまったようだ。

相手の表情の変化で相手の心境を察したロロは顔が青くなりながらも少女に耳打ちする。

「うおぉぉぉい! 相手を煽ること言ってどうすんだよ!?」

「何ビビってんのよ? アンタは盗賊団の殲滅を手伝ってくれるんでしょ?」

「言ったけど俺は少人数相手の戦闘を望んでいたんだよ! こんな大人数相手になんか絶対無理! さっきの倍近くは居るんだぞ!!」

「むしろ好都合よ。まとめて集まってくれれば、殲滅が早く終わるわ」

少女は逆にこの状況は都合が良いと余裕タップリに言うと、右掌を上に向けた状態で前に翳す。

すると少女の右掌の上に赤い核のような光を中心に宿したシャボン玉のような頭一個サイズの水の玉が出現した。

すかさず少女は水の玉を軽く息で吹くと水の玉は風船みたいにフワフワと宙に浮かびながら、盗賊達の所へゆっくりと向かって行く。

自分達の所へ来ると水の玉に盗賊達はその玉が一体何なのか、攻撃なのか子供騙しなのか見極れないので迂闊な行動はせず、一旦様子を見た。

そして水の玉が盗賊達まであと5mまで近付いたところ、少女は呟く。

「『アクア・ボム』」

そう呟かれた直後、水の玉は膨れ上がり、眼に刺すような閃光が炸裂した。


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