金髪の少女
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一方、その頃。
盗賊団に連れ去られ、盗賊団のアジト内に在る小さな個室の中に他の乗客達と一緒に二時間近くも閉じ込められていたロロは部屋の片隅で体育座りの状態で頭を両手で抱え、一人思い悩んでいた。
「(やべぇよ!! 前回捕まった時よりも更にやべぇよ!!! 盗賊団は多分、身代金目当てでこの金持ち共を拉致したみたいだけど、俺金持ちじゃねぇし!! 人質の価値の無い奴は殺されるって言うのがセオリーって聞いたことあるけど…………も、もし本当にそうなら、俺の素性がバレたら俺、殺されるかも………ッ!? ……俺、死んじゃうのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?)」
そんなことを二時間近くも一人で力一杯悩んでいると突然個室の唯一の出入り口である扉が勢い良く開かれ、扉から四人の盗賊が入って来た。
盗賊達は出入り口を背にして、何かを探すように部屋全体を見渡すと、目的の物が見付かったのか、ロロの所まで歩み寄り、そしてロロのすぐ手前に止まる。
盗賊達が自分の目の前に来てロロはビクッ!!と震えた。
「(まさか! まさか!! もうバレちっまったのかぁ!!?)」
自分がただの一般庶民であることが判明されたのかと思うロロは額や掌から冷や汗が滲み出る。
だが、瞬時にそう決め付けるのはまだ早いと思い直すと、ロロは肯か否か確かめるべく、勇気を振り絞って恐る恐る顔を上へ傾ける。
見上げてみると冷たい眼でこちらを見下ろす四人の盗賊達の顔が在り、その内の一人が口を開く。
「……ジョズ・ドゥ・マークレンだな?」
「そ、そうだが……」
「えっ?」
ロロは思わず呆気を取られた。
盗賊たちが話し掛けたのは自分では無く、右隣りに居た高級品で身を固めた中年の男性だったからだ。
そして中年の男性が自分の素性を肯定すると盗賊達は各々が持っている銃や剣を男性に突き付ける。
「一緒に来てもらうか」
「な、何故私が……ッ!?」
「良いから来い!! 親方がお呼びだ!」
先頭の盗賊が怒鳴るように叫ぶと残り三人が中年の男性を乱暴に立たせる。
「は、離せ! この無礼者ッ!!」
力尽くで連行しようとする盗賊達に男性は無礼者と罵りつつ拘束を解こうと必死にもがくが、三人掛かりで取り押さえられている為、振り解くことが出来なかった。
それでも、もがき続ける男性に先頭の盗賊は苛立ちを覚えたのか、男性の眼前に突き付けていた武器を張り付けるように男性の顎の下に突き当てる。
「大人しくしてろよクソジジィ! 抵抗をすれば命は保証しねぇぞ」
「ひっ!」
今度は凶器を喉元の近くに突き付けられて流石に身の危険を感じた男性は怯えた表情で小さな悲鳴を上げた。
これ以上抵抗すれば本当に殺されると盗賊の態度から察した男性は途端に抵抗を止め、命惜しさに大人しくなる。
男性が言う通りに萎縮するのを確認した先頭の盗賊は突き当てていた武器を一旦離し、仲間を呼び掛ける。
「良し、連れて行け」
そう促された仲間達は男性をしっかりと取り押さえたまま、個室から出て行き、その後に続いて先頭の盗賊も個室から出て行った。
四人の盗賊達が個室から退室すると個室の扉がすぐに閉まり、外から鍵が閉まる音が響いた。
恐らく外に居る見張りが扉に鍵を掛けたのだろう。
扉に付いている小さな鉄製の格子戸の隙間からまだ四人の盗賊と中年の男性の姿が見えるが、すぐに彼らは格子戸の視界の外へ消えて行った。
盗賊達が姿を消して、ロロは緊張の糸が途切れたかのように肩を落とす。
「(よ、良かったぁ〜〜。俺の素性がバレたんじゃなかったのかぁ)」
理由は知らないがどうやらあの盗賊達はあの中年の男性に用が有ったようで、別に自分を始末しに来た訳じゃないんだとロロは胸に手を当てて安堵する。
「(……って、安心している場合じゃねぇ。これからどうするか考えねぇと!)」
とロロは、一時の安心を振り払って今後どうするのかを考え始める。
「(殺されるのは絶対嫌だけど、解放されるまでこのまま此処に閉じ込められ続けるのも嫌だな。退屈だし)」
素性がバレれば殺されるのはなんとしても絶対に避けたい。
だが逆に素性がバレず、他の人質達と同様利用価値として殺されずに済むのは良いが、解放されるまでずっとこの狭い個室の中に閉じ込められるのもロロは嫌みたいだ。
となると、ロロが導き出す答えは一つ。
「(やっぱ、此処から抜け出すしかねぇな)」
殺されるのも閉じ込められ続けるのも回避する為には盗賊団のアジトから抜け出すのが、最善の策だとロロは判断する。
そしていざ脱出しようと唯一の出入り口である室内の扉に視線を傾ける。
………のだが。
「(つっても、武器も小道具も個室に入る前に全部没収されちまったからな……)」
この個室に閉じ込められる前、武器や財布と言った全ての持ち物は盗賊達に没収されており、つまり今のロロや他の人質達は丸腰状態であるのだ。
「(小道具が無けれりゃあ扉の鍵を開けることが出来ねぇし。武器が無けれりゃあ戦うことも出来ねぇ!)」
丸腰では何も出来ないし、何も進められないと肝心な行動を起こすことすらままならない現状にロロは吐き捨てるように舌打ちを鳴らし、表情を曇らせる。
辺りを見渡し何か使える物は無いか探すが、そんな都合良く転がっている訳が無く、室内には人以外しか見当たらなかった。
次に自分と同じ立場である、人質が何か使えそうな物は持っていないか観察するが、自分と同じ持ち物を全て没収されているからか、やはり使えそうな物は持っていないようだった。
「(ああ畜生! 一体どうしたら……)」
手詰まりに成り、何か手は無いのかとロロは再び頭を抱えて、思い悩んでいると扉の方からこんな声が響く。
「な、なんだ!? み、みず………ッ!!?」
「?」
突然、個室の扉の前に居る見張りの盗賊が騒ぎ始めた。
ロロや人質達は『なんだ?』と思いつつ、黙って扉の前に居る見張りの様子を眺める。
すると次の瞬間。
見張りが何かに吹き飛ばされたかのように背中から扉を突き破った。
「!?」
ロロを含む室内の人質達はその光景に驚く。
見張りの盗賊は扉を下敷きに背中から床に倒れ込む。
そして盗賊は打ち所が悪かったのか、吹き飛ばされた衝撃と床に倒れた衝撃が重なり、白目を剥いて脆くも気を失う。
ロロは唖然としながらも、盗賊が本当に気を失ったかどうか確かめるべく近寄る。
「! 水?」
近寄ってみたところ盗賊の胴体部分が何故か水で濡れていた。
濡れている具合から見て、バケツ一杯分の水を浴びたようだった。
何が起こったかは分からないが、ともかくロロは盗賊の意識が無いかどうか確かめようと、手を伸ばそうとしたその時。
出入り口の方から足音が聞こえ、ロロは手を止めて、出入り口の方に顔を向ける。
すると出入り口にドレスとメイド服を足して2で割ったような衣服を身に纏い、蒼く透き通った瞳と腰の辺りまで下ろした長い金髪を持ち、そして右のコメカミに碧い円状の髪止めを付けた美少女が立って居た。
見る者を引き付けるような少女の端正な顔立ちにロロは思わず見取れそうになるが、持ち前の気力でその煩悩を振り払い、少女に問い掛ける。
「…………お前がやったのか?」
「……ええ、そうよ」
少女はそう答えた。
だが、答えたのは〝出入り口の方に居る少女〟ではなかった。
〝その声が発生源は部屋の片隅〝からで、ロロはそちらに顔を向けると。
そこには出入り口に居る金髪の少女と顔も服装も瓜二つの少女が立ち上がっていた。
「え? え?」
まるで鏡でも見ているかのように姿形が全て同一な二人の少女にロロは二人を見比べながら困惑する。
例え彼女等が超そっくりな双子だとしても、服装や身に付けている物まで一緒というはいくらなんでも出来過ぎるからだ。
だが、少女達は周りのその反応など気にせず、お互いに相手の元へ近寄り、手を伸ばせば難無く掴めるぐらいの距離で足を止める。
そして出入り口の方からやって来た少女がこの個室に居た少女に持っていた蓋が付いていない透明な空の瓶と女物の小さな白いバックを手渡す。
「ご苦労様、もう戻って良いわよ」
空の瓶とバックを受け取った方の少女がそう言うと、それに対して渡した方の少女は何も言わず、代わりに笑顔で浮かべて応えた。
と、次の瞬間。
笑顔を浮かべた少女の身体が突然、手渡した瓶の中に吸い込まれ、やがて少女の身体が完全に瓶の中へ吸い込まれると、人間の姿をしていた少女の身体は濁りの無い透き通った水へと変貌してしまった。
「はいぃ?」
人間が小さな瓶の中に吸い込まれた上に水へと姿を変えた光景にロロは自分と同じ室内に居る多くの人々を代表して、思わず気が抜けたような驚愕の声を上げるのだった。