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ユニヴァース  作者: クモガミ
二人の再会
83/125

強行突破

時刻は午後三時三十分。

三人が盗賊団のアジトに向けて出発したから約一時間半。

時間的にもそろそろ夕方に近付いているからか、太陽の位置が徐々に下がりつつあり、空が少し暗く成っていた。

そしてその空の下でカレン・ミツルギ・アイシャの三人は見通しの良い真っ平らな野原を走る『CAB(キャビー)』に乗っていた。

『リア・カンス』から盗賊団のアジトは100km以上の距離が有り、徒歩で行くと日が暮れてしまうので、三人は足として『CAB(キャビー)』を利用したということだ。

足を手に入れたことで三人はわざわざ自力で歩くことなく、楽に盗賊団のアジトへ近付けるのだが、首都『リア・カンス』を出る前、三人はこの『CAB(キャビー)』一つを拾うのに思いの他苦労した。

どうしてかと言うと、良識的な一般人の民が盗賊団のアジトまで連れてってくれと言われて、素直にそんな危険な所に行こうとするだろうか?

健全的な考えを持つ一般人の民なら、そんな危ない場所には絶対に行きたくはないし、近付きたくもないだろう。

つまり三人は盗賊団のアジトまで連れて行ってくれる『CAB(キャビー)』の運転手を探すのに苦労していた訳なのだ。

三人が行き先を言うと数多くの運転手達は『冗談じゃない!』『余所に頼んでくれ!』と誰もが断固拒否し、中々三人は足を確保する事が出来ずにいた。

そこでアイシャは普通の頼み方ではなく、お金を使って交渉した方が良いのでは的な独り言を呟いたら『それは良い案だ』とミツルギは賛成し、早速大金が書かれた小切手で、ある運転手を誘惑すると、その運転手はコロリと落ち、盗賊団のアジトまでの移送を了承する。

そうして三人は何とか足を確保し、現在に至るという訳だ。

「あっ、見えて着ましたよお客さん。あれが盗賊団のアジトが在るって言われている、鉱山です」

そう言って運転手はハンドルから左手を離し、前方に人差し指を指す。

三人は指が指した方向に視線を傾けると前方800mくらい先に山が幾つも並んだ山の密集体を発見する。

「あそこにあの子とロロが……」

目的地が見えて来たことでカレンは上着の胸ポケットに閉まっているペンダントを服の上から触れる。

「「「「!」」」」

すると運転手を含めて四人は前方300mくらい先に人集りを発見する。

「止めて」

「は、はい」

アイシャにそう指示された運転手は足元のペダルを踏み、機体の速度を減速させて『CAB(キャビー)』を停止させる。

機体が止めるとアイシャはジャケットの内側に手を突っ込み、そこから双眼鏡を取り出し、前方の人集りが何なのかを確かめた。

そしてアイシャが双眼鏡を覗いた直後、アイシャは眉を潜める。

「あの服装………まずい、軍隊が居る」

「軍隊って、もしかして『トロイカ』軍?」

「うん、多分あれは連れ去れた乗客達を救出する為に派遣された部隊だよ」

人集りの正体は『トロイカ共和国』の軍隊だと服装で判断したアイシャはあの軍隊が人質救出の為に派遣された部隊だということも見抜く。

その事を聞くと後部座席に居るミツルギは少し意外そうな顔で。

「豪華『BUS(ばす)』の乗客を連れ去ったのは盗賊団だという情報が出たのはたった一時間前だと言うのに、もう鉱山を取り囲んでいるとは、『トロイカ』軍にしては随分速い対応だな」

「大方、連れ去れた豪華『BUS(バス)』の乗客達の中に国の要人とか貴族とかが、居たからじゃないかな」

普段の『トロイカ』の対応は杜撰なのか、今回の『トロイカ』軍の対応の早さの要因は連れ去れた乗客達の中に身分の高い人物が混じっているからではないかとアイシャは推察する。

「何処か、見付からずに抜き通れる所は在る? アイシャ」

「無理だね、軍は鉱山全体を包囲するように立ち並んで居る。彼らの眼を盗んで通り抜けるのは不可能だよ」

双眼鏡で鉱山の周辺を眺めながら、アイシャは見付からずに軍隊の横を通り越すことは無理だと判断する。

軍隊の眼を盗むことが出来ないと分かるとミツルギは後部席の椅子に背に凭れ、何食わぬ顔で両腕を組んで、こう呟く。

「ふむ………じゃあ、残る手立ては」

「強行突破しかないね!」

その言葉は機内に響いた直後、ミツルギ・アイシャ・運転手の視線がカレンに移り変わる。

そう、今の大胆な発言を言ったのはカレンだった。

穏健派とは言えないが、それでもまさか何時もおっとりしたカレンの口からそんな言葉が出て来るとは思いも寄らず、呆気を取られたアイシャは素朴な疑問を投げ掛ける。

「カレン、いつの間にそんな言葉を覚えたの?」

「ミツルギと一緒に立ち寄った本屋さんの本を読んで知ったんだ。穏便に障害物を通り抜ける方法が無ければ、『強行突破』って言う、力尽くで押し通るのも手だって!」

「な、成る程……」

「面白い本だったよ! 『イカげそスルメ』って言う名前の宇宙人が『ポトルシェーーーー!!!』って叫びながら、ニンニク持って園長先生の家の庭に突撃するんだよ」

「そ、そうなんだ………」

楽しそうに自分が読んだ本の内容の一部を話すカレンにアイシャはぎこちない相槌を打つと同時に『一体、どんな本をなんだろう?』とカレンが読んだ本について地味に気になった。

片やミツルギはいうと、右掌の上に左手の握り拳をポンッと乗せ。

「強行突破か! 良し、その手で行こう!」

もう方法はそれしかないと思ったのか、カレンの提案を採用するミツルギ。

そしてアイシャも場の空気を読むように鉱山に入る為には強行突破をするしかないと判断し、ミツルギと同じくカレンの提案を呑むが、実行する前にアイシャはカレンとミツルギの両方を見合いながら、重要な事を聞き出す。

「……で、具体的にはどうやって強行突破するの?」

重要な事、それは鉱山を囲む軍隊の包囲網をどのように強行突破するのか、その具体的な説明だった。

この質問に対して強行突破を提案した言い出しっぺのカレンが先に答える。

「運転手さん」

「は、はい。何でしょう?」

客が自分の『CAB(キャビー)』内で物騒な話をしていても、横槍を入れず、ただ黙って大人しくしていた運転手は急に呼ばれて戸惑うが、すぐに落ち着きを取り戻して、ちゃんと返事を返す。

「この『CAB(キャビー)』を全速力で走らして、あそこの軍人さん達の横を突き抜けてくれませんか?」

「……………は?」

丁寧語でサラッととんでもないことを注文してきた客に運転手は思わず、口を開いて呆然と硬直した。

「おお! それは妙案だな、カレン!」

運転手とは対照的にミツルギはカレンの強行突破の手段を妙案と高評価する。

だが、ミツルギとは対照的な運転手はカレンのその提案を良しとはせず、放心状態を解いて、反論を唱える。

「か、勘弁してください! そんなことをしたら私は周りから白い眼で見られ、会社をクビにされる上に重罪で収容所の豚箱に放り込まれます!!」

「……だよねー」

人生の破滅を招くカレンの注文を断固拒否する運転手にアイシャは当然の反応だと述べ、苦笑いを浮かべる。

しかし、その返答に対してミツルギは。

「そうか………では、この『CAB(キャビー)』を譲ってくれないか?」

「え!?」

「なに、タダではとは言わん」

そう言ってミツルギは懐から高級そうなペンと密かに補充しておいた新しい小切手を取り出し、小切手の上にペンを走らせ、サラサラと流れるように数字を書き込んでいく。

やがて書き終えるとその小切手を運転手の目の前に差し出す。

「!!?」

目の前に突き出された0が沢山書かれた小切手を見た瞬間、運転手は目玉が飛び出すかのように眼をクワッ!!!と見開いて驚愕する。

眼が眩む程の金額だったのか、運転手のその反応を見て、ミツルギは確信を得ると即座に営業スマイルを作り、再度確認を取る。

「譲ってくれるな?」

「は、はい!」

案の定、運転手は大金の誘惑に負け、あっさりと要求を呑む。

そして小切手を受け取り、運転手が運転席から降りて機体の外へ出ると、それを見計らってミツルギはアイシャにこう尋ねる。

「アイシャ、君は『グラ・ビー』の運転は出来るか?」

「一応出来るけど」

「なら、運転を頼めるか?」

「……了解」

強行突破の実行役である『CAB(キャビー)』の運転を慎んで引き受けたアイシャは助手席から運転席へ乗り移った。

運転席に着席するとアイシャは運転席側のドアの窓ガラスを開けて、外に居る運転手に話を掛ける。

「事情聴衆を受けた時は私達に凶器を突き付けられ、脅されたから仕方なく指示に従ったと言っといてください。でも、私達の性別と特徴と人相に関しては適当にデタラメなことを教えといてくださいね」

「あっ、はい! 承知しました」

後々の事を考えて、アイシャは運転手に事情聴衆を受けた際にアイシャが設定した言い訳と三人の外見及び性別を捏造して欲しいと伝えると運転手は大金がまた手に入って、気分が高ぶっているのか、笑顔を浮かべて快く承認する。

「それじゃあ二人共、シートの後ろに隠れて!」

強行突破の際に顔を見られない措置として、アイシャに椅子の後ろに隠れるように促す。

二人はその指示通りに椅子の後ろに隠れるように身を屈む。

アイシャはそれを運転席と助手席の間の天上に取り付けられた小さな鏡で確認すると、帽子を深く被って顔を見えづらくすると同時に足元の一つのペダルに右足を掛ける。

「二人共、準備は良い?」

「うん、バッチリだよ!」

「こちらもだ。飛ばしてくれ、アイシャ!」

「OK……じゃあ、行くよ!」

発進準備完了だと分かるとアイシャは右足に掛けていたペダルを思いっ切り踏み倒す。

それに反応して、『CAB(キャビー)』の四つの車輪が地面を削り取りながら高速回転をし始め、鉄砲玉ように前方の鉱山に向かって走り出した。


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