発見
少し待ち合わせ時間をオーバーして到着したアイシャだったが、カレンとミツルギはそんなことは気にせず、アイシャの所に駆け寄る。
「アイシャ!」
「ごめん、遅くなって……待った?」
「いいや、俺達も今さっき着いたばかりだ」
「そう、良かった。ところで何か情報は掴めた?」
この問い掛けに二人は首を横に振り、情報は何も得られなかったと伝える。
「……分かった。でも安心して、実はーーー」
『突然ですか、緊急ニュースです!』
アイシャが何かを言い掛けた時、その言葉を遮るように突然、噴水の方から公園内全体に響き渡る程の音声が三人の耳に響く。
三人は噴水の方に顔を向けると、噴水の四つの側面にそれぞれ埋め込むように設置している大きな画面にスーツ姿の女性が映っていた。
その光景を見て、カレンは首を傾げて二人に問い掛ける。
「何、あれ? 箱の中に人が入っているよ」
「あれはTVって言う、映像を流す機器だよ」
「で、今流しているのがニュースという世間絡みの情報や出来事を報道する番組の映像さ」
二人共が手短且簡潔的に説明し終えると、タイミング良くスーツ姿の女性が緊急ニュースの内容を話し始める。
『只今、此処『リア・カンス』と都市『サムイング』を繋ぐ高速道路の高架橋を走っていた豪華『BUS』の運転手と乗客達が何者か達に連れ去られたという情報が入りました!』
スーツ姿の女性がハッキリ聞こえるように力強くそう言うと、三人の周りに居る大勢の人々がザワザワと話し声を飛び交せる。
映像を見ている人々の反応など知らずに、画面の向こう側に居るスーツ姿の女性は淡々と説明を続ける。
『豪華『BUS』の運転手と乗客達を連れ去った者達については今だ現在、判明しておりせんが、その豪華『BUS』を所有している会社に問い合わせたところ、機内に設置してあった監視カメラの映像を入手しました! これが今回の事態が起こる前と思われる機内の映像です』
スーツ姿の女性がそう言い残すと直後に画面の映像が切れ替わり、豪華『BUS』内の映像が流れ出す。
豪華『BUS』というだけあって、至る所が高級素材で造られた機内は、綺麗で設備は豊富に充実しており、画面越しからでも高級感が伝わる程の豪華さであった。
「「「あっ」」」
その機内の映像の中で三人は見知った顔を見付ける。
監視カメラの映像の中に映っている機内の前半分辺りの席に2時間前に『BUS・TERMINAL』で見送って別れた三世の猫の獣人、ロロ・グライヴィーの姿が在った。
「ロロだ!」
「ということはロロが乗って行った豪華『BUS』が襲われたのか!」
「運が悪いね、彼」
別れてからも災難続きのロロにアイシャは気の毒そうな眼で画面越しのロロを見詰める。
「!!」
するとカレンは映像の中である物を見付け、眼を見開く。
そして次の瞬間、バチィ!という音が鳴り響いたと同時に機内の映像が途切れ、モノクロの波が映った映像に切り替わる。
やがて間もなく、さっきのスーツ姿の女性が映り、映像が途切れた訳を説明する。
『今何故、映像が途中で途切れたかと言いますと、監視カメラの故障では無く、どうやら『BUS』は外部から強力なエネルギーのような物を浴びせられ、それに因って機内に在った全ての電子機器がショートした模様です』
スーツ姿の女性が監視カメラの映像が途切れた訳を述べると、その事実を裏付ける為に再びを映像が途切れる前の機内の映像を流す。
と、機内の映像が再度流れ出したところで。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!」
唐突にカレンが大声を上げる。
傍に居たアイシャ・ミツルギを含む、周りに居る大勢の人々はその声にビクッ!!と驚く。
「ど、どうしたの、カレン?」
戸惑いながらもアイシャは突然、大声を上げてどうしたのかと問い掛ける。
するとカレンは右手の人差し指を噴水の画面に突き立て。
「あの子だ! あそこにあの子が!!」
カレンが叫ぶようにそう言うと、アイシャとミツルギはカレンが指で指した画面の箇所に視線を向けると、丁度映像に映っているロロの左斜め上辺りの席に碧い円状の髪飾りを右のコメカミに付けた金髪の少女が居た。
その金髪の少女の姿を発見した二人はその少女が、カレンが探している人物の特徴と一致していると気付き、本当に探していた人物なのか、ミツルギはカレンに確認を取る。
「間違いないのか、カレン?」
「うん、間違いない! あの子だよ!」
カレンがそう断言すると映像が切り替わり、スーツ姿の女性が再び画面に映る。
『只今、事件現場から事件の目撃情報が入りました! 目撃者の情報に依るとどうやら『BUS』の乗客達を連れ去ったのは盗賊団だのことです!』
「盗賊団!?」
あの金髪の少女とロロを連れ去ったのが盗賊団だと聞くと、カレンは『カムーシャ』に着く前に遭遇した三人組の盗賊達を思い浮かべる。
まだ会って間もないが、それでも盗賊の危険さは重々知っているカレンは、盗賊達に連れ去られた金髪の少女とロロの身が危ないと思うと、瞬時にアイシャの方に身体を向ける。
「アイシャ! 盗賊団の居場所とか分かる?」
「えっ? た、確か……『リア・カンス』と『サムイング』を繋ぐ高速道路の高架橋の中央を西に真っ直ぐ行った先に在る、鉱山に盗賊団のアジトが在るって、聞いたけど……」
「分かった、ありがとうアイシャ!」
聞きたい情報を聞いたカレンはお礼だけ言って、何処かへ走り出そうとした。
「待て! カレン!」
本格的に走り出す前にミツルギは素早い踏み込みでカレンの肩を掴み、進行を停止させ、その場に留まらせる。
「何処へ、行くんだ?」
「……盗賊団のアジトへ」
「どうするつもりだ?」
「あの子とロロを助け出す」
「一人で? それは幾らなんでも無茶だよ」
たった一人で盗賊団のアジトに乗り込み、二人を救出するつもりのカレンにアイシャは無茶だと論じる。
「でも、放っておいたら二人共、何をされるか分からないんだよ!」
「だからって、一人で行くのはカレンでも危険だ! ………俺も行く」
自分も盗賊団のアジトへ行くと申し出るミツルギにカレンは意表を突かれて、眼を見開く。
「ミツルギ……気持ちは嬉しいけど、何もそこまで付き合わなくても」
「む? 俺が一緒に行ったら、何か困ることでもあるのか?」
「いや、無いけど……」
「ならば、問題は無かろう? 友が人を救う為に単身で危険な所へ行くというのに、何もしてやれず、此処でただ成功と無事を祈って友の背中を見送るなど俺には出来ん。俺は友としてカレンの力に成りたいんだ!」
面と向かって相も変わらず、クサい台詞を気取ることなく言い切るミツルギ。
盗賊団のアジトに乗り込みという危険な事にミツルギや他の誰かも巻き込みたくなかったカレンだったが、友の力に成りたいというミツルギの言葉に心打たれたカレンは自然と顔に笑みが浮かび上がる。
そして笑みを浮かべたまま思ったことを口にする。
「ありがとう、ミツルギ。君にはどこまでも世話を掛けて……ホント、どうお礼をしたら良いか」
「別に礼を返す必要は無いぞ、カレン。俺はただ自分がやりたいことをするだけなのだからな!」
「そうはいかないよ。例え友達でも受けた恩はちゃんと返した方が良いって、さっきの本屋さんの本に書いて有ったし」
「む。そうか……なら、期待して待っておこう」
と、二人の話が終わるのを見計らったかのように、完全に蚊帳の外に為っていたアイシャは自分も話に加わる為にまずは存在に気付いてもらおうと咳払いをする。
「……良いムードの中悪いけど、カレン」
「何?」
「私も付いて行っても構わないかな?」
「ええ? アイシャも?」
ミツルギ続いて今度はアイシャからの同行の申し出にカレンは意外そうに驚く。
「駄目?」
「駄目ってわけじゃないけど、でもどうしてアイシャも盗賊団のアジトに行くの?」
今回は『白霧山脈』の時のようにお互いに目的が一時的に重なった訳でもないのに、何故アイシャまでも同行を求めるのか、カレンがその理由を伺うと。
「それがね……私も今さっき気付いたんだけど…」
言いづらいことなのか、アイシャは焦らすように指で前髪を弄りながら。
「実はあの『BUS』に私が今日の夜に会う筈の依頼人が乗っていたんだ」
「ええっ!? 本当!?」
「うん、顔は知っているから間違いないよ」
「俺達と一緒に行きたいというのはまさか、依頼人を助け出す為か?」
「そう、依頼人に居なかったら、仕事が出来ないからね」
アイシャが同行を求めた理由、それは金髪の少女やロロと同じく盗賊団に連れ去れた依頼人を助け出す為だった。
「だからカレン、一緒に行って良いかな?」
「…分かった。そういうことなら断る理由は無いしね。それにアイシャも頼りに為るから歓迎だよ」
「うむ。アイシャ程の腕前なら、俺も申し分無いな!」
「ありがとう、二人共」
同行の承認を得られたことで、アイシャは微笑むを浮かべる。
「よし! それじゃあ、盗賊団のアジトへ向かおう!」
カレンがそう言うと三人は連れ去れた人々を救出すべく、盗賊団のアジトへ出発した。