ゼクターズ
雨が本格的に降る前に四人は目的の宿屋に入ることが出来た。
高級飲食店の定員に教えて貰った宿屋はカレンとロロが寄った『レイチィム』の一番大きい宿屋に負けず劣らず、建物全体が高級素材で造られた高級感漂う綺麗な宿屋だった。
その綺麗な宿屋の広いロビーに在る受付で四人は部屋を二つ取り、一部屋二人ずつで泊まることにした。
ちなみに各部屋のペアはじゃんけんでカレン&アイシャ・ロロ&ミツルギに決まった。
今日も一日色々合ったので、疲労が溜まり溜まっている四人はベットに横になると、十秒も経たない内に眠りに着く。
そして翌日の朝。
時刻は午前十時。
新しい日を迎えた首都『リア・カンス』は昨日の昼と変わらず、今日も人の群れが蟻のように群がっていた。
一度その和の中に入れば、もう二度とそこから出ることが出来ないというぐらいの人の群れをロロは宿屋の自動ドア越しから大理石の柱を背にして、暇そう顔で眺めていた。
ロロの隣にはミツルギもおり、こちらは立ちながら瞑想して、ロロと一緒にカレンとアイシャを待っていた。
実は昨日の夜、寝る前に四人は午前十時にロビーで待ち合わせること決めていたのだ。
だが、待ち合わせ時間が来ても残りの二人が姿を現すことはなかった。
やがて約三十分後、待ち合わせ時間から三十分遅れて、ようやくカレンとアイシャがロビーにやって来る。
二人が近くまで来るとロロとミツルギは大理石の柱から離れ。
「遅ーぞ、二人共。何やってたんだよ?」
待ち合わせ時間に現れず、三十分も待たされたのが不満だったのか、ロロは不機嫌な顔で問い掛ける。
それに対して二人は後頭部を右手で掻きながら。
「ごめん。カレンが中々、起きてくれなくて」
「えへへ、ごめんね」
「『えへへ』じゃねぇよ! 『白霧山脈』でもそうだったけど、お前どんだけ寝相悪いんだよ!」
「そう怒るな、ロロ。別に急ぎ用ではないんだ。カレンだってちゃんと反省して………ん?」
苦情を吐くロロを宥めようとしたミツルギだったが、台詞の途中である異変に気付き、言葉を止める。
気になったミツルギはロロを宥めるのを止め、その異変を指摘する。
「カレン、その服……」
「あ? 服がどうかし………あっ!」
ミツルギの言葉に釣られて、ロロはカレンの服に視線を傾けると、ロロもその異変にすぐ気付く。
「カレンお前、服が直ったのか?」
二人が気付いた異変。
それは『古代獣』の光線に因って、破かれた筈のカレンの上着の右腕部分とズボンの左腿部分がまるで最初から破れていないかのように綺麗サッパリと直っていたのだ。
この指摘を受けてカレンは、何故破れた服が直っているのか、簡単に説明する。
「うん、気付いたら何か直ってた」
「気付いたらって、お前かアイシャが直したんじゃないのかよ?」
「ううん、僕もアイシャもこの服には一切何もしていないんだ
「朝起きたら、いつの間にかこう成っていたんだよ」
二人はそう述べるが、ロロは常識的に考えてその証言をとてもじゃないが信じる事が出来ず、冗談混じりにこう言い放つ。
「んな馬鹿な、まさか〝服が勝手に直った〟って言うのかよ?」
「分からない。見当が付かない以上、そうとしか言いようがないかな」
「〝勝手に直る〟? ……………ふっ、まさかな」
何か思い当たることが在るのか、ミツルギはある推測を立てるが、すぐにその推測を鼻で嘲笑って否定する。
その独り言を微かに耳に掠めたカレンは。
「ミツルギ、何か知っているの?」
「む? いや、悪いが見当も付かないな、勝手に直る服など。だが、理由が全く分からないなら考えてもしょうがない。今は服が直った訳を探るよりも今日のやるべきことを先決にしよう。時間が勿体ない」
「……それもそうだね。じゃあまずはロロを見送る為に『BUS・TERMINAL』っていう所に行こう!」
と言ってカレンは一人で宿屋から飛び出す。
「って、待てカレン! お前、『BUS・TERMINAL』が何処に在るか知らないだろう! 勝手に突っ走るな馬鹿っ!!」
道も分からないのに勢いに乗って宿屋から飛び出して行ったカレンを止めようと三人はその後を走って追った。
数分後、三人は一人独走したカレンを無事に確保し、もう勝手に突っ走らないよう、拘束するように左右から挟みながら、行くべき道へと誘導していた。
ちなみ並び順は左からアイシャ・カレン・ミツルギ・ロロ。
そして四人が今歩いている所は都心近くに在る、繁華街の大通り。
『サムイング』という都市に行く為にロロが目指す『BUS・TERMINAL』は向かう途中で教えてくれた親切な人の説明に依ると、繁華街をちょうど越えた先に在るようなので、四人は道標として繁華街を歩いていた。
すると四人の遥か上空から空気の波が渦巻いているような鈍い騒音が鳴り響く。
四人は足を止めて上を見上げると、500mぐらいの上空に青い光の粒子のような物を尻部と思われる場所から出した、蝸牛みたいな造形をした基調が紫色の物体が五体程、V型の列を組んで飛んでいた。
騒音の発生源はどうやらあの蝸牛みたいな物体から発せられているようで、遥か下に四人に聞こえる程の騒音ということは、五体共かなり速い速度で飛んでいるようだ。
やがてそう経たない内にその五体は列を崩さず、都市の外へ消えて行った。
謎の飛行機物体が消え去って、カレンはあることに気付く。
今さっき見た謎の飛行機物体に見覚えがあるのだ。
いや、より正確に言うと。
「(……あの光)」
謎の飛行機物体本体では無く、その本体が放出していた青い光の粒子が〝何か〟に似ているのだ。
カレンはあの光に似た〝何か〟を何処で見たのなんだろうと自分が記憶喪失に為ってから今に至るまでの記憶を引っ張り出して、思い出そうとした。
そしてたった二秒でその〝何か〟があっさりと見当着く。
カレンは右腰に掛けてある『ガジェッター』に眼を向ける。
そう、似ているのだ。
色は違えど、魔装器『ゼオラル』が『ENERGY・FIELD』を作る時に放出する山吹色の光の粒子に。
感じが似ている二つの光の粒子に、カレンは直感的に謎の飛行機物体の正体に感付く。
「今のひょっとして………魔装器?」
「おお、良く分かったなカレン。流石我が友だ」
記憶喪失なのに一目見ただけで、あの飛行機物体の正体が魔装器だと見抜いたカレンにミツルギは我が友として褒め讃える。
そして記憶喪失且つ世間知らずのカレン為にいつもの説明会が始まる。
「あれの名は『シーソルト』! 『ゼクターズ』型と呼ばれる魔装器で、魔装器の中でも一番数が多い方の魔装器なんだ」
「『ゼクターズ』? 魔装器って幾つも種類が在るの?」
「幾つもと言っても、〝三種類〟だけだよ。魔装器はカレンとミツルギが持っている『アブソード』型とさっき飛んでいた『ゼクターズ』型と『ラジアント』型、魔装器はこの三つ内、どれかに分けられているの」
「『アブソード』の他にもまだ二つも在ったんだ………あっ、でも『ゼクターズ』って『アブソード』と何が違うんだろう?」
「違う点は結構有るんだけど、大まかに三つに分けて言うと、一つ目はある特定の条件を整えていれば、誰でも使えるということ。二つ目は『核』と『ガジェッター』が元々一つになっていること。三つ目は大半が乗り物だってことかな」
「乗り物? ってことはさっきの『シーソルト』達には人が乗ってたの?」
「人っつうっても中に居るのは軍人だかな」
「軍人さんが? 何で分かるの、ロロ?」
何故あの『シーソルト』達の中に居るのが軍人だと分かったのか、カレンのこの問い掛けに対し、ロロは困った顔で。
「なんでって、そりゃあこの国であれを自由に動かせるのは、『トロイカ』軍の魔装器部隊の連中だけだからだよ」
「魔装器部隊?」
「魔装器部隊というのはその名の通り、魔装器を扱って戦う部隊のことさ」
「へぇー軍も魔装器を使うんだ」
軍にはそんな集まりも在るんだと知るとカレンは次にこんな素朴な疑問を投げ掛ける。
「でも、どうして軍も魔装器を使うの?」
「一言で言えば強力だからさ、魔装器は。使い熟せば、たった一人で軍隊と渡り遇える程の力を授けてくれるって話だよ」
「たった一人で……本当に?」
「本当さ。実際に勇者『トラル』も魔装器『ゼオラル』を駆って、他国の軍隊を一人で一掃したと歴史の本に載っているぐらいなのだぞ」
「そうなんだ………それが魔装器の力……」
アイシャとミツルギの証言にカレンは右腰に掛けてある魔装器『ゼオラル』の『ガジェッター』をヒョイっと持ち上げて、自分の魔装器にはそんな凄い力を秘めているのかと、窺うように見詰める。
そんなカレンの傍らでミツルギはこんな話を振ってくる。
「ところで、あの『シーソルト』達は何故、首都の上を飛んで行ったんのだろうな?」
「それは俺も疑問に思った。見た感じ、訓練や演習でもなさそうだったな」
「スクランブルか、何かが起こったんじゃないかな? 魔装器部隊が出動する程の」
「もし、そうだとしたら大事だな」
事情は定かではないが、魔装器部隊が出動する程の事態が気になるのか、カレンを除いて三人は『ゼクターズ』型の魔装器『シーソルト』達が飛んで行った方向に視線を向き直す。
「彼らが向かった先に在る物は確か……」
「『白霧山脈』の筈だよ」
方角から推測するに、『シーソルト』達は『白霧山脈』に向かったとアイシャは断定した。
すると『ガジェッター』を見詰めていたせいで、今の話についてあまり耳に入っていなかったカレンであったが、アイシャが『シーソルト』達の向かった場所は『白霧山脈』だと断定すると、その場所を聞いた途端、あること思い出し、『ガジェッター』から手を離す。
「そういえば!!」
「ぬぉ!? どうしたカレン?」
前触れもなく、傍らで突然大声を上げたカレンに若干、驚くロロ。
「あの『古代獣』と戦った時、ロロは何処へ行ってたの?」
「?? 何のことだ?」
「ほら、僕が怪我して動けないところを『古代獣』が放った馬鹿デカイ光線からロロが自分の身を呈して、僕を投げ飛ばした、あの時だよ」
『何故このタイミングで今更、そんな質問を?』とロロはツッコミを入れたかったが、ここは素直にその質問を答えようと、『古代獣』との戦闘を思い出そうとした。
すると。
「………あっ、あの時のことか!」
ロロは何とかその時のことを思い出すと、連鎖反応のようにアイシャもミツルギもその時の事を思い出す。
「忘れていたけど、言われてみればそうだったね。……あの『ステンジウム光線』を降って来た後、何処へ隠れていたの、ロロ?」
「ふむ…その話、俺も気になるな」
急な流れで三人の注目が自分に集まったロロは『これは説明しないといけない流れだな』と悟ると観念するように昨日の『古代獣』の戦いで、一時的に自分は何処へ姿を隠していたのか、一旦肩を竦めて、その時の状況を語る。
「カレンが投げ飛ばした後、『古代獣』が撃ってきたあのデッケー光線が俺の数cm手前に落ちて来てよ。その所為で足元の地面が陥没したんだ」
「陥没? じゃあ、光線が掘った大穴に落ちちゃったの!?」
地面が陥没したと聞いて、カレンは真上から垂直に降ってきた『ステンジウム光線』が焼き削って作り上げた大穴にロロは落ちてしまったのかと勘繰るが。
「光線が掘り尽くした、あんな大穴から落ちたら、どんなに頑張っても這い上がれねぇよ! 俺が落ちたのは空洞の中だ」
「空洞? ……もしかして地面が陥没したのは地面の下に空洞が在ったから?」
「多分な。光線で足元の地面が陥没した時、俺が立っていた地面の下には丁度、『ポッケル』が水平に掘り削ったと思う細い空洞が在ったんだよ。で、そこに落ちた俺は不運にも頭を打って、ほんの少しの間、気絶していたんだ」
「だからあの時、返事が無かったんだ。これで謎は解けたね!」
姿を消した理由も、返事も返って来なかった理由も全て判明したカレンは晴れた空のように爽やかな笑顔を見せる。
と、丁度その時。
歩きながら雑談をしていたら気付かぬ内に四人は繁華街を抜けており、そして前方100m先に在る、他のビルよりも一際大きいとあるビルの屋上に『BUS・TERMINAL』と書かれた大きな看板を見つける。
「在った、『BUS・TERMINAL』だ! あれだけ大きいと見つけるのも楽だね」
本当に繁華街を越えれば、すぐに『BUS・TERMINAL』が見つけることが出来た事にカレンは
親切な人が教えてくれた通りに『BUS・TERMINAL』を発見した四人は親切な人に感謝しつつ、目的地の方へと足を運ぶ。
しかし、そこで何かに気付いたのか、ロロ・アイシャ・ミツルギの三人だけが『ん?』と思い、足を止める。
「そういえば、カレンが今の話を振って来る前に、我々は……一体何の話をしていたのだろうか?」
「………何だっけな? 思い出せねェ」
自分達はさっきまで何について話し合っていたのか、忘れてしまったミツルギとロロは思い出そうとしたが、中々思い出せず。
そして二人と同じくさっきの話し合いについて思い出せないアイシャは苦笑いを浮かべて。
「一つだけ分かるのはカレンが強引に話を捻じ曲げたお陰で、私達もある意味記憶喪失になったってとこかな」
突然話に加わり、更には話を強引に捻じ曲げたことによって人を軽い記憶喪失に貶めるカレンの天然さにロロは、思い詰めたような表情で。
「恐るべし、カレン!」
他の二人もそれに同意しつつ、こんなことはもう起きないように気を付けると共に三人は話している間にもう『BUS・TERMINAL』のすぐ手前まで辿り着いた、カレンに追い付くに為に再び走った。