明日の予定
やがて数分後、高級料理をたらふく食い上げた四人は(アイシャ以外)腹一杯になり、腹が十分膨れたので四人は店を後にする。
店から出ると外は夜中なのに全然暗くなかった。
何故なら都市の至る所に点在する無数の明かりに因って、都市中が照らし尽くされているからだ。
勿論、四人が今居る歩道も普通に歩き回っても全く問題無い明るさで、その証拠に蟻のようにウジャウジャと群がる人の群れが四人の周りを囲むように歩き回っていた。
右を向いても左を向いても人の群れが何処までも続いており、四人はその人混みをかい潜って、明日の為に必要な物を求めてある場所へと足を運ぶ。
明日の為に必要な物、それは寝床。
つまり四人は宿屋へ向かっているのだ。
場所はさっきの高級飲食店の会計を済ました時に、会計担当の定員に一番近い所を教えて貰ったので、ミツルギを先頭に四人は都心の方へと進んで行く。
そこでカレンは無数の色とりどりの明かりが照らし出す美しい都市並みを眺めながら、思ったことを口にする。
「『レイチィム』も人や建物も多かったけど、此処はもっと凄いね」
「当然だろ! 此処は世界最大の大陸『バルボア』を牛耳る『トロイカ共和国』が誇る、首都『リア・カンス』だぞ! 人口の多さなら世界一だぁ!」
自国の特徴であるからか、ロロは自慢するように胸を張って自国の特徴である『リア・カンス』が世界で一番人口の多い都市だと紹介する。
「ふぅん、どれくらい多いの?」
「今年の世界人口調査表に因ると、ザッと十億人とだそうだ」
「十億!? そんなに居るの、此処に!?」
「要るよ。なんせ世界最大の人口を誇る都市だからね、此処は。この国の総人口も世界総人口の三分の一も占めるぐらいだし」
「………要するに『トロイカ共和国』は世界で一番大きくて、世界で一番人が多い国なんだね」
「他にももっと特徴が在るんだが……大まかに言っちまえば、大体そんな感じだな」
特徴を全て挙げるとキリが無いのか、大まかであるがロロはカレンに『トロイカ共和国』の特徴が人口の多さと大陸の大きさだと認識させる。
するとロロはあることを思い出す。
「そういや結局、『白霧山脈』でカレンが探している女は見つからなかったな」
「ああ、そうだった! あそこに居なかったってことはやっぱりあの子は『白霧山脈』を無事に乗り越えたのかな?」
「可能性は無いとは言い切れないけど……私達、あの状況下では自分達の事で精一杯だったから、人を探す余裕なんて皆無に等しかったし、今は何とも言えないよ」
「つぅーかさ。そもそもその女が本当に『白霧山脈』を通ったかどうかなんて結局、分からなかったんだからよ。あそこに居なかったなら俺達よりも早くあの山脈を通り越えたか、通ってないか、どちらかだろ?」
仮に金髪の少女が『白霧山脈』を通っていなかったとしら、他に行ける場所は本当に無いのか、カレンは一応確かめてみる。
「もし後者だとしたら、『白霧山脈』以外、行ける場所は他に無いの?」
「地理的に考えても『白霧山脈』以外、人が行ける所なんて何処も無いと思うよ。在るとしら、山脈の下の方に在る海ぐらいかな」
「流石に海は無理だろ。あそこ等辺の海は渦潮が沢山在って、泳ぐことも船で渡るのも不可能だって話だぞ」
「う〜む……せめて、あの山脈でその少女を目撃した者が居ればな」
「あぁ? 俺達以外であんな所に居た奴なんて………」
「「「「あ」」」」
四人は声を揃えて呟く。
そう、居たのだ。
『白霧山脈』で遭遇した、唯一と呼べる人物を四人は思い浮かべる。
「あのピンクの髪の女の子! もしかすると彼女ならあの子ことを見掛けたかもしれない!」
「うむ、確証は無いが可能性は捨て切れない! 聞いてみる価値はあるだろう」
「……何処へ行ったかは分からねぇけど、あの女も首都に居るんじゃないか? もし近くの都市や街に寄るんだったら、首都以外近い所ねぇし」
「仮に首都に居るとしたら、金髪の子よりはかなり見付け安いと思うよ。あんな格好しているから」
「確かにあんな恰好していたら、人混みの中でも嫌って言う程、人目に付くな……それにしてもあの女、たった一撃で『古代獣』を壁ごと外へ吹き飛ばすなんて、一体何者なんだろうな?」
「さぁね。格好もカレンと同じ見慣れない物を着ていたけど、彼女のはカレンと違って、何と言うか……その………」
うまく言い表せないアイシャにロロは助け舟を出すように自分の中で思い付いた物を挙がる。
「パワードスーツって感じか?」
「そう、そんな感じ! もしかしたら彼女、『トロイカ』軍の軍人且テスト装着者で、あの装着物は『トロイカ』が新開発したパワードスーツかも」
「いや……ちょっとぶっ飛び過ぎてねぇか、その推測?」
有り得ないとは言えないが、根拠も無いのにそのような推測を立てるのは無茶が有り過ぎるとボケに近いアイシャの推測にロロはツッコミを入れる。
すると、そこでミツルギは頭の中で何かが引っ掛かっているような、眉間にシワが寄った顔で。
「そもそも、あのピンクの髪の少女は……人間だったのだろうか?」
「? それってどういう意味、ミツルギ?」
唐突にあの美少女は人間なのかと疑うミツルギにカレンはその疑う訳を問う。
「皆には言わなかったが、あの少女からには気が全く感じられなかった! あれ程の力を使って『古代獣』を撃退したにも関わらず、一瞬足りとも気を感じ取れなかった! 気配を上手く隠せてもどんな生物でも力を出せば、必ず気も出ると言うのに、あんなのは普通有り得ない!」
余程、信じられないことなのか。
いつも飄々としているミツルギが珍しく戸惑いの表情を見せる。
「『古代獣』の気が大き過ぎて、感じ取れ難かったんじゃないかな?」
「そんなことない。何度も神経を研ぎ澄まして、彼女の気を掴もうとしたが、何度試しても〝彼女の居る場所から〟は気が感じなかった…………あの時、まるで俺は幽霊を見ているような気分だった」
「幽霊? おいおい、あんな存在感溢れる幽霊が居る訳ないだろ! つぅーか、気がどうとかあの女が何者かなんてどうでも良いだろう! 大事なのはあの女が首都に来てるか来てないかだっつうの!」
話が脱線しているのを四人の中で一早く気付いたロロは軌道修正を行うべく、葛を入れて強引に話を戻す。
「で、どうするんだカレン? 明日、お前が探している金髪の女も含めて、あのピンクの髪の女も首都で探すか?」
「うん、そうするつもりだよ。今の僕にはそれぐらいしか他に手立てが無いから」
「さっきも言ったけど、ピンクの子の恰好は目立つから、人々の目撃情報に従って辿れば、きっと見つかる筈だよ。………首都に居ればの話だけど」
「しかし、これ程の大都市の中を一人で人探しはかなり難しいだろう。どれ、俺もその二人の少女の捜索を手伝うとしよう」
「え? 大丈夫なのミツルギ? 君確か、『イルクク』とか言う大陸へ行く為に『リア・カンス』に来たんじゃなかったっけ?」
各国から頼まれて視察を行っている身であるミツルギが次の視察の対象の元へ行かなくて良いのかとカレンはそう尋ねる。
だが、その指摘に対して、ミツルギはこう述べる。
「ああ、そのことか! それなら案ずるな。『イルクク』大陸の『デミオン』軍への審査訪問の期限はあと一ヶ月もある。何日費やそうが期限が過ぎる前に訪ねれば良いだけの話だ。問題無い」
「その発言は社長として、どうかと思うよ。ミツルギ」
『ルーレイコーポレーション』の社員ではないが、社長であるミツルギの問題発言にアイシャは突っ込みを入れる。
その直後、カレンは皆の明日の予定が気になり、聞いてみようとまずアイシャの方から尋ねる。
「アイシャは明日どうするの?」
「私は…………」
まだ決めていないのか、突然話を振られたアイシャは考え込むように顔を少し俯かせ、一旦黙る。
そして約五秒後、整理が着いたようで、顔を上げて明日の予定を話す。
「私もカレンの人探しを手伝うよ。依頼人に会うのは明日の夜中だし、それまで何もする事が無いからね」
「本当? 助かるよアイシャ」
人手が多ければ、どんな作業もスムーズに進むので、理由はどうであれアイシャの協力にカレンは心から感謝する。
「それで、ロロは明日、どうするんだ?」
アイシャの明日の予定は分かったので次はロロの番だと、カレンの代わりにミツルギが尋ねる。
「俺か? 俺は明日、『BUS』で『サムイング』に行こうと思ってんだ」
「『サムイング』?」
「『サムイング』は『リア・カンス』から北西200km程、行った先に在る、『トロイカ共和国』の都市の中で四番目に大きい都市のことだよ」
他の三人とは異なり、ロロは一人だけ明日、北西200kmも離れた『サムイング』とか言う都市に行くと決めているようだ。
「そうなんだ。でもロロ、折角『リア・カンス』に来たのにどうして次の都市に行っちゃうの?」
「俺は此処に長居する程、金持ってねぇだよ。だから『サムイング』に行くんだっつうの」
ロロが『サムイング』に向かう理由は至って単純。
『リア・カンス』で長く宿泊する金が無いから『サムイング』に行くらしい。
「何か宛てが在るの?」
「無きゃ行かねぇよ」
「行くのは構わないが、そもそもロロは何の為に『リア・カンス』に来たのだ? 別に旅行をしているのではないのだろう?」
「あ、あぁ……そいつはだな…………」
『トロイカ』軍から逃げる為にと馬鹿正直には言えないので、ロロは返答に困って、歯切れが悪くなる。
しかし、そこで意外な人物が助け舟を出した。
「妹のイミナちゃんとケンカして、その際に村を飛び出して来たから、しばらく村に帰れないんだよね。ロロ?」
「えぇ? あ……」
助け舟を出した人物、それはカレンだった。
いつものほほんとしているカレンがこんな気の利いたことをするとは思いも寄らず、
ロロは意表を突かれて一瞬戸惑ったが、瞬時にこれはイケると思い、便乗するように話を合わせる。
「まぁ、実はそうなんだよ! ちょっとした事情でイミナと大ケンカしちまってな、お陰でアイツの機嫌が直るまで家に帰れないんだよ!」
「そうか……それは大変だな。……ロロには兄妹が居るのだな」
ロロに兄妹が居ると知ったミツルギは何処か切なそう表情を浮かべて。
「ロロ、妹君を…いや、家族を大切にするのだぞ」
「は? ……あぁ」
急に家族を大切するようにと言われて、ロロは呆気を取られたが、とりあえずその言葉を了承し、頷くのだった。
「あっ、あれじゃないかな」
その直後、他の三人よりも速く、目的の宿屋を発見したアイシャは人差し指を突き出し、宿屋を発見したことを皆に知らせる。
すると同時に空から水滴が幾つか落ちて来た。
そしてその水滴が雨に因る物だと、すぐ分かった四人は雑談を終わりし、宿屋へ急行した。