退院
…………という訳で、世界遺産と称される『再生石』を使っての治療を行うことになったカレンは自分に対しての治療についての説明を一通り聞いてから病院の地下一階の中心に位置する広い円状の空間に搬送される。
カレンをタンカーに乗せてこの空間まで運んできた看護婦二人は部屋の中心までカレンを運ぶと看護婦二人は駆け足で出入口に戻り、出入口の扉を閉め、部屋から退散する。
輸血のお陰で意識と視界が正常に戻ったカレンは自分の治療が行われる部屋の中を調べる為にグルッと見渡す。
空間内は全体的に鮮やかな青色で塗り潰されていることと天上の中心部分が黒く塗りつぶされていることぐらいしか特徴は無いが、良く見てみると壁の至る所に銀色のボルトが埋まっており、しかも壁は分厚い鋼鉄製であることをカレンは見抜いた。
そしてカレンは病院内で此処だけ他の部屋とは全然違う造りに成っていることに気付くと同時に此処だけ何故か特別頑丈な造りに成っていることが分かった。
更にこの空間は機材や置物が一切置いておらず、何も無い殺風景に近い物寂しい感じの空間で、何か在るといえば、出入口から数十m離れた所にこの空間内の様子を窺う為の覗き窓が在ることぐらいだった。
と、そこでカレンはその覗き窓の奥には自分の方を見詰めるミツルギ達の姿を発見する。
三人は見守る様な視線を送っており、恐らく三人はカレンの怪我が治るのを拝み来たようで、手を振りながら空間内を覗いている。
カレンはそれに対して笑顔で返すと上空から物音が聞こえた。
その音に釣られてカレンは顔を上空に向けると、天上の中心部分がまるでケーキを真っ二つにしたかのように中央から裂き別れ始めており、裂け目から輝かしい光が零れ、空間内を照らす。
そして天上が次第に大きく開いていくと神々しく輝く巨大な鉱石が顔を覗かせる。
やがて天上が完全に開くとその巨大な鉱石が発する光は空間内全体を包み込む。
光はとても強い輝きだったが、不思議と光を浴びているカレンは眩しさを感じず、それどころか身体全体が癒されるような、とろけてしまいそうな気持ち良さを感じ、今までに味わったことの無い、快感に近い心地好さを覚える。
「!」
するとカレンは自分の身体に異変が起こっていることを感じ取る。
異変が起こっている箇所は右腕と左腿。
そう、『白霧山脈』での戦いで負った二つの怪我がみるみると再生していくのだ。
しかも、その再生速度は尋常ではなく、まるであの『古代獣』の高速再生のように光を浴びてから、ものの数秒で右腕と左腿の怪我は跡を残すことなく、怪我を負う前の姿へと戻る。
「………!」
巨大な鉱石が放つ輝かしい光に因って、怪我が眼の前で完全に治ったことにカレンは眼を見開いて驚く。
そしてカレンの怪我が治ると、役目を終えたかのように天上の門は閉じ始め。
やがて天上の門は閉じ、鉱石の光は遮断され、空間内は最初の時と同じ状態に戻る。
これで治療が終わった悟ったカレンは試しに怪我は本当に治ったのか、確かめようと仰向けのまま右腕を上げてみた。
そうすると右腕はカレンの思い通りに持ち上がった。
「(動いた!)」
さっきまでは少しでも動かそうとしただけで、鋭い痛みが走る上に全く動かなかった筈だったのに、今は嘘のように痛みが無く、自由に動かせることが出来る。
次にカレンは左腿の方は大丈夫か、確かめようと上半身だけを起こして、タンカーから降りる。
ピタッとカレンの両足が冷たい床の上に乗った。
だが、痛みは無かった。
カレンは背筋と脚を真っ直ぐに伸し、姿勢を垂直に正して、全体重が脚全体に掛かってもカレンは何の痛みを感じずに直立で立つことが出来た。
念の為にピョンピョンと軽く跳び跳ねてもやはり痛みは無く、カレンは怪我は完璧に完治したと確信する。
一応治療を受ける前に『再生石』の効力の説明を聞いていたが、実際に体験するとまさかここまで凄いものとは思わず、瞬く間に以前と変わらない健康体に戻れたことにカレンは大変感激し、歓喜の笑みを浮かべる。
「「「カレン!」」」
すると丁度その時、出入口の方から聞き覚えのある三つの声が空間内に響く。
カレンは声がした方に顔を向けると、そこにはさっきまで覗き窓の奥に居たロロ・アイシャ・ミツルギの三人がこちらに駆け寄って来て、カレンのすぐ手前に止まると最初にロロが声を掛ける。
「どうやら、もう自由に動ける感じだな」
「うん! 凄いね、『再生石』って! 今までの不自由さが嘘みたいだ」
「これでカレンが探している女の子を探し続けられるね」
「ミツルギに感謝しろよ。なんせ輸血も含めて『再生石』での治療代も全部払ってくれるんだからよ」
「あっ、そうなの? ありがとうミツルギ。何からなにまで、お金は何時かちゃんと返すから」
「ん? 別に返す必要は全くないぞ、カレン。俺と君と仲だ、この程度の事など、貸し借りの内にも入らん」
「えっ、良いの? 看護婦さんから聞いたけど、『再生石』での治療代ってすっごく高いんでしょ?」
「気にするな。たかが一千万トールや一億トールを失っても痛くも痒くもないし、もっと良く言えば、失った気分にすらならない。それに代金の支払いは俺が勝手にやることだ。だからもう一度言うが、気にするな我が友、カレン。余り気にされると逆に俺が困る」
「分かったよ……ミツルギがそこまで言うなら」
太っ腹過ぎるミツルギの厚意にカレンは、ここは受け取らないと逆に失礼だと思い、その厚意を素直に受け取ることにした。
「……この調子だと、もしカレンがグラ・ビーを必要としていたら、その場合でもミツルギの奴、快く無償で買ってやるんじゃないか?」
「それは………十分、有り得るね」
そしてこの日、ロロとアイシャは自分達庶民には到底真似出来ないミツルギの金銭感覚を垣間見たのだった。
その後、『再生石』での治療のお陰で入院する必要が無くなったカレンはもう病院に留まる必要も無くなったので、ミツルギの言葉通りに治療代を肩代わりして貰い、たった数時間で病院から退院する。
退院してすぐ金髪の少女を探そうとしたカレンであったが、病院から出ると外は既に日が暮れており、人探しをするには色々と難しい状況であった。
しかも悪いことに、カレンを含めて四人が食事を取ったのは昨日の夜までだったので、今日の朝まで我慢していた空腹感がより一層大きく為り、今にも『死んじゃう〜』というぐらいの空腹感が四人に襲い掛かり、人探しが更に困難を極める。
この悪条件の中で、人探しは無理だと流石のカレンも冷静且常識的に判断し、今日は大人しく諦めようと人探しを断念する。
今はとにかく、この空腹を最優先で何とかしようとカレンは他の三人と話し合った結果、皆で食事を取るということになった(ミツルギの奢り)。
食事をする場所は病院から割と近い高級飲食店で、四人はその店のVIP席に座る。
高級店のVIP席というだけあって、VIP席の場所は広々とした綺麗な個室であり、室内に置かれたテーブルや椅子、絨毯や食器に至るまで全てが高級品と思われる造りをしており、何ともゴージャス感溢れる空間だった。
その室内で四人は早く料理は来ないかと、『ひもじい……』と訴える空腹に堪えながら、待ち遠しく待っていた。
しかし何故、四人がVIP席に座ることになったかと言うと。
「ちょ、おま、ミツルギ……そのカード…」
「む? これがどうかしたか?」
手の平よりも一回り小さいブロンズ色のカードを指先でクルクルと器用に回していたミツルギは突然、キョトンとした顔でそのカードの存在を指摘して来たロロに対し、不思議そうな顔でカード回しを辞めて、カードを頬の隣辺りに翳す。
するとロロよりも早く、アイシャがそのカードの正体を口にする。
「それって、『ルナ・カード』?」
「ん? 見ての通りだが……それがどうした?」
「やっぱりか! 『TCK』雑誌で一度見たことが在るが、実際に見るのは初めてだぜ」
「『TCK』って?」
号令のカレンの質問タイムが始まった。
「『TCK』って言うのは代金を後払い出来るカードのことを言うんだよ」
「で、ミツルギが持っているのは『ルナ・カード』っつう、『TCK』の中でも最高ランクのカードって呼ばれているカードなんだぜ」
「そうなの、ミツルギ?」
カレンにそう聞かれるとミツルギはカードを見比べながら。
「その通りだが……珍しいか?」
「珍しいとかそういう次元の話しじゃねーよ! 『ルナ・カード』って言えば、世界にたった20枚程しか製造されていない、ウルトラ限定カードなんだぞ! 『ダイヤ・カード』ですら滅多に眼に掛れないって言うのに」
「20枚しか無いってことは……持っている人が極僅かってこと?」
「正確に言えば、『ルナ・カード』を〝持てる〟人が極僅かってとこかな。『ルナ・カード』は国王か或いは世界でも有数な資産家か貴族しか持ち得ないぐらいの代物だから、そういう意味では『ルナ・カード』は世界大有数の大富豪の証になるね」
「えっとつまり……その『ルナ・カード』っていうのは凄いお金持ちしか持てないってこと?」
「そう、だから私達はお金持ちのミツルギのお陰でこの店のVIP席に座らせてくれたの」
事情をもっと詳しく言うと、所有していた小切手が病院で切らしてしまったミツルギは仕方なく、『ルナ・カード』を使うことにし、この店に入った直後、出入り口のすぐ近くに在った会計場に居た定員がミツルギの手に持っていた『ルナ・カード』を眼にし、顔色を変えて、鍛え上げられた己の接客力を持って四人の意思関係無く、丁寧に四人をVIP席へご案内したという訳なのだ。
「わぁ〜〜ミツルギって凄いお金持ちなんだね」
「ん〜〜〜、俺ではまだまだ貧乏な方だと思うのだが……」
「お前みたいな貧乏が居るか!!」
ミツルギの無駄に謙虚な発言はロロの反感を買ってしまったが、その直後に高級店ならではの高級料理が列を為して次々と運ばれ、腹ペコの四人はお喋りを後回しにし、『頂きます』と行儀良くと挨拶を済ますとそれぞれ食器を持って料理を口へ運ぶのだった。