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ユニヴァース  作者: クモガミ
二人の再会
74/125

下山

約三十分後。

激戦の疲れを取る為に必要なこと以外はお互い何も喋らず、三十分近く一息着いていた三人は十分休めたと判断すると、閉じていた口を開く。

最初に声を出したのはアイシャだった。

「そろそろ行こうか」

「うむ、ロロも大丈夫であろう?」

「ああ、もうバッチリだ!」

十分な休憩で体力を大方取り戻したロロはその証拠を見せ付けるように胡座の状態から苦もなく立ち上がる。

そしてすぐ傍で仰向けになって依然と気を失っているカレンの顔を見下ろす。

治療を施し、アイシャが生命力を分け与えた甲斐も有ってカレンの顔色や生気は前よりも回復し、正常に戻りつつあった。

「コイツの顔色も良くなって来たし、あとは起きるのを待つだけだが……それを待たずに本気でカレンを背負って降りるのか?」

「本気だ。さっき話した通り『爆弾石』の爆発や『古代獣(こだいじゅう)』との戦いの騒動のお陰で、魔物達はこの周囲に近付いてこない。だがいずれ時が経てば、外の魔物達が此処に来るかも知れん。そうなる前に此処を離れなければならない」

休憩中に今後予定を話し合っていたようで、どうやら三人は気を失ったままのカレンを背負って、『白霧山脈(ホワイト・マウンテン)』を下山するらしい。

それに対してロロはやや反対気味のようだが、宥めるようにアイシャが話しに加わる。

「それにカレンが仮に今、意識を取り戻したとしても怪我が治った訳じゃないからまともに戦うことや動くこと出来ない。……カレンには悪いけどそれだったら意識が有っても無くて変わらないよ。何よりカレンの顔色が回復しつつあって、もし何か不都合が起こって何時までも意識が戻らない状態に為ったら大変だから……出来るだけ早く安全な場所に向かった方が良いと思うんだ」

状況が状況なのでアイシャは合理的な正論を語ったが、現状的には事実だがカレンを役立たず的な扱いにしてまったことに罪悪感を感じているのか、少し表情に後ろめたさが映る。

「アイシャの言う通りだ。今優先しなければならないことはカレンを連れて魔物の手の伸びない安全地帯まで迅速に避難し、必要であればカレンを医者に診て貰うことだ」

そこでミツルギはアイシャを庇うように話しを切り上げようとした。

「同じことを何度も言うのは好きじゃないが、幸いにも周辺近くには魔物の気配は無い。今の内なら外で魔物に遭遇せず、比較的安全に此処から下りられるかもしれん。だがカレンの眼が覚めるのを待つ為に此処に長居していれば、魔物達が此処へやって来て戦闘に為ってしまい、最悪カレンの身を危険に晒すかもしれない。それを防ぐ為にもカレンが眼を覚ますのを待つのは安全な場所に着いてからにしよう……それで良いな、ロロ?」

「……分かった。そうしよう」

リスクとカレンの身の安全を考えたミツルギとアイシャの説得にロロは潔く良く折れて二人の提案に乗る。

「良し、それでは陣形を決めるぞ。三人で縦一列に並び、前衛はロロ。中衞兼カレン運びは俺。後衛は―――」

「いや、中衞は俺に任せてくれ。ミツルギは前衛を頼む」

話しを遮るかのようにロロからのポジションチェンジの申し出にミツルギは意表を突かれたのか、眼を丸くする。

恐らくミツルギはいくら休憩を取って体力を大方取り戻したとしても、万全の状態とは言えないのでロロに三つの役目の中で一番疲れる中衛役は重荷だと思っていたのであろう。

だからミツルギは問い掛ける。

何故自ら前衛役を拒否し、中衛役を推したのか。

「良いのか? 中衞は人間一人を背負って下山するからかなり疲労すると共に行動も大幅に制限されて、まともに戦うことも出来ない状態に陥る大変な役目だぞ」

「だったら尚更、俺の方が適確だろう。少なくとも〝今〟の俺は前衛には向いていない」

「どういう意味?」

〝今〟の自分には前衛役は向いていないと語るロロにアイシャはその訳を伺う。

するとロロは休憩中に回収しておいた愛用の鞄から数本の矢を取り出した。

「! ……それは」

その矢は見た瞬間、アイシャとミツルギは眼が見開いた。

ロロの取り出した矢は全てへし折れており、とても弓で飛ばす事が出来ない状態だった。

自分の掌で無残にもへし折れた矢を眺めながら、ロロは淡々と話し出す。

「残りの矢も皆こんな感じだ。多分、『磁力石』の拘束から解かれて地面に落ちた拍子に折れたんだと思うんだ……すまねぇな、言うのが遅れちまって。だけどこれで分かっただろう? 矢が使えない以上、俺はロクに戦うことが出来ない。そんな奴が前衛を務まることが出来ると思うか? 出来ないなら中衛役をやった方がずっとマシだろ」

「しかし、今の君の身体では……」

「心配すんなって! カレンを背負いながら下山することぐらいやってやるぜ! 俺様の力を舐めるなよ!」

何処からそんな妙な自信が出て来るのかは分からないが、ロロのその意思を汲み取ったのかミツルギは微笑みを浮かべる。

「……承知した。では陣形を確認するぞ! 前衛は俺。中衞兼カレン運びはロロ。後衛はアイシャだ」

「おう」

「了解」

それぞれが改めてお互いの配置を承認すると、三人は早速出発の準備を整える。

まずミツルギとアイシャが気を失って眠っているカレンの身体を二人掛りで持ち上げて、運送役のロロに背負わせる。

「……よっとっと。やっぱり眠っている人間は重いな」

ロロが率直な感想を呟いてカレンを背負うと三人は陣形通りに並び、謎の美少女が空けた外へ続く大穴の付近へ向かう。

徒歩十秒ぐらいで大穴の手前に到着した三人は外に漂う白い霧の中で大穴と一直線に通じている霧の中のトンネルに視線を向ける。

出来上がってから少しの時間が経ったのでトンネルの面積がかなり小さくなったが、トンネルの奥から見える向こう側の景色はまだ眺めることが出来た。

「見ろ。首都『リア・カンス』だ!」

トンネルの奥から見える外の景色の中で目的地の首都『リア・カンス』を見つけたミツルギは二人にもその存在を示すように人差し指で場所を指した。

四人の所から目測で言うと10km程離れた場所に『リア・カンス』と呼ばれるあらゆる構造物達の密集体が立っており、四人が山という高い所に居るお陰もあるのだろうが首都と言うだけあってか、10km離れていても十分に肉眼で捉え切れる程の広大さだった。

「『リア・カンス』だ! 本当に『リア・カンス』だ!! ははっ、本当に在ったぞ!!」

まだ目的地に着いた訳ではないが、まるで出口を求めて暗闇の中を数週間ぐらい延々とさ迷い続け、やっとの思いで光差す出口を見つけた遭難者かのように目的地が見えたことでロロは感激の笑みを浮かべる。

「二人共、見てあそこ!」

続いて今度はアイシャがトンネルから見える景色から何かを見つけたようで、ミツルギと同様、二人にも分かるようにその場所を人差し指で差し示す。

二人が指し示された場所に視線を向けるとそこには左右に白くて縦長の壁と無数の木や林に囲まれた鼠色の道が在り、正確に言うと四人が今居る『白霧山脈(ホワイト・マウンテン)』から降りて地平へ戻り、そこから斜め左前へ約2km先進んだ地点にその道が在り、しかもその道は見た感じ、首都『リア・カンス』に続いているかのように首都の方まで長々と伸びていた。

そして更に良く眼を凝らして見てみると、鼠色の道の上を膨大な数の四角い箱のような物体が蟻のように規則正しく列を作って上へ下へ走っている。

「『GRAND(グランド)VEHICLE(ビークル)』! ってことは…」

「間違い無く、あの道路は首都『リア・カンス』に続いていると思うよ!」

「と言うことはあの道路を辿って行けば、『リア・カンス』に辿り着くということだな!」

首都の方まで伸びている道路と言う名の鼠色の道を辿って行けば、確実に『リア・カンス』まで辿り着くことが出来ると三人は断定する。

三人は心の中で感謝する、『古代獣(こだいじゅう)』を撃退してくれただけでは無く、目的地や目的地へと続く道を発見する切っ掛けを作ってくれた謎の美少女に。

「まずはあそこを目指そう!」

目指すべき進路を見つけたミツルギは指ではなく、刀の切っ先で地平に在る道路を指して、二人にそこを目指すことを促す。

勿論、二人も首都『リア・カンス』に行きたい為、道路を目指すことに異論は無い。

だが、その道路を向かうには大きな問題が一つ有り、ロロがその問題を指摘する。

「行きたいのは山々なんだが……どうやって降りる? この白い霧の中で降りられる場所を探すのは一苦労だぞ」

そう、問題はこの『白霧山脈(ホワイト・マウンテン)』の由縁であると同時に山脈特有でもある視界を遮る程の濃い白い霧であった。

山脈全体を包み込んでいる白い霧は約2,3m先しか見えなくさせるので、その中で降りられる場所を探すのはロロの言う通り、かなり難しいと思われる。

降りられる場所を見つける為にはまず、周囲の白い霧をどうにかしなければならない。

そこでミツルギはこう呟く。

「ふっ…心配するな。この程度の霧など、何の問題にもならない」

「問題ないって……何か良い案でもあるの?」

「まぁ見てろ」

自信有りげそう言ったミツルギは左手に持った刀を天に向けて振り翳し、空気を斬るように刀を斜めに音を立てずに振り下ろす。

その直後、突風が前を横切るような音が鳴り響くと同時に四人の周囲に在った白い霧が斜めに引き裂かれ、辺り一面が視認可能となる。

「「……!」」

ミツルギのこういった離れ業は今に始まったことでは無いが、たった一振りで周囲の霧を全て消し飛ばしたミツルギの豪技にロロとアイシャは唖然と眼を見開く。

「ふむ……近くに降りられる場所は無いか」

そんな二人の様子を気にせず、ミツルギは障害の霧が無くなって見晴らしが良くなった周囲を見渡そうと大穴から顔だけを出すが、何処を見渡しても山の地面はほぼ垂直な坂しか在らず、降りるどころか歩ける場所も無かった。

しかも、四人が居る山は山脈の中で一番端っこの方とはいえ、10kmも離れた首都が見える程見晴らしが良いため、高さも相当なもので大穴から遥か下の地平まで1000m近くの距離が有り、誤って落ちれば死はまず免れないだろう。

……だが、それでもミツルギは。

「ならこうするまでだ」

これも問題ないと言った感じにミツルギは刀を足元の地面に軽く突き刺す。

すると突然、外側の大穴のすぐ下から槍のように先端部分が尖った直径2m、横幅1m,厚さ50cmぐらいの岩の柱が飛び出した。

更に更にその尖った柱から左斜め下に向かって同じ柱が列を作るように無数に飛び出し、やがてそう経たない内に尖った柱達は1000m下の地平まで増殖し続け、そして地平の地面のギリギリ手前に柱が飛び出すとそれを機に柱達の増殖がピタッと止まる。

この摩訶不思議な現象もミツルギの仕業なのだろうが、それはそうとしてミツルギが生み出した尖った柱達は斜め線のように斜めに列を組み、僅か数秒間で高さ1000mの山の大穴から地平へと続く一つの階段として誕生した。

「うむ。我ながら中々の出来前だな!」

階段の出来前に自ら感心しながらミツルギは大穴から出て、尖った柱の階段で下へ降りて行く。

そして数段降りて、ミツルギは後ろの二人が付いて来てないことに気付く。

「二人共、何をしている? モタモタしていると霧が戻って来てしまうぞ!」

「あっ……お、おう」

「……う、うん」

今度は柱の階段が出現するという事態にロロとアイシャは唖然としつつもキチンと返事を返して、柱の階段に足を着けてミツルギの後に付いて行く。

二人が降りて来たことを確認し、再び階段を下って行くミツルギの背中を見詰めながらロロはミツルギに聞こえないように小さな声でアイシャに話し掛ける。

「何度も言うようだが………アイツって本当に何でも有りだよな」

「だね」

ミツルギに対しての印象をお互いに共感し合いしつつ、二人はミツルギの後に付いて行き、1kmの長い階段を慎重且つ急いで下って行った。


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