謎の美少女
流石の男子三人の方も今の光景を目撃して『磁力石』の鎧の欠点について薄々と気付き始める。
それもその筈、鎧の欠点が『古代獣』が宙に浮かばせて操る『磁力石』の欠点と酷似しているから。
「銃弾が跳ね返されなかった……ってことは」
「あの鎧も一度に磁力を、身体全体に発生出来ないってこと?」
「大方そうだと思う。あの鎧は宙に浮かんでいる『磁力石』と同じ、磁力を一定方向で発生出来ても反対方向は磁力を発生出来ないんだ」
同じ『磁力石』だけあってか、鎧の欠点も『古代獣』が操っている『磁力石』達の欠点と差ほど変わらないようだ。
「成る程、さすればやる事は一つ!」
鎧の欠点が判明するとミツルギは自分が今すべきことを理解し、銃のように変形させた刀の取っ手部分に在る凸型トリガーを素早く二回押した後、そのままトリガーを押しっ放しにした。
「銃乱撃剣!」
そう叫ぶと刀の刀身が無数に乱発射され、瞬く間に数百の刃の弾丸は雨のように『古代獣』の正面に降り注ぐ。
もちろんそんな攻撃をわざわざ喰らう訳にはいかないので、『古代獣』は〝身体の前半分〟から磁力を発生し、刃の弾丸を反発で次々と弾き返していく。
その中ミツルギは『古代獣』の注意を自分に向けさせながら、カレン達に声を掛ける。
「最初の一撃は俺に任せてくれ! 〝止めの二撃目〟は君達に任せたぞ!」
「了解! タイミングそっちに任せるよ!」
「ってことは俺達はミツルギの攻撃に合わせて、ミツルギが攻撃したところの反対側の方を狙って攻撃すれば、良いってことか?」
「そういうこと。という訳でカレン! すまないけど君の『ゼオラル』のビームが必要なんだ。大丈夫?」
「う、うん………あ、あれ?」
協力を求められてカレンは右腕と左腿が負傷している為、左腕と右脚だけ身を起こそうとしたが、血を流し過ぎてもう身体が限界に来ているのか、さっきまでとは違って腕や脚に力が入らず、上手く起き上がる事が出来ずにいた。
その様子を見てロロは。
「ったく、しょうがねぇなぁ」
そう呟きながらもロロは体力が殆ど無くなって尻餅を着いていた身体を起き上がらせ、うつ伏せに倒れているカレンの上半身だけを持ち上げ、立ち上がらせるのは無理ので、地面に座らせる。
「ありがとう、ロロ」
「気にすんなよ。武器も無ければ、『マナ』も使い切っちまった今の俺にはこれぐらいしか出来ねぇんだから。それよりもお前、こんな状態で腕とか上がるのか?」
そう尋ねられたカレンはもう一度、左腕に力を入れてみると、左腕はプルプルと震えながら上へと昇るが、数㎝上がったところで腕は止まってしまう。
「………上がらないや」
「何となくだが、そんな気がしたよ」
予感が的中したロロは溜息を吐きつつ、後ろから手を伸ばして、カレンの左腕を持ち上げる。
「俺様が腕を支えてやる。有り難く思えよな」
「色々とありがとうロロ。ゼオラル!」
血が流れ過ぎて身体の体温も冷えたのか、服の上から伝わる人の暖かさと温もりを感じながらカレンは自身の魔装器の名前を呼び叫ぶ。
するとカレンの呼び声に応えて、岩の壁の中に埋まっていた大剣の形をした魔装器が光と共に消え、そして瞬くに光と共にカレンの左手に現れる。
それを確認したアイシャは黒い物体の右側面に在る照準器の隣の小さな画面に視線を移す。
「(今のエネルギーの残量だけだと……撃てるのはあと一発! この一発で決めないと!)」
小さな画面に表示されている映像を見て、黒い物体があの半透明な赤い光を撃てるのは一発だけだと計算したアイシャは現在の状況を考えて、今が勝機だと思い、その一発で決めるべきだと判断する。
「カレン、私に合わせてビームを放って! それとこの一撃で仕留めなきゃならないから、君も強力なビームをお願い!」
「うん! 任せて!」
力強く頷ずくカレン。
「(ん?)」
とその直後、カレンは『あれ?』と首を傾げる。
「(僕、強力なビームを放つ攻撃技なんて持ってたっけ?)」
今、思い返してみると自分にはアイシャが要求する程の強力な威力を誇る技等は持ち合わせていないことにカレンは気付く。
嘘を付く気は微塵も無かったのだが、ついその場の勢いで了承してしまったカレンは後悔の念と罪悪感、そして焦りが腹の底から込み上げ、額から数本の汗がダラダラと流れる。
「? カレン、何か頭から汗がすっげー流れてんぞ。大丈夫か?」
「えっ!? あ、ああ、いや、これはっ……」
真後ろ居るロロに様子の異変を見られたカレンは咄嗟にごまかそうとしたが、その直前にここで無意味にごまかしても、状況が良く成る訳ではないという事を悟る。
そしてここはごまかさず、素直に自分の非を打ち明けるべきだと思ったカレンは二人にその事を伝えようとした。
「(全く、眼の前の怪物に強力な一撃を与える程の大技も持っていないクセに、良くあんな大口を叩けたものだ)」
「(! レクサス!?)」
天から囁きのように不意に頭の中から謎の存在の声の主、レクサスの声が響いてカレンは眼を見開いて驚き、思わず声を飲み込む。
「(カレン、トリガーを一回押した後、そのままトリガーを押しっ放しにしろ)」
「(え? え? どうして?)」
また何かの助言なのだろうが、いきなり且つ言わなきゃいけないことを遮られ、カレンは若干混乱に陥ってしまう。
一方その頃、刃の弾丸の雨を撒き散らして『古代獣』の注意を引いていたミツルギはそろそろ頃合いだと思い、刃の弾丸の掃射を止め、瞬時に刀の形と刀身の長さを元に戻し、そして即座に『縮地法』でその場から消え去った。
「!」
それに合わせて『古代獣』の視線が右に傾く。
ミツルギの『縮地法』は一瞬で目的地へ移動出来ると言っても、並外れた胴体視力で見切ってしまった『古代獣』の前では最早通用せず、『古代獣』はミツルギが自分の右脇に向かう姿を正確に捉える。
そして『古代獣』の眼が捉えた通り、『古代獣』の右脇の手前にミツルギが出現する。
現れてすぐミツルギは刀を持った左手を背中の方に回して振りかぶる。
今まで流れ通りに自分がここで刀を振れば、磁力の反発に因って刀が弾き返されるのが分かっていても、カレン達の攻撃を当てさせる為にミツルギは囮役として、迷わず刀を真下から水平に振り上げた。
その瞬間を『古代獣』の胴体と地面との間から捉えたアイシャは『ここだ!』と判断する。
「今だ! カレン撃て!」
「(いいからやれ!)」
ほぼ同時に外側と内側の両方から板挟みのように指示を受けたカレンは戸惑いつつも二人の指示に従って取っ手部分に在るトリガーを押し、そのままトリガーを押しっ放しにした。
するとトリガーの押し方に反応して大剣の刀身は中央から左右に大きく別れ、二つと成った刀身達の刃と刃の隙間から『DETROIT・MODE』で放たれる『BEAM・CANON』の約6倍並みの面積を持つ、大きな光の矢が飛び出した。
続くようにアイシャも黒い物体の引き金を引き、最後の赤い光を発射する。
直後にミツルギの刀は『古代獣』の身体の右半分から発せられた磁力の反発に因って弾き飛ばされた、が。
その後直ぐにカレンとアイシャが放った光の矢と赤い光が、磁力が展開されていない『古代獣』の身体の左半分に在る、左脇に合わさるように直撃した。
「!!!!!」
密度の高い二つのエネルギー体が『磁力石』の鎧を貫通し、奥の『古代獣』の左脇に突き刺さり、体内を焼き尽くす。
身体の中全てを溶かし尽くすようなその余りの威力と熱さに『古代獣』は声に鳴らない声を叫びながら、二つの高エネルギー体に押されて左側の脚二本が浮き、身体が少しずつ右に傾く。
「!」
『古代獣』の右脇の手前に居るミツルギは『古代獣』の身体が傾くのを見ると、このまま此処に居たら下敷きになると瞬時に予測し、『縮地法』を使用して、さっきまで居た場所に戻る。
その予測は正しかったようで、時間が一秒経つにつれ、次第に二つの高エネルギー体は縮んでいき、やがて大剣と黒い物体がちょうど同じタイミングで放射し切ると、左脇から爆発が起こり、それが決め手となって『古代獣』の身体は爆発に押されて完全に右に傾き、横幅も広いその巨体は垂直に伸びる分厚い壁のように、地面に横になる。
その直後にカレンの大剣の剣格部分に在る、碧い水晶のような円状型のランプに文字が立体的に浮かび上がる。
「BEAM・BLASTER?」
カレンがそれを読むと同時に遂に力尽きたのか、位置的に『古代獣』はカレン達に自分の腹を見せるように横になったまま、真っ直ぐ伸びていた首や脚は重力に平伏すように下へ傾き、ギラギラと輝き憎悪に満ちていた瞳は光を失っていくと共にその目蓋をゆっくりと閉じた。
「「「「……………」」」」
グッタリと横になって倒れ、声も出さなくなった『古代獣』を四人はただ黙って眺める。
今さっきまで喧しいぐらい騒々しかった空間内が今は嘘のように静まり返り、『古代獣』は起き上がる気配は無く、その様子を見てロロは息を呑んで、声を引っ張り出すように呟く。
「……やった…のか?」
「分からない。でもミツルギが致命傷を負わせた時よりも大きな致命傷を与えたし、何よりあんな感じだから、恐らくは……」
生死の詳細は分からないが、見る限り『古代獣』は息を引き取った可能性が高いとアイシャは答える。
その言葉を聞いて、ロロは緊張が和らぎそうになったがその瞬間、ミツルギの眼付きが険しくなる。
「いや、まだだっ!!」
予言するようにミツルギがそう叫ぶと目蓋が閉じていた『古代獣』の眼がギンッ! 勢い良く開く。
それとほぼ同時に光の矢と赤い光の直撃に因って、皮膚も体内も溶かし尽くされてボロ炭のように成り果てた左脇が前と同じく、老いた肌が若返るようにみるみると治癒していき、やがて左脇が完全に完治すると『古代獣』は体勢を元に戻し、己の元気な姿を見せ付けるかのように身体の向きをカレン・ロロ・アイシャの方に再び向ける。
「まだ動ける?!」
「前よりも致命傷はもっと深かったのに、それでも完全に回復出来るまだ余力が有るってこと!?」
「嘘だろ……底無しかよコイツは!?」
不死身の如く蘇る『古代獣』にカレン達は動揺しながらも身構えた。
……その時だった。
突如、『古代獣』の左側面に在る壁が轟音と共に内側から吹き飛んだ。
「「「「「!!!」」」」」
前触れもない出来事に『古代獣』も含めて全員が驚き、吹き飛んだ箇所に顔を向ける。
内側から吹き飛んだ壁は吹き飛んだ衝撃で生まれた粉塵に覆われており、どれ程規模で壁が壊れたかは分からないが、そこから足音のような音が響き。
するとその粉塵の中から足音の持ち主が姿を出した。
「人?」
疑問形でカレンはそう呟いた。
吹き飛んだ壁の方から現れたのは一人の少女だった。
しかし、カレンが何故その少女を『人』として確信を持てて、言えなかったのか。
それはその少女が普通の人間にしてはかなり異質だからである。
端正で綺麗な顔立ちと腰の辺りまで下ろした桃色のツインテールは少女らしい容姿とは大して変ではないが、問題は眼と格好に有り、その少女は眼の白い強膜と黒い瞳が入れ替わったような黒い強膜と白い瞳を持ち、更に腕・脚・腰を露出させた銀色の全身タイツような着物の上に白い機械的な装着物を両手・両足・首元・背中・腹・股間・額・耳に身に纏い、美しくも明らかに普通とは掛け離れた格好と異質且つ何処か神秘的な雰囲気を漂わせる美少女にその場に居る全員が釘付けになる。
「誰だアイツ? っていうか何でこんな『白霧山脈』に人が?」
いきなり現れたことと謎の美少女の格好と正体は置いといて、まさかこの『白霧山脈』に自分達以外にまだ人が居たことについてロロは驚きつつも疑問に思う。
「…………」
一方、自分に視線が集中しているのに、眼中に入っていないのか、謎の美少女はただ周りを観察ように眼を左右に動かす。
彼女のその感情の無い表情で行う単純な動作に四人は機械的というより、まるで機械そのものを見ているような印象を受けた。
「グォォォォォォ!」
謎の美少女の突然の登場で生まれた沈黙を打ち破るように『古代獣』は雄叫びを上げる。
そして彼女もカレン達の仲間と思ったのか、『古代獣』は口の中を見せるように開き続け、彼女に向けて『ステンジウム光線』を撃つ為に口の中でエネルギーを溜め始めた。
「ッ!! 君、そこから早く離れるんだ!!!」
カレンは逃げるように大声で呼び掛けるが、謎の美少女はカレンの呼び掛けには応じず、自分に向けて光線を放とうとしている『古代獣』を観察するように見詰める。
虚空を見詰めているようなその白い眼で少女は『古代獣』が自分に対して敵意と殺意を抱いていることを察知すると少女の姿は一瞬にしてその場から消える。
「!」
少女が消えて『古代獣』は直ぐさま視線を顔の真下に向けると、そこにはあの少女の姿が在った。
そして少女は手刀のように掌が開き、指先がそれぞれ上下に向いた両手を前に突き出した。
「!!!」
少女が突き出した両手から1m半くらいの球体状の大きな白い光の塊が発生し、眼の前に居る『古代獣』の胸元に炸裂する。
白い球体に込られた力は凄まじく、炸裂した莫大な光の波は『古代獣』どころか、『古代獣』の後方に在る壁まで包み込んで吹き飛ばす。
壁の奥は外であり、光の波は外の白い霧も吹き飛ばし、丁度壁の大穴と真っ直ぐ一直線になるように霧の向こう側に在る景色が広大に見える程の大きなトンネルが出来上がった。
そして外へ押し出された『古代獣』は当然飛べる手段が無く、砕け散った壁の破片と共に重力に従って下へ落ちて行き、山脈全体を包み込む白い霧の中へ消えて行った。
「「「「…………」」」」
一瞬の出来事に四人は唖然と立ち尽くす(カレンは倒れ尽くす)。
普通の少女とは明らかに違うと思っていたが、まさかあの強大で巨大な『古代獣』をたった一撃で遠く彼方へと撃退する程の力を持っている等とは、四人にとって予想外過ぎただろう。
そして謎の少女は何事も無かったかのように自らが作った外の日差し入って来る大穴の所までゆっくりと歩いて行く。
大穴の先は崖のように道が途切れており、少女はその一歩手前で止まると横目でチラッと四人を再度視認し、そしてすぐに視線を外の方へ戻すと少女は最後まで何も言わずに崖から飛び降りた。
「あっ………」
唖然としていたせいで呼び止めることも出来ず、少女が山から飛び降りたのを目撃したことでカレンは声を漏らして我に戻り、他の三人も続いて我に戻る。
第一声を切り出したのはロロだった。
「な、何だったんだアイツ?」
「さぁ………」
その問いに反応したのはアイシャだったが、物知りなアイシャでも流石にあの少女のことは皆目見当も着かないようで、得体の知れない正体不明の少女を知る者はこの場には存在せず、ロロの問いには誰も答えることは出来なかった。
「でも、それはともかくーーーー」
言葉を紡ぎながらもアイシャは空間内を見渡す。
最大の脅威であった『古代獣』が居なくなった今、空間内は四人の姿しか居らず、四人の命を脅かす脅威はもう存在しないのだった。
「何がどうあれ『古代獣』は山の下へ落ちて行って、此処から居なくなったんだからもう安全だよ」
「あっ……ああ! そうだな! 俺達助かったんだよな!? あ〜〜〜〜〜一時はどうなるかと思ったぁ!!」
緊張の糸が切れてロロは再び地面に尻餅を着き、安堵と疲れが合わさった表情を浮かべて、本音を打ち明ける。
「あの化け物相手して、俺達良く生きていられたよなぁカレン!」
「う…ん……そう…だね……」
グッタリと顔と肩を下ろし、元気の無い弱々しい声でカレンがそう返事するとロロ・アイシャ、そして離れた所に居るミツルギの表情がハッとなる。
「そうだ……! カレン、お前怪我!」
「カレン! しっかりして!」
三人はカレンが怪我をしていることを思い出し、更にさっきまでの元気は無理をしていたということも察し、ロロ以外は颯爽とカレンの傍に駆け寄る。
カレンの背後に居るロロは姿勢を膝立ちに変えると同時にカレンの左側面に立ち、上半身が倒れないように左肩を支えながら顔色を窺う。
治療する暇が無かったとはいえ長い時間、左腿の風穴から血を流し続けていた為か、カレンの顔色は前よりも更に青ざめており、表情は光を失いつつ遠く見詰めるようなその半開きの眼と同様、生気を感じられないものに成り掛けていた。
それを見て本格にまずいと思ったロロはアイシャとミツルギに視線を向ける。
「左脚の方の怪我はまだ塞いでないんだ! 俺はもう『マナ』を殆ど使い切っちまったから、回復魔法は使えねぇ! アイシャ、ミツルギ、お前達は回復魔法を扱えねぇか?」
「残念だけど、私は回復魔法を習得していない………けど!」
担いでいた黒い物体を一旦地面に置くとアイシャはロロとは反対側の側面に座り、カレンの胸元にポンッと右手の平を置いた。
それと同時に大量の出血の所為で意識が朦朧としているが気を失わないと何とか気合いで意識を保っていたカレンだったが、流石にそれも限界を迎えたのか、眠りに付くように半開きしていた目蓋が閉じてしまい、そしてカレンの意識は深淵の暗闇へと沈んだ。