パワーダウン
放たれた『ステンジウム』の大きさは通常版だったが、それでも三人を一遍に貫くには十分な大きさと破壊力だった。
そして、悪いことに三人の中でこの光線をかわせない者が二人程居た。
その一人がカレン。
知っての通り、今のカレンは右腕と左腿に怪我を負っており、歩くどころか立ち上がれない程の状態に陥っていて、とても超高速で迫る光線をかわせる余裕など無いに等しい。
そしてもう一人がロロ。
カレンと違って怪我を負って動けないという訳では無く、〝己が保持していた『力のマナ』を殆ど使い切った疲労の所為で一時的に身体が動かせなくなり〟、結局理由は違えどロロはカレンと同様、その場から動けないのだ。
「(身体が鉛みたいに重たくて動けねぇ!! くっそ! 動け! 動いてくれ!!)」
疲労し切った所為で鉛のように重たく思える自分自身の身体に呼び掛けるようにロロは心の中で必死叫びながら、気力を振り絞って地面にへばり着いた身体を立ち上がらせようとするが、身体はぴくぴくと痙攣しているかのように震えながらほんの少しずつ動くだけで、これでは立ち上がる前に光線に射抜かれるのは眼に見えている。
飛んで来る『ステンジウム光線』が通常版ならば、横に少しだけでもズレれば、かわせるのだが、今の二人にはそれすらままにならなかった。
だがしかし、今となっては二人が迫り来る光線に対して、避けることも防ぐことも必要ないのかもしれない。
何故なら〝ある人物〟が帰ってきたから。
「ふんっ」
二人の前に立っていたミツルギが呟やくように軽く息を吐き出すとまだ少し距離はあるが、正面から接近しつつある『ステンジウム光線』に向かって、掬い上げるように刀を斜め下から振り上げた。
そうするとミツルギが刀を振るうに合わせて、刀の刀身が伸びる。
伸びた刀身は数十m先に居る『ステンジウム光線』を瞬くに通り越し、光線を照射している『古代獣』のところまで伸びた。
「!」
その刀身が伸びる刀が自分に届くと直感的に察した『古代獣』は瞬時に光線の照射を中断した。
そして次の瞬間、ミツルギが振り上げた長身の刀は光線ごと『古代獣』の顔を岩の鎧ごと切り裂いた。
刀を斜めに振ったことによって、『ステンジウム光線』は斜めに両断され、まるで縦に裂かれた丸太のように二つと成った光線はそれぞれ三人の横を通り過ぎ、一つは三人の後方の壁に激突し、もう一つは三人の斜め右下の地面に激突する。
「ゴガァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!?」
その直後、顔を斬られた『古代獣』が今までよりも、もっと低い声で悲鳴を上げた。
斬られた箇所は下の唇等辺で、どうやらそこを斬られたから、今までよりも低い声が出てしまったようだ。
「寸のところで顔を上に傾けて受けるダメージを出来るだけ縮めたか。外見に似合わず、動体視力も反射神経も良いようだな」
斬られる直前に『古代獣』が持ち前の動体視力と反射神経で斬撃に因るダメージを最小限に留めたことにミツルギは感心する。
「ロロ! ミツルギ!」
と、そこでアイシャが三人の元へ駆け寄って来た。
全員無事と言う訳ではないが、それでも死者は出ず、同じ場所に四人全員が揃う。
「二人共、良く無事で……」
「へ、へっ。俺様があれぐらいでやられるもんかよ」
「うむ、俺もあれぐらいではくたばられないさ」
一人は虚勢という名の見栄を張り、それと違ってもう一人は見栄を張る様子は無く、事実を述べているかのように語る。
その二人の心身共に変わりない姿にカレンとアイシャは微笑む。
すると、四人の頭上と四方に散らばっている四つの『磁力石』達が動き出し、操り主である『古代獣』の元へ戻って行った。最初の見た時と比べて数は激減し、残り少ないが復活したミツルギを近付けさせない為か、前と同じように自分の周囲に『磁力石』達を囲ませた。
「ゴギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
そして二つの傷から伝わる痛みを吹き飛ばすかのようにまた空間内が揺れるような、耳鳴りが起こる程の強烈な雄叫びを上げ、『古代獣』は気合いを入れ直す。
「「「「!」」」」
再会に少し気持ちが緩んでいた四人だったが、『古代獣』の雄叫びを聞かされ、四人はハッと意識を戦いに戻す。
「まだこれだけ叫ぶ程の力が残っているか、思った通りタフのようだ」
「ど、どうせ、あんのな単に強がっているだけだぜ。特にお前が付けたあの脇の傷はかなりの致命傷なんだぜ、あれじゃあ『古代獣』でも長くは――――」
『持たない』とロロが言い終える前に『古代獣』がミツルギの斬撃に因って負った、脇の切り傷と下の唇の切り傷から溢れ出ていた血がピタッと止まった。
そしてすぐその後、二つの切り傷が脅威の速度で、みるみると治癒していき、やがてそう経たない内に二つの傷は塞がり、『古代獣』は再び、健康体へと戻る。
前に一度、同じ光景を見たカレンとアイシャは特に驚く様子は無かったが、逆にその光景を初めて目撃したロロは眼を点にして驚き、反対にミツルギは興味深さそうに眼を見開く。
「また治った!」
「ありかよ、あんなの!?」
「やっぱり、ちょっとやそっと傷じゃあ倒れてくれないか」
「流石は『古代獣』。噂通りの回復力だ………だが!」
刀身の長さを元に戻すと、ミツルギは確信したかのように回復した後の『古代獣』を見て、何かを見抜いた。
だが、それを言う前に『古代獣』が二回も斬られた仕返しの如く、懲りずに『ステンジウム光線』を四人に向けて吐き出す。
しかし、その光線も前のと同じようにミツルギの刀身が伸びる刀によって、真っ二つに両断され、二つに成った光線は四人の後方に在る壁に激突し、また新たな風穴を作る。
いきなり光線を放たれて、カレン・ロロ・アイシャの三人の表情が固まっているのにも関わらず、ミツルギだけは何事も無かったかのように平然としており、刀の刀身の長さを元に戻し、一旦咳払いをすると、今さっき言おうとしてことを言う。
「だが、身体の怪我を治す為に『ステンジウム』を少々使い過ぎたようだな。今の光線が良い証拠だ」
「え? どういうことミツルギ?」
言っている意味が分からなかったカレンはもっと詳しい説明を求める。
「奴はロロと同じ、自分が保持している『ステンジウム』を使い過ぎて、力が落ちてきているのさ。俺が壁の中から脱出して時は奴が纏っていたあの異様で強大な気は最初に会った時よりも、二回り小さくなっていた。そして俺に斬られた傷が治った直後、奴の気は更に一回り小さくなった。これはつまり今の奴は『ステンジウム』が残り少ないということを示しているんだ!」
「え、えっと………どういうことアイシャ?」
「要するに『古代獣』は弱ってきていることだよ」
「うむ! 簡潔的に言えばそうだ」
「そういや、さっきの光線……今までのとより、一回り小さかったよな?」
「あ……確かに小さかったね」
ミツルギが見抜いたこと、それは気を通して『古代獣』の力が弱まっていることであった。
そしてその事実を裏付けるようにカレン・ロロ・アイシャの三人は今さっき放たれた光線が通常版よりも小さかったに気付く。
『古代獣』の力が弱くなりつつあると三人に気付かせたミツルギは刀の構えながら、助走の姿勢に移る。
「とにかく奴はパワーダウンしている! 押し込むなら今しかない、俺が突っ込むからカレン達は援護してくれ!」
「お、おいミツルギッ!」
一人で突っ込もうとするミツルギをロロは呼び止めたようとしたが、それよりも早くミツルギは『縮地法』で『古代獣』の左脇の下に一瞬で飛び込んで行った。
「!」
数百m離れている場所でも一瞬で移動出来るミツルギ特有の高速移動方法である『縮地法』の速度を『古代獣』はミツルギに褒められる程の動態視力でミツルギの姿を捉えることが出来た。
だが、眼で追えても外見通り鈍重なのか、肝心の身体が反応せず、そのままミツルギに懐の侵入を許してしまい。
何の妨害も無いまま、容易く『古代獣』の懐に侵入したミツルギは地面を蹴って上空へ舞い、刀の刀身を伸ばさなくても斬れる距離まで近付くと刀を頭の後ろに回すように両手で大きく振り被り、線を描くように綺麗なフォームで刀を振り下ろした。
「!!」
しかし、刀はミツルギの意思とは裏腹に『古代獣』の身体の数cm手前で寸止めのようにピタリと止まる。
更に刀は〝見えない何か〟に押し戻されるように逆前進し始め、そして。
「ぬぅッ!?」
弾き飛ばされたかのように刀は〝見えない何か〟に因ってミツルギの手から離れ、クルクルと回転しながら遠くの方まで飛んで行き、やがて『古代獣』から見て左側の壁に突き刺さる。
「(今のは……!)」
「(まさか……!)」
直に刀を吹き飛ばされたミツルギはその〝見えない何か〟に身に覚えを感じ、片やその光景を見ていたアイシャは少し前に似たような光景を見たと見覚えを感じると、直後に二人はその刀を吹き飛ばした〝見えない何か〟の正体を察する。
「「(磁力!?)」」
ミツルギの斬撃を止め且つ刀を吹き飛ばした正体、それは磁力の反発に因る物だった。