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ユニヴァース  作者: クモガミ
白霧山脈の怪物
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決死の戦い

黒い物体を引っ張る『磁力石』の強力な磁力にアイシャは両足で地面にブレーキを掛けて、何とかその吸引に抵抗する。

だが〝前〟と同じ、『磁力石』の磁力に因る吸引が強すぎる為、アイシャの身体は黒い物体ごと『古代獣(こだいじゅう)』の前で横一列に並んでいる『磁力石』たちのところへズルズルと引き摺られるように引っ張られて行く。

「(ま、まずい! これを奪われたら、もう勝ち目が無くなる!)」

『磁力石』の磁力に干渉されず、『古代獣(こだいじゅう)』に大ダメージ与える切り札的な存在である黒い物体が奪われる事態になれば、勝機を失うとアイシャはそう結論付ける。

そして前もこれと同じ方法で武器を没収されているので、もしまた没収されることになれば、現状で取り戻すのは限り無く、無理だということも予測する。

冷静に状況を分析しながらアイシャはもう一度、黒い物体の照準器の隣にある小さな画面に視線をチラリと向ける。

画面には10.11と記されていた。

「(あと十秒………)」

黒い物体が赤い光を発射出来るまでの時間を確認すると、続いて視線を『古代獣こだいじゅう』の口に移し、その口の中を覗き込むように注視する。

口は閉じていて中は見えないが、アイシャはもしもの危険性と〝前回〟のことを踏まえ、あの口の中では『ステンジウム光線』を放つ為にこちらに見えないよう、口を閉じながらエネルギーを溜めているのではと予測する。

「(もしもあの口の中でエネルギーを溜めているとしたら、恐らく『古代獣こだいじゅう』は〝前〟と同じように、私を自分のところに十分近付けさせてから『ステンジウム光線』を放ち、私ごとこの『γ・BLASTブラスト』を消すか、もしくは私が命惜しさにこの『γ・BLASTブラスト』を捨てて逃げるような行動を誘発させ、私から『γ・BLASTブラスト』を引き離す場面を狙っているに違いない)」

これから『古代獣こだいじゅう』が起こすかもしれない行動を先読みしたアイシャは、その行動を起こす『古代獣こだいじゅう』の思惑を例として二つ挙げる。

そして上記の二つの例の内、どちらになったとしてもアイシャ達は勝ち目を無くす。

なので、アイシャはその二つのどちらにもならないよう、一か八かの賭けに出る。

「(チャージが完了するまで何とか持ちこたえて、先に撃たれる前にこっちが先に撃って仕留める!)」

黒い物体が『磁力石』に没収される前に、『古代獣(こだいじゅう)』を仕留める為、半透明の赤い光を発射出来るまでの時間を稼ごうとアイシャはブレーキをもっと強めし、出来るだけ『磁力石』の方へ移動する速度を遅くする。

一方、怪我のせいで立つことすらままならないカレンはアイシャと同様、『磁力石』の磁力に因る吸引によって、大剣ごと身体が『古代獣(こだいじゅう)』の方へ引っ張られており。

うつ伏せ状態のまま、地面の上で引き摺られるように引っ張られながらも、少し離れたところからアイシャの今の様子を見て、カレンは。

「やばい! アイシャが………ぐっ!!」

今助けに行くぞ! といった感じにアイシャの元へ駆け出そうしたとしたカレンだったが、身体を起き上がらせようとすると左腿に激痛が走り、その痛みの所為で上半身だけを起き上がらせるどころか、上半身を上へ数㎝だけしか、起こすことが出来なかった。

アイシャのピンチを見て、怪我のことを忘れて無理に身体を動かそうとしたカレンは左腿から走る激痛に悶えると同時に己が負った怪我の存在を再認識する。

「くっ……そ!! このままじゃ、アイシャが………」

左腿の激痛に悶えながらもアイシャがピンチなのに、怪我の所為で動けない情けなさと歯痒さにカレンは歯を食い縛る。

「何か………何か出来ないのか?」

例え動けなくてもアイシャを助ける方法は無いか? とカレンは辺りを見渡す。

すると自身の左手に在ると同時に『磁力石』の磁力によって引き寄せられている原因でもある大剣に眼が止まる。

そしてカレンはこの状態でもアイシャのピンチを救いだす方法を瞬時に閃き、その閃きに従ってすぐに行動を移した。

左腕から『力のマナ』を大剣の刀身に流し込み、次に刀身に流し込んだ『力のマナ』を制御コントロールし、完全に制御コントロールすると大剣の刀身部分だけが眩い白い光に包まれる。

カレンそれを目視で確認すると準備が完了したのか、アイシャの方へ振り向く。

「!」

振り向くとアイシャはそこには居なかった。

いや、正確に言えばアイシャが〝地面の上に居ず〟。

古代獣こだいじゅう』の前で横一列に並んでいる『磁力石』たちの5mぐらい手前のところで『磁力石』たち同様、〝宙に浮かんでいる〟のだ。

浮んでいる高さは大体2mぐらい、何故アイシャが宙に浮かんでいるのか、カレンは最初その姿を見た時は皆目見当も着かなかったが、すぐにその訳を察する。

「(そうか! 『磁力石』達は〝浮んでいる〟から、当然『磁力石』達の磁力に因って引き寄せられている物は宙に浮かんでいる『磁力石』とくっ付く為に己も浮んでしまう。だからあれは〝アイシャ自身が浮んでいる〟んじゃなくて、〝黒い物体が浮ぶからアイシャも浮んでいる〟んだ!)」

金属製の物ならどんな重い物でも己のところへ引き寄せる程の強力な磁力を持つ『磁力石』が宙に浮かんでいるから、『磁力石』に引き寄せられている物は向かう過程で『磁力石』と同じ場所に行く為に浮いてしまうとカレンはそう推理する。

となると現在、アイシャが浮いている原因は黒い物体が『磁力石』の磁力に浮かぶように引き寄せられているから、アイシャは黒い物体にしがみ付くような形で浮んでいるということになる。

「(これじゃ狙いを定められないっ!!)」

黒い物体と一緒に身体が引き寄せられていても地面に足を付けられていたから照準を定めることが出来たが、今は黒い物体にしがみ付くような形で浮いてしまっているので、地面の上に立っている時とは勝手が違い、アイシャは『古代獣こだいじゅう』の狙いたい箇所に撃つことが出来なくなってしまったのだ。

「!!」

その時、アイシャの背筋に悪寒が走った。

咄嗟に顔を上げると、横一列に並んでいる『磁力石』と『磁力石』の間から見える『古代獣(こだいじゅう)』が口の中をアイシャに見せるように開いていた。

口の中はアイシャの予測通り『ステンジウム光線』のエネルギーが溜め込まれており、そのエネルギーの規模は最大級(フルパワー)並だった。

まずいっ!! と思考よりも本能が自分自身にそう告げたアイシャだったが、今のアイシャは撃つことも逃げること出来なかった。

何故なら、時間の経過的に考えて黒い物体が半透明な赤い光を放つまでの時間はもう過ぎているのだが、アイシャは現在、宙に浮いている為、狙いを定めることが出来ない状況に陥っており、その状態で撃っても狙いたい箇所には当たらないのは明白であり。

しかも黒い物体から手を離して逃げるにしても、黒い物体が『磁力石』に没収されるから、それも『古代獣(こだいじゅう)』の思う壷であり、だからアイシャは手を放すことは出来なかった。

結局結果がどちらに転んでも勝機を得るのは『古代獣(こだいじゅう)』で、逆に勝機を失うのはアイシャ達になる。

そしてアイシャは選択を迫られる。

このまま諦めずに黒い物体にしがみ付いたまま、黒い物体と共に『ステンジウム光線』の餌になるか、或いは黒い物体は勝利への切り札だが、己の命には変えられないので、口惜しいが黒い物体を捨てて、『ステンジウム光線』を回避するか。

今はアイシャではこれ以外の他の選択肢を作る余裕等は皆無に等しく、本当にこの二つの内、どれかを選なければならない。

だが、時はアイシャにその選択を選ぶ時間も与えてはくれず、今まさに『古代獣(こだいじゅう)』が光線を掃射しようとした。

絶体絶命のその時。

「間に合えッ!!」

カレンが大剣を左手一本で大きく振り翳し。

白周転はくしゅうてん!!」

二人から見て、『古代獣こだいじゅう』の前で横一列に並んでいる『磁力石』達の左から一番目の『磁力石』目掛けて、カレンは大剣を水平に投げ飛ばした。

刀身が白い光に包まれた大剣がブーメランのように宙を駆け走り、回転によって宙に円を描いて水平に飛ぶその姿は、まるで空を飛ぶ白い円盤のように高度を落とさぬまま、一番左の方の『磁力石』の元まで飛んで行く。

そしてそれと同時に『古代獣こだいじゅう』の口から『ステンジウム光線』が遂に放射された。

放射されたのは最大級フルパワーでは無く、小さくも大きくも無い標準的なサイズである通常版であったが、人間一人を消すには十分過ぎる程の威力を持った大きさであった。

「(やられるッ!!)」

上昇していくにつれ、『磁力石』に近付いて行くアイシャは命惜しさに逃げることも選べぬまま、『磁力石』達の奥に居る『古代獣こだいじゅう』の口から『ステンジウム光線』が放たれた瞬間を見て、己の死を悟った。

その直後だった。

「!?」

唐突にアイシャは上へ昇って行く己の身体に下へ引っ張る力を感じた。

どうしてかと言うと、『磁力石』達の磁力で上昇していたアイシャの身体が急に降下を始めたのだ。

しかも幸運な事に、アイシャの身体が降下した事で当たれば即死の『ステンジウム光線』はアイシャの頭上をスレスレで通り抜け、そのまま奥の壁に激突し、またその壁に新たな風穴が出来上がった。

「!!?」

念を入れて外さぬよう、『古代獣こだいじゅう』は標的が上昇して通過する座標を先読みして、そこを狙い撃ったのだが、逆にそれが仇となって本来そこを通過する筈だったアイシャが通過する前に降下してしまい、光線は虚しくも空振りに終わる。

念を入れていたとは言え、近距離だから外れることは無いだろうと心の何処かで高を括っていたのか、外れたしまったことに対して『古代獣こだいじゅう』は眼をクワッ!! と大きく開いて驚く。

そして『古代獣こだいじゅう』はすぐに気付いた。

何故、アイシャの上昇が急に降下に変わり、その所為で『ステンジウム光線』が外れた訳を。

自分の眼の前で横一列に並んでいた計4個の『磁力石』達が横に真っ二つになっていたのだ。

そしてアイシャは視界の隅であったが、その眼で捉えていた。

古代獣(こだいじゅう)』が『ステンジウム光線』を放った直後、左の方から飛んできた円盤のような物が『磁力石』達を一遍に両断するところを。

それのお陰で自分は『磁力石』の磁力の呪縛から解き放たれ、身体が降下したのだとアイシャは白い円盤が右側の壁に激突して、内部深くめり込んだところを見送ったと共に理解する。

片や『古代獣(こだいじゅう)』は白い円盤のような物を出した人物が誰だか、すぐ見当が付き、少し離れた所でうつ伏せに倒れているカレンに一瞬だが、キッ! と睨みつけるように視線を移す。

「貰った!」

降下して間もなく地面に着地したアイシャは即座に黒い物体を『古代獣(こだいじゅう)』に向けたと同時に『古代獣(こだいじゅう)』に聞こえるように出来るだけ大きな声で掛け声を上げた。

その声に釣られ、『古代獣(こだいじゅう)』はアイシャの方に顔を向け直す。

そしてこの時、『古代獣(こだいじゅう)』はアイシャの罠にまんまと嵌まった。

あのクールで冷静沈着なアイシャが相手の不意を突ける絶好のチャンスなのに、何故わざわざ相手にこちらを振り向かせるように大きな声で掛け声を上げたのか?

それは殆どの生物の弱点、脳を破壊する為にアイシャはわざと『古代獣(こだいじゅう)』を自分の方に振り向かせ、相手の顔を真正面に捉える為だった。

「(この距離なら………沈め!)」

即座に構え直した黒い物体の照準器で正確に『古代獣(こだいじゅう)』の額を捉えたアイシャは確信と共に引き金を引いた。

「!?」

だがその瞬間、アイシャに異変が起こった。

黒い物体の銃口は真っ直ぐと『古代獣(こだいじゅう)』の額を捉えていたのに、アイシャが引き金を引いたと同時にその銃口が上へ傾く。まるで見えない力が黒い物体を引っ張り上げたかのように射線に上に傾いたことによって、当然狙いも上に大きくズレ、掃射された半透明な赤い光は『古代獣(こだいじゅう)』の額には当たらず、アイシャの時と同様、頭上をスレスレで通過し、そのまま赤い光は上の空間の奥の壁に激突する。

古代獣(こだいじゅう)』の通常版の『ステンジウム光線』にも引けを取らない破壊力を持つ、赤い光はその当たった壁に外まで続く程の風穴を空けた。

しかも、外の白い霧も赤い光が消し飛ばしてくれたようで、天上の大穴と同じようにそこからも太陽の光が差し込む、薄暗くなってきたこの広い空間内を少しだけ明るくさせる。

そしてアイシャはその偶然にも出来上がった風穴を呆然と眺めるも、すぐに我に返り、周囲を見渡す。

「(今のは磁力! 一体何処から!?)」

どうやらアイシャは自分の射撃を邪魔した存在は『磁力石』の磁力だと感じ取ったようだ。

そして、その磁力は近くから発せられたものだということも感じ取るが、何処を探しても(二人の後方の壁の近くにある『磁力石』達と『古代獣(こだいじゅう)』の方の壁の近くにある『磁力石』達は除いて)破壊した物以外、近くに『磁力石』の影は無い。

「(磁力は正面から感じた………でも、『磁力石』は何処にも見当たらない、どうして?)」

身近から感じたのにも関わらず、近くに『磁力石』の姿が見当たらないことにアイシャは頭を悩ます。

その悩みを吹き飛ばすように『古代獣(こだいじゅう)』がさっきの『ステンジウム光線』のタイムラグを終えて、次の光線が放射可能になると、またアイシャに向けて放った。

「!」

直前にそれに気付き、考えるよりも早く身体が反応したアイシャは地面に飛び込むように姿勢を出来るだけ低くして、真横に滑り込むんだ。

古代獣(こだいじゅう)』との距離はたった10m程度というこの近距離で最大級(フルパワー)の『ステンジウム光線』を放たれていたら、例え真横に滑り込んでも運が良くても身体半分が持って行かれただろうが、今度の光線も通常版だったので、光線は面積が足りず、アイシャの脇を通り過ぎて行った。

しかし、何とか光線をかわし切ったアイシャだったが、光線の驚異はまだ消えてはいなかった。

外してもまたそれを拾ってやると言わんばかりに『古代獣(こだいじゅう)』は二人の後方の壁の近くでまだ残っている四つの『磁力石』を再び操り、高速で動かし、それぞれ指定の位置に置いた。

光線が壁に激突する前に着弾地点に先回りさせて置いた一つの『磁力石』を使い、案の定、光線が来たらその『磁力石』の磁力で光線を屈折させ、違う『磁力石』のところへ飛ばし、また違う方へ飛ばすというもう見馴れた作業を三回程繰り返す。

そしてちょうどカレンの40m真上に位置する四つ目の『磁力石』に光線が回ると、光線は真下に落ちるように屈折された。

「!!!」

一本の滝のように上空から降り注いで来る『ステンジウム光線』にカレンはそこから離れようとしたが怪我の所為でそこから動くことは出来ないし、防ごうと言っても武器である大剣は向こうの壁にめり込んでいる為、手元には存在せず、防ぐ事も出来ない。

唯一動けるアイシャも距離が離れていて、今から救助に行っても到底間に合う訳が無く。

「カレンッ!!」

手を伸ばしてアイシャは叫ぶが、最早どうすることも出来ない。

そう、水を失った無力な魚のように今のカレン達には光線を回避する術は何処にも無かった。


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